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Ep.7 『不確定な未来と行動指針』


「どぅーん!」


 寝ぼけ眼に飛び込んだのは、そんな声と腹への衝撃だった。

 よく眠れなかったので頭はふらついたまま、何事かとあたりを見渡す。


「なになになんだ⁉」

「くろいおにーさん、ちゅうおうにいこー!」

「シルィア! いま何時だと思って」


 かろうじてスマホの画面をつけると午前四時半。

 まだ夜中といってもいい時間帯、シルィアが明人の寝ているベッドに突撃してお腹にダイブしてきたという状況だけはかろうじて理解できた。

 ただ、この状況をどうしようかという頭が全く働いてはいない。


「なんだ、こんな朝早くになにか」

「ろーるのかくにん! したい!」

「……シルィア、その確認は今日の夜よ」

「……あっ」


 何かに気が付いたシルィアが、バツが悪そうに明人のベッドから降りる。

 そしてそのままそそくさと部屋を出ていった。

 本当に一瞬の出来事だった。


「もう、シルィアったら」

「えっと、なんの話だったんだ……?」

「私達の、知ってるとは思うけど『役割(ロール)』について確認できる日が月に一回だけあってね。それが今日の真夜中にあるのよ」

「『役割(ロール)』って言うと、この世界の超能力的なやつか」

「えぇ。どれくらい強くなったかとか、どういう『役割(ロール)』に就けるかが確認できる貴重な機会なのよ」

「なるほど、確かに大事だ」


 前回はそういうイベントがなかった。

 或いは、これも未来がずれた影響なのかもしれない。


「それ、俺もついてったりはできるのか?」

「……あなたの立ち位置、相当危ないとは思うけど未来視て安全ならいいんじゃないかしら?」

「それなら、おそらくは大丈夫だ」


 忘れてはいけない、明人はこの世界で『転移』してきたということがバレれば普通に死刑になる可能性が高い。

 ただ、前回のループの経験から自分はおそらく『原生種』の中に溶け込める。

 そのあたりの確認も含めて、ひとまずの挑戦だ。


「じゃあ、今日の夜は『中央』に行きましょう。この日だけは『原生種』のほぼ誰も『中央』には近づかないし、確かに好都合ね」

「夜の予定は決まりだな」

「なら私はもうちょっとだけ寝るわ……」

「あぁお休み」


 寝不足そうなフィーナが布団にもぐるのをみて、明人も布団をかぶった。

 明人自身も完全な寝不足だ。

 許されるならあと十時間は寝させてほしい、なんて考えて目を瞑った。



**



「……そりゃ寝不足だよな」


 明人は目元に隈をぐにと押しながら鏡を離れた。

 昨日起きたことを――或いは一連の事件で起きていることを鑑みれば、あまり寝付けないのも当然といえば当然だ。

 ただ、気分的には多少軽くはなった。

 寝て起きて、いろいろと切り替わったのもそうだが。


「くろいおにーさん、あさごはーん」


 扉の奥からこちらを覗く少女。

 シルィアの明るさに救われているところも大きい。


「ありがとう、今行くよ」

「ぷぷっ、くろいおにーさん、おめめもくろくなっちゃった。かいじゅうみたーい」

「がおー!」

「きゃ~!」


 楽し気に逃げてくシルィア。

 あれだけ無邪気な様子を見せられると、どれだけ深刻な状況でも多少は笑顔になれるものだ。


「騒がしくてごめんなさいね。あまり寝付けなかったでしょうに」


 洗面台のある小部屋から部屋に戻ると、フィーナも少し疲れた様子で声をかけてきた。夜に眠れなかったのは彼女も同じだとは思うが。


「それはお互い様だろ。フィーナだって」

「黒野君、気にしないで」


 フィーナは明人を呼び、昨日とは違って落ち着いた様子で──


「昔の、もう随分と昔の話なのよ」


 そう言った。

