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幼馴染はドローン

僕の幼馴染はドローン~episode of whiteday~

作者: 月魅

幼馴染ドローンの第一部完結話です。

遅れてのホワイトデーですが、皆さんはちゃんとお返ししましたか?

 やってしまった……。


 ホワイトデーに風邪をひいて寝込むという大失態を犯してしまった僕こと桜田圭は学校から帰るなり部屋の隅で膝を抱えて落ち込んでいた。せっかく今年は幼馴染の小田切空奈が渾身のチョコを用意してくれたというのに僕はホワイトデーにお返しを渡すことが出来なかったのだ。


 今年用意したのはヴァーチャルアイドルの有機燐燐のコンサートチケットだった。空奈が大のファンで前から行きたいと言っていたのだ。なんとかバイトをしてチケット代を捻出した僕は、ちょうどコンサートの日がホワイトデーということもあってデートに誘うつもりだったのだ。チケットは一応母を通して渡してもらったのだが、僕が行けないと知った空奈は行かなかったのだ。僕がいないのならつまらないから行かないって言っていたらしい。


 それどころか僕の看病をしにここ二、三日はいつも学校帰りに寄ってくれたのだ。いつもなかなか起きない僕を起こすために使用される最終起床攻性プログラムの代わりに最終看病防衛プログラムを起動して器用にもアームで僕の額に貼ってある冷ピタを交換してくれたのだ。


「圭ちゃん、大丈夫ですか? 何かして欲しいことがありますか?」


「ありがとう空奈。空奈がいてくれるだけで僕は嬉しいよ」


 プロペラの音が狭い室内に響く中僕は心からの感謝を空奈に伝える。空奈も嬉しそうにでもちょっとだけ恥ずかしがりながらホログラムに映し出された姿をくねらせた。


 艶やかな腰まである黒髪を揺らしながら、宝石みたいに輝く瞳。天使のような声を紡ぎ出す唇は嬉しそうにニマニマしている。美少女としか言いようがない僕の幼馴染は身長20㎝のホログラムだ。


 空奈が身をくねらせるのに合わせてドローンも一緒に変な動きをし始める。どうでもいいけど空奈、落ちるよ?


 そう、僕の幼馴染はドローンに入ったAIだったのです。








 風邪も治った僕はいつまでも部屋の隅で落ち込んでいるわけにはいかなかった。幸いチケットは友人の大島瑠衣と山下光大が行ってくれたので無駄にならずに済んでよかった。


 光大はファンなので喜んでいたけれど、大島は面白そうだからという理由で行くことにしたらしい。もしかして大島は光大のことを……まさかね。


「何としても明日は空奈をデートに誘うぞ」


 僕はそのために再度デートプランを練り直し始めた。空奈相手には通常のデートプランは通用しないのだ。食事を食べに行くわけにもいかないし、服とか買いに行くわけにもいかない。


 だからまずは空奈にとっての服にあたるドローンのパーツを買いに行くとしよう。ついこの間、空奈のドローンに合法の護身用スプレー噴霧装置を組み込んだから見た目が少しだけ悪くなってしまっていたのだ。だからここで素晴らしい外装をプレゼントすればきっと喜んでくれるに違いない。


「あのさ、空奈。今度の日曜日良かったら遊びに行かないかな?」


 次の日の昼休みに大島と話している空奈に声をかける。大島は意外なことに有機燐燐にハマったようで空奈と熱いトークを繰り広げていた。どうでもお前はいつの間にDVDまで買い揃えたんだ大島。それにしても何度も鏡の前で練習したのに実際空奈に言うとなると緊張してしまうのはどうしてなのだろうか?


「日曜日ですか? 大丈夫ですよ圭ちゃん」


 空奈はしばらく手帳をパラパラと捲りながら予定を確認した後答えてくれた。もっとも空奈はAIだから実際に手帳を捲っているわけじゃない。あくまでもホログラムの映像なのだけれど、相変わらず空奈のホログラムは芸が細かい。


 これで汜水関は抜けたわけだ。後は虎牢関を突破するだけだって違う!


 つい休みの間にやっていた三国超人8を思い出してしまう。空奈も大好きなゲームで空奈のお気に入りは合体最強ロボの桃園機兵3だ。爆撃機関羽と張飛ドリルに劉備ロボが合体してできるロボで、次の誕生日はそれの超合金UDXが欲しいとか言っていたなぁ、そういえば。


 空奈は僕よりもそういうロボとか合体とか大好きだからなぁ。今使っているドローンにも合体機構が欲しいとか言っていたけれどどうしろと?


