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【9】やりなおしの歌【完結】  作者: ホズミロザスケ
第二章 君の手は握れない
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第十五話 君の手は握れない6

「狭いけど我慢してよー」

 メガネの引き取りしたあと、我が家へと移動した。四人も入ると一気にギュウギュウ、限界だ。

「店長の部屋、めちゃくちゃキレイじゃないですか!」

「その言い方だと汚いとでも思ってたワケ?」

「い、いえ! そんなことは微塵も……! あ! これ、店長が力入れて展開してた商品だ~!」

 桂っちが指さしたのは、B6サイズの一見ただの鏡。だけど、中を開くことが出来る。ネックレスやブレスレット、ピアスをひっかけられるフックが並び、指輪を刺しておけるリングホルダーも付いているアクセサリーケースなのだ。サイズも大きすぎず、薄型なのに収納力抜群の商品だ。

「そりゃ、もちろん使ってよかったからあんだけ大きくコーナー作ったに決まってんじゃん」

「さすが~!」

「褒めても何もでないっての」

「あの、店長さん」

「ん? 駿河っちどしたー?」

「今日は(えみ)さんから晩ご飯ご馳走していただけると聞いてます。ありがとうございます」

「いーのいーの。家にずっと置きっぱだったたこ焼き器、一度使ってみたかったからさー」

「たこ焼き、マジっすか!」

「たこ焼き作るのは初めてなので楽しみです!」

「というわけだから、早速みんなで分担して用意するかんね」

「えっ、ワタシたちもやるんですか」

「客人だからってゆっくりできると思うなよ~」

「えぇー!」

「食材やたこ焼き器までわざわざ用意していただいたんですから、それくらいは」

「さすが駿河っち。話が分かるわー」

「オレもやる」

「よーし、ワタシも頑張るしかないっすねぇ」

 鍋を取り出し、アタシは鰹節から出汁をとる。桂っちはたこやチーズなど具材切っていく。狭いキッチンだから二人立つだけでもういっぱいだ。駿河っちはローテーブルの上で長いもをすりおろして、とろろを作る。

 最後の過程である、ボウルに入れた生地や出汁を混ぜるのはダダ。「大役になってしまった」とぼやくダダは、混ぜるだけとはいえ、少し緊張していた。実際、粉やとろろが重く、かなり混ぜづらそうにしている。アタシが横から出汁を少しずつ注いでいきながら、

「そうそう。最初は切る感じで混ぜて。出汁の量が増えたらたぶん混ぜやすくなるから頑張れー」

 と声をかけていく。徐々に慣れて、良い感じに混ざってくる。

「そうそう、その調子」

「キムキムは人に教えるの上手」

「そう? ただ説明してるだけだけど」

「バイトの先輩っていつも上から目線で怖い人ばっかだったから、優しく教えてもらえると安心する」

「『bloom』はみんな優しいっすよね。やまむぅパイセンも、タハラーパイセンもバイトの子みんな。心折れなくて続けられるのはこのメンバーだからだとひしひし感じます」

「桂っちの言う通り。オレも楽しい」

「僕は部外者ですけど、みなさん仲良くて良い職場だと思いますよ」

「ソーイチローも一緒に働かない?」

「みなさんからお誘いいただいて嬉しいんですけど、僕は僕で書店楽しいので」

「そっか。またソーイチローのお店も遊びに行く。オレ、本読まないけど」

「ぜひ来てください! 一緒に本探しましょう」

 高校時代のダダからは想像できないくらい、人と話すようになったと思う。バンドもやってるし、バイトも一応何回かチャレンジしてたみたいだし。アタシが知らない時間の中にいろんなことがあったんだろうな。その変わっていく姿をアタシも少し見てみたかった。


 アツアツになったたこ焼き器の鉄板に生地を流し込み、たこを一つずつ入れていく。千枚通しを手にしている桂っちが「まだかなー」と生地をつつく。

「あー、あんまりつついたりしない。放置放置!」

「店長、声がマジじゃないっすか」

「おいしいたこ焼き食べたいっしょ? マジになるに決まってんじゃん」

「そりゃそうっすけど、目が怖いっす」

「キムキム、情熱すごい」

「鍋奉行はよく聞きますが、たこ焼き奉行もいらっしゃるんですね……」

 ある程度経ってから、鉄板のフチをなぞって浮いた生地を中に入れこんだら、端から千枚通しの先でなぞり、勢いよくひっくり返す。こんがりきつね色の表面が現れた。「おぉー」と三人は声をあげて、たこ焼きを眺めている。

「みんなもやってみ?」

 と、三人に順繰りに千枚通しを持たせる。最初は苦戦しつつ回すけれど、達成感があるのか、みんなやりたがるからおもしろい。アタシは缶ビールを飲みつつ、その様子を見守った。

 完成したたこ焼きを皿に分けて、食べはじめる。

「めっちゃうまいっすー!」

「外カリカリ、中とろとろ」

「お店で出されてるのと大差ないですよ」

「そんだけ喜んでもらえたなら、アタシも嬉しいってモンよ」

 みんなが美味しそうに食べてる姿を横目に、アタシは生地を鉄板に流し込み、準備を始めた。

外はもう夏。暑くてクーラーかけてるけど、煙やにおいを出すため少し窓は開けているからプラマイゼロ。だけどそんな中で食べるたこ焼きはおいしいし、みんなで作るのは楽しいから、どんどんとビールが進む。

 どんどんと記憶が薄れて、三人の声が遠くなる。

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