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無題  作者: 名無し
1/6

無題:1

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 『それ』は無の中に生まれた。


 決まった形を持たない概念上の存在とも言うべき『それ』は、その性質を用いて、巨大な空間を生み出す。この空間を原初の空間と呼ぶ。


 原初の空間の大きさには際限がなく、どんな物でも入ってしまいそうだ。


 原初の空間の中にはすべての可能性がある。


 簡単に言うと、この空間の中に新たな世界が生まれる可能性、そしてその世界に生命体が生まれる可能性などがあるということだ。


 それぞれの世界で違う法則が働いているため、距離がそこそこ近い世界同士でも全く違う光景が広がっていることもある。


 原初の空間の中にある世界なのに違う法則が働くの?は?とか思う人もいるかもしれないが、その法則を作ったのは『それ』なのだから、法則適用範囲も自由に操作できるのだ。




 原初の空間には、既に2つの世界が生まれている。その内の1つには生命体も生まれている。


 生命体の中に、もふもふした白い毛を持つ動物がいる。ぴょんぴょんと飛び跳ね、草をもぐもぐと頬張るその姿はとても愛らしく、『それ』もつい頬を緩めてしまっている。


 『それ』はその生物の持つ柔らかく白い体毛の印象から、しろもふ、と名付けた。


 ある時、『それ』は地上へ行ってしろもふと遊びたいと考えた。


 目下の問題は、自身の持つエネルギー量が膨大すぎることである。


 『それ』の保有する・生み出すエネルギー量は、世界など軽々と破壊できてしまうレベルなのだ。


 生まれたばかりの『それ』には、エネルギーの制御の方法が分からない。


 自身から溢れるエネルギーを原初の空間のどこかに貯めておくことにした。消滅させるのは勿体無いと考えていたのだ。


 後々、無限に湧き出てくるし別に消滅させてもいいということに気が付いた。


 未だに漏れる少量のエネルギーは活動用だ。これがないと、地上の生物並の身体能力しかなくなってしまうし、身体もだるくなる。


 さあ行こうと思ったときに、もう一つの問題を見つけてしまった。

 『それ』は不定形なのである。


 不定形のままだとしろもふと遊べないのだ!


 しろもふは結構小さい生物なので、あまり大きいと警戒されてしまう…


 少し考え、自分もしろもふになっちゃえばいい!と思い付いた。




 故に、今は目の前にいる一匹のしろもふを模している。


 そのしろもふと一緒に走り回って遊び、一緒に草を頬張り、最後には森の穴の中で寄り添って眠った。


 『それ』自体は眠る必要はないが、しろもふの体を模している今は、寝なければならない。


 しかし、しろもふにとって、天敵となる動物は、この世界には何体もいる。


 発達した脚は逃亡用。

 もふもふの毛皮は寒さ対策。

 寝ている間もピンと張っている長い耳は逃亡のタイミングを少しでも早くするため。


 寝ている間も気を抜いてはいけないのが、しろもふという生き物である。


 もし天敵の接近を感じ取った場合。しろもふは脱兎のごとく駆け出すであろう。


 それでも、天敵となる動物はその強靭な脚で、かなりのスピードで逃げ惑うしろもふ達にも容易く追いつき捕食するのだ。

 そして、一回に捕食されるしろもふの数は少なくない。


 しかし、しろもふは絶滅とまではいかない。

その理由は、しろもふの最大の特徴である成長速度だ。


 しろもふは、一回の出産で5体ほどのベビーしろもふを産む。

 子供のしろもふは、まず親から技術を学び、隠れることが上手くなる。

 子供のうちは、脚が発達しにくいため、隠れる技術を高める方を優先するのだ。


 天敵から身を隠すその技術は、成体のしろもふになってもしっかり役に立つ。


 そして僅か30日ほどで親と同じくらいの大きさにまで成長する。

 成体になると、今度は群れによる移動と逃亡の日々によって脚が鍛えられ、跳躍力が上がる。

 動きが俊敏になり、天敵に見つかっても、逃げ切れる個体も増える。


 寿命は2年くらいである。








 さて、どのくらいしろもふとくっついていただろうか。


 『それ』は目が覚めたようだ。ぶるぶると体を震わせて目を覚ますその仕草はしろもふそのものだ。


 辺りはもう明るくなり始めている。

 冬の寒さと日光の暖かさの対比が心地良い。


 隣のもふもふは時折体を震わせながら、心地よさそうに眠っている。


 よく見ると、どうやら『それ』から微量漏れているエネルギーを少し吸収しているようだ。


 『それ』が持っているこのエネルギーは、世界の生成も可能なほどに万能なものだ。


 生物が僅かでも吸収すれば、一定期間食事をせずとも健康に生きていられるという化け物じみた性能をしている。


 そんなエネルギーを発する存在が隣にいたら、どうなるか。


 食事をしなくても生きていけるということは、食欲が湧かなくなり、生存本能が鈍ってしまうだろう。


 それは、野生に生きるしろもふにとっては致命的なものだ。


 だが、隣のしろもふは、群れからはぐれた個体であった。

 そのため、自分のエネルギーを吸収したのはまだこの子だけ。『それ』は、一匹ぐらいならいいか、と、自分の部屋でこのしろもふを引き取ることにした。


 決して可愛いしろもふをお持ち帰りしようとしたわけでは、断じて無い。




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