 とにかくこれで約束は取り付けた。後は日曜日になるだけだ。有り難いことに大島と光大がカンパということでデート代にしろとお金を渡してくれた。金額がチケットと同じなのは偶然に違いない。








 デート当日の朝、僕は珍しく自分で起きて空奈を迎えに行くことが出来た。空は晴れていて少し暑いかもしれないけれどいい天気だった。


 しばらく待っていると玄関が開いて悠子さんが出てきた。というのも空奈のアームの力では玄関を開けることが出来ないのだ。


 一緒に出てきた空奈はいつものようにパステルピンクのボディをピカピカに輝かせながら、機嫌が良さそうに踊っている。よく見ればプロペラが以前僕があげた蛍光プロペラに換装されていた。ホログラムの空奈も春らしい桜色のワンピースを着ていた。清楚な雰囲気の空奈によく似あっている。


「おはよう空奈。その蛍光プロペラ似合っているよ。あと今日の服も可愛いよ、まるで春の妖精みたいだ」


「えへへ~、ありがとうございます圭ちゃん。圭ちゃんは今日もかっこいいですよ」


 ああ、僕は今すぐにでも婚姻届けを取りに行きたくなる。でもまだ情けないことに告白すら出来ていない。だから僕は今日こそは空奈に告白するつもりなのだ。


「それじゃあ行きましょう圭ちゃん。お母さん行ってきまーす」


 悠子さんに手を振って歩き出す。まず最初の目的地は水族館だ。最近出来たばかりで何と言っても目玉は天井までガラス張りの展示だ。凄いことに大きな魚も泳いでいるのを下から眺めることが出来るのだ。


「楽しみだね空奈。僕はジンベエザメが見たいかな?」


「それもいいですね。私は小魚の群れが見たいです」


 予め用意しておいたチケットを受付で見せて中に入る。もちろんホワイトデーのお返しなので空奈に払わせる気なんてなかった。受付のお姉さんが空奈を見て驚いていたけれど、予め許可は取っていたから問題はない。小田切のおじさんの弟である小田切博士は凄い科学者らしくあちらこちらに顔が利くのだ。今回はそのコネを大いに使わせてもらっている。


「凄いですよ! 圭ちゃん! あんなに沢山のお魚がいっぱいです!」


「ほら空奈! ちゃんと周りを見ていないと危ないよ!!」


 嬉しさのあまりついはしゃいでしまう空奈を捕まえながら僕らは一緒に展示を回っていく。空奈は何故かヒトデの展示が気に入ったようでしばらくそこに張り付いていたくらいだ。


「空奈、イルカショーが始まるらしいよ。行ってみようよ」


「イルカですね! ぜひ行きましょう圭ちゃん!」

 

 空奈も僕もイルカを見るのは初めてなので楽しみだ。光大は触ったことがあるらしくナスみたいな肌触りだと言っていたっけ。






「可愛かったです! イルカってあんな風に跳べるんですね! 私ビックリしちゃいました!」


 イルカショーも終わり人が移動していく中で空奈は興奮冷めやらぬ様子で力いっぱい可愛さを力説していた。ドローンの上でこぶしを握りながら力説する姿はとても可愛らしく、僕にとってはイルカよりも空奈の方が可愛いかった。


「そろそろお昼だね、空奈お昼なんだけどちょっといいかな?」


 僕はそう言って空奈にデータを転送する。データの中身は小田切博士特製のお弁当データだ。正直に言えば何がどうなっているのかは分からないけれど、博士曰く空奈が一緒に食事を取っている気に成れるデータらしい。



 僕はフードコートでサンドイッチとコーヒーを買ってくる。デートだからあまり匂いのキツイものは避けないとね。


 空奈の目の前には可愛らしいお弁当箱が置かれている。ピンクの熊のお弁当箱なんだけれど、もしかして小田切博士の趣味なのだろうか?


「ありがとうございます、圭ちゃん。圭ちゃんはいつも優しいです」


「そんなことないよ、僕が優しいのは空奈が相手だからだよ」


「それでも圭ちゃんは優しいです。私はそれを知っています」


 空奈にまっすぐに見つめられるとちょっとだけ恥ずかしくなって目をそらしてしまう。やっぱり好きな子に褒められると嬉しいのだけれど、気恥ずかしさも出てしまうのだ。


「ほら、食べよう! まだ時間はあるけれどいろいろ行きたいからね!」


「はい!」


 空奈はそんな僕の照れ隠しに何も言わずに微笑んでくれたのだ。






 それから僕らは水族館を後にしてドローンショップに行ったりもした。空奈に新しい外装を買ってあげたくなったのだ。もちろん飛行するためにバランスは考える必要はあるけれどそれは問題ない。僕が自分でカスタマイズ出来るからね。


