習慣
もしもし。
その耳は聞こえていますか。
もしもし。
聞こえていませんね。
***
すぅ、と呼吸をする。
意識が現実に引き戻される感覚の味わいながら、私はしばらく天井をぼんやりと眺めていた。
あぁ、もう起きなくちゃいけないのか、とまどろむ思考。
ふわふわと霧散しようとする意識をなんとか掻き集めながら、私は意識が途切れる前のことを思い出すことにした。
確か眠る前は、義呂絵君と白い猫と一緒にお茶を飲んでいて、色々と訳が分からない話をされた。
それでその後何故か意識が途切れて……。寝返りをうとうと身体を横に向けようとした時、はたと気付く。
あれ。なんで私家にいるんだろう。
「…………あれ?」
がばりと起き上がって周りを見る。
そこは、夏場だとは思えない程に冷え切った私の部屋だった。
夏場なのに寒いのは、義呂絵君が言っていたように、私が本来住んでいた場所と違うからだろう。
十分な睡眠を取ってすっきりした頭なら、その事実を受け入れることができる。
……できれば嘘であって欲しいけども、ね……。
窓からは日の光が差している。
部屋にかかった時計を見てみると、10時。全然朝じゃないし……。
さらの家で青褪めた時間と同じということに、溜息を吐く。
ベッドからのそのそと降りる。
今日は、どうしようかな。また探索でもしようか。
そんなことを考えながら、制服に着替えていく。
習慣というか癖というか、私にとって学校の制服は、着慣れて自分にしっくりとくる服装なので、学校が無い日でも制服で過ごしたいと思えるものだった。
自分の私服に自信が無いというのもあるが、基本的に制服は動きやすいので、こちらの方がいいと私は思う。
着替えた後、机の上に置かれた鞄を手に取る。
中には教科書と底にナイフがあった。
教科書は使わないと判断した私は、邪魔なものをどかして、中にはナイフ一本入っている状態にする。
他にいるものは無いかな、と見回して、本棚の上にある救急箱に目を留めた。
いつの間にか増えていく傷に、すぐに対処できるように色々持っていた方がいいか。
包帯や消毒液、絆創膏、その他いるかもしれない物を詰めていく。
「……よし」
あらかた手当て道具を詰め終わって、私は少し重い鞄を持ってリビングに向かった。