13 戴冠の儀 〈02〉
王都からの坂を登ると主城門があり、その先にいわゆる王城と聖堂が並ぶ。
王城の居住塔である主塔は四角の護衛塔に囲まれ、移住直後にあった獣の侵入に対する堅牢な構えだ。
戴冠の儀の行われる聖堂は天井も高く二階にはバラ窓が美しい。
正面入口の左右には尖塔が聳えている。
マグノリアをモチーフに白を基調にした繊細な意匠だ。
中央奥に祭壇があり、中央の身廊の両脇に参列者が並んでいた。
前方に座すシャハル・ドーンを他の参列者は一体誰かと囁きあっている、と控えの間にいる私の耳にも届いている。
わが国では伝統的にフォーマルな場では緩めのスリーピースなのだが、彼はそれとは全く違った体にピッタリと合ったシャープなもので現れた。
ただでさえ明るく輝く髪と大ぶりな顔立ちで悪目立ちしているのだが、むしろそれを楽しんでいるように見える。
「陛下そろそろお時間です」
侍従の合図で側廊から身廊へ、そして祭壇前にゆったりと歩みを進める。
祭壇には神殿長と、その後ろにフードを目深に被ったソフィア様が立っている。
祭壇に到着すると一拍おいて叔父上が儀式の開始を告げようとした。
「儀式の前に皆に話したいことがある」
私は手を挙げそれを制し、参列者をぐるりと見渡す。
最後にシャハル・ドーンで視線を止めた。
「まずは、この日に集まってくれた事に礼を言う。ありがとう」
参列者の戸惑いを肌で感じる。
「本来ならばここですみやかに王冠を賜るのだが、私にはその資格が無いので辞退したいと思う」
「へ、陛下何を⋯⋯?」
母上が最前列から私に手を伸ばす。
「私は愚かな男だ。妃一人幸せに出来ない。これで王など務まろうか。⋯⋯そこにいる初代国王オルトゥスの甘言に乗ってパティエンスの人生を狂わせた。政略などではない。私が無理やり妻にした。それだけでは無い。さらなる甘言で彼女を蔑ろにした。」
母上の隣でパティエンスは大きく目を見開いて私を見ていた。
まだ。まだまだこれからだ。
オルトゥスの前に立ちタイを掴む。
「この男は初代国王オルトゥス、本当の名はシャハル・ドーン。我々マグノリアの民は千年の昔、彼がこの惑星を買い、故郷の惑星から移住してきた。初代国王という名のオーナーだ。政には十年だけ携わり、その後故郷の惑星に帰って行った。⋯⋯自然と共存なんて真っ平御免なんだそうだ」
「ふっ、ははは。それの何が悪い。俺はあくまでも出資者だ。エピに手を貸してやっただけだ」
「こんな男を千年もの間神聖視していたとは一体何をして来たんだ。しかも聖女様はこの男に懸想され死を望むほど追い詰められていたなど。外道にも程があるだろう」
「実際にはちゃんと生き延びたんだからいいじゃないか」
ああ、駄目だ。我慢できなかった。
「そういう事じゃ無いだろう!」
気付いたらシャハルの横面を殴っていた。
殴られた頬に手を当てながら、馬鹿みたいにシャハルは大笑いしている。
「⋯⋯叔父上。王位は貴方に。母上、申し訳ありませんでした」
「ディルクルム」
二人の声が重なる。
「パティエンス。本当に済まなかった」
シャハルのタイを握りしめたまま、彼らに背を向けて謝罪した。
とても顔を見られない。自分が愚かで悔しい。
「さあ、来い」
シャハルのタイを引っ張り上げ、身廊を下り右手に折れた。
そのまま尖塔の頂上へ続く螺旋階段に足を掛けた。
明かり取りの小さな窓から光がもれる。
一歩、また一歩。
シャハルを引きずりながら登っていく。
「おい、何をする気だ!」
「わかってるだろ?」
振り向きもせずグイグイとタイを引っ張る。
足を取られたようでシャハルが転んだ。
ガッと腕を持っていかれるが踏ん張り、投げ出すようにシャハルを引き摺った。
階段の下の方から皆の声が聞こえる。
駄目だ。抗わなければ。
もう少し。
あともう少しだ。
「さあ、最初の王と【聖女の人形】最後の王、最期の時だ」
「な、やめろ」
正面からタイを自分の方へ引く。
腰に手を回し塔の手摺から身を投げた。
パティエンスとソフィア様が並んで手摺から手を伸ばしている。
パティエンスの結い上げた髪がふわりと解けた。
ああ⋯⋯、綺麗だな。
白くキラキラ光って⋯⋯。
すまない、パティエンス。
君はやっぱり美しいな。
⋯⋯
⋯⋯⋯⋯
⋯⋯⋯⋯⋯⋯。




