4、ハンバーグと酔っ払い。
簡易厨房に戻ったシズクとリギットは調理を開始する。
3基あるコンロのうち1つはケチャップ作りに使用している為、使用できるのは2つ。
「では、最初にタマネギ、ニンジン、ニンニクを細かくしたものを炒めながら、味付けをします。」
シズクはそれらを炒めながら、塩と胡椒を少々降りかけて、しばらく炒める。
「はい、炒め終わったら次にこのボールにミンチと炒めたものを入れて、卵、そしてまた塩と胡椒を少々っと、水を加えてこれを手でこねます。リったんやってみますか?」
「はい!」
「あっ、こねる前に手を洗って。」
「はい。」
シズクは一生懸命こねているリギットを見守りながら、自分1人でやった方が断然早いが、誰かと一緒に作るのはそれはそれで楽しくもある…っと。
お母さんてこんな気持ちだったのかな?
っと考えていた…。
「はい、その辺で良いです。」
「はい…手がテカテカ、ベタベタしてます。」
「まあ、それは仕方ありません。あとでこれで手を洗ってください。」
「これは?」
「石鹸です。」
「石鹸…。」
「それで王様ってどれぐらい食べそうですか?」
「ん~…あまりご一緒に食事できないので分かりませんが、男性ですから、結構な量を食べられてたと思いますよ?」
「そうですね…師匠と同じでジャンボサイズにしておきますか。
次に今混ぜたネタを適当な大きさにして、こうして、キャッチボール、右手と左手に移動させながら―――。」
と説明して、シズクとリギットの2人でハンバーグを作る。
リギットが女性用3人分、シズクはテレシアと王様用のジャンボサイズを2つを作り、フライパンに乗せ焼く。
「はい、これ。」
「はい…ってこれは何ですか?」
「え?…フライ返し。」
「フライ返し…ですか?」
「うん。まあ実際に見た方が早いか。」
シズクはそう言って、リギットが担当している女性用ハンバーグ3つのうち1つをポンっと引っくり返す。
「こんなふうに引っくり返すときに使う道具。やってみて。」
「はい♪」
リギットは慣れてないので慎重に危なっかしい手つきで残りの2つを引っくり返す。
「で、出来ました♪」
「うん。上手です、リったん。」
「え?ふへ♪」
上手だと褒められ顔をだらしなく頬を綻ばせるリギットを見て、シズクは仮面の下で苦笑いをする。
「…さて、本当は焼きながらサラダを作るんですけど…サラダの方はそんなに時間はかかりませんから、焼き終わってからにしましょう。
リったん、師匠にテーブルの準備をお願いしますと伝えてください。」
「はい♪」
普通はお姫様なので、そんな雑事を頼まれれば怒るところだろうとシズクは思うが、当のリギットは嬉しいのか声を弾ませて、返事をしてから扉の方へと向かう。
戻って来たリギットと共にサラダ作り…の前にハンバーグの方の火を止め、蓋をして余熱で焼き上げる。
シズクが危惧していたのはリギットが包丁を使えるのか?という点だったが、案の定危なっかしいので、手で千切る方に変更して、そちらはリギットに任せ、シズクはタマネギとニンジンを千切りにしてケチャップとソースを和えて炒め、平皿にハンバーグとさっき炒めたケチャップソース和えを盛り付ける。
サラダの方は小さめの深皿の方に…。
「完成っと。最後にサラダにミニトマトを2つずつ添えて終了です。
リったん仕上げお願いします。」
「え?あっ、はい♪」
ちょんちょんっとミニトマトを2つずつそれぞれのお皿に盛り付けて終了し運ぶ段階へ。
何時運ばれてきたのか分からない、パンとワインの瓶にグラス、ナイフとフォークが置かれているテーブルにシズクとリギットはお皿を並べて行く…。
「師匠?」
「分かってるよ。でもその場で対処するのは不味そうだったんでね。」
「そうですか…王様たちには失礼だと思いますが、ワインとグラスは交換させてもらいます。それと…パンも。
街で売られている物ですが、パンとワイン、それとジュースは私のを出しましょう。グラスは厨房からで。」
「すまないね…。」
「いえ、あとで師匠に補充してもらいます。」
「ああ、任せておけ。」
師弟の会話を聞いて、カルゼイとリズリットは何かに気付き、置かれているパンとワインの瓶を凝視する。
リギットはその会話を聞いてないのか、お皿を並べることに集中している。
シズクはパンとワイン、グラスをアイテムボックスになおして、簡易厨房へと戻りグラスを持って戻って来る。
準備が一通り終わったので全員が席に着き、カルゼイの言葉と「乾杯。」という言葉に各自が食事を開始する…はずだったのだが、何故かテレシア以外はシズクの方に視線を集中させている。
