7、いざアジトへ。
シズクは千変の下に―――ガッシャン‼っと窓を突き破って到着する。
何処かのバイクに乗る特撮ヒーローの必殺技であるキックで…。
「ひっ!」
「……何も窓を突き破る必要はなかったでしょ?」
「……。」
シズクは千変の問いに黙ったまま、視線を部屋の隅で震えている男性に向ける。
「わしは悪くない、悪くない。知らなかったのだ、知らなかった。悪くない、悪くない…。」
と震えながら、ぶつぶつと呟いているユーバルト…。
「?」
シズクはユーバルトの状況に首を傾げて、千変の方に顔を向ける。
「私は何もしてませんわよ?単に事実を教えて差し上げただけですわ。」
「…。」
「どうかされましたの?」
「………。」
シズクは千変の問いには答えずにユーバルトに視線を戻し…。
「…お任せします。」
と一言だけ告げる。
「仕方ありませんわね…こちらが今回のあらましと罪は自分だけだと書かれた書状ですわ。」
シズクは千変が取り出した書状を黙って受け取る。
「では巫女ちゃんの所まで案内させて頂きますわね。」
「分かりました。」
そうやり取りをして、部屋から出て行く2人を見送ったユーバルトはホッっと一息ついた瞬間、再び扉が勢いよく開け放たれる。
「ひっ!」
シズクは黙ってアイテムボックスから人が2人入れるぐらいの大きさの簡易牢を取り出し、千変がそこにユーバルトを放り投げ、鍵をして、再び部屋から出て行く。
「……割れた窓から入って来る風が…冷たい…。」
ユーバルトは鉄格子の先に見える、シズクに蹴破られた窓を眺めながらぽつりと呟く…。
シズクは千変の案内でドゥンケルハイトのメンバーが集まっている場所に向かって駆けている。
「このまま真っ直ぐですわ。」
「ところで、何時までその恰好をしてるつもりですか?正直キモイです!」
「あなた…さっきまでほとんど喋らなかったのに、急ですわね!」
「さっきは知らないおじさんが居ましたから。」
「あなたの基準が私にはよく分かりませんわ。まあ、この姿で走り回るのも悪いですわね…。」
そう答えた千変の姿は初老の男性から、20代前半の若い女性の姿にいつの間にか変わっていた。
「到着しましたわ。」
千変に案内された場所は郊外の倉庫が集まっている場所で、その中でも集合している倉庫群から少し離れた位置にある建物で、夜の闇の中でも異質に感じられ、日中であったとしてもその存在は異質に感じられるだろと思われる建物だった。
この倉庫街周辺の倉庫には2階は存在しない、その中で、この建物だけは2階が存在しており、その建物の四方を高い壁が囲っている…いかにも危険です、怪しいですよっと主張している建物であった。
それに加え、入り口の門にはガラの悪い強面の人達が5人、欠伸をしたり、座り込んだり、思い思いにだらけている。
「……ドゥンケルハイトって莫迦なんですか?いかにも怪しすぎです。」
「いいえ。単に一般の者なら、この建物に不信感は抱いても、好き好んで近づく者はいませんわ。その辺を取り締まる者達には賄賂、貴族を使って黙殺させてますわ。」
「考えてはいるんですね…。」
「ここに訪れようなんって、貴方のような依頼を受けた者か、それこそ…好奇心で猫をも殺すというようなお莫迦さんだけですわよ。言葉の綾ではなく、本当に生きて戻れませんわね…。」
「絶影さんからは何か連絡は来てますか?」
「今のところ巫女ちゃんの近く、2階には誰も来てないそうですわね。
いつものように地下に集まって、仕事前の宴会を行ってるようですわ。」
「ドゥンケルハイトはいつもそんなことしてるんですか?」
「ええ、いくら巫女ちゃんの先読みがあったとしても、死ぬ人はいますから、最後の晩餐ってところですわね…。」
「……。」
「今回は全員が最後の晩餐ですわね♪」
「注意事項はありますか?」
「そうですわね…あなたに、というのはありませんが…巫女ちゃんの為に確実に始末して欲しい人物が4人居ますわね。」
「それは?」
「ボスのガレス、私達と同じ幹部の『瞬天』、『圧殺』、『智軍』の3人ですわ、特に『瞬天』は『絶影』と似たスキルを持ってますわ。『瞬天』だけは確実に仕留めて欲しいですね、逃げられたら後々面倒ですから。」
