表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/32

1st-Epilogue Part Earth『聞き取りと少女達』


◆2026/2/26 11:03 市立病院内個室



 目を開くと、そこは見慣れない部屋だった。うすいカーテンを閉められ、薄暗い照明が心地よい。暖かい布団の感触、やわらかい枕の感触。

 ここが天国かと目を閉じようとして、何かの人影が横切った。

 ぴくっと、目を開く。

 顔を横にずらせば人影が自分を取り囲んでいた。

 各々が口を開いて何かを話しているのだろうが、なにひとつ聞き取れない。

 なぜだろうと耳を触ると、包帯がぐるぐる巻きになっていた。


 ――思い出した。



 ばっと起き上がり、同時に左肩に激痛が走る。だが、それを無視して周りの人影へと話しかけた。



「木幡は、木幡はどうなった! 転生教団は、あいつは」



 木幡を助けるために男六人を相手にしたこと、警察に銃撃されてホテルへと逃げ込んだこと、そして<主転使>との一騎打ちまで、思い出した。だが、その後の結末を何も知らない。あいつの喉を掻き切った後、自分は死んだのか、生きてるのか。意識を失っただけなのか。あいつは死んだのか、木幡はどうなったのか。

 頭をぐるぐると様々なことが渦巻いて、なにか一つに纏まらない。

 明人はそのままベッドを飛び出そうとして。


「なっ!」


 身体をベッドに押し戻された。

 見れば、コートを羽織ったスーツの男がこちらを見ている。右手をポケットに突っ込み、なぜかスティック付きのキャンディを舐めていた。食えなさそうな笑顔が胡散臭いなと、一瞬だけ思う。

 彼はどこからか取り出したスマホを明人に向けた。


『痛むかい?』


 画面の中のメモ帳らしきものには、そう書かれていた。

 明人は、はやる心をなんとか抑えて答えた。


「……はい」


 そう答えると、男は再度スマホになにかを打ち込んで画面を見せてきた。


『耳は聞こえないよね?』

「はい」


 そのまま、彼はさらに質問を重ねてきた。


『いまの状況、理解してる?』

「わかりません。なにが、どうなって、木幡は無事なんですか?」

『まず状況だけ説明しよう。君は出血が酷くてね。昏睡状態だったが腕のいい医者に診てもらって、いまようやく目を覚ました。保護されてから16時間経ってようやく目を覚ましたってとこだ。木幡君に関しても、こちらの病院で保護してる。傷もないから安心してもらっていい。連れ去られた彼女を君が助けたっていうことに関しても、我々は把握しているよ』

「……本当に、よかった」


 心の底から、安堵した。

 自分は彼女を救えたのだと。

 彼女の心まで救えたのかはわからないが、少なくとも『あのどん詰まりな状況』を打破できたことに喜びと安心を覚える。明人は一気に力が抜けて、ベッドに仰向けになった。肩と耳の奥に鋭い痛みが走って顔を歪めるが、そんなことが気にならないほど、安堵していた。


『大丈夫かい?』

「えぇ。それで、あの男は……」

『そう、そこからが本題だ』


 男は顔を引き締めると、真剣な顔でスマホを打ち始めた。なんだかその姿はとてもコミカルで肩に入った力が少しだけ抜けた。そのまま、男がスマホに打ち終わるのを待つ。一分ぐらい後、男からスマホが渡された。


『あの男、君が殺した男は各国の公安、それに準ずる組織の中でもひそやかに噂される恐ろしいテロリストだった。しかし、姿は見えてもしっぽはつかめず、それどころか追いかけていた人間が洗脳されて戻ってくることも稀ではなかった。実際警察の中でも洗脳されていた人間がいたからね。そんな相手と相対して、君は殺した。我々はかの組織について知らなさすぎる。できれば、彼と話したことがあれば、その内容を少しでも教えてほしい。話してくれるのなら、我々も『君の罪状』について、できうるかぎりの譲歩をしようと思っている』


