表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平行世界  作者: 返歌分式
一日目
3/34

刃物

 速くもなく遅くもない速度で私は歩く。

 さっき気付いたことだけど、驚いたことに私は靴を履いていた。

 いつも学校に行くときに使っている全体的に黒いスニーカー。

 そのことに、やっぱり私は自分の意志で外に出たのだろうかと勘繰ってしまう。

 まだ夢遊病者って決まったわけじゃないし認めたくないから、なおさら。

 いやでも自分の意志で出たとしたら、外に出たことを覚えているはずじゃ……。


 てくてくと歩く。

 塀に落書きされた家を横目に、通り過ぎる。

 英語か、なにやらよく分からない文字が書かれていた。

 てくてくと歩く。


 靴を履いてたら地面に落ちてるガラスの破片とかそういうものを踏まずに済むから嬉しいけど、水玉模様のパジャマを着て、黒いスニーカーっていうのはどうだろう。

 ハッキリ言ってダサい。ダサいというよりありえない。ありえない以前に恥ずかしい。

 絶対この姿は誰にも見られたくない。

 しかも、靴を履いていたのいいけど、肝心の靴下ははいていなかった。

 足が臭くなる!

 靴の中が嫌な感じに蒸れていくのが分かった。


 まだ冬みたいな気温だから良かった。……寒いけど。

 これで夏独特の蒸し暑さだったら私は間違いなく裸足で歩いてる。

 地面が暑そうとか、気にせずに裸足で全力疾走で家に帰る。

 全力で走って、家に帰って、風呂に入って……。


 ……でも、近所の人に見られたら……。

 想像するだけでも嫌だ。

 近所の笑いものにだけはなりたくない。

 とりとめもなくそんなことを考えて、なんだかんだ言って、夏でも結局靴を履いて帰るんだろうなという結論に収まった。



 靴の中が若干湿っている。

 気持ち悪い。

 冬場みたいに寒いけど、蒸れる。

 早く脱ぎたい。

 あー、お風呂に入りたいー。

 気持ちが歩調と共に落ちていく。



「ん?」



 そんな時、私は道に不自然に落ちている物を見つけて、足を止めた。



「……ナイフ?」



 なんでこんなところに落ちてるんだろう。

 まるで見つけてくださいといわんとばかりに落ちてる大きめのナイフ。

 包丁? いや、違う。包丁は両刃じゃない。両刃の包丁なんて嫌だ。怪我する。

 やっぱりナイフかな。

 珍しいものを見つけたことによって、私はそれに目が釘付けになった。


 道に落ちているのは、携帯するには不便で、狩りとかサバイバルには多分向いていそうな大きさのナイフ。

 ……向いてる向いていないとか、知らないけども。

 私はそのナイフのところまで歩いて、また立ち止まった。

 こんな大きい刃物を見るのは初めてかもしれない。

 よく見るとところどころ錆びている。

 でも、



 磨いたら綺麗になりそうだなぁ。



 ふと、降って沸いてきたような思考に、自分できょとんとする。

 慌てて自分に弁明するように「こう、なんというか、……なんとなく、なんとなくそう思っただけで……」と無意識に口に出ていた。

 別に私は刃物愛好者とかじゃない。

 なんとなく、このナイフは磨いたらすごく綺麗になると思って……。

 また自分の考えにハッとなった。



「そ、そんなことより!」



 気を取り直すように声をあげた。

 なんでこんなナイフが道に落ちてるんだろう。

 私はなんとなくそのナイフを拾ってみる。



「うわ、結構重い」



 見た目的に重そうだったけど、やっぱり手に持ってみないと実感が湧かない。

 私はクルクルとナイフをいろんな方向に回して、いろんな方向から見てみる。

 うん。普通の錆びたナイフだ。どこにも変なところが見当たらない。

 ……当たり前か。

 ナイフに変なところがあってどーする。

 とりあえず私はそのナイフを持って行くことにした。



 なんとなく。



 このまま手に持ってたら危ない子になるから、ちゃんとパジャマの中に隠しておこう。

 金属の冷たさがお腹にダイレクトに伝わってくる。

 パジャマの下は素肌だった。

 どうせなら二枚着のパジャマを着ておけばよかったと今更後悔する。

 ナイフの冷たさに慣れるまで、私はその場に立ちつくした。

 じんわりと広がっていく冷たさに、なんでだか心地よく思ってしまう。


 数分立ち尽くした後、これで十分だと判断した私は、家があるであろう方向に向かって歩き出した。




***




 歩いて数十分。

 まだ自分の家に着かなかった。

 本当だったらもうとっくに着いているはずなのに、と疑問に思う。

 やっぱりこっちじゃなかったのかもしれない。

 同じような風景が続いているから、どこが私の家か分からない。

 私は何か家に向かうための目印が無いか、辺りを見回した。



――……あれ?



 辺りを見回していると、見慣れた落書きが目についた。

 さっきの、英語かなにかよく分からないことが書かれている塀。私は首を傾げる。

 真っ直ぐに進んできたはずなのに。

 途中に曲がり角なんかに曲がっていないのに。


 曲線の道なんかもここらへんには無いし、もちろんそんなところを歩いてきた覚えもない。

 なのに、なんで私はここに戻ってきているんだろう。

 もう一度辺りを見回す。

 変わった物は何もない。

 見知った町。



――……なんで?



 なんで戻ってきているの?

 早く家に帰りたいのに。

 私の家は一体どこにあるんだろう。

 あー、頭が痛い……。

 ずきずきするような痛みに、頭を抱える。



 先の曲がり角に、ふと、何かがよぎったような気がした。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