襲撃
「すごいですね、鈴さん。たった一言で、喧嘩を収めちゃうなんて」
数時間後。誠人と鈴は図書館の下にあるカフェに入り、共に昼食を取りながら言葉を交わしていた。
「そんなに、大したことじゃないよ。・・・ただ、私は喧嘩が嫌いなだけ。・・・喧嘩だけじゃない。いじめとか、争いごととか、そういうのが嫌いなだけなの」
かじっていたサンドイッチを皿に置くと、物憂げな表情で鈴は言った。そんな彼女の憂い顔も、とても美しく誠人には感じられた。
「ねえ、誠人君受験生なんでしょ?ということは・・・将来の夢も決まってるんだ?」
「ええ、まあ・・・僕の夢は、小学校の教師になることです。昔から子供が好きで、子供と触れ合う仕事がしたいと思ってたんです。・・・だけど、さっきの喧嘩一つ止められないようじゃ、教師になる道はまだまだ遠そうです」
「教師、か・・・いいね、夢があって」
心から羨ましそうに、鈴は誠人の目を見ながら言った。
「私には・・・夢なんてもの、ないから・・・」
「え・・・?それ、どういう・・・」
問いかけた誠人の声にはっと我に返ると、鈴は作り笑いを浮かべながら立ち上がった。
「はは・・・ごめん、変な話して。・・・私、もう行くね。お金は払っておくから。さっきのお礼」
「あ・・・鈴さん!」
もっと、彼女と話がしたい。なぜだか誠人は、そんな気持ちに駆られていた。
「鈴さん、待って!」
会計を済ませて足早に店を出た鈴を、誠人は追いかけた。だが店を出てすぐの場所で、彼は思いがけない出会いを果たすこととなった。
「虹崎誠人・・・ユナイト持ちの少年、だな?」
一人の背の高い褐色の肌の女が、ドアのすぐ近くに立っていた。女はわずかに吹く風に灰色の髪をなびかせながら、誠人に鋭い視線を向ける。
「何故それを・・・?まさか、ユナイトハンターか!?」
「そのような小遣い稼ぎの連中と一緒にするな。私の名はカガリ。エボルバーの一人として、銀河に革命を起こす役割を与えられた者」
「エボルバー・・・?」
聞きなれない言葉に、誠人が思わず声を上げる。だが次の瞬間、誠人の目の前に一瞬で迫っていたカガリが、拳を握り締めて誠人に殴りかかった。
「うっ・・・!」
辛うじてその攻撃を紙一重でかわした誠人だったが、カガリは目にもとまらぬ速さで次々に誠人に攻撃を仕掛けた。誠人はその攻撃をさばききれず、繰り出された回し蹴りが体に直撃し、大きく吹き飛ばされた。
「なんだ、この強さ・・・普通の人間じゃない・・・!」
そううめいた誠人の言葉に小さな笑みを浮かべると、カガリは再び攻撃を仕掛けてきた。誠人はなんとかそれをかわしながら、GPブレスから光弾を放ってカガリを威嚇し、距離を開ける。
「そのような玩具で、しのぎ切れると思うな。・・・イリスになれ。今日はお前の、ユナイトの力を見に来たんだ」
「・・・!前にもいたな、そういう奴らが・・・」
かつて、イリスを上回る兵器を作るために、イリスとの戦いを要求した者達がいた。そのことを思い出し、誠人はきっぱりと拒否の言葉を口にした。
「断る。お前の手には乗らない」
「そうか。・・・なら、嫌でもその気にさせてやる」
そう言うと、カガリは手にしたリモコンのような装置のボタンを押した。すると彼女の周囲に、見たこともない形の人型ドロイド達が姿を現す。
「行け、エボルドロイド。全てを破壊し尽くせ」
カガリがそう命じると、ドロイド達はその両手から光弾を発射し、周囲の建物を破壊し始めた。逃げ惑う人々にも、彼らは容赦なく光弾を浴びせかける。
「やめろ!・・・ミナミ、今すぐ合体できるか!?」
誠人は肚を決めると、GPブレスでミナミに連絡を取った。
「はい、もちろん!誠人さんのためなら、いつでも準備は万端です!」
