8、依頼達成。
穴から地下室へと侵入したシズクは状況確認を行う。
周囲を見渡せば動いている者はいないが、サーチによって反応があるのは離れた所にあるテーブル…。
「貴様がこの惨状を起こした犯人か?」
体を起こした人物…『智天』のキャルバンが侵入してきたシズクに問いかける…
が、シズクはその問いに答えず、一瞬でキャルバンの首を刎ね飛ばす。
「まだですか…人間じゃなかったんですね。」
「その通り、我が名は…。」
『蒼炎』
元キャルバンだった首なしの体が何かを言う途中で、シズクの放った蒼い炎が謎の生命体を燃やし尽くす。
「莫迦ですか?死ぬんですか?って死んでますね…敵を目の前に何を悠長にお話なんてしようとしてるんですかね?
千変さんと絶影さんなら問答無用で襲い掛かって来ましたよ。」
と言い残してシズクは穴から戻って行く…。
しばらくして…。
元キャルバンの燃え尽きた灰から靄のようなものが発生して、集まり形を形成する。
「あれは何なんだ…問答―――⁉」
「しぶといですね、霊体系ですか?『セイクリッドフォース』」
「ギャーーー!」
復活したところを、それを察知したシズクが転移で現れ、またもや喋っている途中で消滅させられてしまう。
今度は完全に…。
「ん?結構強かったんですね、スキルも手に入りました。これで依頼完了ですかね?」
今度は転移で外に戻る。
「お待たせしました。」
「そんなに待ってはないわよ?」
「すいません、1人確認が出来ないと思います。」
「まあ、1人ぐらいなら消去法で誰だか分るから大丈夫ですわよ。」
「そうですね。」
「もう入っても良いのかしら?」
「まだ止めた方が良いです。もう数か所穴をあけて来ます。」
シズクがさらに数か所換気用の穴をあけて戻って来た時に、丁度1階から絶影と絶影に抱えられた幼女が姿を現す。
シズクを見た幼女はじたばたと体を動かしだし、絶影が地面に降ろしてやると、てとてとと擬音が聞こえそうな足取りでシズクに駆け寄って、ダイブする。
「おっと。危ないですよ?…ミコ…ちゃん?」
「あーと、たしゅえてくえて、あーと♪」
舌足らずな感じで幼女、ミコはシズクにお礼を伝える。
「8歳と聞いてましたが…ミコちゃんはハーフリングですか?」
「似たようなものですが違いますわよ。ピッコロですわ。」
「…大魔王?」
「大魔王?違いますわよ!ハーフリングの同種ですわよ!」
「ああ…。」
「ハーフリングと同様、ピッコロもその手の趣味の者達には高値で売れるからな…。」
「ああ…絶影さんの同志の方たちですね。」
「違う!」
「シジュクあーと♪」
「いえ、ミコちゃんはついでですから、別にお礼は必要ありませんよ。」
「そえでも、キャリュパンがやっちゃいだったにょ…。」
「キャリュパン?」
「キャルバンだな、『智軍』のキャルバン。我らと同じ幹部だった者だ。」
「やっかいですか…あの変な生き物のことなんでしょうかね…。」
「ようまだったにょー。」
「妖魔ですか…成程、どうりで首を落とした程度では死なないはずです。」
しばらく換気を行い、シズクたちは確認の為に地下へと向かう。
絶影が猛反対したが、ミコは同行すると言い張ったので、絶影の方が折れて、ミコも同行している…。
「人数はそろってますか?」
「構成人数134名のうち遺体が125…門に居たのが5人で、私達3名…遺体がないキャルバンを含めれば数は問題ありませんわね…。」
「数は、ですか。」
「我々が顔を知らない遺体が1つ…巫女様のことを知ってる4人のうち、キャルバンを除いた遺体は確認できたから問題はないと思うが…。」
「変ですわよね…私達が知らない遺体がこの部屋にあるのは…。」
「誰の遺体がないんですか?」
「キースと名乗ってた者の遺体がないな。」
「その人は?」
「最近加入したばかりの者だったはずだ。」
「キースですか…おそらくは、遠隔憑依型か何かのスキルを持ってたんでしょうね…。」
「何故そう思う?」
「あの無駄口妖魔のような直接憑依するタイプであれば、動いた瞬間に私が感知します。
でも、あの妖魔以外感知してません。
ですから、憑依している宿主と一緒にそれも死んだと考えるてるんですけどね…私の感知を掻い潜って逃げたという可能性も無い訳じゃありません。」
「いや…シズク…と呼んでも構わんか?」
「急にどうしたんですか?いつもは化け物って呼んでたじゃありませんか。」
「絶影…女の子にその様な呼び方をしてたんですの?巫女ちゃんに叱られますわよ?」
「いや…その…。」
「じぇちゅえい、め!」
絶影に肩車されているミコが絶影の頭をぽっかっと叩いて叱る。
「う、うむ。すまなかった。」
「妙な光景ですね…まあ、好きに呼んで下さい。それで?」
