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04 ジョイル

 聖女ソフィアゆかりの神殿のある小さな集落フローレス。

 街全体が白を基調とした建物が数軒並び、中央に白亜の神殿が聳えている。

 マグノリアの木にぐるりと囲まれて春先には何もかもが真っ白になる。

 王都からは馬車で一月程。

 神殿はあるけれど別にわざわざ巡礼に来る人もいない、そんな田舎の集落。

 そもそもこんな所に神殿があるなんて知られてないのかも知れない。

 神殿の由来も王族くらいしか知らないらしいし。


 ジョイル・ルース。

 僕はそこで生まれ育った。

 両親は神殿の管理を任された一族の長。

 始まりは聖女ソフィアの両親でその後を聖女の弟夫婦が継いだそうだ。

 それから千年、次代は僕が引き継ぐ。

 

 聖女ソフィアは初代国王に見初められ王妃になった。

 そして僕の妹も今代の王妃だ。

 妹と言っても本当の所は血は繋がっていない。

 大きく言えば繋がってるかな?

 でもそれは秘密の話。

 ───妹も知らない。


 僕が九歳の時に「この娘を育てて欲しい」と、真っ直ぐな綺麗な黒髪を靡かせ、裾の長い白い神殿服を着た若い男が両親の元に連れてきた。

 後で両親に聞いたら神殿長ハルト・カツラギ様だった。

 女の子の方は白い髪の毛に赤い目で紺色のワンピースにエプロン、ケープの揃いを着て僕より四つ年下だった。

 両親とは話が付いていたようで二言三言話すとハルト様は去って行った。

 女の子は寂しがる様子もなく無表情に立ち尽くしていた。

 何だか可哀想になって彼女の手を取って「おうちで休む?  ミルクとクッキーあるよ!」って気付いたら言ってた。

 いやあ、僕、天性の人たらしかも!?


 それから五年間パティと名付けられた女の子の手を引きながら色んな事学んだり遊んだり。

 パティは感情が乏しかったけど、よく見れば口の端が上がったり下がったり少しずつ変化していった。

 少しずつ笑顔が増えて、それがすごく可愛くて!

 僕が十四歳、パティが十歳の時に王都からゴテゴテキラキラした装いの王太子ディルクルム殿下が神殿長ハルト様を伴ってフローレスにやって来た。

 国民には華美な服を着るなとか言ってるのになんなの王族。

 それはともかく神殿の見学だそうだ。

 父さんも母さんもいつもより綺麗な神殿服を纏い恭しく傅いていたから僕達二人も真似をした。

「妃になれ!」殿下はいきなりパティの肩を揺さぶりだした。

 止めに入りたかったけど王族に手を出したら叱られるだけじゃすまない。

 両親と一緒にアワアワしてたらハルト様が止めに入ってくれた。

 僕と両親はホッと息をついた。

 確かこの時のハルト様は【ダミー君】だったはず。

 星船の技術で造られた人間そっくりのまがい物。

 命令されただけでなく自分でも考えて行動できるそうだ。

 すごいよね。


「ルース家と神殿の由来を全部話すよ」

 次の日父さんに僕が今まで入れなかったフローレス神殿の奥へ連れてこられた。

 ランプの光しか知らない僕はそこを照らす青白い光に目が眩んだ。

 壁一面の見たことも無い機械。

 文字が光って流れては消えていく。

「マグノリアの人間はみな他の星から来たんだ。」

「は? なにそれ、星って空にあるやつ? どうやって? 真面目な顔で冗談はやめて。ん?  本気なの?」

 父さんは「さもありなん」て苦笑いした。

「王都近くの大神殿の下に星を渡る船が埋まっているんだ。そしてここフローレス神殿は故郷の星と、この星を通る交易船の窓口になってる」

「スケール大きすぎて飲み込めない」

「交易船は本星からマグノリアの現状を定期報告する任務を請負っているから来るだけで、こちらは昔から不干渉を貫いてるし、特別に高額なものも無いから、この機械でやり取りするくらいだね。たまにハルト様が医療品やら何やら買っているみたいだけど」

「ますます飲み込めない」

「そうだよな。父さんもそうだったよ。星船の機関室長だった聖女様の父親はこの任務に志願した。初代国王に殺された聖女(むすめ)と【聖女の人形】の為にね」

「初耳なんですが」

「それはそうだよ。王家にとって都合が悪い話だからね」


 ふぅ。と父さんはひと呼吸いれた。

「聖女様は生きている。ルース家はずっと聖女様とハルト様をお支えしているんだ」

「え? 千年近く前に亡くなったんじゃないの? さっき殺されたって」

 いやいや、殺されたのが嘘だとしてもいくらなんでも長寿すぎって思っていたら、父さんが困り顔で説明してくれた。

 初代国王はハルト様と聖女様は婚約してるのにも関わらず、懸想した。

 聖女様ハルト様、聖女様の両親は、初代国王に聖女様は星船のアトリウムの高所から身を投げて死んだと思わせた。

 嘆き悲しんだ初代国王はハルト様に命じ【聖女の人形(クローン)】を作らせた。

 聖女様は実際に飛び降りた時に大怪我をしたので星船の設備でずっと寝ているような治療した。

 今はたまに起きて、また寝るを繰り返してる。

 ⋯⋯⋯⋯前半はまあ理解でないでもない。

 後半は何? クローンて。

 寝てる ような(・・・)って。

 寝て起きてで千年過ごせるの? 訳わかんない。


 混乱が頂点に達した時、追い打ちが来た。

「それと、パティは【聖女の人形(クローン)】だ」

 ねえ、父さん。

 十四歳には情報多すぎだと思わなかったの?

 なんて今では思うね。

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