かわいい世界
「でさ………だったんだよ
一言で言ったらアレだ……
“ガサツ”
ほんと、令嬢としてどんな教育を受けてきたんだか」
太陽の日差しが燦々と降り注ぐ中庭で、1人の令息が喋り出した。
ちょうど真昼を過ぎた頃、4人はともに昼食をとりながらそれぞれの婚約者について話している。
「うぇっ!、お前の婚約者って、あの白百合の姫君だよな!!?
それってほんとの、ほんとの、マジ?」
「大マジだよ、あんなん俺の従兄弟の姉ちゃんでしか見たことなかったぜ」
「そ、そ、そんなぁ……」
「あるある、俺の婚約者だって―――が――で――――――だったよ、マジで面白かった」
「それは流石に面白すぎだろ!」
「だろ?」
「おいおい……待てよ……。
まさか…………まさか…」
「あ?どうしたんだ?」
「まさか………
女ってみんな俺の姉ちゃんと一緒の生き物なのかーーー……!?」
「ハハっ、ご明答!
お前の婚約者殿もそのうち裏の裏の顔が出てくるかもなーー」
「そ、そんなぁ……俺の夢がーーー!!」
男は大きな声で叫びながら膝から崩れ落ちた。
「ははは、
そんないじめてやるなよ」
床に膝をついてうなだれる男をかばったのは、伯爵令息のルークだった。
家の仕事で王宮を訪れていた彼は、偶然、二年前まで在籍していた学園の級友たちと再会し、昼食を共にしていた。
「とか言って、お前も面白がってるだろー」
「ハハハ!
言われてんぞ、ルーク!
あ、まてよ………そう言えばルークんとこの婚約者は伯爵家の末っ子ちゃんだったよな?」
男の興味はルークに移ったようで、話がルークの婚約者に切り替わる。
「しかも婚約してからまあまあ長いし、これは素が出てくる頃ですな!」
男は顎をさすりながら、ルークに話しかけた。
「やっぱうわって思うとこあったりすんの?」
別の男もルークに詰め寄る。
「んー、うちはどうだろう」
ルークはそう言いながら頭をめぐらせた。
「ほれほれ、言ってみ?
ここで励まし合ってスッキリしちゃおうぜ」
男は片目をつぶりルークの方にちらりと目線をやった。
「んーーー」
「そう唸らずに、な?」
「うーーーーん」
「言ったら楽になるぞ」
「そうだなーー」
痺れを切らした男は机をバンっと叩き立ち上がる。
「ほら!溜めるなって、何かあるのか気になりすぎるだろ!!」
「そんなこと言われてもなー」
「あっ」
ルークは何かを思い出したように声を上げた。
「おっ、なんか言う気になったか!」
男はやっと口を開こうとしたルークを見て、ウキウキした気持ちを抑えられないような顔をする。
「僕としたことが、今日これから人に会う約束を忘れてたよ
悪いけどこの話はまた今度!」
今か今かと言葉の続きを待つ男たちに対して、ルークはそんな一言を言い放った。
「おい、おまっ……」
「じゃ!また!」
そう言ってルークは駆け足でその場を去っていく。
呆然とした周りには一瞬静寂が訪れ、その後一気に騒がしくなった。
「逃げたぞーー」
「追えーー!!!」
「捕まえろーーーーーー!!」
「はぁ、はぁ……
あいつら、やっぱ伊達に騎士やってないな………」
走って彼らを撒いてきたルークは、肩で大きく息をしながら文句を言う。
ルークが会いにきた相手は、心配したように顔を覗き込んできた。
「あら?ルーク様?どうしてここへ?」
「急に君に会いたくなってね」
「実はわたくしも会いたかったの、、
週末にお約束があったけど、ここ最近毎日うずうずしてましたわ!
お顔を見られて嬉しい……!」
そうルークに話しかけたのは、ふわふわの薄ピンクの髪の毛を揺らし、濃いピンクの瞳をキラキラと輝かせた17歳くらいの可愛らしい令嬢であった。
「ははっ、そっか、うずうずしてたんだ?
