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破天荒なる師、カタリナ

「あなた方、家族の師として指導してあげるわ!」

豪快な宣言と同時に、カタリナの胸元がぐいっと主張する。


ガイ一家は、ただぽかんと口を開けて見上げていた。


「……なんだこの女」ジークが素直すぎる感想を漏らす。

「む、胸……でか……やべぇ……」カミナは慌てて視線を逸らす。

「ちょ、ちょっと! あんな格好で恥ずかしくないのかしら……」ティナは顔を真っ赤にしながら、リーナの袖をぎゅっと引っ張った。


ボルトは大笑いだ。

『おい相棒! “爆乳師匠”爆誕だぞ!!』


リーナは額に手を当て、深いため息を漏らす。

「……セリオスさま。本当に、この方にお任せして大丈夫なんですか?」


セリオスは苦笑し、肩をすくめた。

「心配するな。あいつは見た目こそ破天荒だが――腕は保証する」


ガイが一歩前に出て、大剣を軽く肩に担ぐ。

「ほう……俺にも教えられるってことなら、俺と模擬戦でもやってもらおうか」


カタリナは目を細め、鋭く笑った。

「おじさんは腕は立ちそうね。でも――天才とはどういうものか、知るチャンスね! 望むところだわ」


そして、顎をしゃくり上げる。

「外に出ましょう!」


カタリナがひと声かけると、全員はギルドの外へと向かった。

訓練場の広場には木製の人形や練習用の柵が並び、陽光を浴びて砂埃が舞い上がっている。


ガイは大剣を握りしめ、低く笑った。

「……やばくなったら魔法を使ってもいいぜ。

俺の家族を任せられるかどうか――身をもって知りたい」


「おじさんに魔法は必要ないわ!」

カタリナは騎士剣を構え、鋭く笑う。

「それじゃ、派手にいきましょうか!」


リーナたち家族は柵の外に並び、固唾をのんで見守った。

セリオスは腕を組み、どこか懐かしげにガイの背中を見つめる。


砂埃を巻き上げながら、二人は一気に間合いを詰めた。

ガイの闘気がこもった大剣が振り下ろされる。両手に握られた巨剣は空気を裂き、凄まじい衝撃波を生んだ。


「おおっ!」

ジークが思わず身を乗り出す。


カタリナも騎士剣で応じ、鋼がぶつかる火花が弾け飛んだ。

破剣式――力と破壊を極めた同じ流派同士の激突。


「やるじゃない!」

「まだまだだ!」


互いの武器がぶつかるたび、轟音が広場を震わせる。

しかし、体格と膂力に勝るガイが徐々に押し込み、ついに渾身の横薙ぎでカタリナの騎士剣を弾き飛ばした。


大剣の切っ先が、彼女の喉元にぴたりと突きつけられる。

「……勝負ありだな」


カタリナは息を荒げ、唇を噛みながらも笑った。

「くっ……破剣式の純粋な力比べじゃ、やっぱりおじさんが上か……!」


「あの親父と張り合える女がいるなんて!」

「魔法なしでこのレベル……」

ジークとカミナが声を上げる。


ボルトがすかさず茶化す。

『相棒! お前がやったら一撃で完敗だろ、間違いねぇな!』



だがカタリナは負けを認めず、にやりと笑った。

「――前言撤回!思ったより出来る事は認めてあげる!でも魔法を使えば結果は違うわ!私を甘く見ないことね」


騎士剣を構え直し、左手で真言を紡ぐ。


《剛岩よ、我が盾となれ――アースシールド!》


ゴウンッ!


