やたらと不安を煽る王様と王家の秘宝
少しでも笑っていただけたら嬉しいです。
※途中、下品に感じる表現があります。
「勇者よ。ついに旅立つ時が来たな」
「はい、陛下! 魔王討伐の旅、必ずや成し遂げてみせます!」
王城の謁見の間に響き渡る、若き勇者の清々しい声。その凛々しい表情に、兵士たちは歓声を上げ、老騎士は感涙し、王妃は「若いって素晴らしいですわねえ」と呟きながら、エステ帰りの肌を軽く撫でていた。
が、そんな中──
「うむ……うむ……だが、本当に大丈夫か?」
ひとりだけ、不安げに口を挟んだ者がいた。この国の王様だった。
「えっ?」
「いや、その……お主、本当に旅に出て平気なのか? 夜、ちゃんと眠れるか? 外は寒いぞ?」
「だ、大丈夫ですけど……」
「お腹、冷えないか? 下着の替えは持ったか? 魔物より何より、腹を壊すのが一番危険だからな……!」
「え、ええと……一応、母が三日分の替えを……」
「三日分!? 足りん! 冒険とは予測不能なものだ。最低でも三週間分は持たねば!」
「さ、三週間分の下着……ですか?」
「しかも今は季節の変わり目だ。朝は寒く、昼は暑く、夜は湿っぽい! 体調を崩すには絶好の季節じゃ!」
王はまくし立てながら、玉座の横から毛布を取り出す。なぜそんなものがそこにあるのかは謎だが、王はそれを勇者の肩に掛けた。
「これを持っていけ。王家秘伝の毛布だ。見た目は少しダサいが、めちゃくちゃあったかい」
「え……ありがとうございます。けど、冒険中に毛布はちょっと……」
「駄目だ! 冒険などより、風邪を引かないことのほうが重要じゃ! わしは昔、風邪から肺炎になりかけたことがあるのじゃ!」
「肺炎も怖いですけど、魔王のほうがもっと怖いです、陛下」
「それもそうじゃな。魔王……そう、魔王か……」
王はふと肩を落とした。真剣な話になるかと思いきや──
「ちなみに、お主は見たことあるのか? 魔王の顔を」
「いえ、ないですが……」
「写真も? スケッチも?」
「ありません」
「ふふ……じゃあ、お主は知らぬのだな。実は魔王、めちゃくちゃ怖い顔をしておるかもしれんぞ?」
「……え?」
「お主で勇者として旅立つのは、256人目じゃ」
「そ、そんなに……!? 初耳です!」
「今までの勇者たちは、魔王の顔を見て、おしっこをちびったかもしれんぞ! お主もそうなるかもしれん……」
「え、俺が……?」
「そうじゃ。だから、替えのオムツを持っていくのじゃ。今、履いているものだけでは足りん!」
「陛下、なぜ俺がオムツを履いている前提なんですか!?」
「そういうわけで、魔王に会う前に道具屋で200枚のオムツを購入していけ。旅立ちの資金として2万ゴールドを渡そう」
「そ、そんなに資金があるんですか!? だったら、もっと良い武器や防具を買いたいです!」
「何を言う……オムツこそ、最強の装備! お主が魔王を倒せば、そのオムツは『伝説のオムツ』になるのじゃ」
「で……伝説のオムツ……?」
「そうじゃ。お主の装備は、こうして語り継がれるであろう。
『伝説の剣』
『伝説の兜』
『伝説の鎧』
『伝説の盾』
そして──
『伝説のオムツ』!」
「いやいや、嫌なんだけど……。他の装備はかっこいいのに、オムツだけ浮いてるし! 履くのも、語り継がれるのも嫌すぎる!」
「なぜじゃ? オムツを装備していれば、戦闘中にトイレに行きたくなっても問題ない! 呪文を唱えながら『おしっこシャー』じゃ!」
「『シャー』じゃないんですよ! それに、オムツに2万ゴールドも使ったら、兜も鎧も盾も買えないじゃないですか!」
「『オムツの兜』『オムツの鎧』『オムツの盾』があるじゃろ?」
「何それ!? 俺、全身オムツじゃん!? 俺って勇者だよね!? オムツマンじゃないよね!?」
「わかった、わかった……。お主もワガママじゃのう……。ならば王家に伝わる秘宝を授けよう」
「ひ、秘宝……?」
「これじゃ!」
「な、なんですか……これ?」
「金のオムツじゃ!」
「いやいや、またオムツかーい! しかも金のオムツって、吸収性ゼロじゃない!? 戦闘中にビショビショ確定じゃん!」
「安心せい。銀のオムツもある。ちなみに、どちらも呪いの装備じゃ」
「呪われてんのかーい!! え……外せないってこと? 一生、オムツなの!? 交換できないの!?」
「心配無用じゃ。漏らしたら、そのすべては魔法で転送される」
「転送……? 一体、どこに……?」
「魔王城じゃ。つまり、このオムツを履いていれば、魔王に精神的ダメージを与えられる」
「いやいやいや! そんな間接攻撃、嫌すぎるでしょ!? 俺の排泄物で魔王を苦しめるって、どんな作戦なの!?」
「さあ、勇者よ! 金のオムツを装備して、旅立つのじゃ!」
「……陛下。俺、旅立つのやめます。勇者、やめます」
「そうか……やはり、魔王が怖いか……」
「いや違います! オムツが嫌なんです! 『オムツを履いた勇者』なんて伝説、作りたくない!」
「……わかった。ならば、わしが魔王討伐の旅に出よう。金のオムツを装備してな。わしが『オムツ王』になる!」
こうして王様は、金のオムツを装備し旅立った。
──数ヶ月後。魔王は討伐された。
金ピカのオムツを履いた王様が、伝説となったのは言うまでもない。
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