かわいいね
それなら良かったよ」
「ん?ここまで走って来たの?汗をかいているわ」
「んー、ちょっとね」
「普段は午前中に運動しているのに、珍しいこともあるのね」
「ははは……」
「ん?」
「んーん、ちょっとむさ苦しい奴らと話してたらこっちも汗かいてきちゃったんだ」
「あら、お話しするだけで汗をかけるの?
それはいい運動になりそうだわ!
わたくしのウエストも、こう、もう少しきゅっとなるかしら?」
「んー、そうだね、
でも君は今のままが可愛いよ」
「でも、最近流行っているドレスは全部ウエストがとっても細いデザインなのよ!
わたくしももっと努力するわ!」
「うーん、そっかぁ
でも君が素敵な子ってことを話してたから、ウエストが細くなるより先に君が恥ずかしくなっちゃうんじゃない?」
「なっ!?
わたくしの話!!
もう!何を話したの!!おかしなこと言ってないわよね?」
「ふふ、焦っててもかわいいね〜」
「もう!ごまかさないで!!」
令嬢は頬を膨らましながらぷりぷりと怒る。
「そう言えば君って、かわいいだと照れないのに、素敵って言うと照れるよねー」
「だって、素敵って、、
なんか、お姉さんの褒られ方みたいで、、
ちょっとほわほわしちゃうの、、、」
さっきまでぷりぷり怒っていた令嬢は、打って変わって頬をぽっと赤く染める。
「ほうほう、そんな違いがあるのかね」
(ほわほわしちゃう、か………
うん、でも君に似合うのはまだ“素敵”よりも“可愛い”かなぁ)
「えへっ、そうよ
だからルーク様も、わたくしにたくさん素敵って言ってね?」
令嬢は上目遣いでルークにそう言う。
「んー?わかった」
「ふふっ
って、あ!さっきの話、忘れてないわよ!」
「あーーー、ちょっと疲れてきたね?
さ、そろそろカフェでも向かおうか」
「んもうっ……」
令嬢は頬を膨らませ、先に歩き出した令息の後を小走りで追う。
「あっ、まって!ルーク様!
わたくしの手がルーク様と手を繋ぎたいって言ってますわ!」
「はははっ、手がそう言ってるの?
おしゃべりな手だね〜」
少女はむすっとした顔をする。
ルークはクスッと笑った。
「おっと、それは大変だ
よし、お嬢さま、お手をどうぞ」
「ふふっ、ありがとう」
繋いだ手をぶん、ぶん、と振り子のように振りながらゆっくり歩く令嬢を、とても愛おしそうな顔で見守る令息を目撃したのは、また別の話。
「でさ……だったんだよ
一言で言ったらアレだ……
“ガサツ”
ほんと、令嬢としてどんな教育を受けてきたんだか」
(ガサツ………令嬢として………教育…………)
「とか言って、お前も面白がってるだろー」
「あ、まてよ……そう言えばルークんとこの婚約者は伯爵家の末っ子ちゃんだったよな?
「しかも婚約してからまあまあ長いし、
これは素が出てくる頃ですな!」
やっぱうわって思うとこあったりすんの?」
「んー、うちはどうだろう」
(あ、そう言えば、いっつも手を繋ぐとぶんぶん振ってるのかわいいよなぁ。
でも本人はあんまり意識してないみたいだし。このまま伝えずにずっとやってもらうか……)
「あっ」
(あ、あの花の色、彼女の目の色に似てるなぁ
なんか思い出したら会いたくなってきたなー)
「おっ、なんかいう気になったか!」
(よしっ)
「僕としたことが、今日これから人に会う約束を忘れてたよ
悪いけどこの話はまた今度!」
「おい、おまっ……」
(今はーー……
もう授業も終わって帰るところか?
よし、やっぱり会いに行こう!!)
「じゃ!また!」




