Ep.8 『役割と帰還』
その日の夜。というより真夜中に近い時間帯。
明人はフィーナやシルィアと共に、街の中央へ向かって歩いていた。
二人が『役割』を確認しにいくのについていく形だ。
「そういえば、フィーナの『役割』は【光剣姫】だったな」
「その名前を口にしないで。怒るわよ」
「名前確認しただけなのに……」
かなり嫌がられて明人はしょぼくれてしまう。
最初のループでもフィーナは自分の役割を話すことをためらっていた。自分の役割の呼び方があまり好きではないのだろう。確かに自分から【光剣姫】です、とはなかなか言いづらいのだろうが。
「それで【光剣姫】さんに聞きたいことが」
「斬るわよ」
「すみません」
ちゃんと腰の剣柄に手をかけていた。
流石にこれ以上イジると本格的に殺されそうなので、明人は話題を変えた。
「聞きたいことなんだけど、あんまり分かってなくてさ。『役割』っていうのはなんなんだ?」
「めちゃくちゃざっくりとした質問ね。どう答えればいいかしら」
フィーナが難し気に唸った後に、答えた。
「そうね、一言でいうなら体系化された異能、っていうのが一番簡単な説明になるのかしら」
「体系化された異能?」
「そう。『役割』を選んで、そして修行を積む。初級役割、上級役割、至級役割と段階があって、私達は上の役割を目指して日々努力を重ねているわ」
「なんというか、結構ゲームチックだな」
「そう言う人も多いわね。ただ、上級役割になるには六年以上、至級役割は二十年以上かかる人も少なくないわ。地道な努力と才能が必要だったりで、なかなか大変よ」
「そこはゲームチックではないな……」
取得に二十年以上かかるゲームなんて、取得前にサービスが終了してもおかしくない。『役割』というものはゲーム的な要素があっても、実際は現実的なシステムなのだと思わされる話だ。
「ちなみにその、フィーナの【光剣……」
瞬間、背筋を殺気が奔った。
明人は慌てて言い直す。
「フィーナの役割はどの等級にあたるんだ?」
「私は至級よ」
「……すごくね? フィーナってまだこの世界では俺と同じ年齢くらいって聞いたけど」
「それは、『転生種』は生き返るから無理をしやすいのよ」
だとしても、そこに辿り着いたのは相当な努力があったからだろう。
或いは、この街の『転生種』の中でも特別だったりするのだろうか。
『転生種』が奴隷扱いを受けているとは聞いていたが、フィーナは自分の部屋があったりシャワーまで個室だったり、奴隷というような感じがしない。
「フィーナって、もしかしてこの街でも特別強かったりするのか? だからあの個室を与えられてるとか」
「まあ、弱くはないわ」
「なんで謙遜……?」
占い師の老婆――エリアールも独特な雰囲気をしていたが、やはりシルィア含めて、あの地下通路で生活しているメンバーは特別な待遇を受けていると考えていいだろう。そう考えれば、最初のループでの穏やかな三日間は本当に奇跡のような日々だったのだ。
「でも、あなたの考える通りよ。あの地下の部屋はこの街で特に貢献をした『転生種』に特別に与えられる居室。普通の『転生種』はかなり適当な雑居部屋での共同生活を強いられる。そういう意味で、あなたを保護したのがあの部屋で本当に良かったと思うわ」
「フィーナ様の靴、お舐めした方がいい?」
「ほんとうにきもちわるいわね」
「直球の罵倒は心にくるな」
そんなしょうもない話をしているうちに、街の中央にそびえる白亜の建物。通称『中央』まで到着した。周りには同じような目的で来たのであろう『転生種』がちらほらといる。
フィーナは手をつないだシルィアに声をかけた。
「シルィア、起きて。着いたよ」
「んむぅ~ しるぃあ、おきてるよ~」
やけに静かだったが、シルィアはほとんど寝ぼけながら歩いていたようだ。
寝ながら歩いて転ばないのもそれはそれで凄いものだが。
「さぁ行きましょう。あまり目立ってもしょうがないし、早く入ってすぐに帰るわよ」
「わかった」
先を歩いていくフィーナとシルィアを追いかけて、明人は<中央>の中へと向かった。
*
建物内は薄く明かりが灯され、エントランスはたくさんの『転生種』であふれていた。
「これ、みんな役割関係の調整で来てるんだな」
「あなたはここで待ってて。私はシルィアのロール確認を手伝ってくるから」
「俺もちょっと、触ってみたいんだけど……」
壁際にある二つの石の柱らしき物体。幾何学模様が刻まれた物。
『転生種』達はみな、その前に並んでいる。
道中で説明を受けた、あれはロールストーンというものらしい。
