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新生

作者: 黎め

 もっとパッてガッて、シャキーン、て堂々と、胸張って新生するのかと思ってたけど、そうじゃなかった。

 本気で頑張ったことがないんだよね、器用だから、ある程度のとこまでは人並み以上にできちゃう。というのも、できないことはそこにいくまでにもうやめちゃうから。「できない」経験ができないんだ、あほなプライドのせいで。だからできない人の気持ちがわからないし、できなくて悩むこともないし、できないことで自己否定することもない。だってはなからしないんだもの。そうやっても生きてこられたの、恵まれてたから。

 醜態を晒したくない、という強い信念があって、だって生きてるだけで恥ずかしいことばかりで、食べるのも排泄することも、ムダ毛が生えたりはなくそがたまったり、それは自然なことで、恥じることではない、と頭でわかってても恥ずかしくてたまらないの。なぜかは知らない、きっとそういうことでバカにされたり、恥ずかしい思いをしたことがあったんだろうね。

 だから必死で追い縋ったりしがみついたり、なりふり構わず取り乱して努力したりとかってことが、できない。したことない。その姿が醜いと信じてるんだろうね。やったこともないのに。何かにそこまで一生懸命になったことがないんだ。

 きっと怖いんだと思う。そんなにいきつくところまでやるだけやって、それで欲しい結果が得られなかった時のことを思うと、恐ろしくてたまらない。もうこれ以上はできない、ってとこまでやったにもかかわらず、望みが叶わないだなんて、この世の終わりじゃん、一生の恥、って思ってるんだろうね。初めからスっと諦めて、涼しい顔して、そんなもの、はなから欲しくもなかったし、ってかっこつけてたいんだろうね。それこそそっちの方が恥ずかしいのにね。

 それが正しい努力なら、必死こいてやる姿は、きっと美しいに決まってる。便宜上、美しいという言葉を使ったけど、そんな美醜がどうとかいう低レベルの話なんかじゃなくて、その姿は尊く清らかで、穢れなきものなんだろうなと思う。決して恥じるような姿ではない。

 私は自分で自分を許せるかどうかという、そもそも他人の目とか関係なく、ひたすら自分の中身と戦ってると考えてたけど、自分がどうありたいのかを考えた時、誰かの目を気にして、自分がどう見えるのかが最重要事項にきてて、それに従ってるのだって、認めざるを得ないことに気づいた。ずっと否定してたけど。

 自分ががむしゃらに鼻の穴広げて必死になってる姿や、夢破れてみじめに打ちひしがれてる姿、望みのものが手に入らなかった情けない姿なんかを、私自身見たくないのはもちろんだけども、(さら)したくないんだ。誰にも見られたくない、と思っている。ましてや、私が大切に思ってる人や、とりたててよく思われたい、と思ってる人には特に見られたくない、って思ってる。

 叫んだり、走ったり、泣いたり、笑ったり、したことがないの。一緒になって泣いて怒って、最後には笑い合ったことなんてないの。自分が誰かのことを傷つけたことに気づくと、悪者になりたくなくて逃げるんだ。ずっとそうやって生きてきた。

 もう諦めようと思う。どうしたって私はくちゃくちゃ咀嚼しておはぎを食べるし、おならもするし、へそにごまはたまるし、嫉妬に狂って失言するしうじうじ悩むし、姿を消して結果気を遣わせるみたいなことするし、でもそれだって醜いとか美しいとかを超越して、ちっぽけでしょうもなくも愛しい、ひとの営みなんだって、受け入れようと思う。

 だから私はちょっとずつ、本気で頑張ることができる私になれるようになってるところ。もっと希望に満ちて、わくわくしてどりゃあって変身するのかと思ったけど、そうじゃなかった。今までの自分とさよならするんだから、当たり前か。お別れは、いつだって、寂しさと共にある。

 ありがたいね、こんな風に考えられるのも、本気の人と出会ったから。そのガチ度にインスパイアされて、後ろ向きに生きてるのが、もったいなくなった。そして本当に嬉しいことがあったんだけど、それは私にとってとても大切な出来事だったから、今お話にしたくてずっと考えてる。そのことのお陰で、小心者で羞恥心の塊の私が、強くなれたんだ。

 いい加減、こんな湿っぽい感じ、嫌なんだけど、しょうがない。ほんと、私ってば、一晩寝て起きたら、すっからかーに、忘却の彼方で、何事もなかったかのように、自分のこと棚にあげるどころじゃなく空の彼方に放り投げちゃうんだけど、それはあまりにも失礼ってもんでしょう。反省してるんだ、ほんとに。酷いことしたと反省してる。

 穴があったら入りたいし、逃げ出したい。けど、ありがとう。お陰様で、初めてのところへ、一歩、私は踏み出したみたい。

 のろいけど。パッてガッて、シャキーン、て堂々と、胸張って、ってわけにはいかなかったけど、私は本気になってる。

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