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悪夢の儀式

 それから、およそ一時間後。カガリとイヴが採石場に作り上げた巨大な城の中に、誠人の姿はあった。

「うっ・・・ここ、は・・・?」

 目を開けると、彼は牢屋のようなものに入れられていた。冷たい鉄格子を掴んで外の様子を窺おうとした時、一人の女が近づいてきた。

「君は・・・リン・・・!」

「ごめんね。無理やりこんな所に連れてきて」

 鉄格子の外から声をかけてきたのは、エボルバーの一人であるリンであった。

「ここはどこだ?」

「私達の、儀式のためのお城。地脈とか、座標とか、いろいろ計算したらここが一番いいんだって」

「・・・訊いても答えないだろうけど、君達はここで何をする気なんだ?」

 鋭い視線を向けながら、誠人がリンを問い詰める。その眼差しを見て、リンはふっと悲しそうな笑みを浮かべた。

「やっぱり・・・怒ってる、よね?」

「ああ、まったくだよ。なんで・・・なんであんな手の込んだ真似を・・・」

「イヴさんに言われたの。なるべく銀河警察と戦わないように、あなたを誘惑してその体を手に入れろ、って。だから・・・あなたに助けられたあの時、あなたの心に少し細工を施したの。・・・言ってくれたよね?『なぜかは分からないけど、すごく会いたかった』って」

「じゃああの時、喧嘩してた子供達を仲直りさせたのも・・・!」

「そう、私があの子達の心を操作したの。私は天地人の『人』を司る存在、人を動かして操ることこそ、私の能力の神髄なの」

 そこで一旦言葉を切ると、リンは赤く光る自らの手をじっと見つめた。

「この力のせいで、たくさんの人からいろんなひどいことを言われた。『魔女』、『悪魔』・・・口にするのも嫌なことを言われたことだってある。そんな私を助けてくれたのが、イヴさんとカガリさんだった」

「だから・・・あの二人にその恩を返したい、と・・・?」

 誠人が重ねて問いかけると、リンは複雑な表情で首を横に振った。

「正直・・・自分でも分かんないの。自分が、一体何をしたいのか。自分のしてることは、本当に正しいことなのか。・・・私、故郷の星で満足な教育も受けられなかったから、そういう難しいこと、よく分かんないんだ。だから、イヴさんの言う通りにすれば、きっと何もかもうまくいくって、そう信じることにしてるの」

「皮肉だな・・・・・・人の思考を操れる君が、自分の思考を止めてしまってるなんてね」

 誠人が口にした精一杯の皮肉に、リンはふっと自嘲の表情を浮かべた。

「うん・・・・・・だから、夢があるあなたが羨ましい。さっきも言ったけど、私に・・・・・・夢なんてないから」

『私には・・・夢なんてもの、ないから・・・』

 昼間喫茶店で彼女が口にした言葉が、誠人の頭に蘇った。目の前で全く同じことを口にしたリンの表情は、とても嘘をついているとは思えないほど、深い哀しみ、そして誠人への羨望を湛えていた。

「君は・・・さっき鈴として僕に言った言葉は、全部嘘じゃなかったのか・・・?」

「私、そんな生まれながらの詐欺師みたいな真似、できないよ!」

 突然リンが感情的な声を上げると、両手で目の前の鉄格子を掴んだ。

「確かに、私はあなたを騙した。でも・・・全部が全部嘘なわけじゃない!・・・私言ったよね?喧嘩とか、争いごととかいじめとか、そういうのが嫌いだって!だから私、あの子達の喧嘩を止めたんだよ?だって子供には、争い合う醜い心なんて似合わない。他の人の気持ちを思いやれる、純真で優しい心の方がずっといい!教師を目指してるんだったら、あなただってそう思うでしょ?ねえ!?」