誠人はイリスバックルを腰に装着すると、ボタンを押して待機モードにした。そしてホルダーから取り出したグランドのカードを、バックルにスキャンさせる。
「ユナイト・オン!」
『Read Complete.震える大地!グランドアーマー!』
誠人の体をイリススーツが包み込み、その上からミナミが姿を変えた鎧が装着されてゆく。合体はものの数秒で完了し、イリスはソードモードのプラモデラッシャーを握り締めた。
『さあ、いっきまっすよー!』
イリスはプラモデラッシャーを手に、破壊活動を続けるエボルドロイド達の方へ駆けだした。それに気づいたドロイド達は手から光弾を放って応戦するも、イリスはその光弾を剣で弾いて一気に接近し、ドロイド達を次々と切り倒してゆく。
「ほう・・・なら、これならどうかな?」
カガリが指をパチンと弾くと、数体のドロイドが体の形状を変化させ、ジェット噴射する小型の戦闘機のような状態となった。空から光弾を放ってくるドロイド達の攻撃を、イリスはなんとかかわし続ける。
「くっ・・・レイさん、行けますか!?」
「分かった。お願い、β」
誠人の声を聞いてただならぬ事態と悟り、レイがすぐさま言葉を返す。誠人はイリスバックルのボタンを押すと、スプラッシュのカードを読み込ませた。
「ユナイト・オン!」
『Read Complete.逆巻く荒波!スプラッシュアーマー!』
新たにレイと合体すると、イリスはマグナムモードのプラモデラッシャーから水を凝縮させた弾丸を次々と発射し、ドロイドを射ち落としていった。その戦いぶりを、カガリは冷静に観察する。
「おらあっ!どこ見てんです・・・かあっ!?」
そのカガリに、死角からミナミが格闘戦を仕掛ける。カガリはミナミの攻撃を冷静にさばくと、一瞬の隙をついてその腹に拳を叩き込み、大きく吹き飛ばした。
「うわああああああああああっ!!」
「ミナミ!」
ドローンの最後の一機を射ち落としたイリスが、吹き飛ぶミナミを見て声を上げる。吹き飛ばされたミナミの体は近くの公園まで吹き飛ばされ、子供達が遊んでいた砂山に勢いよく叩きつけられた。
「くっ・・・・・・ん?これは・・・」
遊んでいた親子達が突然の事態に逃げ惑う中、ミナミは砂の中からある物を見つけ出した。それは銀河警察の中でも特殊任務に就く刑事だけが持つことを許される、ブランクGPカードであった。
「ブランクカード・・・なんでこんな所に?」
「ほう・・・そこにあったか。私も運がいい」
カガリは能面のような表情をわずかにほころばせると、一瞬でミナミのもとに駆け寄ってその体を殴り飛ばした。ミナミの手を離れて宙を舞うカードを、カガリはキャッチして左腕のGPブレスにスキャンさせる。
『Authentication start、please wait a moment.』
『ミナミ、大丈夫!?』
ようやく追いついたイリスが、倒れこむミナミのもとに駆け寄る。それと同時にカガリのカードの認証が完了し、ブランクカードが『RHEIA』と書かれた黄金色のカードに変化する。
『Authentication complete』
『GPブレス・・・なんであいつが!?』
「ちょうどいい。イリス、お前達の力、直接試してやる」
そう言うと、カガリは懐からGPドライバーV2を取り出して腰に装着し、カードスロットをスライドして待機モードにした。そして手にしたカードを、勢いよくスロットに差し込んで展開する。
「アーマー・オン」
『Read Complete.大震!烈震!激震!アーマーインレイアー!レイアー!』
鳴り響く電子音声と共に、カガリの体が黄金色の鎧に包まれる。鎧が完全にその体を覆うと、複眼が一瞬紫色に輝いた。
「我が名はレイアー。エボルバーの一人にして、天地人の『地』の位を賜りし者」
『・・・!エボルバー、ですって・・・!?』
