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帝国の双子、そして現れる“本物”の強敵

氷の破片と怒号の中、五つの力が確かに戦場を支えていた。


鋭い声が飛び、仲間たちの動きが一瞬で揃う。

入り口を塞ぐ影が剣を振り抜き、押し寄せる兵を弾き返す。

長槍が唸りを上げ、数人まとめて吹き飛ばす。

盾代わりの鍋蓋が矢を弾き、刃が閃いて仲間を庇う。

膝をつく少女の手から、温かな光が溢れ、血に染まった者を再び立ち上がらせる。



……だが、その空気が一瞬で塗り替えられる。


「おーっほっほっほ!! 王国のミルテ村の皆さま! そろそろお戯れは終わりですわ!!」


ド派手すぎる笑い声が、戦場に響き渡る。


「帝国貴族、リリス・フォン・ゼルファス!! 推参ですわ〜!!!」


巻き髪の金髪、宝石だらけの髪飾り、真っ白なドレス――

戦場にいるはずなのに、まるで舞踏会にでも行くかのような格好。

その手に握られているのは、きらきらと光る金の槍。


(……なんだあれ。キャラが濃い……いや、濃すぎる)


『相棒……あれ、ヤバいやつだろ。見た目からしてもう強キャラテンプレだぞ』


リリスと名乗った美しい少女は、槍をくるりと回してポーズを決める。


「帝国最強の麗しき槍姫、破剣式・蒼氷魔法上級、魔導騎士のこの私が、わざわざ! 直々に! お相手してあげますわ! 感謝なさい!!」


戦場の全員が、唖然としていた。


「……姉さん、はしゃぎすぎです」


隣に立つ少年が、冷ややかな声でため息をつく。

整った顔立ちに金髪、立派な剣と盾をもつ黒衣の軍服。どこか冷たく、諦めたように肩をすくめている。


「ゼクス・フォン・ゼルファス。任務ですので、淡々と行きます」


「だまらっしゃい! ゼクス、私が主役ですわ!!」


(……やべぇ。ボケとツッコミが揃ってる……俺と年齢的には同じくらいか……)


『相棒、こいつら多分双子だ。もう戦う前からキャラのクセがすごいぞ』


リリスはくるくると槍を回し、まるで舞台女優のように片足を上げて決めポーズ。

ゼクスは無表情で、それを背後からじっと見ている。


ドンッ!!!


リリスがドレスの裾を大きく翻す。

足元で蒼氷の魔力が迸り、彼女は高らかに詠唱を放つ。


「凍てつく蒼槍よ、我が一閃に宿れ――《氷槍衝破アイスランス・インパクト》!」


その動きは、まるで風と氷を纏った幻影――

華奢な身体とは思えないほどの加速で、金の槍が突き抜ける。


空を裂くような鋭音――


バギィィィン!!


ジークも帝国兵も、まとめて柵ごと壁に叩きつけられる。地面が大きく揺れ、砕けた木片と土煙が空中を渦巻いた。


ジークは咄嗟に剣を両手で受け止め、必死で耐える。どうにか致命傷は避けたが、帝国兵は悲鳴もなく柵ごと壁に激突し、動かなくなる。


「リリス様!? 味方ごと……!」


「な、なんだあの威力……」


場の空気が凍りつく。“異質”という言葉すら生ぬるい圧倒的な暴力。

兵士も村人も、一瞬息を呑み、動きが止まった。


その隣で、ゼクスが静かに剣を抜く。無駄のない所作で、戦場の中心へ歩み出た。


低く静かに、しかし重みのある声で真言を紡ぐ。


「紅き炎よ、地を舐め、全てを灰へと還せ――《紅蓮焔陣グレン・エンジン》!」


スッ――と剣先が振り下ろされると、地面を這う赤い炎が一気に広がり、村の罠も防壁も一瞬で炭と化す。熱波が押し寄せ、空気そのものが歪んだ。


さらにゼクスは一歩踏み込み、剣に紅蓮の魔力と闘気を重ねる。

その刹那、彼の瞳が鋭く光り、二度目の詠唱が響く。


「燃え盛る紅き獄炎よ――我が刃と共に烈火となり、全てを葬れ!《紅蓮烈葬グレン・レッソウ》!」


轟音と共に、紅蓮の爆発が村の家々を舐め尽くす。

木造の家は玩具のように弾け飛び、炎と黒煙が戦場を包み込んだ。


(これ……マジで“チート兄妹”……!)


