1、小麦粉がなかった。
お休みしてる間に書いてみました。
一章、12話ほど書いてますので、3日間で投稿します。
ある森の中…。
少女はコソコソと身を隠しながら移動していた。
「居た…。」
少女は小声で呟き…『アイスランス』と魔法名を小声で唱えると、
少女の発した言葉により氷の矢が1つ少女の近くに発生し、
目の前の兎のモンスターに向かって高速で飛翔して、その頭を射抜く。
「プギャ⁉」
兎は短い叫びを残して氷の矢によってその命を散らす。
「ふぅ~…終了っと♪」
見た目13歳ほどの少女は目の前の大きな兎を死に至らしめ、その兎をアイテムボックスと呼ばれる、亜空間収納ボックスに仕舞ってから、何処かに向かって歩き出す。
「今日は兎のお肉♪お肉♪―――あっ!小麦が切れてたんだった…。
街に行かないといけない…嫌だな~、面倒だな~。」
と少女はぼやきながらも、食事はここでの楽しみの1つなので、歩いていた方向を左へと変更して、街がある方向へと向き、姿が消える。
次に少女が姿を現したのは街の近くの山林、人が滅多に近寄らない場所である。
そこから少女は歩いて街を目指す。
「売れるのは…狼の毛皮と熊っぽいのぐらい?ん~…あっ、トカゲの爪があるけど…売れるかな?」
と少女は考えながら街の方へと向かい、山林を出る前にアイテムボックスから仮面を取り出し身に付ける。
シナトリアの街。
街の入口には衛兵が2人1組で街に入る者、出て行く者をチェックしている。
「お嬢ちゃん、悪いがその仮面を外して顔を見せてくれ。」
「…。」
少女は黙って豪華な短剣を見せる。
「ん?賄賂…か?」
「…。」
少女は黙ったまま首を横に振る。
「そうか…その仮面を外してもらえないと、街に入れられないんだがな。」
若い衛兵と少女と思われる人物のやり取りは多くの衆目を集めるはずなのだが、誰も気にした風もなく、逆に逃げるように足早にその場から離れて行く者すら存在する。
「おい!何を―――⁉」
「あ、隊長。このお嬢ちゃんが仮面を――。」
「莫迦者!すまない、新人なんで許してやってくれ。通ってもらって問題ない。」
年配の衛兵が若い衛兵を叱って、少女に謝罪してから通行の許可を出し、少女は頷いただけで、街の中へと進んで行く…振り向きもせずに。
「あ、あの~隊長?」
「こんの莫迦!あの子が誰だか知らないのか!」
「え?」
「え?って…ああ、お前はここに配属さたばかりだったか…すまん。
だが覚えておけ、あの子がひょぅ…『無唱の魔女』だ。」
「へ?……あのお嬢ちゃんが⁉」
「理解したな?理解したなら次から気を付けろよ。短剣の紋章を見せられただろ?」
「あれ…賄賂かと思いました。記憶に無い初めて見る紋章だったんで……。」
「はぁ~…気を付けろ!この莫迦!短剣にドラゴンを模った紋章があっただろ!
短剣には貴族の身分証替わりに使われるってことはお前も知ってるだろうが、
それとは別にあの子のような特別な許可証とかのその手の意味が含まれてる物があるんだ。
あの子じゃなかったら、その場で殺されても仕方なかったぞ?」
「えっ⁉」
「あの子の短剣にある紋章は英雄、しかもドラゴンはそのままの意味だぞ?」
「そのまま?」
「手を出すべからず。って意味だ。
お前少し紋章について勉強しろ。そんなんじゃ、本当に死ぬことになるぞ?」
「…はい。」
『無唱の魔女』とは
昨年起こったモンスターのスタンピードをほぼ1人で押し止めた人物である…っと噂されている。
普通なら魔法には詠唱が必要であるのだが、詠唱を必要とせず、しかも大規模魔法を行使する規格外の魔法使い…であると同時に無償で人助けをするので、この2つを掛け合わせた呼び名でもある。
少女は街に入ってその足で冒険者ギルドへと向かう。
そこそこ立派な建物が建っていて、看板には剣と杖のマークが掘られている。
少女がその建物の中に入ると、ギルド内はガヤガヤと賑やかだったのが少女を見た瞬間、一瞬にして静まりかえる。
少女はそのことを気にせずに、そのまま買取の受付カウンターへと向かう。
「おう、嬢ちゃんか、今日は何持って来たんだ?」
カウンターに座っていたおじさんは強面であるが、少女に気安げに言葉を掛ける。
少女は黙ったまま、何品かのモンスターの素材をカウンターの上に乗せて行く。
「セキロウの毛皮にフォレストベアの毛皮に…⁉、じょ、嬢ちゃん!この爪!」
カウンターのおじさんは驚いて言葉に詰まっているが、少女はトカゲだと思っているので、目の前のおじさんが驚いている理由がよく理解できていない。
「これ…いや、ちょっと待ってろ、鑑定して来る。」
おじさんは慌てて、トカゲの爪を持って奥へと向かってしまう。
少女はポツンとその場に取り残され、黙ったまま突っ立って周囲の視線を一身に浴びて待つこと、しばらく…。
「待たせて悪かったな、売るのはこれで全部か?」
