05 ソフィア
「はいっ! ディー君への対策を検討したいと思います!」
「⋯⋯ディー君て」
せっかく元気良く手を挙げて言ったのにハルトの眉根に皺寄ってるんだけど。
ジョイルは大笑いしてるけどね。
ま、いいじゃない。
自分の年齢はどう数えていいか分からないけど、気持ち的にはあんまり変わらないと思うの。
「ディー君、本能的に解ってるのかしら? もうパティに見向きもしないの」
「あー、黙ってても聖女様の方がキラキラしてる気がしますねー」
「ねえ、聖女様ってのやめてよー。自分的聖女イメージが私自身と違いすぎるわ。なんというか、こう、慈悲深くて清楚。無理。ソフィアでいいわよ」
「では、ソフィア様「ソフィアー、様いらない」いやいや、無理です。様は死守します」
「君達、仲いいね」
あれ、ハルトしょんぼりしてる?
「ジョイル君て弟と似てない? ドミニクと。遠い昔なのにまだそこにいるみたいな、そんな感じ」
ちょっとお調子者っぽいけど、割としっかりした子だったな。
長かったわ。六十四代。
キリがいい数字だとか何とか言ってあいつが言ったらしいの。
自分で蒔いた種だし(?)最後まで見届けるのが筋ってものかと思って冷凍・解凍を繰り返してやっとここまで来たのよ。
「それにしても、どうして歴代国王は【聖女の人形】に会うと漏れなくハマってしまうんでしょうね。パティに初めて会った時のディルクルム陛下は怖かったですよ」
「それについては何人もの人形に探らせたんだ。恐らくシャハルが何らかの物を残している。国王と皇太子⋯王位継承第一位の男子かな? が何か身に付けているか埋め込まれているかも知れない。彼らしか入れない部屋がある。特定できないまま最後の人形まで来てしまった」
シャハルはね、そういうのこだわるからね。
ハルトは悔しそうだけど、特定できなくても私的には問題ないわ。
途中でわかってもすでに造られた私の扱いに困るし。
それに最後の最後でシャハルは絶対何かするはず。
「私は【聖女の人形】の製作開始から二年は星船から出るのを禁じられていたんだ。だから王都建設をその間全く見ていない。王城の主塔だけは何度か補強や建て直しているが、中が変わっていない。そこに禁足地がある。そこばかりは認証がなければ寵愛を受けている人形でも入る事が出来ない。そこで何かが行われている可能性がある」
「そんな場所では確かめようがないですねえ」
「もう一つ気になってたんですけど、せい⋯ソフィア様の未来予知ってどんな感じなんですか?」
うは。目に見えて興味津々。
「聖女なんて言うのが烏滸がましいほどのものよ。相手の手とか体に触れるとたまに見えるの」
ハルトと付き合ってから判ったんだけど、接触具合によっても変わるみたいで密着する方がより鮮明。
でも恥ずかしくて言えない!
考えている事が分かったみたいでハルトがこっちを見ながら耳を赤くしてる。くぅ。
「初めてそれがあったのは、スクールでクラスメイトの女の子と手を繋いだ時。突然その子が机と物入れの間に手を入れて、何かを取り出したら凄く喜んでるビジョンが浮かんだの。半信半疑で『探し物してる?』って聞いてみたら『彼に貰ったイヤーカフがいつの間にか取れちゃって見つからないの』って。で、もしかしたら⋯⋯って話したら本当にそこに落ちてたの」
「ほー。すごい!」
「でも触れれば毎回見えるわけじゃないし、見ようと思って見られるものじゃないのよ。突然なの。しかも数日後が限度。それを聖女とかって言われるとねえ」
「あー。なるほど。でもそういうの無い人間からしたら充分すごいですよ」
「───あの日は、母さんに話し掛けようとして肩に触れた瞬間、父さんが火傷の治療をしているビジョンが見えたの。次に場面が変わって黒ずんだ機関室。だから父さんに知らせに行ったの。機関室の父さんを見るなり「火事になるわ!」って叫んだら、父さんの隣にいたのよ。シャハルが」
興味深げに目を見開いて私と父さんを交互に見てた。
父さんはシャハルの様子に苛つきながらスタッフに見回りを指示して周った。
しばらくするとショートしかけている個所を見つけて事なきを得た。
「実際に火事になりかけていたのを見て、あいつとんでもなく歪んだ気持ち悪い笑顔になったわ」
顔を思い出すだけでもムカつく。
「後から成り行きを聞いてゾッとしたよ。ああ、見つかってしまったんだなって。奴は気に入ったものは犯罪紛いの手段でも平気でするから。私も拉致されて星船に乗る羽目になった」
「紛いじゃなくて犯罪ですよぉ」
「んー、でも私はハルトに出会えたからラッキーよ!」
ふふ。ポジティブが一番!
「惚気られてもー」
ニッコニコのジョイルの横でハルトが渋面を浮かべてる。
「照れてるー?」
突いてみても返事がない。
⋯⋯⋯⋯? どうした?
「───そうかイヤーカフ」
「イヤーカフが何?」
「華美な装いは禁止に近いのにイヤーカフだけは生体認証の為に付けるのを貴族に義務化されてるだろう? 星船を降りてから決まった事だ」
「ああ、これ、一度付けると皮膚に溶け込むんですよね。十歳になると強制的にバチンと」
「人形達は言っていた。禁足地へ行くのに指輪や王冠、アクセサリーは着けていなかったと。誰もが着けているから見落としていた」
「可能性はあるかもね」