『相棒……まさかこのクラスが来るとは。逃げなきゃマジで全滅だ!』


その瞬間、ガイが怒号を飛ばす。


「クッソ! なんでこんな村に魔導騎士が! ゼクスは俺が抑える! リーナとジークはリリスを! カミナとティナは村人を退避させろ!」


カミナはすぐに号令を出した。

「任せてくれ!鉄壁式は殿をしながら後退!迅玉式は鉄壁式のサポートに回れ!破剣式は怪我人の手助けを!」


号令と同時に、ガイは巨体でゼクスに突撃。

槍と盾が激しくぶつかり合い、鋭い火花が散る。


ゼクスは無表情のまま、ほんの一瞬だけ目を見開いた。


「……意外と、やる」


低い声に、かすかな驚きが滲む。


背後では、リーナが鍋の蓋と剣でリリスの一撃に備え、ジークはティナの回復で立ち上がろうとする。


リリスはそんな様子を、余裕たっぷりに見つめる。


「ふふん……あの大男と、この子がリーダー、かしら?」


ドレスを揺らし、今度はカミナに視線をロックオン。金色の瞳がギラリと獣じみた光を放つ。


「主役はこの私!脇役のあなたが喋る番なんてありませんのよ!」


まるで舞台女優がステージを駆けるように、跳ねるようなステップで――

リリスがカミナへ一直線に襲いかかろうとした、その瞬間。


バッ!――ドンッ!!


リリスが足を踏み込むと、

偽装された金属板がガコッと沈み――

リリスの身体ごと、見事に泥沼へ真っ逆さまにこけた。


泥まみれの巻き髪。

純白のドレスは見る影もないほど泥だらけ。


さっきまでの緊迫感が嘘みたいに、戦場が一瞬シン……と静まり返る――

自分の泥だらけの姿をみて呆然として震え出すリリス。ついに泣き顔をみせ……




「ノーカンですわぁあああああああ!!」




「いやいやノーカンじゃねぇだろ!!」

村人たちから素直なツッコミが飛ぶ。


カミナとリーナは、その隙を逃さない。


「母さん! 今だ!」


「任せて!」


リーナがリリスめがけて飛びかかる――


だが、その瞬間。


「静寂を裂く白き牙よ――時を凍らせ、敵を断て。《不動氷斬アイスバインド・クレイヴ》!」


空気が一気に凍りつく。

どこからともなく現れた“乱入者”の剣先が青白く輝き、巨大な氷刃が幾筋も空中を這い、轟音とともにリーナ目がけて一直線に襲いかかる。



リーナは咄嗟にお鍋の蓋で防御するが――


バキンッ!!


鍋の蓋ごと吹き飛び、信じられないほど遠くまでリーナが弾き飛ばされる。


「母さぁぁぁん!!」


カミナの絶叫が、戦場に響き渡る。


『このレベル……覚醒者クラスか……!』


脳内のボルトの声が、かすかに震えていた。


村の入り口、土煙の中から、

重く響く足音――。


「無様だな。下がっていろ、リリス。」


低く響く声が戦場に鳴り渡る。

帝国の紋章が刻まれた黒い鎧、無数の勲章――歴戦の証を纏う男が、鋭い眼光でゆっくりと姿を現した。


その手にあるのは、淡い黄金の光を帯びた騎士剣。刃は透明な結晶のように澄み、見る者の心までも震わせるほどの威光を放っていた。


ボルトが息を呑む。


『うそだろ…… 神滅聖剣カムナギ!? あれは、俺の妹――レイが魔王を倒す時に振るっていた神威三聖具……!』


男が名乗る。


「帝国”七神将”団長――ヴォルグ・フォン・ゼルファスと申す」


戦場を圧する“伝説級”のオーラが容赦なく襲いかかってくる。


「この私が来たからには――貴様らの小細工は通じん」


全てが“格”で押し黙るしかない空気――


『相棒、ここからが本当の地獄だ……!』


しかしカミナには、もはやリーナ以外、何も見えていなかった。


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