戻って来たおじさんの言葉に少女はこくんと頷く。
「そうか…これが買取金額だ。」
そう言っておじさんはジャラっと音がする袋をカウンターに置き、少女はその置かれた袋を見て首を傾げる。
「どうした?……ああ、内訳はな、セキロウの毛皮5つで銀貨4枚、フォレストベアの毛皮が3つで金貨1枚。
そして…アースドラゴンの爪3本で金貨15枚、合計で金貨16枚と銀貨4枚だ。」
アースドラゴンとおじさんが口にしたところで、今まで静かだった者達に若干のざわめきが起こる。
それも当然で、アースドラゴンはその名の通りドラゴンである、アースドラゴンは他のドラゴンのように硬い鱗はないが、生命力の強さが尋常ではなく、鱗もないのに物理攻撃、魔法攻撃が効き難い為に上級冒険者のAランク冒険者であっても、単独、あるいは1チームで倒すのが困難なモンスターである。
少女は頷いてから袋を受け取る。
「嬢ちゃん…やっぱり冒険者登録しないのか?登録だけでもしておけば、これより高く買い取れるし、場合によっては依頼があればその分増えるぞ?」
というおじさんの言葉に少女はただ首を横に振って、その意思がないことだけを伝える。
「…そうか、強要は出来ないからな。また売りに来てくれ。」
少女はおじさんの言葉にこくんっと頷いて冒険者ギルドを後にする。
少女の帰った後のギルドは大騒ぎである。
「あのちっこい娘がアースドラゴン倒したのか⁉しかも1人で?」
「あんた、知らないのか?あの子が『無唱の魔女』だよ。」
「へ?」
「かぁ~、うちのパーティーに入ってくれないかな?」
「無理だろうな…。」
「同じ魔法使いとしては師事したいところです。」
「無理だろうな…。」
「あの子の師匠って、確か…。」
「ああ、元Sランク冒険者の…。」
などと色々な会話があちらこちらで行われ、静かだったギルドは再び騒がしくなる。
このギルドに居る冒険者たちは少女に悪感情はほとんど持っていない。
持っていないが…ギルドの上、ギルドマスターやグランドマスター、Aランク冒険者などからすれば、少女の存在は迷惑なものであった。
理由は人助け…人助けをするのは問題ない、無いのだが、それが無償であるという点だけが問題なのである。
しかも高額の依頼になるものまで無償では、ギルドとしては面白くないし、それで生活している冒険者からすれば迷惑でもある。
なので、その辺を気にしていない冒険者たちは少女とお近づきになりたいが、なかなか出来ない状況になっているのである。
当然、ギルドは少女を取り込もうと動くが、ことごとく失敗し、現在に至る…。
「ふん♪ふふ~ん♪思わず大金が手に入っちゃった♪あのトカゲの爪が金貨15枚に化けるなんてね♪小麦は買うとして…日用品、食材も良いのがあれば買って帰ろう♪」
と、少女は露天を始め、色々な店を見て回る。
ここでのお金は金貨、銀貨、銅貨、銭貨が主で、各それぞれに大が付く大金貨などがある。
金貨は1枚4万円相当、大金貨で20万円相当
銀貨は1枚4千円相当、大銀貨で2万円相当
銅貨は1枚4百円相当、大銅貨で2千円相当
銭貨は1つ10円相当、大銭貨で50円相当
っといった感じで銭貨だけが他と少し基準が違う。
何故、お金に金、銀、銅が使用されているのか、それは他の大陸や国でも金銀銅は似たような価格基準である為に、この国以外でも使い易いという理由からである。
因みに今回、少女が手に入れた金貨16枚は大金貨3枚と金貨1枚でも問題ないのだが、大金貨自体がそんなに出回ってない、持っているのは貴族や王族、大商人ぐらいである。
理由は一般の人達からすれば大金貨は手に入り難いという理由もあるにはあるが、使い難い…こちらの理由の方が1番の理由である。
普通のお店で大金貨を使用されると場合によってはおつりがない…という状況も起こり得る。
なので大金貨は存在してはいても滅多に出回らない。
そして、金貨以上の硬貨が存在してはいるのだが…
その硬貨はディアマンテ硬貨、お値段は1枚100万円相当。
ではあるが、その数は少なく、基本存在しない。
理由はお金よりも装飾品などの類に使用されることの方が圧倒的に多い為である。
少女は日用品、食材、調味料などの物を大量に購入するが、調味料が高いだけで、金貨4枚と少しの出費で終了する。
これが普通の冒険者であれば、命を守る為の装備品などにお金を掛ける為、羽が生えたかのように金貨はすぐ何処かへと消えてしまうのだが、少女にとって身を護る装備品にお金を使う必要がない為、少女の出費のほとんどは食材だけである。
今回購入分だけでも少女1人であれば、半年以上は困らない量である。
少女は買い物を済ませ街をを出る。入るときは止められたが、出るときは何の問題も起こらずに外に出ることが出来、その足で山林の方へと歩いて行く。
暇つぶしになれば幸いです。