 シルィアは不思議そうに首を傾げて、そして明人は何事かを言おうとして、一度黙った。


「そう、だよな。フィーナがそう言うなら」


 明人はただ、肯定するにとどめた。

 実際フィーナからしたら十数年前のことだ。いまさら持ち出すような話でもないのかもしれない。

 明人にとっては、変えられる未来の話でもあるのだが。


「私は黒野君の方を心配してるのよ。この世界に来たばかりで不安だろうとおもって」


 話題を変えるように、フィーナは明人の方を見た。


「そこは大丈夫。ある程度未来は分かってたし、この世界に来る覚悟もちゃんと出来てたからな」

「それはそれで凄いわね…… もともと【占い師】の『役割(ロール)』を持ってることにも驚きだけど」

「あー、この力はおそらく『役割』とは違って、えっと俺が持ってる超能力的なアレって感じなんだよ」

「超能力的なアレってなによ……」

「ぶっちゃけて言うと、なんでこんな能力もってるのか自分でもわかってないんだ。摩訶不思議」

「昨日のなにもわからないパート2って感じね。かつてのクラスメイトに未来を視る力もってる人がいたこともよくよく考えてみると、ちょっと不思議な感覚だわ」

「まあそんな感想にもなるよな」


 物語とかだと主人公視点だから超能力を持ってる側として描写されるわけだが、そのクラスメイトの視点になると少し見え方が変わるのは道理だ。

 それを羨ましいと思うかどうかは、人に寄るのだろうが。


「未来、か」


 明人はそう呟いて、少しだけスマホに触れた。



***



 フィーナの、『木幡陽波』の事件にどう対処するか、未だに明人の中で答えは出ていない。おそらくすぐに答えが出る話でもない。

 未だに明人は悩み続けているが、その事件以外にも考えなくてはいけない事を明人は多く抱えている。その中でも一つ、フィーナの事件と同等以上に不味いことがこの先起きる。



 それは前のループで見た、明人が地球に帰還する直前の出来事、この街の壊滅だ。



 下手人は既に名前まで分かっている。

 転生教団の<主転使>である(ワン)越响(イェーシェン)

 あれの存在感、生物としての格の違いは昨日廃倉庫で相対して理解させられた。おそらく真正面から戦っていい相手ではない。

 しかしだからこそ、今後の方針は分かりやすい。



 ――二日後にあれが来る、それまでに何とか地球に戻る。

 ――その方法を探すところからだ。



 アレは今の明人のキャパで対応できるものではない。

 それこそ占い師の老婆みたく何千何万とこの三日間を繰り返さないと対応できないだろう。

 であれば、転生教団についてはいったん放置。

 まずは地球側での『木幡陽波』に関する事件の対処を優先しつつ、異世界側に関しては行動範囲を広げることを目標にするべきだ。

 それを踏まえて、明人の現状の行動指針は以下の三つ。


 一つ目は『木幡陽波』に関連する事件の対処。

 二つ目は異世界での行動範囲の拡大。

 三つ目は地球への帰還方法の確認。

 現状の最優先事項は、三つ目の帰還方法だ。



 ――とりあえずは帰還方法が分かれば、いろいろと調査や試行が可能になる。

 ――どう動くにしても、そこは押さえておきたい。

 ――いろいろやることも確認することも山積みだけど、まずは行動あるのみだな



***



 朝ごはんを食べた後、明人はフィーナについて街を歩いていた。

 今日は訓練場なる場所で二人が戦闘訓練をするらしいのだが、それに明人が無理を言ってついていくことにしたのだ。


「本当に気を付けてね? あなたの立ち位置ってかなり危険なんだから」

「ちゃんと気を付けるよ。問題はそれよりも、この裏道を一度で覚えきれるかだけど」


 明人がフィーナと歩いていれば、それだけでもなにかしら疑われる可能性がある。なので大通りを極力使わずに、路地裏の道だけを使って『転生種』の訓練場なる場所へと向かっていた。


