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総力の防衛戦――村に降る氷と炎

夕暮れが迫る村――


罠の仕掛けを終え、前線の茂みで息を殺して身構える。

ジークや仲間たちの鼓動まで聞こえそうな静けさの中、背後から重低音が響いた。


「カミナ!」


振り返れば、ガイが鋭い眼光でこちらを射抜く。


「お前の迅玉式の動きは認めてる。だが、まだ荒削りだ。今日、“前で暴れる役”はこの俺に任せとけ!」


一瞬、“戦力外か?”と胸がチクリと痛む。だが、ガイはすぐに力強く続けた。


「カミナの頭の回転は、みんな一目置いてる。もちろん父親である俺もだ。だから今日は、カミナ――お前は知恵で勝負してくれ。

みんなを動かせるのは、お前しかいねぇ。

一番大事な仕事だ。村の指揮、頼んだぞ!」


その言葉が、胸に深く突き刺さる。

本当に俺でいいのか。

一瞬の迷いに、脳内でボルトが静かに語りかけてくる。


『……大丈夫だ、相棒。お前なら、きっとみんなを導ける』


その声が背中を押した。

迷いが消え、腹が据わる。


「……わかった。みんな、俺の合図で動いてくれ!」


ジークや仲間たちが「任せたぞ!」「頼りにしてる!」と拳を握る。その目に、迷いはなかった。


――


赤黒い旗を掲げた帝国兵が、ついに柵の手前まで迫ってきた。

人数は中隊ほど。圧倒的な大軍じゃないが、全員が分厚い鎧に身を包み、鍛え抜かれた体で、無駄なく進んでくる。


夕陽を浴びて鈍く光る鎧、無骨な動き、整然と響く軍靴の足音――

その存在感だけで、村の誰もが息を呑む。


ザッ……ザッ……ザッ……


規律の音が、村人たちの心臓を強く締め付ける。


「く、来るぞ……!」


最前線の男たちが武器を握りしめる。恐怖に膝は震えているが、誰も一歩も退こうとはしない。


「緊張してきた……」

「俺らが帝国と……」

「……根性きめろ。前に立つしかねぇ。兄貴の指示通りに動くぞ。」


ジークの声は震え混じりだが、その目だけは決して逸らさない。


俺も息を殺し、前方を睨み据える。


(……まだだ。もっと引き寄せろ)


脳内でボルトが冷静に告げる。


『相棒、落ち着いていけ、焦ってもいいことなんてない。全体をみるんだ。』


(わかった)


帝国兵は無言で村の柵へと歩み寄る。

先頭の兵士が薄ら笑いを浮かべ、ぼろい木の柵を棒で小突く。


「なんだこの柵、子どもでも壊せるぞ」

「制圧もすぐ終わりそうだな。女もガキも、今日は楽しい夜になりそうだ」


――もちろん、それはカミナが仕掛けた“フェイクの柵”。

帝国兵が疑いもせず進み出た、その瞬間が狙い目だ。


その瞬間――

俺は叫ぶ。


「今だ――第一罠、起動!!」


パァンッ!


乾いた破裂音。

隠していたロープが外れ、丘の上から太くてずっしり重い丸太が二十本――転がるというより“突進”する勢いで帝国兵の列をなぎ倒しにかかる。


ドゴォ――ッ!!


先頭の兵士は叫ぶ暇もなく、分厚い鎧ごと巨木に弾き飛ばされ、地面を転がる。


「ぐあっ、巻き込まれる――!」

「後退! 下がれっ……がぁっ!」


丸太が転がり、帝国兵の列が一気に乱れて後退する。

俺はすかさず合図を送る。



「――今だ、第二罠! 縄を引け!」


道場の仲間たちが、あらかじめ地面に這わせていた太い麻縄を一斉に引く。

その拍子に、偽装されていた落とし穴の蓋がガクンと沈み、帝国兵が次々と地中へと消えていった。


ズシャアッ!!


地中の鉄杭が、鎧ごと兵士の体を容赦なく貫く。


だが、丸太や落とし穴から逃れた兵士たちは、怒りで目を血走らせ村に突進してくる。


「投石隊、撃て!!」


道場の子ども組や迅玉式の面々が、簡易スリングで石を一斉に放つ。


ガンッ! ガンッ!


石は狙い澄ましたように鎧の隙間を打ち、帝国兵の進行を止める。


「目が――!」

「上だっ!あの丘の上から攻撃してくるぞ!」

「あのガキどもをやれ!」


「投石隊は下がれ!!」

「後衛、火矢! 撃て!!」


小道の乾燥松明に火矢が撃ち込まれ、

油が爆発的に燃え上がる。

炎と黒煙が村の境界を包み、視界を奪う。


「チッ、前が見えん! 敵はどこだ!?」

「丘の奴らも消えたぞ!」


煙に咽び、混乱する帝国兵。


その隙に、村で鍛えた戦士たちが一斉に反撃を仕掛ける。

投石や弓矢が乱れ飛び、村人たちの声が切迫した。


「命中したぞ!」

「敵がひるんだ!」

「突破しようとするものに一斉射撃しろ!」

「視界は悪いが1人も見逃すな!」


緊張感の中、ジークが歯を食いしばって叫ぶ。


「まだ来るぞ! 油断すんな!」

「鉄壁式が前に! 怪我をしたらすぐ下がれ!」


遂に帝国兵が前線に迫る。

ジークが最前で剣を構え、帝国の兵士と斬り結ぶ。


ガチーン!!


