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第8話:闇の将軍の決断と宮廷の罠

ノーラの命を賭した儀式により、リュシエンヌの紅血の力は「守護の光」へと安定し、グラディウスの攻撃を退けた。


力の異変に気づいた〈黒影将軍〉グラディウスは、姫の真の容態を確かめるため、大胆な奇策に出る。一方、宮廷内の裏切り者、レオンハルト公爵は、ユリウスの弱点であるヴァレンシュタイン家の名誉を突き、巧妙な罠を仕掛ける。

I. 漆黒の将軍の疑惑

帝都から数キロ離れた反乱軍の野営地。黒影将軍グラディウスは、その巨躯に見合わぬ静寂の中で、一人、東門を見つめていた。彼の周囲には、未だ黒い瘴気の残滓が渦巻いている。


「守護の光……姫は倒れていなかったのか」

グラディウスは低く唸った。リュシエンヌが放った紅血の守護の波動は、これまでの暴力的で破壊的な力とは全く異なっていた。それは、理性を伴った、制御された力の証拠だった。


(あの光は、姫が完全に回復した証ではない。むしろ、誰かが、その理性を繋ぎ止めた証だ。おそらく、あの騎士……)


グラディウスの頭に浮かんだのは、自らの恐怖の瘴気にも屈せず、姫の盾となったノーラ・フォン・ヴァレンシュタインの姿だった。


「小賢しい真似を……」

姫が倒れていると確信した今、グラディウスには、直接確認する以外に方法はないと判断した。東門を強行突破しても、再びあの守護の光で阻まれ、兵士の士気を失うだけだ。


「帝都の防衛は、城壁ではなく、姫自身の安否にかかっている」


グラディウスは、自らの副官を呼び、静かに命じた。

「我々は、今夜、偵察隊を出す。目標は皇宮内部。姫が本当に動けるのか、病床に伏しているのか、確かめよ。そして、もし姫が意識不明ならば、我々の存在を、宮廷内の裏切り者たちに明確に示せ」


グラディウスは、内部の裏切り者が、リュシエンヌの暗殺を企てていることを知っていた。彼は、その裏切り者たちを利用し、帝国の内側から崩壊させることを決意した。彼の目的は、紅血の力をゼルヴァン公爵に献上することであり、帝国の自滅は、その最短ルートだった。


II. 病床の姫と騎士の献身

皇宮の野戦病院。リュシエンヌは、ノーラが命を賭した儀式によって安定した眠りについていた。


ノーラは、その横で椅子に座り、古文書を読み返していた。彼女の左手の甲に浮かんだ微かな紅い痕は、魂の契約が確かに成立したことを示していた。


「ノーラ様、お身体は大丈夫ですか?」医官が心配そうに尋ねる。

「ええ。不思議と、以前よりも心が落ち着いています」


ノーラは、リュシエンヌの傍にいるだけで、自分の傷の痛みが和らぐような、精神的な安定感を得ていた。これは、儀式によって二人の魂が繋がったことで、リュシエンヌの「守護の力」がノーラに作用している証拠だった。


(殿下の力は、私を護る……。ならば、私が先に倒れるわけにはいかない)


ノーラは、リュシエンヌが次に目覚めたときに、紅血の代償に苦しむことがないよう、儀式で得た知識と、自己の献身的な愛をもって、姫を護り続けることを誓った。


そこに、ユリウスが疲労した表情で入ってきた。

「ノーラ、一大事だ。レオンハルト公爵が、君たちヴァレンシュタイン家に、正式な嫌疑をかけてきた」


「嫌疑?」

「そうだ。公爵は、君が暗殺者から姫を守る際に、『暗殺者の死体を公衆の面前で放置し、宮廷の品位を汚した』として、兄上を騎士団長の座から一時的に解任するよう皇帝陛下に進言した。そして、君には『軍規違反の疑い』で謹慎を命じると」


ノーラは愕然とした。これは、彼女とカイルを姫の傍から引き離し、リュシエンヌを無防備にするための、巧妙な罠だった。


「姫を差し出すための布石ですね。ユリウス様、どうするおつもりですか?」


ユリウスは静かに、しかし冷徹な光を瞳に宿した。

「公爵の狙いは、我々ヴァレンシュタイン家の『忠誠心と名誉』を貶めることだ。姫を守るためとはいえ、軍規を乱したことは事実。我々は、一度、その罠を受け入れなければならない」