その言葉を聞いたレイが、戦慄に声を震わせた。レイアーとなったカガリはベルトに手をかざし、イリスが使う者とは色違いの黒いプラモデラッシャーを召還し、ランスモードにして握り締めた。
「さあ・・・行くぞ」
そう言うが早いか、レイアーはプラモデラッシャーを振り回しながらイリスに襲い掛かった。イリスは銃で応戦しようとするものの、レイアーの攻撃が手に直撃して銃を取り落とし、繰り出された槍に何度も体を切り裂かれた挙句、大振りの一撃に大きく吹き飛ばされた。
『きゃああああああっ!』
「あ・・・レイさん!」
地面にたたきつけられた拍子に、イリスとレイの合体は強制的に解除された。痛みに悶えるレイの左腕からは、オケアノス人特有の水色の血が流れ始めている。
「マズい・・・ミナミ、レイさんを頼んだ!」
「え!?誠人さんは!?」
「カグラさんを呼ぶ。僕達で時間を稼ぐから、その間にレイさんを!」
そう叫んだイリスの手には、既にフレイムのカードが握られていた。ミナミはすぐに肚を決めると、レイに肩を貸してその場から離れ始める。
「カグラさん、お願いします!」
「分かった。なんか、ヤバいらしいね・・・!」
この時ミナミの家にいたカグラは、ミナミに続いてレイも呼び出されたことに、何か重大な事態が発生したと薄々感づいていた。イリスがカードをバックルにスキャンさせると、彼女が姿を変えた鎧が一瞬でイリスのもとに飛んでいき、その体に装着される。
『Read Complete.燃え盛る業火!フレイムアーマー!』
『少年、あいつが敵かい?』
合体が完了するなり、カグラは目の前に立つレイアーを見て誠人に問いかけた。
「ええ。あいつ、かなりの強敵です。カグラさん、気を付けて!」
『ああ・・・任せな!』
イリスは双剣モードのプラモデラッシャーを手に、猛然とレイアーに挑みかかる。その攻撃を槍で受け止めながら、カガリがレイアーの仮面の下で声を上げる。
「なるほど・・・こうも次々と他者と合体し、その力を引き出すとは・・・!」
レイアーは槍を突き出してイリスの体勢を崩すと、その体を蹴飛ばして続けた。
「合格だ。イヴ姐様の仰る通り、お前には見込みがある」
「見込み・・・?何のことだ!?」
「いずれ分かる。だが、今はまだ知る必要はない」
『Read Complete.Be prepared for maximum impact.』
レイアーはフィニッシュカードを手にすると、ドライバーのカードスロットにセットした。大技が来ると見て、イリスもプラモデラッシャーにフィニッシュカードをスキャンさせる。
『Read Complete.Be prepared for maximum impact.』
レイアーの体と武器が黄金色の光に包まれ、イリスのプラモデラッシャーが炎に包まれる。やがてそのパワーが最大まで溜まると、両者は同時に必殺技を発動させた。
『レイアーフィニッシュ!』
『フレイムストライク!』
レイアーが槍を振り払って放った黄金色の衝撃波が、イリスが放った炎の衝撃波と空中でぶつかった。二つの衝撃波はしばらく空中で拮抗していたが、やがて大爆発を起こした。
「・・・!逃がしたか・・・」
爆発が収まった時、そこにイリスの姿はなかった。レイアーはドライバーからカードを抜き取り、カガリの姿に戻る。
「まあいい。いずれにせよ、我々の計画は変わらない」
「そう。もうすぐ計画は動き出す」
その時、カガリのすぐそばから一人の女の声がした。そこには、蒼い長髪をなびかせたイヴという女の姿があった。
「イヴ姐様・・・虹崎誠人の力、しかと見極めました」
カガリはイヴの姿を認めるや、彼女の前に跪いた。
「あの男、我々の計画に使えます」
「ああ、あたしもそう見た。計画を次の段階に進めるよ。今度はあの坊やを、あたし達の手の中に・・・!」