破剣式の重い一撃で帝国兵を真正面から押し返し、ガイ仕込みの体さばきも冴える。

ガイには及ばずとも、十分に仲間の盾となる力を見せていた。


至るところで揉み合いが始まり、村人にも怪我人が増えていく。


ティナは村の奥にある集会所で手当てに走り回り、薬草を切り、包帯を巻きながら冷静に指示を飛ばす。


「大丈夫!傷は浅いよ!しっかり押さえて。はい次!」


彼女の的確な動きが、治療班の不安をぎりぎりで支える。


「……これからが本当の勝負だね……」

ティナが小さく呟いた。


――


前線をすり抜け、数人の帝国兵が村に押し入る。


「罠を抜けたぞ!」

「押し込め!」


鎧の兵士が剣を抜き、

戦闘に参加できない村人に迫る。


「誰か、止めてくれ――!」


その時――


「下がって。ここは、私がやる」


鍋の蓋を構え、リーナが一歩、静かに前へ出る。

帝国兵の剣筋が迫る。

だが、リーナは舞うような滑らかさでそれをいなし、続く攻撃も鍋の蓋で音もなく受け流す。

すかさず後ろへ回り込み、鮮やかに手首を極めて剣を奪い取る――

そして返す刀が、鎧の隙間を正確に斬り抜けた。


「――っ!?」


帝国兵は驚愕の表情のまま、地面に沈んだ。

その一連の動きは、目で追えないほど速く、そして美しかった。


「な、何者だ……!?」


普段は穏やかなリーナの、誰も見たことのない“本気の剣”。



一方、前線では


負傷した村人を狙う帝国兵を見つけたガイが、

すかさずその前に立ちふさがる。

「大丈夫か? 集会所まで頑張れ」と振り返りながら村人に短く声をかけ、帝国兵たちに真正面から向き合った。


帝国兵たちが周囲を囲む――


だが、ガイは一歩も引かない。

「おらぁああああ! 相手はこの俺だ!!この棍棒が黙っちゃいねぇぞおおお!」

と叫びながら棍棒を大きく振り抜く。その一撃はまるで巨岩が転がるような威力で帝国兵を吹き飛ばし、地面に転がす。

さらに、棍棒の勢いを殺さず、巨体をひねって後方の敵めがけて投げつける。ぶつかった兵は棍棒ごと地面に叩きつけられた。


武器を失った隙を見て帝国兵が槍を突き出すが、ガイは素早く身を引いて軌道をかわし、滑らかな動きで柄をつかむ。そのまま槍を奪い取り、一気に間合いを詰めて敵の顎に肘を叩き込む。


その戦いぶりは、ただの豪腕ではない。

力の奥に、リーナと同じ“流れるような技”が確かに息づいていた――



この2人の強さは明らかに“別格”だった。

ジークもその背に食らいつき、仲間も死力を尽くして支える。


仲間たちが一つになり、恐怖を超えた“覚悟”だけが戦場を支えていた。


「押し返せ! このまま追い出すんだ!!」


俺は全体の指揮をとり、次の罠と作戦に備える。


(……でも、これで終わるはずがない。帝国が本気を出す前に……)


――異変は、その時だった。


すさまじい轟音とともに、カミナの仕掛けた柵付近で炎が爆ぜる。

村の周囲、森も柵も畑も真っ赤に燃え上がった。


そこにみえる炎の只中に、2人の異様な影。


剣と盾を構える黒衣の軍服の男。


異様に輝く金の槍を持ち、白いドレスをまとった女。


女が金の槍を振ると、周囲に無数のシャボン玉がふわりと浮かび上がり一気に村の上空を漂い始めた。

空に舞うそれは、まるで幻想的な宝石のよう――

村人も帝国兵も、その正体を掴めず一瞬固まる。


(……なんだ、あれは? シャボン玉?)


見たこともない光景に、村人たちがざわつく。

だが、脳内でボルトが鋭く警告を放つ。


『相棒! 蒼氷魔法だ、危険だ!村人たちに警告しろ!』


カミナの背筋が冷える。


(魔法……!? ここで――!?)


焦りで喉がひりつく。


「みんな、あれは魔法だ! 警戒しろ!絶対に油断するな、あの光る球は危険だ!!」


叫び声が戦場に響く。


その瞬間、シャボン玉が一斉に形を変え――

無数の鋭い氷のツララとなり、凄まじい速さで空から降り注いだ。


「危ない! 頭上だ!」

「防げ、防御を固めろ!」


カミナの声で警戒していた前衛はとっさに盾や武器で受け止めるが、肩や腕を裂かれ膝をつく者も出る。


「ぐっ……腕が……!」

「無理をするな!怪我人は下がれ!」


ティナは窓越しに戦場の異変を察知すると、集会所を治療班の仲間に託し、危険も顧みず前線へ駆け寄る。息を切らせながらも倒れた仲間の傍らにひざまずき、


「痛いよね、この薬草をしっかり傷口に当てて……大丈夫、血は止まるよ……」


額の汗をぬぐいながら、次々と負傷者に声をかけ、手を止めない。深手や重傷の者には、誰にも気付かれぬよう袖の内でそっと”魔法”を使う。


「……はい、もう大丈夫。無理に動かないでね」


ほんの一瞬だけ指先が淡く光る――その魔法の痕跡を、すぐに薬草で覆い隠すティナだった。


俺は叫ぶ。


「下がれ! 前衛は一度後退! 後列は怪我人を守れ、無理に前に出るな!」


村人たちは、必死に隊列を立て直すが……


村の外は炎、内側は氷。

その狭間に、別格の存在感を放つ二人が立つ。

すべてが――彼らを中心に、ぴたりと静止した。


『相棒、あの気配……やばいぞ。レベルが違う』


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