「でも、どうしてそこまでして訓練場に?」

「レアデって人と一度話したかったんだ」


 レアデ。

 前のループで一度だけ話が出たこの街の年長者であり老婆。

 エリアールと並んで頼れる人だと前回のフィーナから聞いている。

 何かしらの情報が得られるかもしれない、或いは顔を憶えておくことが利益になるかもと思ったのだ。


「レー婆ね、ちょっと偏屈な人だけどちゃんと話聞いてくれるかしら……」

「ひとまず顔を憶えたいってのもあるし、話は最悪できなくても」


 そう話しているうちに、目的地の前まで到着したようだ。

 フィーナが白い壁の前で立ち止まっている。


「そういえば訓練場、入れる人が限られてるのよね」

「……それは聞いてないけども」

「ま、資格があるかは自動で判断されるし、黒野君なら大丈夫よ」

「なにがどう大丈夫なのか教えて――」

「ほら、来て」


 フィーナは白い壁に向かって歩き始めた。

 明人もフィーナに手を引かれて歩いていく。

 壁に激突する寸前に目を閉じて、止まろうとしたら――


「いてっ」


 こけてしまう。

 ただ、壁に激突することはなく、なにかをすり抜けたような感触があった。


「こ、こは」


 寂れた街並みの中にある建物とは思えないほど、薄暗くとも華やかな空間。

 不思議な絵画や彫刻、光る小道具が飾られたエントランスのような場所に明人はいた。

 後ろを振り返れば、ただの壁のような場所に波紋が浮いては消えて行く。

 おそらくは、壁をすり抜けたのだろう。あの白い壁が入り口だったのか。


「ばあや、会いたい人がいるっていうから連れて来たんだけど」

「なんだいそいつ、『原生種』じゃないか」


 カウンターからでてきた”ばあや”は、フィーナの耳を引っ張って、カウンターまで引っ張っていった。耳を掴まれたフィーナは痛そうに耳を涙目で押さえている。


「ち、違うの、この人すごく込み入った事情があって!」

「こんなところに知らん『原生種』を連れてくるなんて、あんたも呪いに頭やられたのかい?」


 二人がそんな話をしているのをしり目に、明人はぽかんと『ばあや』と呼ばれた人物を眺めていた。黒髪に金の瞳の女性。明人が呆けているのは外見せいだ。

 その見た目は二十代のそれにしか見えないほど若く、そして妖艶といっていいほどの不思議な雰囲気がある。

 その姿を見てようやく思い出したのだ。



 ――『転生種』の訓練場を営む二十代のおばあちゃんよ

 ――死んだときの年齢が101歳だったそうよ



 エリアールと同じくらいの老婆を想像していたが、前回のループで明人は二十代のおばあちゃんというパンチの効いたフレーズを聞いていた。目の前の女性がその『二十代のおばあちゃん』なのだろう。

