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Ep.4 『Impossible Encounter ――【声導】』



 転生教団の<主転使>――彼らについてはフィーナから少しだけ説明を受けている。

 曰く、<主転使>は一人一人が【特典】という規格外の能力を持つ。

 曰く、<主転使>は都市一つを一晩で潰すほどの力を持つ。

 曰く、<主転使>は国家が全力で相対するべき存在である。

 これらを明人は脳裏で思い出していた。

 だからこそ、冷や汗と震えが止まらない。

 今明人の眼前にいる奇抜な格好の男は、まさしく世界の脅威なのだから――





 自らを<主転使>と名乗った男――王越响は楽しそうに明人達を見下ろす。

 明人は動かない体で、目の前にいる男の威圧感と恐怖に心を折られそうになりながら、現状の打破を考える。


「なァゼ、私がここにいるのか! なァんて不思議ッ! って顔をシてるネ」


 漢服にコートを羽織った男はにやりと笑い、手を明人の方へ伸ばした。


『出テ来イ』

「ッ……!」


 明人たちの立つ位置の真下からゴトッという音と共に床が開いた。

 隠し扉があったのだろう、中から柄の悪そうな男が一人出てきたのだ。

 ひどく怯えた顔で、震えを隠すこともせずに立ち尽くした男。

 転生教団の狙いはこの男だったのだ。

 王越响はその顔を見てふむと唸り、頭のあたりでくるくると人さし指をまわした後、ぽんと手を叩いた。


「こいつもでしたね。フフ、『舌ヲ噛ミチギッテ死ネ』」


 男は何も声を発さず、ただ倒れ込んだ。

 あとは先程の光景の焼き増しだ。スキンヘッドの男と同様の死に方で、男は動かなくなった。

 その様子を動くことも出来ずに見ていた二人に、ようやく漢服にコートを羽織った男──<主転使>の意識が向けられる。


「サ~て、さてさて。あとは君かナ?」


 震える明人達を見て、<主転使>は特に明人の方に興味がありそうな視線を向けている。彼は明人をじっと見つめて、首を傾げた。


「……君の事、知らないケど、なーんか私達のこと知ってル風な感じダ・ヨ・ネ?」


 さらに首を傾げて、あり得ないような角度から明人の瞳を覗きこむ王。

 明人はその瞳をまっすぐ見返しながら、どうするべきかを考え続けている。

 まずはここから逃げなければいけない。この場所だけでなく、この時間からも。

 そのためには、どうにかしてあと数ミリ――ポケットに突っ込んだ人差し指をスマホの画面に押し当てなければいけない。

 ただ、動かない身体でどうすればそれを達成できるのか。 

 時間、まずは時間が必要だ。


「い~ろいろ考えてるネぇ~? まア気楽に話そうじゃないカ、私はお話が大好きダカラネ!」

「……何でここにっていうのは」

「今見ただろウ、もう用事は済んだヨ。ただ、たったいま新しい用事ができタけどネ! ハハハハ」


 大仰な身振り手振りで本当に楽しそうに話す男。

 道化のような動きは笑いを誘うが、目の前で対峙している明人からしたらそれどころではない。綱渡りのような、命を繋ぐ会話をしているような感覚だ。

 なにせ二度も――遥か未来の異世界も含めれば都度三度も、眼前で死をまき散らした存在なのだから。


「帰りたいって言ったら、帰らせてもらえるか?」

「フフ、どうかなァ。ワタシはマダマダお話したいけどねぇ~! つまらない話はおいといてサ、キミの好きな映画とか、好きな音楽とか聞かせてほシいなァ」

「そう、か」


 案の定というか、逃がす気はないようだ。


「なら、一つ聞かせてほしい」

「フフ、興味持って聞いてもらえるなんて光栄ダヨ、何でも聞いてネ」

「なぜ全人類を転生させようとする」

「――ァ?」


 男は言葉を失った。

 そして呆然と明人を見つめる。

 ≪向こう側≫で知った情報をふっかければ、それに食いつくのは当たり前だ。

 特に、こちらの世界ではまだ存在すら知られていない計画――全人類の転生計画について話をふっかければ。


「それに転生【特典】なんてもの、転生してから貰うのかと思ってたが、お前はどうやらこの世界にいるのにも関わらず持ってる。強制的に人を従わせる──その【特典】は一体どうやって手に入れたんだ」

「…………は、ハハ。呆れたネ。心底惚れ惚れするほど呆れたねェ〜 一体、なにを、どうやって知ったのかナ、ナナ~ン。いや、どこからそんな情報がぽろぽろと漏れたのカナァ。そんなボロボロぽろぽろ全部喋るヤツ、ワタシ以外いないよぉ、いないよナァ~」


