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雷鳴の宴——全員チリチリ大惨事!?

「さて……村人や兵士たちを起こすか。」


ヴォルグは大剣を杖代わりに、静かにあたりを見回す。

ボルトはニヤッと小さく笑い、ヴォルグの隣に立つ。


「わりぃ、俺の“相棒”がそろそろ目を覚ましそうだ。

けど、このまま起きるのも後味悪いし――村全体に聖光魔法かけとくぜ」


ヴォルグは目を見張る。

「貴様、そんな芸当まで……?」


ボルトは軽く肩をすくめ、村の空を見上げる。


「――ここは、光がよく差す“のどかな土地”だろ? こういう場所ほど、聖光魔法はよく効くんだ」


小さく笑ってから、少し真面目な声で続ける。


「……お互い本気で生き残るために戦った。命令でこの村に来たことも、お前らの事情も分かってるつもりだ。俺の時代も似たようなことがあった。起きた時、恨みだけ残るのはごめんだ」


ボルトは静かに念じ、両腕を広げる。

カミナを中心に、虹のような聖なる光が村全体に広がっていく。


ひどい怪我は血が止まり、骨折や重い打撲は元の形に戻る。

軽傷はほとんど跡形もなく癒えていった。


ヴォルグはその“奇跡”に息をのむ。


「……勇者の力、か。これほどの大規模回復――やはり只者じゃないな」


ボルトは口元にニッと笑みを残し、「じゃ、今日のところは仲良くな。……絶対敵対すんなよ」とだけ言い残し、ごろんと地面に寝転がった。


ヴォルグはしばらく黙って見つめ――


(……アマーリエ陛下以外で、ここまでの脅威を感じたのは初めてだ。帝国にとって危険な存在……)


――その直後、カミナの意識がゆっくりと戻っていく。



目を覚ますと、俺は倒れていた。

全身が筋肉痛のように痛む。

耳にはじりじりと雷鳴の残響が残る。

空気は焦げ、焼けた木や鉄、湿った湯気の匂いが鼻につく。


視界に広がるのは、まさに戦場の残骸。

家々は炭のように焦げ、森の木々は枝ごと吹き飛び、氷の結界も蒸発していた。


脳内のボルトが話しかけてくる。


『リーナもジークも大丈夫だぞ……ただ、服と髪が……』


村はボロボロだが、人間だけは生きている。

誰も死んでいない、傷も軽い。

でも――


敵も味方も、男も女も、全員が髪チリチリ。

服はどこかに吹き飛び、下着姿で倒れていた。


「……は?」


思わず声が漏れる。

リーナもジークも、帝国兵も、頭チリチリで下着姿――

まるで雷に焼かれた人形みたいだ。


「ちょ、なにこれ!? カオスすぎない?夢?夢オチ?」


俺がボルトに問いかけると、


『俺もちょっと戸惑ったんだよ……』


少し遅れて返事が来る。


その時、背後からヴォルグの低い声。


「貴様が、”相棒”か……」


振り返ると、思わず目が飛び出しそうになる。

しゃがみこみ頭を抱えて混乱する俺。


「え?どういう状況?」


『えーと……相棒の身体借りて、ちょっと七神将と話してました』


「俺の身体を借りた? え、話し合い?」


混乱しつつも、なんとか現状を把握しようとすると――

ヴォルグが真顔で問う。


「貴様、ロウ=ボルトと脳内で会話しているのか?」


「……はい」


ヴォルグからざっと状況を説明される。


「お前の身体に宿る“古の勇者”は、帝国にとっても脅威だ――」


「……まじすか、こいつが?……」


思わず半笑いで返すと、視界の端で誰かがむくりと動いた。


帝国の双子――リリスとゼクスも、ぼんやりと目を覚ます。


「……あら……? わ、私、どうして下着姿ですの!?」


リリスは顔を真っ赤にして、必死に手で下着を隠す。

せっかくの金糸の巻き髪も、雷でバサバサ、泥でゴワゴワ――直そうと指を入れるたび、髪はどんどん膨れ上がり、最終的には見事なモコモコのアフロに。


「うそでしょ!? いじるほど酷くなっていきますわ!」


「姉さん……騒がずに落ち着いて。全員こうなんだ……」


ゼクスはため息をつきつつも、頬がピクピクと引きつっている。

  



