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偽りの始まりはどこからなのか  作者: 小日向 おる


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番外編02 人形だって探検したい

 白い床、白い壁紙、白い天井、白い調度品⋯⋯。


「何で、どれもこれも白いんだよぉ!」


 戴冠の儀の三日前に星船に到着したシャハルは、大神殿の貴賓室に案内された途端、足を踏み鳴らし叫んだ。


「貴様のお気に入りが、遠い昔に設計したんだが」


 シャハルの荷物を積んだカートを押すジョイルと、白いワンピースを纏った真っ白な女性二人を引き連れたハルトが背後で毒づく。


「千年もあったのに少しは変えようと思わなかったのぉ?」


「どうせ来客などほとんどありませんでしたし、ダミーは私以上に無駄を嫌いますからね」


「だからってさぁ」


 シャハルの嘆きにお構いなくジョイルが荷物をサクサクと下ろしている横で、白い女性たち(片方は老婆、もう一方は中年)は丁寧な仕草でテーブルを整え茶の用意を始めた。


「六十二と六十三?」シャハルが疑問を口にする。


 二人は作業の手を止め、一斉に深くお辞儀をした。


「お、おう。揃うとちょっと引くなぁ。余生はここで暮らすのが多かったのか?」


「大抵は」


 荷物を下ろしきったジョイルが、シャハルをソファに促す。

 ハルトはすぐに部屋から出ようと立ったままだったが、シャハルに対面の席を指さされ渋々席に着いた。


「他に何をしていた?」


「独自にこの惑星の調査をしていましたね」


「思ってもみなかったなぁ」


「いいでしょう。昔話をしますか」


 昔話とは言ってもハルトが直接見た訳では無い。

 殆どダミー君を通して聞いた話だ。




 移住して百年ほど経った頃、王が三代相次いで早死にした。

 四、五、六代目は流行り病による死だった。

 因みに四代目が親、五・六代目は三兄弟の長男・次男だ。


 その流行り病は本星から持ち込まれたウイルスが、マグノリア星の土着の生物に感染して変異した新しいものだった。

 その時は元老院の中に星船の存在がまだ消えていなかったので、ハルトに救援要請が来た。


 だが実は四代目が即位してすぐにハルトは睡眠ポッドに入ってしまっていた。

「少なくとも三十年は起こすな」と、ダミー君に言っていた。

 律儀にも起こさずに自力で解析し、有効な薬とワクチンの開発を【聖女の人形】と共にする事となった。


 【聖女の人形】は最初の一体は成長スピードを速めて作られたが、二体目から三十二体目までは同時に通常のスピードで成長させた。

 入植直後の不測の事態に備える為だ。


 その後はタイミングを見計らい成長させていった。

 それ故次々と王が変わったが何とか対処できたものの、役目の無くなった人形達が星船で溢れていたのだ。




 取り急ぎ、既存の抗ウイルス薬で急場をしのいだ。


 四代目の人形が突然に

「わたしが発生地に調査に行きます」

 と、手を挙げた。


 この当時から人形は【ハルト】【ソフィア】【ダミー君】【ルース家当主と次期当主】とは自由に会話出来る設定になっていた。

 しかし意気揚々と立候補したものの、連絡手段である通信の中継地点が無いので、ほぼリアルタイムでの情報の受け渡しが難しいという事がネックになった。


 それならば、と四代目の人形は「何カ所かポイントを決めて、そこに着いたら中継塔を建てながら行く」と力強く言った。


 流石アグレッシブなソフィア様のクローンだ。と、ダミー君は感心した。




 それからは細かい点を詰めてサクサクと作業が始まった。

 有難いことにまだ星船のエネルギーの在庫は豊富であった。

 工作機器で簡易的な中継塔を作り、荷馬車に積んでいった。


 因みに【馬車】とは言うもののマグノリア星に【馬】はいない。

 マグノリア星に繁殖していた、調教できて牽引する力のあるものを利用した。

 姿形で言えば足の速い大きな毛の生えたトカゲといった感じだが、言い慣れた言葉で表現しているに過ぎない。


 全ての荷を積み終え、四代目の人形は颯爽と旅立って行った。

 五、六代目の人形達も嬉々としてバックアップに勤しみ、四代目と連絡を取りつつ中継塔のパーツを作った。


 折角なので中継塔には太陽光発電の街灯を付けた。

 四代目が発生地に着く頃、ダミー君と五代目が偵察機で採取に必要な機材と検査機器を運んだ。


「どうせなら吊り下げる形で中継塔の資材を持っていけ」と五代目に言われたが、壊さず離着陸出来る自信のなかったダミー君は拒否した。


 発生地はすでに閉鎖されていた為、近くの平地に偵察機で乗り込んでも混乱は無かった。

 ダミー君と人形たちで、つつがなく作業は遂行された。

 持ち帰った検体でウイルスを特定し、抗ウイルス薬とワクチンは無事精製された。




「これで一安心ですね」


 ダミー君は晴れやかに宣言した。

 だが四代目はこれで落ち着くつもりなど無かった。


「もっともっと、中継地点を増やしたいです。今度は反対側に」


 そう言うやいなや装備を整え、出て行ってしまった。

 当然五、六代目も再びバックアップに精を出した。


 そんなこんなであちこちに謎の塔が建ち、みな不思議に思ったが夜道が少し明るくなったのでそれはそれで良しと納得した。




「これ以上は資材が不足します」


 ダミー君は曇った顔で宣言した。

 しかし四代目はそんな事では辞める気になれず、


「資材の確保を目的とした調査をします」


 と、今までより重装備で出て行った。


 勿論五、六代目はバックアップに専念した。

 半年にいっぺん程の間隔で、ダミー君は四代目に呼び出されては植物、動物、鉱物と多方面に渡り様々な素材を持ち帰る事となった。




 それから十年、ようやく四代目は星船に戻った。

 色素が薄い為、日焼け防止にグルグルと布を巻き付けていた。それでも皮膚や目への刺激は強く、他の人形達より老化が速かった。


「ポッドに入って治療して下さい」


 ダミー君は見るなりそう言ったが、四代目は首を縦に振らなかった。


「私はこのまま老いていく。自由に生きた勲章だから」


 そう言って旅装を解き、ゆったりと湯につかった後は、星船のジャンプスーツに着替えて研究室に入って行った。



 

「どうです?」


「面白いねぇ」


 シャハルが興味深げに笑った。


「その後は時々四代目に憧れる個体が現れて、星の調査をしていました。お陰で蜘蛛の糸の織物や珍しい鉱物が手に入りました」


「ああ、時々商会で買い取ってたやつな」


星船(ここ)やフローレスの維持に色々必要でしたから。本来国民がやらねばならなかったんですがね」


「ドーン商会がお手伝いするよぉ」鬱陶しい笑顔を貼り付け、胸を張る。


「王族に進言して下さい」嫌そうにハルトは顔を引いた。


「ふっ、俺は王族だよぉ?」


「まあ、いい商売が出来るといいですね」


 シャハルはハルトの言葉を受け、ニヤリと笑った。

シャハルが介入してこない時期の人形は割と感情面が発達していたようです。

ペアリングされた王に影響を受けていたのかも知れません。

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