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Connection Chapter 『二人は見守る/彼女と夜半に会話を』



◆2031/2/26 14:15 地球/病院個室内



「よく寝てるねぇ」

「まああれだけのことがあったんだから、当たり前ね」


 医師が出ていった後、悠生と京香が部屋の中を覗くと明人がすやと眠っている最中だった。血を失って、大分疲れていて、そうであれば眠るのも当然だろう。

 二人は椅子に座って、出口の方を見た。


「しかし、瀬尾さんがデートに誘って木幡さんが誘わないのも不思議よね。普通は逆な気もするけど」


 木幡陽波からすれば、明人は死ぬ気で自分を救い出してくれたヒーローみたいなものだろう。感謝やら何やらで恋愛感情を抱いてもおかしくはないはずだ。少なくとも京香はそう考える。

 しかし、悠生は首を振ってそれを否定した。


「木幡さんは元カレに騙されて襲われそうになったんだよ。たぶん当分はそういう恋愛関係は勘弁してほしいって考えるんじゃないかな」

「それは、言われてみれば確かにそうかも」


 王道の物語のように、女の子を救い出したからと言ってすぐに好かれるなんていう展開は、現実では簡単に起こり得ないということだ。

 そこらへんの情緒に対する直感は、京香よりも悠生が優れている。


「でも当分は、ってことは」

「うん、いつかはそういう展開がくるかもね。ただ、明人も明人でねぇ」

「ちょっと拗らせてるっていうか、恋愛には大分いい思い出ないわよね」


 二人は中学の事を思い出そうとして、首を振ってそれをやめた。

 あれはこの三人全員にとって、苦々しい過去の思い出なのだ。良い思い出な部分も存在はしているのだが。


「まあ、明人の恋愛に関する爆弾解除が出来ればワンチャンってところだと思うよ。まあそれまではどんなアプローチも無駄な気はするけど」

「ホント、いつになるのやら…… 瀬尾さんが明人にとってのいい人になる可能性はあるし、私としてはそうなってほしいわね」

「そう、だねぇ」


 悠生の多少含みのある返答に、京香は気が付くことはなかった。

 悠生は感情の機微に敏感な性だ。

 瀬尾玲愛に対しての評価は、高いというわけでもなかった。

 むしろ――



 ――なんか、ちょーっと、あの人は正解な気がしないんだよねぇ

 むしろ、気質的には明人を追い続けてる(ストーカーしてる)アレに近い気が

 流石に考えすぎなのかなぁ



 さきほどはその場のノリでデートを後押しした悠生だが、よくよく考えると正解だったかは分からないと頭を悩ます。

 悠生は遠い目をしながら、目の前で眠る親友の顔を眺めた。


「まあ、今日の所はいったん退散しようか」


 親友にはゆっくりと休んでほしいと心から思う。

 身体的にも、心情的にも、相当に疲れているだろうから。

 悠生は京香の手を握ると、部屋から出ていった。

 ぐっすりと眠る親友が、今日は充分に休めますようにと。

 そう願いながら。



*** 




◆??/?? 18:15 AURA/フィーナの部屋




「しかし、フィーナの部屋が移動してたなんてな」

「私の視点から見ると、元からここだったんだけどね」


 あの再会から数時間後。

 明人はフィーナの部屋の椅子に座っていた。

 過去を変えたからか、フィーナの部屋が物置に、物置がフィーナの部屋へと変わっていたのだ。一応、老婆の部屋にあるセーブポイントにも触れたのでこれで時間のセーブも完了した。