 なるほど、と明人は得心した。

 この国の公安も彼らの存在は知っていたのだ。

 そしてしっぽぐらいは掴んでおきたいのだろう。どこまで知っているのかは明人もわからないが、少しでも情報が欲している。


 それこそ、明人自身のやらかした罪――警察に向けてカッターを投げ飛ばしたり、犯人グループをカッターで斬りつけたり、そういった罪を内部で操作して軽くしてでも、ということだ。


 明人は、どこまで話そうか少し悩んだ。

 そもそも転移の話は信じてもらえないだろうし、異能もどこまで信じてもらえるか。そもそも自分の異能(ロール)についても話していいのか迷うところだ。

 警察も洗脳されていたくらいなのだ。内部に内通者ぐらいいてもおかしくはない。自分の存在が大っぴらになってしまえばそれこそスマホを取り上げられて、逃げることもできずに殺される可能性もある。

 結局、明人は差しさわりのない範囲で情報提供することにした。


「知ってること…… なにか、不思議な力を使っていたような気はします」


 そういうと、男は少し悩む仕草をした。それが何を意味しているかまでは、推し量れない。だが、少なくとも何か異能らしき情報を知っているような、そんな気はした。


『君の言う不思議な力とは、超能力みたいなものかな?』

「はい。声で人を操っていたような気がしました」

『そうか。ありがとう、参考になったよ。他には何か言っていなかったかい?』


 今度は明人が悩む番だった。ここから先の話は、してよいのか悪いのか分からない。異能の話をすんなり納得した辺り、自分の転移の話も案外信じられるのかもしれない。ただ、どこまで話すべきか。たぶん全人類転生(せかいのおわり)は自分一人では解決できない。ならば、話すことは地球人類の絶滅について、か。

 明人は異世界で知った情報を一つと、彼の組織への直近の嫌がらせもかねてもう一つ情報を、男に提供することにした。


「あの男、めちゃくちゃおしゃべりで勝手に話してたんですけど。なんでも、二日後か三日後にリビアのトリポリで大規模テロを起こす、とか聞こえた気がしました」


 それは以前のループ、朝のニュースで知った内容だ。

 リビアのトリポリでテロを起こした際に、『Re:Birth』なんて文字の描かれた旗を揚げていたという。おそらくは転生教団の仕業なのだろう。

 それを聞いた周りの警察の表情が、一様に強張った。それは公安の男も同様だ。全員が、その内容に危機感を覚えたのだろう。男は再度スマホに打ち込むと、明人にそれを渡してきた。


『ありがとう。でも、この話はここだけに留めてほしい。もし噂が広まれば大変なことになる』

「わかりました。あと、聞きたいことが一つ」

『なんだい?』

「操られていた人たちは」

『その間の記憶は消えていた――否、消されてたよ。でも、君が倒してくれたことで服従や洗脳は解けている。我々としても本当に、本当に感謝している』


 そう言った直後、カーテンがばっと開かれた。同時に飛び込んできた警察らしき人が焦って何かを告げる。全員が緊張の面持ちでその場を離れ、最後に残った公安の男も手を振って出て行ってしまった。なんとも、せわしない人たちだった。



