鬼
「そういえば」
レクイエスのライブの片付けも終え、リーンから撤収した僕たちは僕の家でささやかな誕生日パーティーを行うことにした。凛音さんが作ってくれた料理がテーブルに並び、麻里と僕は夢中になってそれらを食べていたのだが、急に麻里が話を切り出した。
「どしたの?麻里」
「鬼の力は他にどんなことができるんですか?」
「言われてみれば、鬼の力ってそんな聞いたことがないわよね。私の周りに役持ちの子いたことはあったけど、鬼は初めて見たわ」
「そんなに珍しいんです?鬼って」
「私の印象ではね」
僕はローストチキンを口に運びながら、言われてみればそうかもしれないと思った。鬼の力が体にインストールされた時に頭に力の使い方とどんなことができるか流れ込んできたので、僕は力について把握してあるけど。でも知識と理解は別物だし、今度試してみるか。
「時雨?」
「あ、ごめんちょっと考え事してたや。んーと、鬼がどういうことできるかだよね。神様に教えてもらったけど、たしか……怪力と、強靭な肉体。それから体を武器に変化できて、鬼火も使える……だったかな」
「へぇ、色々できるのねぇ」
「みたいです」
「人外の役割だからかもしれませんが、ずいぶん能力が多いんですね」
「それ僕も思った」
鬼の能力について頭の中で整頓しながら挙げていたが、少し神様のお気に入り発言の意味がわかった気がする。なるほど、これは神様が気に入るわけだよ。だって能力が色々詰め込まれてるもんね。
「オシゴトについては聞かされているんですか?」
「いや、全然。そこは聞かなかったなぁ」
「時雨ちゃんの出番が来たら通達が来るはずだから、気長に待つのが一番よ」
「そんなものなのかぁ……」
物騒な仕事が来ないと良いけどな、なんて思いつつ僕はケーキに手を伸ばした。
※
翌日。
「ハロー!」
「……神様?」
チャイムが鳴ったので出てみると、そこには神様が待ち構えていた。昨日の今日で何の用だ。僕は思わず身構えていた。
「ちょっとー、何だよぅその反応。ボクだって傷つくんだからなー」
「う、す、すみません。だって神様が直接出向くなんて相当の用事じゃないとありえないことじゃないですか」
「キミ冷静だねぇ。その心意気に免じて許してあげる。はいこれ」
神様は僕に一枚の紙を差し出してきた。僕はそれを受け取り読んでみる。
「キミの初めてのオシゴトだよ!」
「へぇ、もうオシゴトあるんですね。なになに、王様への謁見……王様への謁見!?」
「大事なことだから二回言ったの?」
「たしかに大事ですけど!え!?なんで!?」
ここ聖ジュマール国は、神様が統治しているため神様が一番偉い。でもさすがにすべてを神様に任せるのは良くないと神様が判断したため、基本政治は王様が行っている。つまりは、神様の次に偉い人なのだ。そう簡単に会える存在ではない。
「よーく考えてみなよ。キミ、役持ちになっただろ?その役持ちの存在を王様が把握してなくてどうするのさ」
「な、なるほど……。顔合わせみたいな意味を持ってるわけですね」
「そーゆーことだね〜」
神様はのんきにほけほけ笑っている。僕の動揺ぶりを楽しんでいるようだ。僕みたいな小市民がいきなり王様に謁見する、なんてことになったら誰だって慌てると思うけどな……。きっとあんな慌てふためくのは僕だけじゃない。……はず。
「詳しくはその紙に書いてあるから、よーく読んでおくんだよ」
「あ、はい。わかりました」
「じゃあね〜」
神様はシュンッと音を立てて姿を消した。僕は神様から渡された紙をよく読んだ後、忘れないよう冷蔵庫にマグネットで押さえておくことにした。