表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/32

Ep.5 『未知の世界観/日常』


「……なるほど、だからこの話をしたのか」


 この世界についての説明を聞いて、明人は心底嫌そうな顔で唸った。


「えぇ。あなたの命に関わることよ」

「不死身の身体を持って転生してきた地球人たち、それを迫害する現地人。そして、『転移』してきた俺の特異性」


 明人は親指を額に当てて、聞いた話を整理した。

 この世界では地球から転生してきた人間たち――『転生種』が現地人から迫害されている。そして『転生種』はなんと、不死身の身体を持っているらしい。それ故に迫害の一環で普通に殺されるのだとか。



 ただ、明人自身について言えば。



「俺は『転生』したわけじゃないから、不死身のシステムが俺自身に適用されるかどうかが分からない」

「えぇ。だから、あなたがもし地球人とバレてしまえば、最悪は死んでそれきり」

「死にゲーの世界で残機が一つしかないみたいな状況ってことか」

「よくわからないけど、たぶんあってると思うわ」


 かなりまずい状況というのは、明人も理解した。

 知識なく外へ出てしまえば、簡単に殺される可能性があるということを。


「流石に死んでみて試すってのはできないしな……」

「セーブポイントはちゃんと反応してたけど、どうなるか確証はないわね」

「あの光った水盆だよな。あれがセーブポイント、死んだ『転生種』が生き返る場所なんだっけ」

「そうよ」


 この世界にきて一番初めに指で触れた水盆。

 精緻な文様の水盆こそが彼らの生き返る場所、いわゆるセーブポイントらしい。いろんな場所に設置してあって、転生してきた人間は死ぬとあの水盆の近くで生き返るシステムなんだとか。


「それでこの仕組みを恐らく作ったであろう『転生教団』、地球人類を滅ぼしたやつらにも俺は狙われる可能性があると」

「全人類が転生してくる中で、一人だけ転移(・・)してるのよ。あなたは例外中の例外。あなたの存在が知られれば何が起きるかわかったもんじゃないわ」

「現地人には地球人とバレれば殺されるし、地球滅ぼした奴らには『転移』したことがバレれば狙われる。しかも死んでも生き返る確証はどこにもない。あの、これは、一般的に言う詰みというやつでは?」

