大人気アイドルが俺にデレデレ過ぎる!〜流石に距離が近過ぎるので、幼馴染離れ計画を始動します!〜
熱気に包まれるライブ会場は、多くの人の歓声が湧いていた。
「セレンちゃん!」
「きゃ〜、好き〜!」
「マジで最高だ〜!」
日夏セレン。
今や彼女は、日本を代表する国民的なアイドルになっていた。
彼女の歌声は多くの人を魅了し、その可憐な容姿に多くの人が虜になった。
もちろん歌だけではない。
バラエティやドラマなどあらゆるメディアに出演して活躍している。
本当に凄いやつなのだ。
「みんな!今日は来てくれてありがと〜!」
そんな彼女がステージ上でマイクを握ると、観客はどよめき黄色い声援が上がる。
──本当に、お前はすげぇよ。
彼女が遠い存在のように思えた。
高校の同級生であり、幼馴染だった日夏セレンは、俺にとっては横にいて当たり前の存在だった。
だけど今はもう違う。
俺はただの一般人で、あいつは国民的アイドルだ。
住む世界が違うのだ。
「…………とんでもない差、生まれちまったな」
だからこそ、もう会わない方がいいと思った。
あいつには輝かしい未来があるんだから。
俺みたいな冴えない男と一緒にいる必要はない。
だからもう、彼女の活躍を近くで見るのはこれっきりだ。
──セレン……頑張れよ。陰ながら応援してる。
そんなことを考えながら、俺は熱気に包まれる会場を後にした。
▼▼▼
「ちょっとナオくん! なんで私のライブを最後まで見ててくれなかったの⁉︎」
「ぐえっ……⁉︎」
「こら、起きなさい! 被告人に説明を要求します!」
ライブが開催された翌日。
俺の家には、あの日夏セレンが押し掛けてきていた。
ベッドでぐっすりと眠っていた俺に、思いきり肘鉄を食らわしてきた彼女は、プンプンと可愛らしい膨れっ面を見せつけてきた。
腹に走った衝撃と、彼女が目の前にいる衝撃が一度に押し寄せた結果。
俺はすぐに意識を覚醒させた。
「ちょ、おま、何しに来たんだよ⁉︎」
「何って、異端審問? 裁判?」
「なんで俺が悪い前提で話進めてんだよ……」
「だって、ナオくんがライブの途中に帰っちゃうから……」
「いや、それは……!」
「言い訳は聞きたくありません! ナオくんは有罪です。死刑だ死刑だ〜」
──いやいや、ライブを途中で抜けたにしては、罪が重過ぎるだろ。
俺は心の中でツッコむも、口では何も言えなかった。
セレンの悲しそうな顔を見てしまったから。目元は赤く腫れて、頬には涙の跡があった。
俺を咎めるような視線には、ほんの少しの怒りと……大きな悲壮感があった。
「もう、ナオくんが私に愛想尽かしちゃったんじゃないかとか、すっごい心配したんだから……」
「いや……ごめん」
「謝るんだったら、最初っから帰ろうとしないでよ!」
「謝ってんのになんで叱られてんだよ⁉︎」
「逆上ですかぁ⁉︎ 罪人は大人しくペコペコ謝って『ぜひとも、お詫びさせてくださいセレン様』って言いながら、朝から晩まで私に尽くしたがるのが礼儀ってものでしょ!」
──いやどんな礼儀だよ。時代錯誤もいいところだ。
日夏セレン。
国内で絶大な人気を誇るアイドルでありながら、彼女は間違いなく……
「ナオく〜ん。お腹すいたから朝ごはん作って♪」
──俺に懐いている!
友達であるとか。
幼馴染であるとか。
もはやそんなレベルの話じゃない。
この懐き方は、客観的に見ても異常だ。
「ほれほれ〜、早く朝ごはん作ってくれないと〜」
「作らないと?」
「今度はトップアイドルのカカト落としが炸裂しちゃうぞ〜♪」
「分かった! 分かったから! その振り上げ足を下げてくれ〜!」
とんでもないことだ。
俺みたいな冴えない男に、あの日夏セレンがこんなにもデレデレだなんて。
世間に広まったら、俺はきっと極刑に処される。
それこそ、社会に居場所がなくなるくらいにだ。
──これは、早急に対策を立てるしかないよな。
親離れ……いや、大人気アイドルの幼馴染離れ計画を!