 ぽかんと呆けていた明人の方に、レアデの眼が向けられた。その瞳には不思議なモノクルがかけられており――


「わたしゃ、こいつと話すことなんて」


 突然、レアデは言葉を止めて明人を見つめた。

 そして手を伸ばすと、引き寄せた。それに合わせるように明人の服がぐいと引っ張られて、レアデの元に引き寄せられる。


「……っ、一体、なに、を」


 レアデは不思議なモノクル――三つのレンズが付いたモノクルを回転させ、別のレンズに変えて明人を覗き込む。そして数秒してから明人を放した。


「人違い、か。だが、ワケありみたいだね」

「え、っと。突然、すいません。俺は黒野明人って言います。昨日、地球から転移してきたばかりですが、挨拶だけでもと思って」

「は?」

「わ、くろいおにーさんだ!」


 奥の階段からシルィアが出てきた。明人の声を聞いて駆け付けたのだろう。

 シルィアだけは先に訓練してくると言って部屋を飛び出していたが、既に訓練をしていたようだ。

 ただ、暗がりから出てきた彼女の様相に、明人は小さな悲鳴を上げる。


「――! シルィア、その血は……!?」

「でぃーちゃんとたたかってたら、こてんぱんにされちゃった! つよいねー!」


 軽い口調でそういうが、シルィアは全身血塗れ、腕には酷い傷を負っている。

 明人が彼女に駆け寄ろうとするのと同時、後ろの壁に再度波紋が現れた。


「おう、シルィア、ひっでぇな」

「う、げ……」


 後ろを振り返れば、首輪をしていない――『原生種』の大男が立っていた。

 明人はその顔を見て思わず声が出てしまった。

 名前は知らないが、顔は以前のループで見たことがある。老婆が死んだあと、それをフィーナに伝えるために街の外へ出ようとした際に出会った門番だ。

 前のループで見知らぬ少女を助けようとしたときにいろいろと起きて捕まりそうになったので、正直いい思い出はないが――


「よろいおとこだー! なにしにきたの!」

「誰が鎧男だよ、今は鎧着てねぇよ。ディーを呼びに来たんだ、いるか?」

「でぃーちゃんならしたにいるよ! あんないする!」

「ちょ、待て、引っ張るなシルィア! ケガだけは治していけ、ばあさん」

「ガレオ、ばあさん呼びはやめな」


 そう言いながら、レアデは瓶を投げつける。

 それを上手くキャッチした大男は、連れて行こうとしたシルィアに、瓶の中身を振りかける。すると、シルィアの傷はみるみるうちに塞がっていった。


「きもちよいー! いこー!」

「おい、そこの少年が気になり過ぎて仕方ないんだが……、そこの『原生種』、後で名前とか教えろよ!」


 そう言い残して、男は地下の方へと消えて行った。

 一連の流れを明人はぽかんと眺めているだけだったが、ふと我に返ってフィーナに問いかけた。


「シルィアのあれ、かなりの大けがじゃ」

「『転生種』にとってはあれくらい日常茶飯事よ。『原生種』が行う拷問に比べればよっぽどね」

「……流石に怖すぎないか」


 この世界の闇の一端を垣間見た気がする。

 そんな感想を抱いたが、ひとまずここに来た理由を――話題を戻すことにした。


「えっと、レアデさんすいません。今日は挨拶ってだけなんですけど」

「さっきの話だと地球からの転移者――転生じゃないってわけかい」

「エリ婆の遺言にもあったし、私も知ってる人なの。嘘はついてないわ」

「ふん、あの偏屈婆さんの遺言ね。まあ顔は憶えたよ」


 レアデはしっしと手を振った。


「こんなところに『一般人』が来るもんでもない。おまえさんはさっさと帰りな」

「……はい」


 とりあえず行動範囲を広げるという点と、レアデと出会うという目標は達成した。

 今後、ここを訪れることで何かできることもあるかもしれない。

 フィーナはなにか言いたそうな顔をしていたが、レアデに呼び止められて何事かを話している。

 明人はレアデの言うとおりに壁の方へ――外へ通じる白い壁の方へ向かおうとして、後ろから声がかかった。


「クロノ、と言ったか」


 振り返ると、老婆がモノクルを回転させて明人を見つめていた。


「その感情、酷い色をしてるね。何に悩んでるんだか知らないが、まだガキの癖に身の丈に合わない葛藤をするもんじゃあないよ」

「……っ、それは」


 明人は心臓を掴まれたような感覚を憶える。

 こうやって話しているときですら、例の事件のことを考えてしまうのだ。そのことを、見抜かれたような気がしたのだ。

 未だに、フィーナと木幡陽波の天秤から目を逸らせていない。


「青い感性に大き過ぎる葛藤は自分も周りも滅ぼす、よくよく憶えておきな」

「……助言、有難う御座います」


 明人はそう言って、建物の外へ出ていった。

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