「絶影さんと似たスキルということは、空間に逃げる可能性があるということですね…分かりました。
今から行動を開始しますから、絶影さんに連絡を入れておいてください。」
と、告げた瞬間、シズクの姿は門のところで警備をしている5人の背後に移動し、5人の内3人の首を一瞬で狩り獲り、残りの2人が反応する前に残りの2人の背後へと転移し、首を狩る。
「…『無音の影法師』」
千変が呟いたように、シズクは音もなく一瞬、影のように姿を現しただけで、5人を屠って行く。
「さて、『サーチ』……情報通り2階に2人、これはミコちゃんと絶影さんで、1階は誰も居ない、地下に多数…か。」
所変わって地下。
大勢の老若男女がお酒や食事を食べながら騒いでいる。
比率は男性7、女性が3といった感じである。
「仕事の前の無料飯は最高だな♪」
「お頭の作戦は危険な時もあるが、必ず成功するからな♪」
「今回も成功確定だな♪」
「がはははは♪違いねぇ。」
と騒いでいる連中から少し離れた位置にあるテーブルで、静かにお酒を飲んでいる者達が3人。
ドゥンケルハイトのリーダーであるガレス。
幹部の『瞬天』のカルネ、『智軍』のキャルバン。
千変が伝えたボスと幹部3人の内2人、残りの『圧殺』のゴードンは他のメンバーと酒の飲み比べをして、お金を巻き上げている。
ミコのことは幹部以外には秘密にされている為、その存在を知る者はリーダーと幹部5人のみである。
「リーダ~。千変と絶影は参加しないの~?」
酔っているのかカルネの言葉は何処か眠たそうに聞こえる。
「ん?あの2人は先に仕事に就いてもらってる。」
「あの2人がですか?」
キャルバンは眼鏡をクイっと直して尋ねる。
「ああ、ミコがな、依頼主が裏切る未来を視たらしいからな、千変はそっちに潜入してもらってる。
絶影は王城の監視だ。」
「依頼主が裏切るぅ~?」
「ミコが言うには、その未来は判断し難いそうだ。何度か似たようなことはあったが、その手の処理は千変が最も適してるからな。」
「そうですね。千変なら問題なく処理するでしょう。絶影の方は?」
「こっちはミコの末来視になかったことが起こったから念のためだ。」
「ミコの末来視になかった?」
「ああ…。」
と答えたところで、周囲が静かなことに気付く、気付いたときには3人以外、正確には2人で、カルネはテーブルで突っ伏して眠ってしまっているようだった…。
「皆寝たの…か?」
「いえ、これは…。」
とキャルバンが答えようとしたところでパタンっとテーブルに突っ伏してしまう。
「何が起こってる⁈」
と思ったときには既に遅く、ガレスもテーブルに突っ伏してしまう。
ガレスも他の者達も体の自由が利き難くなっているはお酒で酔いが回って来てるからだろうと判断していた為に気付くことすらなく、シズクによって死に至らされてしまう。
「そろそろ良いですかね?」
「何をしていたんですの?5人を殺した後は1時間程全然動かなかったですわよね?」
「絶影さんが死体は確認できる方が有難いっと言ってましたから…一酸化中毒死してもらいました。」
「一酸化中毒?」
「簡単に説明すれば、無味無臭の毒だとでも思ってください。」
「毒耐性持ってる者も居るんですのよ?」
「正確には毒ではありませんから、その手のものは効果を発揮しません。」
「お、恐ろしい子ね…巫女ちゃん!巫女ちゃんは大丈夫なの⁈。」
「そちらは大丈夫ですよ。一応結界張って行いましたから。
『サーチ』……生命反応なしっと、結界の一部を解除して…『マオルヴルフ』」
シズクが『マオルヴルフ』と言葉を発すると、大きなモグラが穴を掘ったかのように、斜め下へ、地下室のある方へと大穴が掘られ、地下の壁をも破壊して穴が地下室と繋がる。
「死体の確認をお願いしたいんですけど…換気しないとダメですから、もう何カ所か穴を掘って…ん?反応が?生き返った人が居ますね…。」
「えっ⁉」
「私が行きますから、千変さんはしばらく待機していてください。
一緒に来たら死にますよ?」
「え、ええ…。」
シズクはそう告げてから、『マオルヴルフ』で作った穴から地下室へと向かう…。