 男は宙を見つめながら、指を中でクルクル回しながら楽し気に呟いた後、心底面倒くさそうな表情で明人を見た。


「戴転計画はおろか、【特典】の存在まで知るとなると、計画続行に関わる異常事態だネ! 困った、困りまシた、大変困惑!」

「お前の【特典】は、なんだ?」

「聞けばわかルだろ? この声、声色、紡ぐ言葉こソが私の【特典】――≪声導≫だヨ。喋り、伝えて、届ける。この絶対の声こそが望みし【特典】なのサ」


 楽し気に<主転使>はくるりと回る。

 そして自分の首元――正確には喉をこんと多胎。


「お喋りなのは声を【特典】にシてるんだから仕方ないシ許してネ? まあ、お喋りだから余計に要らない情報をあげちゃうんだけど! ハハッ、でもやっぱりお喋りは楽しいネ、異文化交流バンザイだヨ!」


 この男は本当におしゃべりだ。

 聞けばすべて答えるのではというくらいに、話をしてくれる。

 明人は、まだ猶予はあると――或いは、まだ時間を稼ぐ必要があると考えて王の顔色をうかがう。


「一つ答えてあげたシ、あれ、実は一つどころじゃなくて何個も答えてる気もするネ! まあイイヤ。とりあえず、次はワタシの番だネ? さてさて、まずは」


 男が明人に何かを聞こうとした直後、サッと扉のほうへ振り向いた。なにやら外が騒がしい。遠く聞こえる、サイレンの音。それと大量の人が走り込んでくる音だ。

 そしてそれは明人の待ち望んだ音であり、状況でもあった。



 ──京香の通報が間に合ったか……!



 警察が動けば状況は変わる。

 彼らが到着するまでの時間を稼ぐために、明人はわざわざ話す必要もない情報まで開示したのだ。

 しかし、その胸中の不安は未だ変わることがない。



 ――いままで気づかれずに、でも一年後には世界を終わらせる連中だ。

 警察呼び出しただけでどうにかできるとは、考えにくい。

 何かもう一手必要かもしれない。



 少なくとも警察だけで対処できるような、一筋縄で行く相手では決してない。

 ただ、それでもどうにかして指を数ミリ動かすくらいに状況をかき混ぜればタイムリープで逃げられる。

 そして明人はその薄い可能性に賭けるしかない。

 その意図をどうくみ取ったのか、主転使はニヤリと笑った。


「これはァ……お客様、カナァ。フフフ、これが君の勝機って訳だネ?」


 眉を吊り上げた男は、小さく笑いながら人差し指を口に添えた。


『オマエ達、ワタシノ事は内緒ネ』


 明人達にそう命令すると自分は部屋の影へと隠れた。最後に見えた男の表情は、余裕そのものだった。明人はそんな男の様子に、より一層不気味さを感じる。

 数秒後、足音がどんどんと近づいてきた。

 そしてふいに、大きな音を出しながら重い金属扉が開かれる。

 入ってきたのは防護服を着て、盾や銃を構えた男たち。警察の機動隊かなにかだろう。



「手をあげろ!」



 突入してきた機動隊は洗練された動きで明人たちを取り囲んだ。そして、ポケットに手を突っ込んだまま固まる明人を見て、そして裸同然の少女の姿を見て唖然とする。

 だが、そこはさすがプロか。自失の時間は最小限、さっとライトで部屋を見回す。そして、照らされた先には漢装の上にコートを羽織った人物。彼らは、引き金に手をかけ――

 そして、それより先に()が掛かった。


『気ヲ失エ』


 照らされた王――<主転使>が『命令』を下す。それに従い、バタバタと倒れ伏す警官たち。扉の向こう側――遠くの通路にいた警官が、それを見て銃を明人たちに向ける。声は聞こえていなかったようだが、それを明人と木幡の所業とでも思ったのか。


