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彼女のトキメキ

 まどかは、自分でもすごく驚いていた。


 まさか、自分が男の人を映画に誘う事があるなんて……、夢にも思わなかった。いやそんな事ができるなんて……、あれは本当に自分の言葉だったのかと疑いたくなるくらいであった。


 彼女は父親以外の男の人と二人で出かけるなんて、今まで経験したことがなかった。まさに彼女にとって、異性の男性とのデート、それは初体験なのである。色々な同級生や上級生の男子からデートのお誘いは数知れないほどあった。でも、男の子と二人で出かけるなんて彼女にとっては冒険のような気がしてとても無理であった。いつも仲の良い女友達の頼んでやんわり断ってもらうのが日常であった。


 彼女はすでに、あの日ストーカー男に襲われそうになった事を忘れているかのようだった。逆に、むしろあの男のお陰で睦樹とこんなに話せるようになった事を感謝するくらいだ。いやさすがに感謝は言いすぎかなと彼女は思った。


「睦樹さんは、どんな格好で来るんだろう……。私は、どんな服を着ていけばいいのだろうか……、制服はさすがにありえないし……」彼女は何を着て行くか迷っていた。異性の目を気にして服を選んだ事など今まで経験なかったというのが本音だ。睦樹に合わせて大人らしいコーディネイトも検討したが、なんだか自分らしくないような気がした。


 この間買い物に行った時に、友達に勧められた服。フリフリのフリルの付いたロリータのような装飾。好奇心で買ってしまったが実際これを着て出かける事などないだろうと彼女は思った。それにこれは逆にあまりにも子供っぽすぎるような気がする。睦樹と並んだ時にこれを着ていたら、きっと親子に見えるのだろうと苦笑いした。

 しかし一体どんな服を着れば男の人は喜んでくれるのだろう。

 男性と付き合った経験が全くない彼女にとって、それは完全なる未知の世界なのであった。


「お母さん、この服どうかしら?おかしくない?」まどかは、自分の部屋から出て階段を降り、リビングでくつろいでいた母親に自分のコーディネートの批評をお願いした。母親はテレビを見ながら煎餅を頬張っていた。


「うーん、ちょっとそれはスカート短くない?階段の下から下着が丸見えよ」白いフレアの可愛いスカート。まどかのお気に入りなのだが、確かにそれは恥ずかしい。まさか、スカートの下にズボンを履くわけにもいかないし、もし睦樹さんにパンツを見られたら……、「やだー!」まどかの顔が真っ赤に染まった。


 今度は丈の長めのスカート。足首の辺りまでその足が隠れている。


「うーん、それは逆に長すぎるかなぁ。それに歩きにくそうね」頬杖をつきながら母は批評をつづける。その様子はまるでファッションアドバイザーのようであった。


「あの膝下位のが、いいんじゃないの。ピンクのまどかのお気に入りのやつ」流石に母親はまどかの持っている服をよく把握しているようだった。


「ピンクかぁ……、うーん、子供っぽくないかなぁ」まどかは、腕組をしながら呟いた。出来れば少しだけ大人っぽい女を演出してみたいと彼女は目論んでいた。


「なに言ってるのよ。まどかは、可愛いピンクが似合うのよ。それから、このスカーフを首に巻いたほうが良くない?」母は自分のタンスの中からスカーフを取り出すとまどかの首元に巻き付けた。


「私、制服以外でスカーフなんて……、スカーフかぁ……、でも、おかしくない」言いながら、リビング横の和室にある姿見を見ながらポーズを取った。満更でもない様子であった。


「いきなりどうしたの?昌子ちゃんとどこかに出かけるの?」昌子とはまどかの友達の名前であった。


「しょ、昌子ちゃん?!あ、ああ……昌子ちゃんは、急に都合が悪くなったから別の人…、別の友達と遊びに行く事になったの……、そ、そういえば、お父さん今日は遅いわねぇ……、珍しく残業?」まどかは言いながら、そそくさと部屋に逃げるように入っていった。


「これは、きっと男だね……」まどかの慌てる様子を見て母の目がキラリと光った。母親のその風貌ふうぼうは、まるで名探偵のように変わっていた。


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