5、依頼の内容。
シズクとリギットが簡易厨房から出てくる頃にはカルゼイもテレシアの魔法によって酔いが醒めていた。
「すまなかった、氷結とリギット…。」
「私は気にしてません、脳筋師匠に比べれば可愛い物です。」
「私もお父様の意外な一面が見れて嬉しく思います。」
「あらあら♪」
「そうか…リギットには悪いが…。」
「はい。お部屋で大人しくしております。」
「すまん。」
リギットが部屋に戻ろうとした時。
「あ、ちょっと待って。」
「どうかしましたか、シズたん?」
「一応念の為に…この指輪とこの指輪を身に付けておいて。」
シズクはアイテムボックスから指輪を2つ取り出し、リギットに渡す。
「これは?」
「こっちの緑っぽいのが毒無効で、こっちの銀色が防壁。でもこっちの銀の方は明確な害意がないと防壁が発動しないから気を付けて。」
「はい♪ありがとうございます♪」
リギットは弾んだ声でお礼を言って、林檎の乗ったお皿を持って自分の部屋へと戻って行く。
その様子を4人が見送ってからカルゼイはテーブルから移動して、目の前の机に防音の魔道具を置く…。
防音の魔道具…半径2メートル範囲の音を外に漏らさないようにする魔道具で、秘密のお話や夜の営みなどの時に使用されることが多い魔道具である。
結構高価な魔道具であるので、所持している者も高位の貴族や豪商などと限られた者達だけである。
因みに高級娼館では常備されているし、特殊プレイを行うところも部屋によっては使用されているところもある。
金額が高いが、結構繁盛しているようである…。
「さて…今回の依頼の件だが…主犯は第三王妃のハンナの実家だろうと思われる。」
「まあ、そこしかないからね。」
「師匠?」
「ん?ああ、シズクは知らなかったね…というよりも興味がなかったね。」
「そうですね。」
「カルゼイから説明ってのも言い難いだろうから、私が代わりに説明するよ。」
「すまない。」
「いいさ。この種馬。」
「酷い言われようだが、違いない。」
「それじゃあ、この種馬には現在5人の妻が居るんだけどね。」
「あのな、その種馬って止めてもらえないか?」
「しょうがないね。カルゼイの第一王妃は同盟国でもあるファールフス帝国の前皇帝の長女だ。今は現皇帝の妹になるね。」
「ああ、あの人の妹さんですか。」
「氷結は皇帝に会ったことがあるのか?」
「一応、正式な場ではありませんが、帝国の大規模モンスター討伐のときに会いました…なんか変な人に襲われたところを止めてくれました。」
「変な人って…帝国最強じゃないよな?」
「かもしれないね…で?どうなった?」
「引き分けですね…一応。」
「一応ということは…どちらも本気じゃなかったってことか…。」
「です。私も普通の魔法しか使ってませんし、向こうも予備武器を使ってましたから。」
「因みに本気でやりあったらどうなってた?」
「ん~…闘技会なら相打ちか運次第ですね。討伐中も殺気を私に向けて来てましたけど、その度に皇帝さんに頭叩かれてました。
…出来れば二度と会いたくないです。」
「よっぽど気に入られたんだね…。」
「変な人に好かれ易いみたいです。」
「そこに私は含まれてないよな?」
「含まれてますよ?師匠に脳筋師匠。」
「むっ…。まあいいさ、次は第二王妃、これは…フォイマン公爵家の三女、私の妹だね。」
「師匠の妹さんですか…王様も大変ですね。」
「いや、セルシアはテレシアとは似てないぞ?流石の俺もテレシアと似てたら抱く気にならん。」
「それは…良かったですね。」
「おい!」
「第一王妃は外から、第二王妃は国内の派閥状況で変わる。
現在この国の最大派閥はフォイマン公爵家だからセルシアをってことだ…。」
「そこに第三王妃の派閥が割り込んできて、第二王妃と第三王妃の婚姻が同時期になっってね…父も弟も憤ってたよ。」
