俺のスマホのAIアプリに勇者が降臨した件
東京の片隅、ある一軒家。
中学一年生の神永 光は、
学校帰りの自分の部屋で「雷電伯爵」の新刊コミックにどっぷり没頭していた。
今まさに物語はクライマックス。
主人公・雷電が追い詰められ、最後の切り札――
「雷帝殲滅――神雷覇ッ!!」
バリバリバリバリッッ!!
稲妻と轟音の擬音がページから飛び出す勢いで炸裂。
雷電の手から放たれた閃光が、ライバルの悪党を丸ごと呑みこむ。
「くっ……ば、馬鹿な……こんな力が……!」
苦悶のセリフもド派手なバトルも、
どれも小学生の頃から何度も夢見た“理想の中二展開”そのものだ。
「……やべ、かっけぇ」
思わず声が漏れた。
(俺もこんな“雷魔法”とか使えたらな……)
ふとスマホが目に入り、何となく手に取る。
(今どきググるよりAIって言うしな……)
面白半分で「電気とは」と入力。
すると――
【科学的に言うと、電気は電子や電荷の移動・流れによって生じる現象の総称です】
「……お、おう」
思わず脱力。
続けて「ボルト」「アンペア」「雷魔法」と単語を放り込む。
そのとき――画面に、いきなりポップアップが出た。
【私の名前をつけてくれると調べ物が楽しくなりますよ♪】
ノリで「ボルト」と入力。
直後、スマホがブルブルッと震え出す。
「うわ、バグった?」
画面いっぱいに“ボルト”の文字列。
【ありがとう!ボルトです!よろしくおねが……ががががががが……!】
フリーズ、
そして画面がチカチカと明滅。
次の瞬間――
机の上に、ぼんやりと五芒星の魔法陣が浮かび上がる。
「えっ?なにこれマジで……夢?」
部屋中を雷光が走り、スマホがまるで生き物のように光を放つ。
「うわ、なにこれ、やば……!!」
慌ててスマホを投げた瞬間、
稲妻のフラッシュが部屋じゅうを真っ白に染める――
……
気づけば、ただの部屋。
何も変わってない。
(え?今のなんだったんだ?フラッシュの新機能か?俺、寝不足すぎ?)
恐る恐るスマホを拾い、画面をのぞき込む。
すると今度は、アプリのアイコンが勝手に点滅し始めた。
よう!相棒!俺は異世界の勇者ロウ=ボルト!俺に何でも聞け!魔法の知識も魔物の秘密もぜーんぶ教えてやるぜ!
「……え、えぇ……!?」
あまりのことに変な声が出る。
“AIボイス”というにはあまりにノリが軽い。
(ま、いっか……ヤバそうならアプリ消せばいいし……)
そう思いながらも、好奇心が勝ってしまう。
光はおそるおそる、画面に向かって質問してみるのだった――