「リ・・・リン・・・?」

 いきなり怒ったような口調でまくし立て始めたリンに、誠人は困惑の声を上げた。だが次の瞬間、リンが怯えたような表情を浮かべた。

「なのに・・・私、いっぱい人を殺しちゃった。・・・アダガープだけじゃない、イヴさんとカガリさんについていった場所で、大勢の人を殺してきた。直接手は下してなくても、私があの人達の命を奪うように仕向けたの。だってあの人達、イヴさんの敵だったもの。だから・・・そんな人達、死んだって構わないって・・・そう思い込もうとして・・・・・・」

 言葉を詰まらせたリンの目から、一筋の涙がこぼれた。彼女は鉄格子を握る力を緩めると、その場に膝をついてうなだれながら口を開いた。

「分かってる・・・・・・どんなに言い訳したところで、私もあの二人と同じ、ただの人殺し。もう・・・後戻りすることなんてできない。やり切るしかないの。エボリューションタイムを・・・!」

 再び顔を上げると、リンは涙に濡れた目に確かな覚悟を秘めて言った。『エボリューションタイム』。先ほどイヴも口にしたその言葉に、誠人はとても嫌な予感を覚えた。

「エボリューションタイム・・・?それ、一体何なんだ!?」



「エボリューションタイム・・・かつてエボルバーが定期的に行っていた、イカれた儀式のことよ」

 同時刻。一旦虹崎家に撤退した刑事達に、エボリューションタイムを知るソフィアが説明していた。

「エボルバーの中でも特に優れた力を持つ、天地人を司る三人が、広範囲にその力を拡散する。その力に触れたヒューマノイドにエボルバーの資質があれば、そのヒューマノイドはエボルバーとして覚醒し、彼らの仲間入りを果たす。まあ言うなれば、本来なら低確率で自然発生するしかないはずのエボルバーを、意図的に増やすための儀式ってわけ。奴らはそれを繰り返すことで、エボルバーという種の根絶を防いできた」

「じゃ、じゃあ・・・エボルバーの資質を持たない人は、どうなるわけ・・・?」

 キリアが緊張の面持ちで、ソフィアに問いかける。他の刑事もその答えに注目する中、ソフィアはGPブレスである映像を映し出した。

「さあ、運命の瞬間だ。お前達に待つのは栄光の未来か・・・絶望の破滅か」

 その映像には、教会のような場所に集められた数十人の人々と、その前に立つ三人の長衣を纏った男女が映されていた。蒼い長衣を纏った男が両手を掲げると、その左右に控える黄金色と白の長衣をそれぞれ纏った二人の女が、男と同じ方向に両手を掲げて力を集中させる。

 やがて三人の手の先に、巨大な光球のようなものが現れた。程なくして光球は破裂し、それによって放出された光が、人々を包み込む。

「う・・・うわあああああああああああああっ!」

「いやああああああああああああああっ!!」

 光に包まれた人々の悲鳴がこだまし、やがてその体が次々と内側から破裂し、光に吸収されてゆく。やがて断末魔の叫びの合唱が止み、光が消失する頃には、数十人いたはずの人々はたった二人だけを残し、跡形もなく消え去っていた。

「おめでとう、新たな同胞よ。お前達は、たった今栄光を手にしたのだ。エボルバーとして生きる栄光をな」

 呆然と立ち尽くす生き残った二人に、三人の長衣の男女が近づく。映像はそこで終了したが、それを見た全員が、戦慄に体を小刻みに震えさせていた。

「これが・・・エボリューションタイム・・・!」

「そう。見ての通り、エボルバーの力に適合できない人間は・・・死ぬ」

 思わず声を上げたレイに応えると、ソフィアは映像を消して続けた。

「連中がどのくらいの規模でこの儀式をやろうとしてるのかは分からないけど、あいつらを放っておいたら間違いなく死人が出る。それも・・・一人や二人じゃ済まないほど、大勢の死人が」