「まあ、確かに仮面を着けたまま、食事が出来るような特殊スキルなんて持ってませんから、外しますけど…見過ぎです!」
「お、おう、すまん。謁見の時もそのままだったからな、ものすっご~っく気になってた。」
「そうですね。」
「私もです。」
「期待されても普通の顔ですよ。」
「何言ってるんだ、普通以上だよ。」
「そんなことはありませんよ…。」
と言いながら、シズクは仮面を外す。
「ふむ…確かに普通以上だな、若いだろうと思っていたが十――。」
「カルゼイ。この子は16歳だよ。もう直ぐ17だったかね?」
「そうですね。」
「「えっ⁉」」
「童顔なのは理解してますよ。それに身長も胸も…。」
「シズたんは16歳なのですね♪私と同じです♪」
この場で純粋に年齢を聞いて喜んでいるのはリギットだけで、カルゼイとリズリットの2人はテレシアから2年以上前に拳聖を倒し、魔法に至っては3ヶ月と聞いていたので、見た目よりも実際の年齢は高いのだろうと予想していたが、予想よりも若く、実際にシズクの容姿と年齢に驚いて、カルゼイは余計なことを口走りそうになって、テレシアに止められる形になる。
「ごほん!すまない。ところで…リギット。シズたんというのは氷結のことなのか?」
「はい♪シズクというお名前らしいので、そう呼ばせて頂くよに許可もいただきました♪」
「そうなのか…だが良かったのか?氷結の。名前を伏せていたのではないのか?」
「別に良いですよ。特に名前を隠してた訳じゃありませんから。」
「そうだったのか⁉謁見の時にも名乗らなかっただろ?」
「それは師匠がガンガン話を進めましたから…それに名前を尋ねられた覚えはありません。」
「ん?ん~…確かに。氷結の名前を尋ねてないな。」
「あの時はどこぞの男爵様が文句言い出したからね。」
「ああ…あの時な。文句言った奴ら凍ってたな。」
「足だけです。」
「それはそうなんだが…心も凍てついたと思うぞ?実際。」
「そんなことがあったのですか?」
「ん?…ああ、あの時リギットたちと氷結の顔合わせが翌日にズレただろ?」
「確かに…何かあって翌日にっと聞かされました。」
「それが今も囁かれている、『謁見の間氷結事件』で、その犯人がそこの氷結だな。」
「まあ♪」
「私のことは良いですから。」
「そうですよ陛下。折角シズたんが作ってくれたんですから頂きましょう♪」
リズリットはしれっとシズたんっと、娘と同じようにシズクのことを呼んでいる。
「私も手伝いました♪」
「リギットが…そうか、そうだな♪頂くとしよう。は~むっ。んぐっ⁉」
「ど、どうかされましたか⁈」
「美味い…美味いぞ!氷結の!このレシピを!」
「嫌です!作り方はリったんに一通り教えてますから、そこから努力してください。」
「そ、そうか…。」
「私が再現して見せます!」
何処か気合の入ったリギットの言葉にカルゼイは「楽しみにしている。」と返して、微笑ましい家族の一幕を見ながら晩餐は進み終了する。
「カルゼイ飲み過ぎじゃないか?」
「こにょていろては酔った内には入りゃん!」
そう言いながら、10本目の瓶が空になる。
「しゃて、リギッチョ、すまにゃいが、部屋にもぢょって欲しいにょにゃが…。」
「呂律が回ってないじゃないか。」
「そんりゃことみゃにゃい!」
「師匠、先に片付けをしておきますから…。」
「ああ、分かった。この大きなお子様にはキュアをかけておく。」
シズクはグラスと水の入った瓶、ジュースを残して、それ以外を回収し、簡易厨房の方へと運んでいく。
「シズたんは、私と同い年なのに凄いですね。」
「何が?」
「料理や魔法とか…。」
お皿などを洗いながら、リギットがシズクに話しかけて来る。
「料理はね…必要に迫られてだからね、この国の料理は辛い、辛過ぎる。」
「辛いですか?」
「そうだよ。塩っ辛いし、唐辛子とか使った辛い料理が多いじゃない。」
「そうなんですね、ここ…お城では、そんなに辛い料理は出ませんでしたから…。」
「まあ、リったんの立場なら、知らなくて当然だよ。」
「そうなのでしょうか?」
「ん?知りたいと思うなら、師匠に教えてもらえばいいよ、どうせ暇してるんだろうし。」
「フォイマン様ですか?宮廷魔術士長ですけど…シズたんから教えてもらう訳には…。」
「私?…まあ、こんな機会があればね。」
「は、はい♪その時はお願いします!…ところで、その残った食べ物をどうされるんですか?」
「ん?これは持って帰って、畑の肥料にする。」
「…そうなんですね。」
「さて…これ持ってお部屋でゆっくりしてて。」
そういってシズクは兎を模した林檎が乗ったお皿をリギットに渡す…。
調理をどの程度書くか迷いますね、しっかり書けば長くなり過ぎで…。