岩石が光を帯び、彼女の左腕に巨大な岩盾が具現化する。

さらに剣に魔力が走り、刃が鋭く輝いた。


リーナが驚く。

「鉄壁式……!」

「本気のカタリナは、鉄壁式と剛岩魔法を併用する……“剛岩鉄壁式”の魔導騎士だな」

セリオスが低く呟く。


カタリナは豪快に笑い、岩盾を叩いた。

「――第二ラウンド、行くわよ!」


ガイは大剣を握り直し、真っすぐ睨み返す。

「……魔導騎士……上等だ! 次も勝つ!」


轟音と共に何度も激突する二人。

大剣の猛撃は岩盾に弾かれ、砂煙が立ち上る。

それでもガイの攻勢は止まらず、圧力で押し込んでいく。


だが――カタリナが低く詠唱を紡ぎ始めた。


《剛盾よ震え、敵を惑わせろ――ストーン・ブラスト!》


詠唱が終わった瞬間、盾から衝撃が走り、岩片と砂煙が炸裂。

岩片を喰らい視界を奪われたガイが舌打ちする。

「チッ……!」


その隙を逃さず、カタリナが踏み込む。

「――これで決まり!」


岩盾で大剣を弾き飛ばし、反撃の剣閃がガイの首筋に突きつけられた。


「……これで一勝一敗。まあおじさんも破剣式の特級はありそう……こんなとこかしらね」


セリオスが腕を組んだまま、淡々と告げる。

「ガイ……これでわかっただろう。こいつは元・法国神殿騎士団の最上位、“白銀聖騎士”だ。

……だが、信仰心ゼロの上、同派閥を潰し回り、異端審問にかけられて帝国に逃げてきた。

そして、ザルドフェルンに来てからは迷宮探索を一人でこなし、あっという間にゴールドクラスにまで上り詰めた。腕は確かだ」


ガイは大剣を肩に担ぎ直し、悔しさの中に笑みを浮かべた。

「……なるほどな。だが次は負けねぇ」


カタリナは剣を担ぎ、豪快に笑った。

「ふふっ、いいじゃない! 気に入ったわよ、おじさん!」


「おじさんはやめろ! ガイでいい。俺も“師匠”なんて呼ばねえぞ……カタリナで十分だ」


「わかったわ! よろしく、ガイ!」



模擬戦が終わり、舞い上がっていた砂煙がようやく落ち着く。

カタリナは剣を背に収め、にやりと笑った。


「さて……どの子がカミナ?」


ガイがちらりと視線を送ると、カミナがおずおずと手を上げる。

「……お、俺です」


カタリナはしゃがみ込むようにして顔を覗き込み、ふっと笑った。

「雷鳴の勇者って感じはしないけど……可愛い顔はしてるわね!

ビシバシ鍛えるから、覚悟しなさい!」


「は、はい……」カミナは苦笑いで答える。

『いやいや! 相棒、完全に“美人教官の生け贄”じゃねーか!』

ボルトの声に、カミナは思わず顔をしかめた。



次にカタリナはティナの前に立ち、いきなり胸元へ手を伸ばした。


「ちょ、ちょっと……!? きゃあああ!!」

ティナが慌てて飛び退くが、カタリナは構わずニヤリと笑う。

「あら、この子も結構大きいじゃない! 聖光魔法の使い手よね……お姉ちゃんって呼んでもいいのよ?」


「ぜ、絶対嫌ですっ!!」

ティナは顔を真っ赤にしながら叫び、ジークが「師匠やべぇ……」とつぶやく。



「じゃあ――こっちの屈強そうなのがジークか」

「はい!」ジークが短く答えると、カタリナは満足げに頷いた。

「ふむ、剣術は確かに見込みがありそうだわ」


ジークも元気に胸を張る。

「魔法は使えないけど、頑張るぜ!」



そして最後にリーナへと視線を移す。

「あなたがお母さんね。……リーナでいいかしら? 鉄壁式の使い手だって聞いたわ。

なら私も教えられることがあると思うの。よろしくね!」


リーナは落ち着いた笑みを浮かべ、軽く頭を下げた。

「はい。こちらこそ……」



こうして――カタリナ=ヴェルミオン、破天荒な“鎧美女”が、ガイ一家の師として加わったのだった。


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