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イロナキシ-Discolored death-  作者: あきの梅雨
廃墟で人は神になった
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放火と刃物と死んだ蛇

 はい、登場人物が増えます。

「おいッ、何がどうなってるんだ?」


 津野田は理解出来ないといった表情を浮かべていた。

 既に周囲には複数のパトカーが止まっている。気絶していた女性は無事、救急車で近辺の病院に移送された。


「どうも操者本体が死んだようですな。完全にこいつはマネキン人形になっておる」


 文蔵が眉間に皺を刻み、顎に手を当てて唸った。

 現場に文蔵と由佳里が合流していた。美鶴は疲労でアスファルトの上に座り込んでいた。


「騎士って奴は人間側が死んだらおしめぇなのか? 精神が移されてるなら、人間の肉体が使いもんにならなくても、機械側が無事なら人間は死なねぇんじゃねぇーのか?」


 文蔵は津野田が不可解だと感じた訳を知って、手を叩いた。


「肉体の死は精神の死に直結しています。アンドロイド技術は機械側の擬似脳と人間側の脳を同調させるものです。簡単に言えば、機械と人間との間で無線の情報のやり取りをしているといえばいいでしょうな。そのため人間本体が死ねば情報が送られず、アンドロイド側も動かなくなるんです」


 文蔵が簡単に講釈して、津野田は憑き物が落ちたような納得した表情で頷いた。

 美鶴は興味がなさそうに空を見上げていた。さきほどの文蔵の話に付け足すとすれば、アンドロイドを操る人間側に必要な処置はないことだ。非侵襲性の技術が発展し、脳にニューロチップを植えつけない方法が広まった。あの転送装置と両目を覆い隠すバイザーのおかげで、人間はアンドロイドを意のままに操ることが出来る。


「おっと、すまねぇ。仕事の電話だ」


 津野田が美鶴たちのもとから少し離れた場所へ移動し、携帯を耳に当てた。


「はぁ? 火事だぁ? 居住区第六区画? おう、分かったすぐ向かう」


 離れたにも関わらず、津野田の声はこちらまで聞こえた。そこまでがなるのならば、離れた意味がないだろう。

 暫くして津野田がまいったと言いたげな表情で、舞い戻ってきた。


「いや、すまねぇ。近くで火事が起こったようで、ちと現場に向かわなきゃならんことになった。おい、美鶴ッ。文蔵さんと由佳里ちゃんに迷惑をかけんなよッ」

「かけねぇよ。むしろ感謝されてるよ。……おい、オヤっさんも由佳里も何でそんな目なんだよ。ホントのことだろッ」


 美鶴に盛大にジト目が注がれていた。実際、感謝されてしかるべきだろうに。大家の朝飯を作り、幼馴染の夕飯を作り、操者としてお金を稼いでいるのだ。そんな視線を向けないでほしい。


「そんじゃ、俺は現場に向かうんで失礼する」

「んじゃな、頑張れよ公務員」


 美鶴は津野田が乗り込んだパトカーの威勢よく去っていく後姿を見送った。日はあと一時間もしないうちに落ちるだろう。空気がだいぶ冷たくなってきていた。


「そんなとこで座り込んでたら風引くよ」


 由佳里が手を伸ばしてきた。美鶴は左手でそれに応じ、節々の痛みを堪えながら立ち上がった。



「ひっでーなこりゃ。この家に住む二人がホトケか……」


 居住区第六区画の二階建て住宅に津野田は到着していた。目の前には二階部分がほぼ全焼した建築が存在していた。火は消し止められたばかりのようで、所々燻っていた。

 津野田は顔の前で手を合わせ、眸を閉じた。次に開かれた眸には確かな憎悪の炎が燃えていた。

 張り巡らされた『Keep Out』の立ち入り禁止テープをくぐり抜け、住宅の玄関へと向かう。


「津野田警部、こちらです。一番被害があったのは二階の部屋で、ほぼ全焼。ガソリンでも撒かれて放火されたようです」


 現場検証が続く二階の一室。鼻の粘膜を刺すオゾンの臭気が立ち込め、壁は焼け落ちていた。鑑識かんしきからの説明を受け、津野田は部屋を改めて見渡した。

 まず目に付くのは部屋の真ん中に鎮座された転送装置だ。焼け焦げて見るも無惨な状態になっている。


被害者ガイシャは二人とも鋭い刃物のような物で殺害されてから、火を放たれたようです。しかも正確に心臓を一突き。昔流行りましたよね」

「あぁ、四年も昔の蛇共を嫌でも思い出しちまうな。口封じのために用無しを消す。奴らの常套手段だ」


 津野田は苦々しく顔を歪め、現場から離れた。


「俺の思い過ごしであってくれ……」


 懇願するように津野田は言葉を紡いだ。

 被害者であったのは、同棲していた国定信治と野村美沙子の二名。国定信治は過去にランカーライセンスを剥奪され、操者の資格を失っていた。最終序列は二六八九番、当時使用していた騎士は紅燕であった。

 紅燕を奪取したのは照合不明の騎士であるとの話だった。つまりランカーに登録されず、尚且つ企業が造ったシロモノでない可能性が高い。

 わざわざ国定信治が愛用した騎士を用意してまで、何が目的なのだろうか。

 今回紅燕が事件を起こした道路は、行政区や工業区を繋ぐパイプラインでもある。

 簡単に考えれば、再来週に迫る総裁同士の会談への警告だろうが、現場に丁度美鶴達が居合わせた事が消えない不安要素となり、頭を離れなかった。



「はぁー、全く使えんかったわー。アイツホントに二千番台の人間? 弱すぎて話しにならんわ。なに生身の人間に負けてんだか。弱すぎだろッ」


 呵々かかと笑う声が夜の街に響いた。スクランブル交差点を横断しながら、一人の少年が腹を揺すっていた。全身、白いとしか言いようのない出で立ち。

 真っ白い髪に、青白い肌、不健康そうな見た目とは裏腹に少年は快活な笑いを続けた。表情は直視するには畏れ多いほど、酷く歪んだ満面の笑みが張り付いていた。


オステオ、変に笑っていると周囲の視線を集めるぞ」


 真っ白な少年のすぐ隣りを長躯の男が歩んでいた。金髪の髪をもち、サングラスをかけ、裾の長い黒い外套マントを着ている。その容貌のために居るだけで周囲の視線を集めている。


「わぁーてるって。そう五月蝿く言いなさんなよウル。でも思い出すと笑いがとまんねぇからッ」


 収まらない笑いに心底困り果てているいった様子で、少年──オステオは膝を叩いた。ウルは呆れ果てたように肩をすくめて首を振った。


「あの国定という男の家が火事になったのは、お前の仕業だろ? やり過ぎだ、俺達の仕事は別にあるんだ。あまり私情を持ち込むと報酬が減額されるぞ」

「いいだろ、別に報酬なんてもらう気ねぇーくせに。それに依頼主クライアントもオレ達に報酬を素直に払うかね? 尻込みして逃げ出しそうじゃねぇ?」


 興味の薄い双眸をウルに向けて、オステオはクルクルとその場で旋回する。周囲の人々が不快な視線を向けてくるのも気に留めない。


「あいかわらず乱暴だな。はぁー知らないが、どうだろうな。過ぎたことは仕方ない、ブラドと連絡をとって合流するとしようか。期限は再来週の会談までだからな」


 ウルとオステオは人込みの中へと紛れ込んでいった。


 自分の文章ってどうなんでしょうか。

 批評してもらえると有り難いです。

 

 騎士同士の戦闘シーンはあと少しで入る予定です。

 戦闘を文字で書くって、難しいです。

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