「そこは勘弁してくれ、あっちは俺の母親の流れだから断れん。なんとか第三王妃で収めたんだからな…。」
「そうだろうね…次の第四王妃は外から、バルクリア連合王国の議長連の議長の娘さんだね。」
「そして最後が私ですね、第一王妃のアイリス様と、第二王妃のセルシア様、第四王妃のカレン様とは、良くお義姉様とアレクス様の話題で盛り上がっております。」
「第三王妃以外は仲が良好だから第三王妃側が犯人だと?」
「いや…。」
「この種馬…もとい、カルゼイには5人…義妹のお腹の子も含めると6人の子供が居るんだけどね、一男四女で、唯一の男が第三王妃の子供なんだよ。
義妹のお腹の子が男か女かで状況が一変する訳でもないんだけどね…。」
「可能性があるなら生まれる前にってことですか…。」
「そうなんだろうね…。」
「王の何処が良いのか、俺にはさっぱり分からんのだがな。」
「私から見れば王様何て、絵に画いた黄金ですよ。」
「その…絵に画いた物よりはマシだと思うぞ?…マシだと思いたいのだが?」
「まあ、そんな訳で、第三王妃の派閥であるロンダート公爵家が犯人だろうって目されてる。
あそこは今ガタガタだからね。」
「念の為に氷結に護衛を頼んだ後に、ドゥンケルハイトに依頼したって報告が入って来た訳だ。」
「ドゥンケルハイト?」
「依頼達成率100%の殺し専門の連中だね。」
「そのドゥンケルハイトの情報はありますか?」
「そんなにないね、情報と言って良いのか…『千変』と『絶影』って通り名が知られてるだけだね。」
「あの2人ですか…。」
「⁉、氷結は知っているのか⁉」
「命を狙われましたからね、お話して帰ってもらいました。あれは依頼じゃないようでしたけど…。」
「なんで依頼じゃないのに、奴らは氷結を狙った?」
「色々事情があるみたいですよ?まあ、それなら話が早いです、今日中に仕掛けておきましょう。」
「「はぁ⁉」」
「師匠、私は今日から明日の朝方まで護衛できないと思いますが大丈夫ですか?」
「あ、ああ、まだ私だけでも大丈夫だろうから、問題ない。」
「それなら、一応これも渡しておきますね。」
そう言ってシズクはリギットに渡した物と同じ物を2組、カルゼイとリズリットに渡す。
「説明は…。」
「大丈夫だ、リギットにしてたのを聞いている…が、良いのか?これは結構良い物だぞ?」
「そうなんですか?あと13組持ってますから大丈夫です。」
「それ…これとリギットに渡した分も含めて11組…いや、12組売ってもらう訳にはいかないか?」
「別に構いませんよ?」
「そうか、ありがとう、助かる。」
「それでは、私は失礼します。」
そう言ってシズクは扉の方ではなく、窓の方に向かって歩き出す。
「お、おい!そっちは窓だぞ!」
「あ、すいません。私が出たら閉めてもらって良いですか?」
「分かったよ。」
「それではお願いしますね。」
「シズたん…ごめんなさいね。私達の為に。」
「いいえ、お仕事ですから、護衛対象は気にしないでください。」
っと言い残し、シズクは窓から下………ではなく、上へと姿を消す。
「おい、氷結は本当に魔法使いか?あれでは暗殺者みたいだぞ?」
「何言ってるんだ?あの子が魔法使いなんて誰も言ってないよ。」
「「えっ?」」
テレシアは窓の方に歩きながら、カルゼイの問いに答えて、シズクが開けっ放しにした窓を閉める。
「え?でもあの魔法の威力だぞ⁉」
「あの筋肉莫迦を倒してるんだよ?魔法使いには無理だよ。」
「言われてみればそうなんだが…。」
「お義姉様…それならシズたんはいったい………。」
「私も知らない。…何処かの筋肉莫迦が「シズクはシズクだろ?」って言われてね…癪だったけど、納得した。」
「アレクスが言いそうな言葉だな。」
「全くだね、何も考えちゃあいない、本能で導き出した答えは、案外真実に近いかもしれないね…。」