 終わってみると、意外とあっけない。

 変わらぬ日常が戻ってきていた。


「黒野君もちゃんとどこかで元の世界――地球に戻らないとね」

「わかってはいるんだけどなぁ」


 もはやフィーナに隠し立てする必要もなくなったあれこれ――時間遡行や異世界転移についての情報はすべて話している。

 過去を変えられること、未来に来ていること、世界を移動できること。

 全てを打ち明けられる存在が異世界側にもできたことは心強い。


「地球側の身体、動かないし痛いし不便であんまなぁ……」

「そんなこと言って、戻らないと大変よ?」


 こうして話している間にも、やはりフィーナの変化を感じる。

 以前よりも、フィーナは少し明るくなったように思えるのだ。

 その理由を彼女はこう話していた。



 ――いくつか、別の時間の記憶が重なっているように感じるの

 ――でも一番強く残ってるのは貴方に助けられた、あの日の記憶

 ――だから、ありがとう。



 フィーナは恐らく過去のループでの記憶を多少保持している、そんな状態らしい。

 それが過去を変えたからなのか、それともそれ以外に理由があるのかは分からない。

 ただ、理由はどうであれ現実時間的には、フィーナと過ごした時間はまだ短いのに、こうして気軽に話せるのもそれが理由なのだと思う。

 であれば今は掴み取った平穏を、彼女との時間を謳歌したい。

 そんな気分なのだ。


「まあ地球側に戻るとかその辺はおいおいかな。それより今日は――」

「わーい、水あびる!」


 ぱたぱたと足音が後ろから聞こえてきた。明人は振り向かず、目を閉じる。

 展開は既に見えていた。


「し、シルィア! 男の人がいるときは裸はダメだって……!」

「えー いいじゃーん! みずだー!」

「フィーナ、大丈夫。あらかじめ目を閉じてある」

「え、いや、それは確かに安心だけど、なんでそんな冷静なの…… って、シルィア、早く入りなさい!」

「はーい!」


 そう言ってドアがぱたんと閉まる音。

 それと共に明人は目を開く。


「こういう時にタイムリープは有効的だな。犯罪行為を犯さずに済む」


 最初のループでは驚きと共に慌てて視線を逸らしたが、今回は学習して目を閉じていた。実に微妙過ぎる活用法だが、ある意味で有効的な活用法でもある。


「にしても微妙過ぎる使い方じゃないかしら……?」

「それは同感だけど」


 とはいえ、実に平穏な一日。

 ちいさなドタバタはあっても、妙になれた心地で、明人はフィーナの部屋でのひと時を過ごしていた。





 真夜中。

 ふと気になって目を醒ますと、暗い金色の何かが横に立って自分を見つめていた。それに驚いて慌てて起き上がる。よくよく見れば、それは金髪銀瞳の少女、フィーナだった。


「あ、起こしちゃった? ごめんなさい」

「い、いや。大丈夫だけど、なんかあった?」

「……なんというか、記憶がごちゃついてて。黒野君の顔を見てると整理されていく気がしたから」

「そう、か。そうだよな」


 以前のループでも、フィーナは老婆と共に明人の傍に寄り添っていた。

 或いはその時のことを薄っすらと思い出しているのかもしれない。

 記憶を整理しているのだろうフィーナにどう声をかけたものか悩んでいると、彼女の方から声をかけてきた。


「少しだけ、話をしない?」

「いいよ。いくらでも、なんでも付き合う」


 明人が横にずれると、フィーナは明人の布団に座った。

 ちょうど、肩が触れ合うか触れ合わないかくらいの距離感。

 実に、明人達の関係を表しているともいえる。まだ、知り合って日はそこまで経っていないのだから。


「そうね。とはいっても、あまり話題は考えていなかったのだけど」

「……というか、向こうのフィーナもそうだけどさ。なんというか静かな方だよな」

「え、そう?」

「いや、無口とかそういうわけじゃないけどさ。なんというか、話したいことがはっきりしてるっていうか、いろいろ考えてるっていうか。周りにいつも人がいる感じだったし」


 実際、彼女の容姿が整っているというのもあるとは思う。しかし、それ以上に、”彼女”は多くはない言葉の中でも人に寄り添う言葉をかけられる人柄だった。

 故にこそ、明人もまた救われたのだ。

 自分を想って、事件に介入させまいとしたフィーナの言葉を、握ってくれた手の記憶を明人は憶えている。


「あまり、実感はないけれど…… ただ、私はきっと黒野君が思ってるほどいい人ではないわよ」

「……くっふ、ッ」


 思わず少し噴き出してしまう。

 明人が口を押えていると、フィーナは表情を硬くして不満そうな顔をしていた。


「なんで急に笑うの」

「い、いや。どうかなぁと思って」


 彼女の根底にあるのは、善性だ。

 そうでなければ過去に消え去ったのあの記録(握られた手)は存在しない。

 どれだけ偽善ぶったとしても、その根底にはきっとやさしさがある。


「フィーナはさ、何かやりたいこととかあるのか?」

「急に何の話?」

「いや、俺もフィーナの力になりたいなと思って」

「……過去を救ってもらったのに、これ以上黒野君に何かしてほしいことなんて」


 フィーナはそう言って、少しだけ考えこむ。そして薄く明かりの灯る部屋の天井を見上げた。

 それに照らされるフィーナの横顔は、とても美しかった。


「そう、ね。でも、昔はやりたいこともあったわ」

「それは?」

「歌を、歌いたかったの」

「歌……?」

「えぇ。アイドル、とかじゃなくてね。唄を通して、人に思いを伝えられるようになりたいな、とは思ってたわ。実際、何本か匿名で動画あげたりはしてたし」

「やば、すごいじゃん。俺には、そんな大層な夢とかなくて」

「……あ」

「ど、どうした」

「いや、黒野君は過去に帰れることを思い出して。今の話は絶対に『過去の私(ひなみ)』には言っちゃだめよ。多分恥ずかしくて死ぬわ」

「あーっと、善処するよ」

「……言わないとは言わないのね。悪い子だわ」

「子ども扱いされると余計にな~」

「黒野君、大概悪ガキみたいなところあるわよね……?」

「まあガキですので」


 そんな風には言うが、明人は内心で冷や汗を流している。

 ジト目でフィーナに見つめられると、どうにも居心地が悪いのだ。


「それこそ、黒野君はやりたいこととかないの? それか、何か目標みたいなものとか」

「……それ、は」


 それきり会話が途切れる。

 それは、とある事実に手が触れているからだろう。

 明人の生きる時間の先にある、夢を持つ先に至る――全人類が破滅するという地獄。未来の話をするということは、その破滅を直視しなければいけないということでもある。


「どう、すればいいんだろうな」

「――黒野君は、どうしたいの?」

「その、わかんないんだ。全人類が転生する、だけじゃない。いまの、フィーナと話すこの時間ですら、タイムリープで消える可能性があるんだ。それを意識すると、現実が全部空想みたいに見えてくるんだよ。今ですら、そんなありさまなのに未来に目を向ける余裕なんて、とても」


