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偶然

 まどかは、本日ハンバーガーショップのアルバイトだった。


 いつもと変わらぬ同じ作業。相変わらず、カウンターは、まどかの前だけ男性客の長蛇の列。他のブースは、ガランとしており、並んでいるのは女性ばかりだった。


 ミーティングの時には、熟年のパートタイマーから少し嫌みを込めたように「小林さんだけでカウンター業務はいいんじゃないですか?」と言う意見が出るくらいだ。


 店の売上は今一つの日であっても、まどか一人てんてこ舞いという感じである。まどかの事をよく思わないスタッフは、決してまどかを助ける事をしない。


 そうなれば、否応無しに彼女のミスの数も多くなり、年増のアルバイトマネージャーに怒られる機会が増える。しかし、カウンターで注意を受けるまどかを見て、客からブーイングが起こるという奇妙な現象も見られる。


 客の中には、彼女の気が引きたいが為に、無理にクレームをつける輩もいるようだ。そういう輩はまどか親衛隊といわれる一部の客達で結成されたメンバーに軽い粛清を受ける。


 最近では、一分間で注文を終えなければいけないという、一分間ルールなるものもあるそうだ。知らずに並んだ客は、ルールを守れと言われ唖然とするという場面が時折みられる。


 本日のまどかのシフトは、朝早くから昼までである。勤務予定だったパートタイマーの女性が、子供の急な発熱により、出勤が出来なくなったので、急遽ピンチヒッターという形だった。


 たまたま、その日はまどかの学校が創立記念日ということもあって白羽の矢が立ったということらしい。


 こういうイレギュラーの勤務でも、なぜかまどかの接客ブースの前は、人だかりになってくる。SNSで勤務状況を拡散されているのかもしれない。怖い世の中だとまどかは思った。


 途切れない客に、あたふたしながら彼女は対応する。しかし、その間も笑顔を絶やさない。その一生懸命に働く姿も、彼女の親衛隊には堪らないらしい。写真撮影を試みるものもいるが、流石にそれは従業員に制止されている。


 終業まで、あと五分という時、まどかは偶然目にした店の外に釘付けになった。傘を持ち、私服で歩く睦樹の姿だった。

「あっ!睦樹さん?!」まどかは、客にハンバーガーの包みを乗せたトレーを渡しながら、彼の名を呼んでしまう。


「ム、ムツキサン……?」ここは、本来、ありがとうございますと言われるのが普通だと思うのだが、男性客は戸惑った顔をした。


「すいません、お客様。小林さん!ちょっと!」熟年パートマネージャーが飛び出してきて、客に謝りまどかを奥に連れていく。並んでいた男性客達からは、少なからずブーイングが上がっている。


「ちょっと、小林さん何なのさっきのは?」パートマネージャーが先ほどの、まどかの接客について指導する。


「はぁ」まどかは、心ここにあらず、気の抜けた返事をする。横目で時計の針を気にしている様子だ。


「ちょっと小林さん、ちゃんと聞いているの!」パートマネージャーの怒りレベルが上昇していく。


「はぁ」相変わらず、気の無い返事で時計を見つめるまどか。パートマネージャーの声は彼女の耳には届いていないようであった。


「ちょっと、あなたねぇ!」怒ったパートマネージャーが、説教を続けようとした瞬間に、時計の針がまどかの退社時間を刺す。その瞬間まどかの顔が花開くように微笑みに変わった。


「あっ、お疲れ様でした。失礼します!」まどかはパートマネージャーの話を聞かず一目散にバックルームへと、飛び込んでいった。


「ちょ、ちょと小林さん!!キー!!私の事を舐めてる!絶対に舐めてる!店長~!あの子なんとかしてください」パートマネージャーは店長に甘えたような声で救いを求める。


「う~ん、やっぱりまどかちゃんは今日も可愛いなぁ……、僕もなんとかしたいよぉ」店長は年甲斐もなく頬を赤らめてまどか飛び込んだ扉をうっとりとした表情で見つめていた。その目は恋する乙女のような目であった。


「だめだこりゃ」マネージャーは、ずっこけるふりをした。


 まどかは颯爽さっそうと私服に着替えて店から飛び出していった。


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