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配信者適正

作者: P4rn0s

配信を流し見していた夜のことだった。

画面の向こうで、何人かが同時に喋っている。

誰かが話題を振り、別の誰かがそれに被せ、さらに別の誰かがオチを探して言葉を足す。

その騒がしさを、私は悪くないと思いながら眺めていた。


トーク力がある人。

声がよく通る人。

間の取り方が上手い人。

そういう要素が評価される世界だということは、もう誰もが知っている。

だから最初は、そこに何の疑問も持っていなかった。


けれど、その瞬間は唐突に訪れた。

誰かが、ほんの一言、思いつきのような冗談を投げた。

狙った感じもなく、準備された笑いでもない。

ただ、その場にぴたりと合った言葉だった。


次の瞬間、ひとりの配信者が喋るのをやめた。

言葉の途中だったはずなのに、まるで最初から黙る予定だったみたいに、すっと引いた。

被せない。

補足しない。

自分の話を優先しない。


その一拍の沈黙のあと、笑いが広がった。

視聴者のコメントが流れ、空気が一段軽くなる。

さっきまで自分の話をしていたその人は、まるで何もしていない顔で、ただ笑っていた。


私はそこで、妙に納得してしまった。


面白いことを言う力よりも。

声を張る力よりも。

自分が今、喋るべきではないと気づく力。

それを一瞬で判断して、迷わず引ける嗅覚。


それが、この場所ではいちばん難しくて、いちばん価値があるのかもしれない。


自分の言葉を途中で捨てるというのは、思っている以上に勇気がいる。

せっかく用意した話。

今ならウケるかもしれないという期待。

それらを全部飲み込んで、誰かの一言に場を譲る。


その判断は、技術じゃなくて、感覚に近い。

自分が主役でなくてもいい瞬間を、ちゃんと嗅ぎ分けられるかどうか。


配信画面を閉じたあとも、その場面だけが頭に残っていた。

何も言わなかった人が、いちばん空気を支配していた夜。

きっとあの人は、喋らない才能を持っているのだと思った。


そしてそれは、思っていたよりずっと、静かで強い才能だった。

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