「動くな!」


 警官が引き金に手をかけた。敵は<主転使>だと伝えたいが──



 ──オマエ達、ワタシノ事は内緒ネ



 <主転使>の命令のせいで声が出せない。そして一連の流れの中で、<主転使>たる王はすっと倒れた警官の無線機に手を伸ばした。

 そして、それに口を近づけて。

 男が口元を愉快げに引き伸ばしたのを見て──



 明人は<主転使>が何をしようとしているかに気付いて、とっさに叫んだ。



「声を聞くな、耳をふさげ!」

「遅いネェ。さぁ、これを聞いたすべての警官への命令だ。『気ヲ失エ』」



 ―――扉の向こうにいた男が、倒れ伏した。



 同時に、騒がしさが一瞬で静まった。

 足音も、声も、何もかもが消えた。

 あの無線の先にいた、全ての警官を無力化したのだ。

 残るサイレン音だけが、虚しく響き続けている。

 明人は呆然とその様子を眺める他なかった。

 話に聞いていた明人自身も、これほどとは思っていなかったのだ。

 間接的にでも声を聞かせれば服従させれるなど、どれほどの権能なのか。テレビ局でも占拠して声を聞かせれば或いは世界征服すら容易だろう。


「うーん、命令だと関係者は殺セって言われてるんだよネェ。想定外だけど、最近アドリブし過ぎて怒られたばっかりだシ……まあ、どうにかなるかナ」

「―――――!?」

「キミ、『舌ヲ噛ミチギ


 明人の思考は死への恐怖で停止し――

 同時、銃声が響き渡る。


「ッ、まだお客様が残っていたのカナ?」


 入口の扉の奥、通路で銃を構えた悠生がこちらを見ていた。

 おそらく警察全員が気を失ったのをみて突入したのだ。

 銃撃された<主転使>は寸前で銃弾を回避して、部屋の隅――銃弾の射線から逃れた。

 そして、今この瞬間が最大の好機だと明人が叫ぶ。


「悠生、俺の右腕を撃て――!」


 明人が叫び、悠生は動揺したように一瞬動きを止める。

 そして何かを察したのか、再度銃を構え


「ッ、『死ネ』!」


 <主転使>の命令が下され、明人は舌が自分の意思に反して前に強く引き伸ばされるのを感じる。同時に歯ががちんと舌に当てられる感触をおぼえて恐怖で身体が冷えていく。

 同時に、悠生が撃鉄を引き――銃弾は明人の右腕には命中せず、大きく逸れて左腕に命中する。

 だがそれで充分だった。

 その衝撃で明人は倒れこみ、その右手はポケットの中――




 『WORLD BEYOND』に触れていた。




***



 目を、見開く。

 同時に激しく転んでその痛みに身体を丸める。

 

「ガッ、ハァッ、ハァッ……」


 地面に手をついて、えずいた。

 必死に、息を吐き出す。


「俺、今、舌を」


 直前に起きた、倉庫での<主転使>との邂逅。

 そして舌を噛み千切る寸前の――死を直前にした恐怖感。

 銃撃された左腕の痛み。

 そう、自分はいま確かに、死にかけた。

 そのことが今になって、無理やり止められていた全身を震えさせた。恐怖でごっちゃになった感情と思考のせいで体の震えが止まらない。

 そして数秒。


「……ッ」


 身体から力が抜けて座り込む。

 舞い上がった埃に咳き込んだ。


「こほっ、ここは?」


 見た事のある部屋だった。

 ここは占い師の老婆、エリアールの居室だ。

 それに気づいてパニックになりかけていた思考が一気に減速して、冷静になる。


「俺、今その場で転んで、ってことは戻って、来た……?」


 そうだ。

 自分はあの時に、スマホに触れることが出来た。

 そして時間遡行――タイムリープをしたのだ。


「……セーブポイントが、変わってる?」


 どうして、と考えるより先に声が掛かった。


「あなた、誰?」

「あれ、なんでここにいるんだろー?」


 聞き覚えのある声。

 顔を上にあげれば、フィーナとシルィアがそこにいた。


「フィーナに、シルィア」


 その呟きを聞いたフィーナが、訝し気な目でこちらを見てきた。


「あなた、どうして私とシルィアの名前を」


 どうして自分の事を知らないのか。

 先ほどまでの<主転使>との邂逅でごっちゃになった頭を、ゆびでぐりぐりと押さえつけながら考える。

 疑問と恐怖と逃げきれた安堵で思考がまだ纏まりきらない。


「あの時、時間遡行に、成功した? 俺は、どこまで戻って」


 まとまらない思考、分散する感情の中でかろうじて答えを出した。フィーナやシルィアが自分の事を知らない時間軸に飛んだ。そう考えるなら、この時間は、エリアールの部屋に明人が転移してきた直後。


「そう、か。ここまで戻って、どうして俺が知ってるかって聞いてたか、うん」


 明人はふらついて言葉がうまく出てこない状況で、なんとか話した。


「俺の名前は、黒野明人。この時間だと、そうか。十数年ぶりの再会だ。確かに思うところはあったんだな。フィーナ――いや、木幡陽波」

「――なんでッ、私の名前を! いえ、クロノアキト。その名前いつか、どこかでッ! そう、そうよ、あなたは!」



「同じ高校のクラスメイトだよ、フィーナ」



 それだけ告げて、明人は壁にもたれ掛かった。

 頭の中でぷつりと、緊張の糸が途切れた。

 ずると床に倒れ込みながら、意識が暗くなっていく、そんな気がした。




明日からは基本二話ずつ投稿

9:00/21:00 それぞれ投稿予定

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