「な・・・!そんな儀式、本当にやるつもりなのか、君達は!?」

 一方。リンからエボリューションタイムについて聞かされた誠人が、身を乗り出して鉄格子を掴みながら問い詰めた。

「少なくとも・・・あの二人は本気。銀河警察との戦いで、エボルバーは絶滅寸前にまで追い込まれた。だから・・・儀式を起こして、見せつけてやるんだって。エボルバーは不滅だと・・・多くの同胞を殺した銀河警察に、負けを認めさせてやるんだって・・・・・・イヴさん、そう言ってた。心から・・・楽しそうに笑いながら!」

 怯えたような表情で、リンは血を吐くように叫んだ。それを目にすると、誠人は鉄格子に触れているリンの手を掴んだ。

「リン・・・・・・君は、それを望んでるわけじゃないんだろ?なら・・・僕達に、その力を貸してくれないか?」

「え・・・?」

 突然の展開に、リンは目を丸くして誠人を見つめた。

「僕の仲間の一人に・・・多分、エボリューションタイムのことを知ってる人がいる。きっと今頃その人から、僕の仲間達にエボリューションタイムのことが伝わってる。僕の仲間は、正義感が強い人ばっかりだ。エボリューションタイムのことを知ったら、必ず止めようと動き出す。だから・・・・・・その仲間達に、君の力を貸してほしいんだ」

 リンの手をより強く握りしめると、誠人は彼女の目をまっすぐ見つめて懇願した。

「頼む!あの二人に太刀打ちできるのは、同じエボルバーである君だけだ。君が・・・君がこれ以上、誰も殺したくないのなら、僕達に力を貸して・・・」

「無理よ!」

 その時、鋭く叫んだリンの目が赤く輝き、同時に誠人の体が勢い良く後ろに吹き飛ばされて壁に直撃した。

「リ・・・リン・・・?」

「今更私のことを、都合のいい道具みたいな目で見ないで!・・・それに、私じゃあの二人には勝てない。カガリさんになら、少しは勝てる可能性はあるけど・・・・・・イヴさんには、私絶対に勝てない!」

「そんな・・・そんなことは・・・」

「ないって言い切れるの?エボルバーでもないあなたに、一体私達の何が分かるの!?・・・あの人は、天地人の『天』を司る存在。その位を受け継げるのは、エボルバーの中で最も強い力を持つ者だけ。つまり・・・・・・私やカガリさんがどんなに頑張っても、あの人の足元にも及ばないの・・・」

 リンが絞り出した言葉は、絶望で小刻みに震えていた。彼女は鉄格子から手を放すと、立ち上がって申し訳なさそうに誠人を見つめた。

「ごめん・・・やっぱり、あなたの言葉には乗れない。・・・さっきも言ったよね?私は・・・人殺し。もう・・・後戻りなんてできない」

「そんな・・・そんなことない!」

 誠人は再び鉄格子を掴むと、必死にリンに訴えかけた。

「確かに、君は罪を犯したかもしれない。でも・・・・・・君が心から諦めなければ、きっとその罪は償える。人生は、いくらだってやり直しがきくはずなんだ!だから・・・・・・後戻りできないなんて、悲しいこと言うなよ・・・!」

 目の前のこの少年は、心から自分のことを案じてくれている。それを理解しながらも、リンが誠人の言葉にうなずくことはなかった。

「優しいね、誠人君・・・今日会ったばかりで、あなたを騙しさえした私に、そこまで言ってくれるなんて・・・」

 リンが悲しそうな微笑みと共にそう言った、その時。靴音を響かせながら、カガリがその場に姿を現した。

「お喋りは終わりだ。リン、こいつを引っ立てろ。いよいよ、イヴ姐様が始めるぞ」

「じゃあ・・・彼を?」

「ああ、計画通りに事を進める。・・・喜べ。いよいよ、私達エボルバーの時代が来る・・・!」

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[一言] カガリがこの二人の会話放置してたのか自惚れか優しさか… まぁ意外とリンのことも仲間とは思ってくれてそう…?
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