「とりあえず大人しくしておけば大丈夫だと思うわ。たぶん」

「ぜんぜんたぶんなんだよな……」


 明人の命、たぶん大丈夫という状態らしい。

 正直安心できる要素は何一つない。


「その地球を滅ぼしたやつら、転生教団てのは【特典】を持ってて国一つくらいなら簡単に潰せるんだろ。絶対に狙われたくないんだけど」

「<主転使(ドミニオン)>の一人が持つ【特典】が”怪獣”で、都市一つを一晩で踏みつぶしたなんて逸話もあるくらいだし」

「……国一つ潰すっていうのは、比喩表現じゃないのかよ」


 そんなのに狙われたら、明人などひとたまりもない。

 撫でられただけで死んでしまうだろう。


「とりあえずいまのところ話は理解できた気がする」


 明人はそう言って、手元のスマホを触った。

 そこに今も映っているであろう、例の小説の事を思い浮かべる。



 ――鍵は、コイツだよな。



 明人は一度、例の戻るボタンを押してみることも考えはするが――前回の挙動が頭をよぎる。『死』という恐怖を感じて気軽にタイムリープを行う気は到底起きなかった。

 そもそも、例の小説の正体自体が謎すぎる上に、この世界でタイムリープがどういう挙動をするのかは未知数だ。

 しばらくは封印するしかない。

 そう結論付けて、明人はスマホをポケットにしまった。



「話題を変えちゃうけど、俺は何時までここにいていいんだ?」

「別にいつまでも。衣食住だけなら私がどうにかするわ」

「まじか。異世界来て最初の職業はヒモかぁ……」



 ──ヒモから始まる異世界生活とか、なんだかなあって感じだ。



「別に勝手に外に出てもいいけど、ウソを見抜くタイプの超能力もあるから、仮に出身地の質問されて地球出身がバレたら拷問の上処刑ね」

「しばらく泊まらせてください」


 明人は素直に土下座で懇願した。

 フィーナは慌てて明人を立ち上がらせると、元からそのつもりだと話した。

 ということで、明人はフィーナの部屋に暫く住まわせてもらうことになるのだった。





「そういえば、フィーナさんの」

「フィーナでいいわよ」

「……フィーナの出身てどこなんだ?」



 見た目だけなら白人種であり、非常に整った顔立ちと相応の背丈の高さを持っている。ただ転生したのなら転生元とは関係ないし、見た目はあまり参考にならないだろう。

 実際、明人としてはちょっと気になった程度の質問だったのだが、フィーナは露骨に顔を顰めていた。言いにくい事なら言わなくても、と口に出そうとして。


「……日本よ」

「まじか」

「死んだのは、確か十七かそこらだったはずよ。この世界でも、十六か七くらいにはなるわね」



 ――年も同じだったか。

 ――いや、正確には違う。精神年齢で言えばフィーナは三十四歳でおばさ



「ねぇ、失礼なこと考えてるでしょ」

「なんっ、にも考えてません! ほんっと、なんでもないです!」


 フィーナが顔を近づけてくる。そしてジト、と明人の瞳を覗き込んでいる。

 美人な彼女にすごまれると、たいていの人間は顔を逸らすしかなくなるだろう。

 明人は顔をそらしながら背中に変な汗をかいてしまう。


「そ、そうそう、世話になるなら、家事の手伝いでもやろっかなぁ~」

「露骨に話題を逸らしたわね。でもそうね、なら掃除でも」

「わーい! フィーナありがとー! みずきもちよかった!」


 また絶妙なタイミングで、水をぼたぼた垂らしたまま茶髪碧眼の少女――確かシルィアと呼んでいたか――が出てきた。

 もちろん、裸のままで。

 それをみたフィーナがひぅと変な声を出して慌ててシルィアの方へと駆け寄った。


「あぁっ、床が水浸しになるでしょ! シルィア、身体を拭いてあげるから待っててとあれほど……!」

「えー こっちのほうがはやいもん! えいっ!」

「ぶえ」


 見ていないのでわからないが――自分の体の半分が水浸しになったのが分かった。同時に変な声も出た。

 たぶん茶髪の少女が猫みたく水をその場で弾いたのだろう。

 内心でイヌかなと突っ込みつつ、フィーナがぎゃーと叫ぶのを明人は遠い目をしながら放置することにした。


「しかし、順調というか、運がいいのか」


 話を聞いただけでも地獄みたいな世界。そんな中で、転移したのがこんなほのぼのした環境であれば最高だろう。おそらく運の良さだけで言えば宝くじで大当たり引いたくらいだと思う。


「そういえば、フィーナさ。さっきこの世界を『死後の世界』って言ってたよな。あれはどういう意味なんだ?」

「い、今それ聞く⁉ えっと、全人類が死んで生き返る(おとずれる)場所ってことは、言い換えれば死後の世界――『あの世』とも言えるでしょう? って、シルィアじたばたしないでッ!」


 なるほど、自分のイメージしていた死後の世界観とは少し離れていたがそういう意味であれば納得も出来る。確かに『死後の世界』ではあるが、地獄とか天国とかいう『あの世』というよりは、異世界感の方が強い感じだ。

 だが、そんな場所にもかかわらず。

 転移したのがこの場所で。

 拾ってくれたのが彼女達とあの老婆で本当によかったと内心で感謝しつつ。


「お願いだから、ちゃんと身体拭いて――!」


 フィーナの手助けをできないことに、明人は一抹の申し訳なさを感じたりもした。

 まあ、裸の少女の身体を拭くなんて犯罪行為、倫理的にもできないわけだが。

 あと、部屋の中が眩しいのはどうにかならないかなと益体のないことを考えたりもしていた。




***




 占い師の老婆は一人静かに水晶を眺めていた。

 その手は完全に止まっている。

 常なら忙しなく動いているはずの、その手元が今は完全に沈黙している。

 彼女をよく知る者ならその異常さに驚き、或いは不吉な予感を抱いていたかもしれない。

 老婆は、ただ目を細めて息を大きく吐いた。



「ようやく視つけた」



 その水晶には、あの公園(・・・・)で首から血を流す少年――死を寸前にした黒野明人の姿が映し出されていた。

 水晶の周囲、テーブルに映された星々は瞬き、そして消えて行く。それは連鎖して、最期にはすべての星系が消えて行った。

 老婆はその様子を手を止めて見終えた後、手元のカードを一枚、また一枚とめくる。その瞳には、憂いと決意の色が渦を巻いていた。



「何とか間に合ったね、私の時間遡行(・・・・・・)が壊れる前に」



 老婆の手には金色の懐中時計が握られていた。微光を湛えるローマ数字に、罅の入った針と盤。既に壊れそうなほどにボロボロな状態で、その時計は時間も『停止』している。

 老婆は時間が停止したようにしか見えない部屋の中で、ため息を吐いてあたりを見渡した。そこには血を流して剣を構える少女と、倒れた少年。



 そして扉の先には地球の公園としか思えない場所が見えている。



 公園には首から血を流した少年と、倒れた子供がいる。

 その様子を見た後に、老婆は手元の懐中時計のつまみを回し始めた。



「これで、千と何回目だったか」




***




 金色の時計が、逆回転を始める。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