III. 参謀の罠と名誉の剣

ユリウスの戦略は、「捨てることで得る」というものだった。


その日のうちに、カイル・フォン・ヴァレンシュタインは騎士団長の甲冑を脱ぎ、謹慎処分となった。そして、ノーラもまた、病院の私室に謹慎という名目で幽閉された。


この人事は、宮廷内の裏切り者たちを大いに喜ばせた。レオンハルト公爵は、これでリュシエンヌを保護する主要な盾が消えたと確信した。


ユリウスは、公爵の思惑を理解し、あえてリュシエンヌの病室の警備を「手薄」にするという、大胆な罠を仕掛けた。彼は、グラディウスの偵察と、裏切り者たちの行動が連動することを読んでいた。


「兄上、ノーラ。公爵は、これで警備が解かれたと誤認するでしょう。しかし、姫を守る騎士は、鎧を着ていなければならないわけではない」


ユリウスの指示により、謹慎中のはずのカイルとノーラは、平服のまま、病院の秘密の通路を通じて、リュシエンヌの病室の隣室に潜んでいた。そして、警備を担っているのは、カイルに忠誠を誓う古参の騎士たちであり、その配置はユリウスの知略によって、最強の防御網が敷かれていた。


「ユリウス。俺は剣しか知らぬが、お前の知略には感服する。だが、この名誉を貶める行為を、必ず公爵に償わせるぞ」カイルは私服の胸元で剣を握りしめた。

「もちろんです、兄上。この名誉は、より大きな忠誠の証として、必ず回復させます」


ユリウスの罠は、公爵の裏切りを決定づける証拠を掴み、彼を一網打尽にすることにあった。


IV. 闇の将軍と裏切りの連動

真夜中。グラディウスが送り込んだ闇の偵察隊が、皇宮の隠された通路を通じて、リュシエンヌの病室へと忍び寄っていた。


彼らは、警備の手薄さに驚きながらも、レオンハルト公爵から事前に受け取っていた暗証で、内側から扉を開放する。


(やはり、姫は倒れている。そして、宮廷内の裏切り者たちが、我々に道を作ったか)


偵察隊の一人が、リュシエンヌのベッドに近づいた。姫は静かに眠っている。しかし、その身体から発せられる微かな守護の波動に、偵察隊は恐怖を感じた。


その時、偵察隊の隊長は、隠し持っていた通信魔導具を取り出し、外部のグラディウスへ向けてメッセージを送った。

「姫は意識不明。我々の潜入は成功した。裏切り者は既に手を引いている模様」


そのメッセージがグラディウスに届いた瞬間、隣室に潜んでいたカイルが、扉を蹴破り、剣を閃かせた。


「貴様ら! よくも公爵の罠に乗ったな!」

カイルの剣が、偵察隊を次々と切り裂く。そして、ノーラもまた、身体の痛みを無視し、病室へと飛び込んだ。


「殿下に近づくな!」

ノーラは、その左手の甲に浮かぶ紅い痕を光らせながら、最後の偵察隊員を仕留めた。


グラディウスの偵察隊は、ユリウスの罠にかかり、公爵の裏切りを確定させる証拠を掴ませたのだった。


その時、偵察隊が発した魔導具が、グラディウスの通信をかすかに受信した。それは、偵察隊への「撤収」命令だった。グラディウスは、偵察隊が掴んだ情報に基づき、「姫は動けないが、警備が厳重すぎる」と誤認し、一時的に撤退を決断した。


ユリウスは、全てを読んでいた。グラディウスの偵察を利用して、レオンハルト公爵の裏切りを確定させ、姫の「安否」を一時的に守り切ったのだ。


カイルは、血のついた剣を収め、リュシエンヌの安否を確認した。

「ユリウスめ……やりおった」


翌朝、ユリウスは、カイルとノーラが仕留めた暗殺者の死体と、グラディウスの偵察隊の通信記録という動かぬ証拠をもって、レオンハルト公爵を反逆罪で逮捕させた。


しかし、グラディウスが姫の安否について「意識不明」という誤った情報を得たことは、今後の戦局に新たな影を落とすことになるのだった。



第8話「闇の将軍の決断と宮廷の罠」をお読みいただきありがとうございます。


参謀ユリウスの知略は、グラディウスの偵察と裏切り者の行動を完全に連動させ、レオンハルト公爵の反逆罪を確定させることに成功しました!カイルとノーラも、謹慎という罠を逆手に取り、見事に姫を守り抜きました。


しかし、グラディウスはリュシエンヌが意識不明であるという誤った情報を得ました。次回、第9話「反撃の狼煙とユリウスの決断」では、グラディウスがこの情報に基づき、帝都への総攻撃を決行します。ユリウスは、姫が不在のまま、この絶望的な戦況をどう打破するのか。どうぞご期待ください!

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