「うむ。我に気付くシズクの感知能力だ、それを掻い潜って逃げることは無理だと…我は思う。」
「えらく自信過剰ですが…まあそうですね。そっちの可能性は低いでしょうね…。」
「何が目的でドゥンケルハイトに潜り込んだのかしらね…。」
「ミコちゃんが目的だったなら、いずれ2人の前に現れますよ。」
「そうですわね、その時はシズクにお願いしますわ♪」
「何故私が?」
「あら?伝えてませんでしたの?」
「それは千変が伝える話だろ?」
「私にそんなこと言える訳がありませんわよ!」
「我とて同じだ!」
千変と絶影は腰を少し落とし戦闘態勢になるが、絶影はミコを肩車したままの状態である為、両者本気ではないことが丸分かりである。
「え~っと?」
「シジュクといっちょ♪」
「だ、そうですわ。」
「だ、そうだ。」
ミコの言葉に戦闘態勢を解除して、2人はミコの言葉に便乗する。
「え?」
「いっちょ♪」
「私と一緒に暮らすと?」
「うん♪」
「何か視たんですか?」
「ううん。」とミコは首を横に振って否定する。
「巫女ちゃんは半年前からシズクと一緒に暮らすことを夢見てたみたいですわよ?」
「2人はそれで良いんですか?」
「巫女ちゃんの思うように、それに私が付き合うだけですわ。」
「同じくだ。」
「私の家は森の中ですよ?」
「知ってる。」
「知ってますわよ!半年前に襲撃に言ったら、結界で絶影ですら侵入できなかったんですから!」
「ある意味、我の知る中で一番安全な場所だな。」
「違いありませんわね。」
「…分かりました。今日はどうされるんですか?」
「今日はここで荷造りしてから、明日シズクの家へ向かう予定だ。」
「それなら、昼頃迎えに来ますから、ここか、王城の近くに来てください。」
「良いんですの?」
「私が帰るついでです。」
「感謝する。」
「あーと♪」
「ありがとうございますわ。」
「それでは明日。」
そう言って、シズクは転移で王城へと戻る。
シズクが第五王妃の部屋に戻ると、まだカルゼイとテレシアが残っていた。
「戻って来たね。それで首尾の方はどうだった?」
「終わりました。」
「え?」
「もう終わらせたのか…。」
「これが今回のあらましが書かれた書状です。それとこの鍵がおじさんを閉じ込めてる牢の鍵です。」
「え?」
カルゼイは状況が飲み込めないまま、シズクに差し出された書状と鍵を受け取り、呆けているカルゼイを放置して、シズクとテレシアで事の次第の確認が行われる。
「牢っていうのは?」
「おじさんの部屋に簡易牢を、そこに放り込んできました。」
「ドゥンケルハイトの方は?」
「1人を除いて、正確には1人と3人を除いて殲滅しました。」
「…先ずはその3人の方から聞いとこうかね。」
「3人は私と暮らすそうですよ?面倒なことに…。」
「気に入られたのか?」
「ええ、本当に変な人たちに好かれます。」
「ははは♪その3人の名前を訊いても大丈夫か?」
「ミコちゃんと…名前は聞いてませんけど、千変さんと絶影さんです。」
「名前が知られてた2人と…ミコちゃん?」
「8歳の女の子ですよ、種族はピッコロだそうです。」
「ああ…その手の趣味の奴が居たのか…胸糞悪い!その千変と絶影はその子とどんな関係だ?」
「親代わり?親衛隊?って感じですかね?」
「ああ、分かった。それでこちらの方が問題だね…シズクから逃げ切った1人っていうのは?」
「さぁ?名前はキースと名乗ってたそうですけど、残ってた遺体の顔が違ってたそうです。」
「ほぅ…ネクロマンサーでも絡んでたのかね。」
「ああ、そっちの可能性もありましたね。」
「気付かなかったのか?」
「はい、その前に妖魔と戦ったので、そっち系の可能性しか思いつきませんでした。」
「妖魔か…分かった。お疲れさん♪それと助かった、ありがとう。」
「いえ、明日…もう今日ですね、今日の昼には帰ります。」
「えらく急ぐね…何かあるのか?」
「いえ、ミコちゃん連れて安全な場所に、私の家に帰ろうかと…。」
「あははは♪うん。シズクの家が一番安全だろうね♪
分かった、その内またお邪魔させてもらうことになると思う。」
「分かりました。」
「報告はこのくらいか?」
シズクは思い出しながら指折り数えて行く…。
「そうですね、それぐらいです。」
「だ、そうだよ…って何時まで呆けてるんだ?ちゃんと報告は聞いてたよね?」
「え?あ、あぁ…ちゃんと聞いてたぞ?氷結…感謝する。」
「いえ、ちゃんと書状の中を確認しておいてください。
一応終了だとは思いますけど、護衛に就きます。」
「真面目だね…。」
「師匠たちが適当過ぎるんです!」
「ははは♪違いない。」
テレシアの笑い声を聞きながらシズクは警護の任に就く。