 そう。

 これだ。

 これがきっと、タイムリープを持つ物語の主人公たちが陥った狂気の正体なのだ。

 現実が空想に見えてくる。泡沫の夢のように、実際本人視点ではそう見えてしまうからこそ、狂気に飲まれるのだ。


「そう、よね」


 彼女は、ぽんと頭に手を乗っけてきた。

 そして、よしと撫でてくれた。


「いいの。どうしようもない時だってある。しんどい時はあるし、失敗だってする。それでも、生きていればいいことだってあるわ。私が黒野君に助けられたように――こんな地獄みたいな場所でも、救いはどこかにある。そんなに今を、未来を悲観しないで。あなたより十数年先に生きてる同級生が言うんだから、間違いはきっとないわ」

「……はは、十数年先にいきてる同級生ってワードも、なかなか強いよな、いてっ」

「おばさんって言わないでくれるかしら?」

「そんなこと言ってないんだけどー」


 でも、きっとそうだ。

 生きていればいいことはある。自分が彼女を救うことができたように。

 いつかこの今が泡沫になってしまうとしても、今だけは現実だから。

 だから、きっと――


「ありがと。ちょっとは頑張れそうな気がしてきた」

「それなら良かったわ。ついでに二つほど、やることを思いついたの」


 そう言いながら、フィーナは立ち上がって明人の手を引いた。


「一体なにを――」

「せっかくだし、今を『確定』させておきましょ」


 彼女は薄暗い部屋の中で、いつかにみせた優しい笑顔でそう言った。



**



 訪れたのは、フィーナの隣の部屋にある物置。

 かつてはエリアールの居室だった場所だ。

 明人は彼女に連れられるままに、とある場所に立った。

 そこは淡く輝く水盆――セーブポイントの前だった。


「フィーナ」

「ここでセーブしてしまいましょう。そうすれば、何かあって巻き戻すことになっても、ここであったことは無くならないでしょう」

「……そう、だな」


 明人は大きく息を吸って、その水盆に手を触れた。

 瞬間――水盆は蒼く光り輝く。

 セーブが完了した証だ。


「セーブ、したよ」

「そう、良かったわ。ついでに――スマホを、出してもらえる?」


 ポケットからスマホを取り出すと、セキュリティを解除して彼女に手渡す。

 それを手に取った時のフィーナの表情は、様々な感情が混ざったものだった。

 あえて一つだけ表現すれば、それは大きな郷愁とでも言うべきもの。

 彼女はスマホを大事そうに手に取って、そして一つのアプリを立ち上げた。


「フィーナ、それは」

「せっかくだし、一緒に写真撮りましょ」


 彼女は明人に近寄るように言う。

 彼女は手を限界まで伸ばして、できるだけ広く撮れるようにしている。


「あれ、内カメラは、えっと――」

「そういうとこ、おばちゃんぽさあるな」

「一言多い」


 明人が代わりに内カメラを設定すると、薄暗い部屋の中で、かろうじて二人の影形だけが画面に映った。部屋の中が暗すぎたのだ。


「光精霊よ」


 フィーナがそう呟くと、二人の前にぼうと、ちいさな光が現れた。それは、明人がいままで見てきた中で一番優しい、暖かい光だった。


「すごいな、魔法っていうのは」

「ふふ。地下だからこういうのはとても便利なのよ」


 彼女はそう言いながら、もう一歩明人の方に距離を詰めた。

 もう、頬と頬が触れそうなほど近い。

 そうしてようやっと、明人とフィーナの姿がスマホの中に納まった。


「――じゃあ、撮るわね?」

「おっけ」


 合図はなく、彼女はパシャリと一枚写真を撮った。 

 明人達はお互いに一歩離れて、撮れた写真を覗き込む。

 そしてそれを見て、共に苦笑いしてしまう。


「――微妙だな」

「私にとっては写真映りなんて、遥か昔の話だもの」


 そこに映った二人は、微妙な表情で、しかし確かに笑顔を作れてはいた。


「というわけで、しっかり保存しておくこと」

「りょうかい」


 明人はぽんとセーブポイントに触れる。

 そしてどちらからともなく、二人でくすくすと笑いあった。


「じゃあ、寝ましょうか」

「そうだな。ここ、予想以上に冷えるし」


 地下で、そして季節は冬。

 ある程度暖かいフィーナの部屋と違って、この部屋はとても寒かった。

 二人は急ぎ足で居室へと戻り、そして冷えた体を温める様に各々のベッドへと潜り込むのだった。






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