 ――そして、入れ替わるように、二人の人物がやってきた。




***




 明人は、片方の少女をじっと見つめた。


「木幡さん」


 彼女は、患者用の衣服に上着を着ていた。目立った傷がないあたり、怪我はしていないのだろう。彼女は心配そうに明人を見つめていた。


「―――――」


 口を動かしている。なにを言ってるのかわからないが、再会の挨拶でもしているのだろうか。


「ごめん、木幡さん。俺、いま耳が聞こえないんだ。だからスマホとか使ってくれると」


 そう伝えると、木幡は呆然とこちらを見ていた。そうして数秒後、はっとしてからスマホを取り出した。


『ごめんね、黒野君。いろいろと、巻き込んじゃって』


 その表情は落ち込んだものだった。むしろ、今にも泣きだしそうな。

 だが、明人からしてみれば、あれだけのことがあって、それでもこうして二人とも無事で立っていられるだけ奇跡のようなもの。


「大丈夫。本当に、木幡が無事で良かった」


 そう言うと、間に割り込んでくる者が一人。

 そいつは無造作にスマホを押し付けてきた。


『ねぇねぇ、黒野君ってさ! やっぱ陽波のことが好きなの?』


 もう片方の女子、制服姿の瀬尾玲愛。木幡の親友を自称してる女だ。

 こうして二人で明人の元を訪れるのだから、実際仲はいいのだろう。


「別に、そういうわけじゃあないけど」


 差し障りのない返答をしておく。

 実際、好きかどうかで聞かれたら普通と答えるぐらいなのだが。


『えー じゃあさじゃあさ、今度私とデートしない?』


 そんなことが書かれたスマホを押し付けてきた。


「いや、なんでデート」


 そう呟いた直後、木幡が瀬尾のスマホを掻っ攫っていった。

 その内容を見て、瀬尾に何かを言っている。

 悲しそうな、怒ってるような、でもそれとは違う、恥ずかしそうな表情。

 瀬尾も面白そうに木幡の頬をびよんと引っ張っている。

 ぎゃいぎゃいとなにかを言い合い、一通りじゃれあって落ち着くと再度二人してスマホを渡してきた。


『騒がしくてごめんね。またいろいろとお礼はするから』

『あの時の黒野君みてちょーっと興味持っちゃったんだよね! どう? いますぐ付き合え、なんていうことは言わないからさ、お互いの事もっと知りたいなって! つまりデート!』


 申し訳なさそうな木幡と、返答をニコニコしながら待っている瀬尾。どう返事すれば角が立たないかと考えていると、横の台に置かれた自分のスマホがメッセージを受信したのを見た。送信主が京香だったのもあって、二人に謝って少しそちらに手を伸ばす。

 画面を見ると――


『デートすればいいじゃない』


 そんなメッセージが届いていた。

 はっと視線だけドアの方へ伸ばすと、京香と悠生がニヤニヤしながら部屋の入口で明人達を覗いていた。



ゆうき

〈例の洗脳?も解けてるみたいで安全だし〉


京香

〈警察呼んだのは瀬尾さんだったしね。ほら、瀬尾さんとお礼デートしなさい〉


ゆうき&京香

〈しろ~!〉


ゆうき

〈しかし、遂に明人にも春がきたねぇ~~~~! 超感慨ぶかし、いとおかし、しみじみ(-_- )〉


京香

〈悠生のしみじみ本当に可愛いわね〉



 メッセージで惚気るなと内心で罵倒しながら、二人の少女を見る。

 若干不安そうな木幡と、期待のまなざしでこちらを見つめる瀬尾。明人は参ったといった表情で頷いた。


「わかったよ、するよ」


 そういうと、木幡は心底申し訳なさそうな顔で、瀬尾は満面の笑みで頷いた。





 と、そのタイミングで医者らしき白衣を来た人物が目の前に来た。

 少女二人(と冷やかしに来たカップル共)を部屋から追い出すと、タブレット片手に、なにかを書き始めた。


『にぎやかな子達だったね。それで、調子はどうだい?』

「まずまずです。それで、僕の耳はどうなってます?」

『今は聞こえないんだっけ。安心して、耳の機能自体は死んでない。おそらく聞こえるようにはなる。ただ、これからの人生が補聴器頼りの可能性は充分あると思ってくれ』

「そう、ですか…」


 ――まあ、こればかりは仕方ないと思う。

 むしろ、『木幡陽波』を取り巻く問題――彼女を誑かし犯そうとした男たちも、それを手助けした転生教団もなんとか退けることができた。その対価がこれだけならば、僥倖と言っても過言ではない。

 俺は本当の意味で、こちらの世界での危機を回避しきったのだ。


『疲れた顔をしているね。もうすこし寝るかい?』

「はい、お願いします」


 明人の疲れを察した医者が、カーテンを閉めて出ていった。

 明人は目を閉じる前に、スマホで例の小説を開いた。ひとまず一段落したのだからなにか変化があるかと思ったが、例の小説は更新されないまま放置されている。


「――まあ、今は置いとくか」


 さすがに疲れが溜まっていたのだろうか、

 いまこの時この瞬間だけは、暖かい布団で、やわらかい感触を楽しみながら、穏やかに寝ていたいと、明人は心の底から願った。そして数秒後、抗えぬ眠気に襲われて静かに瞼を閉じた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