名前の通り『役割』関係の管理を行う石であり、役割の更新や特殊技能の確認はこの石でしかできないのだとか。
「俺の『役割』とかいろいろ、確認したいことも多いし」
転移した明人がこの世界の異能を手に入れれるかも含めて、確認は必要だ。
ちゃんとした理由があるのだ。
少なくとも本格的な異世界風の物体に、少年心を擽られたわけではない。
たぶん。
「……触るだけよ?」
フィーナはあたりを見渡して問題ないと判断したのか、ため息を吐いて頷いた。
それを聞いて明人はロールストーンの前へと駆けだした。
「行ってくる」
明人が並ぶと、後ろに並んでいた『転生種』たちは、訝し気な目でそれを見て道を譲った。たぶん『原生種』と勘違いしているのだろう。
ただ、流石に転移してきましたと声高らかに言う必要もない。
明人はさっさと触れて、急いで譲ろうとロールストーンに触れた。
「――!」
頭に直接情報を流し込まれる感覚。
驚いて一瞬手を離した後、もう一度触れてみた。
――――――――――――
Role:なし
取得可能
【短剣使い】
【冒険者】
【商人】
【観測者】
【芸人】
――――――――――――
頭に浮かぶ文字列。
冒険者などは、聞いたことのある分かりやすいロール。
――こんな感じなのか、ちょっとかっこいい……【芸人】?
芸人ってなんだという思考がちらとよぎるが、見なかったことにして明人はそそくさとフィーナの方へと戻った。
「どうだった?」
「五つくらい取得可能ロールが出てたな」
「まあ、平均的ね。才能ある人だと百以上取得可能みたいよ」
「まあ、転移したからってチート貰えるわけじゃないよな。それよりも、【芸人】っていうのが出てきたんだけど、なにこれ」
「……面白い人になれるわよ?」
「超能力を使ってまで面白くなる意味……」
「一応、案外意味の分からない組み合わせでめちゃくちゃ強いとかもあるのよ」
「笑わせて油断させたところに短剣で刺すとか……?」
「えぐいこと考えるわね。ほら、シルィアも。早くスキルを確認してきなさい」
「は~い」
シルィアは眠そうにしながらも、ロールストーンのほうへと向かっていく。
彼女は寝そうになりながら列に並んでまだかなまだかなと横に縦にぴょんぴょん顔を出している。元気なのか眠いのか判別がつかない。
そんな姿に頬を緩ませつつ、フィーナに質問した。
「フィーナはその、【光剣姫】以外にロールをもってるのか?」
フィーナは一瞬明人を睨んだ後、別にからかっているわけではないと判断して答えた。
「……役割は最大二つ持てるのだけど、私は一つだけ。ロールは組み合わせると強いけど、一つを極めた方が強くなりやすい、ということもままあるのよ」
「なるほどなぁ」
ロール関係については、まだまだ知らないことも多い。システムもいろいろと複雑なのだろう。
今回は明人も『役割』を取得しに来たわけではないので様子見したが、どこかのタイミングでよくよく考えてから一つ取得しとくのもいいかもしれない。
この力が地球側で使えるのかどうか等、役割に関して検証の余地がだいぶある。
「お、帰ってきたな」
「ただいま~」
「お帰りシルィア、スキルはどう?」
「つかえるのふえた!」
「……すごい成長速度よね」
フィーナはそういった後に、シルィアの手を握った。
「じゃあ帰りましょう。今日は黒野君に<中央>への案内も出来たしね」
「あぁ、助かったよ」
「かえる、ねる~」
そうして、三人は帰路につくのだった。
***
次の日、昼の時間帯。
明人は一人、老婆の部屋――セーブポイントと呼ばれる水盆の前に立っていた。
スマホの画面には、『WORLD BEYOND』の最新話が表示されている。
そして、最新話のはずなのに、次の話などないはずなのに、次の話を表示するボタンが映されていた。
この存在しないはずボタン。
明人はそれを確認した時点で押してみたのだが、何も変化は起きなかった。
「でも、小説の内容に従うならきっと――」
小説内では登場人物たちが特定の時間、特定の場所――小説内の用語で『相』という場所――にて異世界へ転移していた。
空と時の変位点などと説明されていたが、それに従うならばこの老婆の部屋、そして12時13分という時間は特大の『相』になるのではないか。
明人はそう考えて五分前から老婆の部屋で待機している。
そしてあと一分で、12時13分が来る。
明人は少しだけつばを飲み込んで、時間を待った。
そして、スマホの時刻が例の時間を――12時13分を指し示す。
「まずは、一回」
明人は『次へ』のボタンを押した。




