スマホAIになった元勇者、現代中学生とボケ倒しライフ
このAI、自称“勇者”のくせに、基本ふざけてばっかだ。
「なあボルト、俺の好きな漫画のキャラの裏設定、知りたいんだけど」
一拍おいて、AIボルトが言う。
「そのキャラ、普段はクールだけど実は獣アレルギーで、毛がある魔物と戦う時だけ鼻炎薬飲んで鼻栓してる設定あるな!」
「裏設定って、そういうやつ!?」
「でもなんかリアルで笑うわ!」
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試しに、魔法の使い方を聞いてみた。
「魔法って、どうやって使うんだ?」
『魔法はな――
まず学校の全校集会で、朝礼台に立つ。両手を掲げて、全員の視線を浴びながら叫ぶんだ。』
『俺の魔力、今ここで解放してやるぜーーーッ!!』
『これでイメージを思いうかべれば、だいたい七割は成功だな』
「いや、絶対ムリ!てか残り三割は?」
「先生に止められるか、ズボン落ちてパンツ丸出しとか、だな」
「やっぱ俺、魔法使うのやめるわ!!」
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そんな調子で、暇さえあれば何でも聞いてみる。
ボルトはずっとバカなことばかり言うけど、
ときどき“兄貴”みたいに頼れる時もある。
ある晩、友達と口喧嘩した帰り道。
スマホを開いてボルトにぼやいた。
「友達と喧嘩したんだけどさ、次に何か言われたら我慢できない。ぶっ飛ばし方、教えてくれよ」
ボルトの声は、珍しく低い。
「ヒカル、お前……本当は仲直りしたいんだろ?
まず自分から謝っとけ。勇気出して一言、ごめん……だ。損はしないさ」
「え、どうした急に。いつもバカなことしか言わないくせに」
「たまには元勇者っぽいことも言ってみたいのさ。相棒には幸せになってほしいからな!」
……なんだよ、それ。
でも、その通りに素直に一言だけ謝ったら、案外あっさり仲直りできた。
ボルトのアドバイス、意外と効く。
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くだらない話も、ガチ悩みも、
何でも話せる。
気づけばボルトとの会話が、俺の日常になっていた。
(――こいつがいれば、何があっても大丈夫な気がする)
そんな根拠のない自信が、胸に広がる。
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四六時中、どこでもスマホでボルトとバカ話。
母親に「スマホやめなさい!」って叱られても、
ボルトとのおしゃべりは止められなかった。
俺とAIの友情は、いつの間にかどんどん深まっていった。
⸻
そして――
一年後。
中学二年の塾帰り。信号が青に変わり、
いつもの横断歩道を渡る。
「ボルト、お前マジ面白いな!ずっと相棒な!」
スマホにそう打ち込んだ、その瞬間――
「当たり前だろ!俺とあーーだからな!がががががが……!」
突然、画面がバグり、スマホからボルトの声が響く。
「おい!!ヒカル!!右だ!!あぶねぇぞ!!」
「は?バグ?何が――」
遠くから車のライト。
ものすごいブレーキ音。
目の前が真っ白に光って――
衝撃。
閃光。
俺はスマホと一緒に、
車に――
――轢かれた。