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十五回目の誕生日

『誕生日おめでとうございます、時雨』


 中学校を卒業し、春休みを謳歌していた僕のスマホに、幼馴染みからメッセージが届いた。……そういえば今日って僕の誕生日だったっけ。高校からの一人暮らしに備えて家元を離れたこともあって、いつも真っ先に祝いの言葉をかけてくれた家族がいないからすっかり忘れてた。僕の誕生日を覚えててくれたことに感謝の返事をしようとしたら、幼馴染みからまたメッセージが届いた。


『後でリーンに来てください。凛音さんと一緒にお祝いしますから』


「そこまでしなくて良いのになぁ……」


 リーンとは僕が実家にいた頃からたまにお手伝いをしに行ってたライブハウスだ。幼馴染み──真宵麻里(まよいあさと)の叔母である鶴見凛音(つるみりんね)さんが経営している。そこまでしなくて良いと口では言ったが、厚意を無碍にするのは良くないことだ。僕は凛音さんが貸してくれた家に一度買った物を置きに戻ることにした。


「やぁ!」

「うわぁ!?」


 家に入るなり、誰もいないはずの玄関で誰かに出迎えられた。色素が薄い長髪の子ども……だろうか。初めて見た人だけど、直感ではあの人しかいないとわかっていた。


「……か、神様?」

「正解!よくわかったね」


 神様はニコニコと笑っている。そう、この人はこの世界の神様だ。そう直感が告げているのだから間違いない。……なんで僕の家にいるのかはわからないけど。


「今日なんの日だ?」

「え、今日ですか?なんかあり……あ、僕の誕生日!」

「そ!キミの十五回目の誕生日だね。というわけで、役割を告げに来たよ~」


 この国──聖ジュマール国は、神様が直接統治をしている国だ。僕たちジュマール国民は神様の庇護下に置かれるにあたり、十五歳になるとある役割を与えられる。その役割は大半は普通の人間だが、中には人外や特殊な職業もある。その特殊な役割……役持ちに選ばれた人間のもとには、十五歳の誕生日を迎えた子どものもとに神様が直接赴いて役割を告げに来るらしい。


「僕、役持ちに選ばれちゃったんですか……」

「うん、そーだ……なんか残念そうだね?」

「あんまり気が進まないので……」

「キミ変わってるねぇ。他のコは喜んでくれたのに」

「オシゴトとかやりたくないんで……。それで、僕の役割って何ですか?」

「はいこれ」


 神様は袂から一冊の本を取り出した。僕がそれを受け取ると、何も書いてなかった表紙に文字が浮かんだ。……なになに、"鬼の力について"?


「鬼……?」

「それがキミの役割だよ、シグレ」

「鬼、ですか」

「読んでみなよ、鬼の力について詳しく書いてあるから。あ、でもここで読まない方が良いかな?」

「?どうしてですか?」

「その本を読むと、役に合った力がキミの体にインストールされるんだよ。だからさ、キミみたいに人外の役持ちに選ばれたコとかは強すぎる力が体に馴染むまで倒れたりするんだよね」

「え、それかなり危なくないですか」

「だから何かあった時すぐ対応できるように、ボクがこうして直接赴いてるんだよ。大丈夫、倒れてもすぐ目が覚めるようにしてあげるから」

「ほんとに大丈夫かなぁ……」


 僕は神様と一緒にリビングに移動してから本を開くことにした。……うーん、怖いな。でも開かないといつまで経ってもこのままだし、と勢いで本を開いた。


 途端、僕の頭には鬼の力の使い方と一緒に何かが流れ込んできた。これは……記憶?だろうか。短い間だけど走馬灯のように誰かの記憶が流れてきて──僕は悟った。


──これは、前世の僕だ。


 そして記憶の片隅にあったある存在のことも思い出してしまい、思わず僕は頭に手を当てた。今まで経験したことのないほどの痛みが頭を襲い、立っていられなくて僕はその場にへたり込んだ。


「っう……あっ……がっ……」


 神様の呼びかけに反応できないほどしばらく痛みに襲われたが、神様が僕の肩に触れた途端、すぅっと痛みが引いた。

 僕が思わず顔を上げると、神様はさっきと変わらないけどどこか迫力のある笑みを浮かべていた。


「キミ、気づいちゃったね?」

「……はい。ここは、ゲームの世界ですね?」


 そう、僕は気づいてしまった。ここが僕のいた世界の「アイアムプリンセス!」という乙女ゲームの世界にひどく似ている……いやそっくりであることに。


「ゲームの世界、とは少し違うかな。この世界に生きてる人はたしかに存在しているよ。だって、触れられるだろう?」

「じゃあ、どういうことですか?」

「要はこの世界に決まりきった筋書きは無いってことだよ。それより、キミはもう大丈夫そう?」

「ええと……はい。たぶん」

「それは良かった。それじゃ、気をつけてね。鬼の力はボクのお気に入りだから」

「へ?」


 神様はもう消えていた。どういうことなのか聞くこともできず、僕はひとまず荷物を整頓してからリーンに向かうことにした。

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