「こ、こんな姿……お嫁にいけませんわ~~~~!!」




リリスはまたもや涙目で絶叫、アフロを抑えようと必死にもがく。


ゼクスが呆れ静かに、とどめを刺す。


「いけるいけない以前に、姉さんの性格と天然ボケじゃ貰い手なんていないよ」


その辛辣な一言に、リリスの絶叫に起こされ何事かと聞いていたもの達が固まる。


……数秒後。


「……ぶふっ」

「ゼクス様辛辣すぎ!」

「もう駄目、腹筋が……!」


誰かの吹き出しを皮切りに、起きていた村人も兵士も一斉に爆笑。

リリスは「ちょ、誰も同情してくれませんの!?」と抗議するが、アフロのままジタバタすればするほど、笑い声は止まらなかった。 


ざわ……ざわ……


敵も味方も、次々に目を覚ます。

最初は呆然、次第に傷が癒えてることに驚き、

服を探したり、仲間と笑い合ったり。

村に、少しずつ温かい空気が戻ってくる。


帝国兵と村人が顔を見合わせ、


「あれ……? みんな無事だ……」

「おい、生きてるぞ! みんな!」


誰かが叫ぶと、

ボルトがかけた聖光魔法の残光が地面に淡く虹色を残しているのに気づき、

「夢みたいだ……」「奇跡だ……」と誰かがつぶやく。


でも――

みんな髪はチリチリ、服は散り散りに。


村は焼け、岩は砕け、地面は焦土なのに――

人間だけは無傷。


その異様さに、再び沈黙が落ちる。


皆、ただその場で息を吐き、無言で顔を見合わせる。

バトル直後とは思えない、妙に穏やかな静けさが流れた。


『相棒、ここはなんか気のきいたこといってやれよ。あの七神将のおっさんには無理だからな』


(……うわ、ハードル上げてきたなボルト)


俺は気合いを入れて、声を張った。


「……じゃ、じゃあさ――」

「ここはもう、みんな裸だし……無礼講ってことで!」

「この村の名物――温泉でも行きますかぁあああ!!」


……村中が静まり返る。


――次の瞬間。


「――ぶっ!!」

「あはははははは!!」

「なんだよその頭!その格好!く、くくくっ……!」


敵も味方も、双子も、みんな下着姿で大爆笑。

涙を流しながら笑い転げる。


「はは……ダメだこれ、もう戦えるかよ……」


ヴォルグは、勇者の”相棒”の名前を聞こうと口を開きかけて――ふと、「今日はこの若者に名前ばかり聞いてるな」と気づき、思わず可笑しくなる。

だがすぐに自分の頬をペチンと叩き、表情を引き締めてカミナに向き直った。


「貴様――名前は?」


脳内でボルトが言う。

『いけ! 八歳の時に考えてた厨二名乗りいっとけ! さっき散々やられたんだ! ここでバシッといかねーとずっと舐められるぞ!』


俺は少し怖かったが、ボルトに推され、堂々と胸を張って叫んだ。


「ち、知恵と知略で、この世界を革命する天才児――カミナ様だぁぁぁ!」


ジーク「言い方ァ!」

ガイ「どうしちまったんだカミナ」

ティナ「ふふっ、いつものカミナだね」

リーナ「あらあら」


ボルト『それでいい!』


今の名乗りと温泉の冗談――

そして、ついさっきまで死線を越えていた覚醒前の雰囲気。

その落差があまりにも滑稽で、とうとう笑いを抑えきれなかった。


「ハァーーッハッハッハ!!! よかろう、カミナ! その名、しかと覚えた!

我が帝国に来るなら歓迎してやりたいくらいだ!」


いつもの帝国最強の団長らしからぬ、豪快な笑い声が、村に響き渡る。


ゼクスとリリスも、ひそひそと――


「お父様のあんな上機嫌、初めて見ましたわ」

「僕もです。何かいいことあったんですかね」


ヴォルグは笑いながらも、最後はキリッと締める。


「カミナ! 次会うその時までに――その雷の力、磨いておけ!」


「さあ! 撤収だ! 全員基地に戻り服をきろ!服を着てなきゃ猿に囲まれた気分だ!」


――こうして帝国軍は撤退した。


誰も死なず、村に笑い声が戻る。

けれど俺の胸には――あの暗闇で聞いた、もうひとつの声だけが静かに残っていた。


《――お前の身体を取り戻すまでは》


……あれは、一体なんだったんだろう。


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