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調査報告

作者: 雉白書屋

 識別番号19800673:惑星調査員グラガァ

 これより調査報告を記録する。


 調査対象の惑星への着陸準備を進めていたところ、突如、宇宙船に不具合が発生。緊急着陸を余儀なくされた。

 着陸自体は成功したものの、船体の損傷により離陸不能と判断。修繕作業に取り掛かろうとした矢先、警戒音が鳴り響いた。外部モニターを確認すると、こちらに接近する原住民と思わしき存在が映し出された。

 人目を避けて降下したはずだったが、早くも見つかってしまった。おそらく、故障の影響で船のライトが切れないせいだろう。私はやむを得ず、擬態スーツを着用し、外へ出た。

 接近してきたのは、老齢の雄だった。彼は宇宙船を見て驚愕していたが、私の姿を認めると、途端に警戒心を解き、親しげに話しかけてきた。どうやら、船よりも私に関心を寄せているようだった。おそらく、船の存在は彼の理解を超えていためであろう。

 彼はしきりに私をどこかへ連れて行きたがった。始末してもよかったが、彼が戻らないと、身を案じた仲間がここへやってくるかもしれない。それに、宇宙船から注意を逸らせるなら好都合だ。私は彼の後についていくことにした。

 たどり着いたのは彼の住居だった。

 そこには老齢の雌がいた。二体はつがいであるらしい。彼らには子がいないようで、なんと私を自分たちの子として迎え入れたいようだ。

 宇宙船から近く、修理作業と潜伏にうってつけで、そして調査対象の生態を観察するのに適した環境であることを考慮し、私は彼らの申し出を受け入れることにした。


 しかし、事態は複雑な方向へ進んだ。

 二体が私の存在を広めたせいか、次々と若い雄たちが訪れ、私とつがいになりたがったのだ。現地住民を模した擬態スーツの精度が高すぎたせいで、彼らの目には極めて魅力的に映ってしまったらしい。

 耐えがたい不快感が体を走った。そもそも、今の私にはこんな連中に関わっている暇などない。最優先すべきは宇宙船の修理だ。

 そこで私は妙案を思いついた。彼らに修理に必要な材料を集めさせることにしたのだ。彼らを遠ざける目的と、あわよくば役に立つものが見つかればという考えだ。

 しかし、スーツの翻訳機能を駆使しても、彼らの知的水準では必要なものを正確に伝えるのは困難だった。結局、彼らが集めてきたのは役に立たないガラクタばかりだった。

 無知な彼らに苛立ち、自分の無力さに打ちひしがれた。このままこの惑星で一生を終えるのか――そんな絶望が胸をよぎり、思わず涙がこぼれた。

 すると、老齢の二体はその涙を見て何かを悟ったように微笑み、私をさらに大きな住処へと案内した。そこの主もまた、私をつがいに迎えたがっているらしい。どうやら彼らは、ここなら私が幸福になれると本気で考えているようだった。

 当然、私はその申し出を拒否し続けた。しかし、住処から出ることを許されなかった。なんたる屈辱だ。だが、逃げ出す気力も湧かなかった。私は夜ごと空を見上げ、故郷を思いながら諦めにも似た感情に浸っていた。

 だが、奇跡は起こった。いや、私の努力が実を結んだのだ。

 ある晩、漆黒の空を裂くように、迎えの宇宙船が姿を現した。船からダメもとで発信していた救難信号が届いたのだ。

 私は迷わず外へ飛び出し、必死で手を振った。宇宙船がゆっくりと近づいてくるのを見て、安堵のあまり、膝から力が抜けそうだった。

 ここを発つ前にこのスーツを脱ぎ、連中に正体を明かしてしまおうか。きっと、腰を抜かすに違いない。そんな悪戯心も湧いた。

 しかし、一応、世話になったのだから礼を述べて去るべきだ。それが文明人としての振る舞い。

 そう思い、私は振り返った。その瞬間――私は呆れた。いや、むしろ安堵したのかもしれない。彼らの原始的な振る舞いに。

 原住民たちが、宇宙船に向かって武器を構えていたのだ。

 もちろん、彼らごときが宇宙船に傷をつけられるはずもない。船から照射された麻痺性の光線が一瞬で彼らの動きを封じた。

 老齢のつがいは、涙を流しながら私にすがりついた。その姿に、わずかな哀れみを覚えた。なんと浅ましく、自分本位な生き物なのだろう。

 私は保存食の残りを渡し、彼らを優しく抱きしめた。

 そして、スーツの反重力装置を作動させ、宇宙船のハッチへと飛び立った。


 今回の調査は、密かに行う予定だった。しかし、結果として多くの原住民に目撃されてしまった。とはいえ、彼らの知的水準では、この出来事を正しく理解することはできないだろう。彼らの理解に収まる範囲に変化し、やがて風化していくと予想される。


 以上、報告終了。調査対象の惑星に危険性なし。

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