「圭ちゃん! 私この収納型の小型ドローンが欲しいです!」


「……何に使うの?……それ」


 その小型ドローンは普段はドローンの中に内蔵しておいて、必要に応じて射出するというものだ。大体は危険な現場や人が入るには狭すぎる場所の確認のために、ドローンを送り込んでそこからさらに小型ドローンでもっと狭い場所を確認するという使い方になるのが普通だ。


「圭ちゃんがカスタマイズしてくれれば機甲戦士ガルダーンみたいに自動誘導兵装に出来るんですよ! これはやらなきゃです!」


 やるな! そんな物騒な物を作ったら捕まるよ!


「あのね空奈、合法でない武装は捕まるからね。僕は空奈と離れ離れになるのは嫌だよ」


 興奮している空奈をなだめるように僕はドローンを捕まえて話す。空奈も興奮していたことに気が付いたのか恥ずかしそうにそうだねと呟いた。


 代わりというわけではないけれど、僕はドローン用のシールを買って空奈に渡した。何度も貼り直しが出来るシールでデコレーションするに持ってこいなのだ。


「ありがとうございます、圭ちゃん。大事にするね」


「喜んでくれればいいよ」


 そのまま二人でゆっくりと散策をしていると日が少しずつ暮れ始めてきた。僕らは何となく近くの公園へと足を向けた。高台にある公園は街を見下ろすことが出来て夕日に染まる街は綺麗だった。


「今日はありがとうございます、圭ちゃん。今日のデートってホワイトデーのお返しだったんですよね?」


 夕日に照らされて空奈のドローンも赤く染まっていく。プロペラの音が誰もいない公園に響いていく。空奈は微笑みながら僕に聞いてきた。


「……うん。ホワイトデーのお返しにコンサートを用意したけれど行けなかっただろ。だから今日こそはって思ってね」


「とっても楽しかったです。それで圭ちゃん、これ受け取ってもらえますか?」


 そう言って空奈はアームで小さな箱を掴んで僕に渡してきた。


「開けてみてもいい?」


 僕が聞くと空奈は恥ずかしそうにはいと言ってきた。丁寧にラッピングされた箱を開けていくと中には銀のネックレスが入っていた。


「これは? というかいつの間に!?」


「圭ちゃんがトイレに行っている間に予め用意しておいたお店に取りに行ったんです」


「そうなんだ……でも、なんでまた?」



「ほら、私も着けているんです」


 そう言って空奈が胸元を指さした。そこには同じネックレスが輝いている。


「お店の人に聞いてデザイン料だけを払って使う許可を貰ったんです。これでお揃いのが着けられるから……その……」


「空奈、僕と付き合ってください!!」


 可愛すぎた。恥ずかしそうにモニョモニョ言う空奈の可愛らしさに気が付けば僕は告白していた。


 ……って本当はもっとスマートに決めるつもりだったのに何をしているんだ僕は!!


「……はい」


 しまった! 空奈が恥ずかしそうにうつむいてフリーズしている! 僕はなんてミスを……って……あれ? 今はいって言った?


「その……AIだし……体ないし……ドローンだけど、私でよければ彼女にして下さい、圭ちゃん」


「うん! うん! もちろんだよ! 僕は空奈がいいんだ! ありがとう空奈!」


 嬉しい! 嬉しすぎるよ!


 恥ずかしそうにうつむく空奈を僕はドローンごと抱きしめた。体がないとかAIだとかそんなことはどうでも良かった。僕には空奈が必要なんだ!


「これからはその……彼女として……よろしくお願いします」


「……空奈、あんまり可愛いこと言わないでね。僕はこのまま婚姻届けを取りに行きそうだ」


「気が早すぎますよ! 私達まだ17歳です!」


 だって空奈が可愛いのがいけないんだ!


 僕らはそんな風にじゃれあいながら家路へと着く。これからも僕の隣には君がいるだろう。


 世界でただ一人のAIでドローンな幼馴染が。








 ちなみに後日談として、空奈が体がないことを気にしていたことを知った小田切博士が、体のことはじきに解決すると言っていたけれど……どういうことか怖くて二人して聞けなかったりする。

次回からは僕の彼女はドローンですが始まります(え?


まぁ、いつになるか分かりませんが。

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― 新着の感想 ―
[一言] 読ませていただきました。 申し訳ない話ですが自作小説の校正・校閲に疲れてしまい、休憩にと三部作の一作目を読み始めました。 読み始めたときには、彼女がドローンだという設定に違和感を感じていた…
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