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第八話 夜に咲く花

前回と違い、ちょっとシリアスに書いてみました。うまく書けているとは言えませんが、楽しんでください。


 天宮家 side天宮


 いつものようにガーディアンでの見回りを終えて帰ってくると、モノリスが点滅していた。メールが届いていることを知らせる物だ。

 全く、今日はこの魔法都市に侵入者が現れたと報告され、ガーディアンが全員で探索に出かけさせられたのだ。次は八族か。

 それにしても、八族からの新着メールが来ているらしい。あれから一通も来ていなかったが、緊急事態でも起こったのか。


「『天』

 緊急の依頼だ。処分予定だった『神』の一人がそちらに逃げ込んだ。

 そちらの警察が不法侵入で捕まえる前に処分せよ。

 処分した後にはこの街の出入口にサポート要員を配置している。そいつらに後始末は任せればいい。」



 『神』がしくじったのか。『遠』までもが取り逃がしたということは相当な実力者と考えられる。そんな奴が任務に失敗するのは想像もつかないな。

 しかし、仕事は仕事。俺がやるべきことをやるだけだ。

 そこに一切の私情は必要ない。任務に失敗したら、死ぬのが当たり前。この仕事をやる以上、覚悟しなければならないことだ。


「とにかく、準備でもするか。」


 戦闘衣に着替える。『天』の戦闘衣は黒を基調としており、俺専用であることを示すのは左胸のところに刺繍された『薔薇の十字架』だ。

 俺は普段学校には持って行かない武器を取り出す。

 部屋に飾ってある刀や銃のコレクションは偽物だ。本物だけは別のところに保管されている。

 鞘に納まった刀を二本と綺麗に装飾された銃を取り出す。

 銃の方は十字架をイメージした装飾がされているが、二本の刀の方はあまり装飾はなく、人を斬るために造られた物であることがわかる。


「一ヶ月近く、出す機会がなかったからな。ちょっと埃がついてるな。」


 簡単に武器の手入れをしておく。いきなり警察などに見つかるほど、相手も馬鹿ではないだろう。

 俺が持つ携帯にもメールが届いた。


「一応こちらにも送らせてもらう。用件は先ほどと同じだ。

 追加として、『神』が逃げたのは北区だ。くれぐれも性急に頼む。」


「はいはい、分かっていますよ。『薔薇十字』、行かせてもらいますよ。」


 俺は素顔がわからないように仮面をつけると、予め家の地下に繋がるように作られた地下通路に降りる。

 ここは魔法都市が作った緊急用の通路であり、都市中に張り巡らされている。

 この家もその通路につながっている。俺の正体を晒すわけにはいかないので、これを使って地下から目的地まで行かなくてはならない。

 今回の目的地は北区のどこか、潜伏しているのだろうが、俺には関係ない。




 地下通路


「今は北区の12番通りだ。そこから南に進行中。」


 十五秒おきに『遠』から位置情報が送られてくる。俺の住所は北区の24番通り、ここは18番通りぐらいだから、そろそろ上がっておくか。





 15番通り


 俺がここで気配を殺しながら待っていると、向こうの方から標的が現れた。

 向こうも俺に気付いたのか、足が止まる。その選択は正解だな、もし一瞬でも逃げようとして背中でも見せたら、一撃であの世に送ってやったのに。


「誰だ。」


 馬鹿な問いだ。俺が誰か分からないのか。いや言いたくもなるだろうな。表面上はただの魔法使いでしかないこいつが追われる理由は一つなんだから。


「用件は言わなくても分かっているな、神河。小さい子どもでもあるまいし、失敗したら、どうなるかぐらい分からんわけではないだろう。家に泥を塗るとは、馬鹿なことをしたもんだな。」


「ちっ。」


 相手は魔法具を抜き放つ。武器の形状は普通の剣タイプか。腕前はそれなり、何故あんな簡単な任務を放棄した上に、妨害したんだ。


「まぁ、その理由はどうでもいいか。とりあえず大人しく処分を受けるつもりはないみたいだな。処分させてもらうぞ。」


 俺も刀を抜き放つ。今回銃は必要ない。向こうの希望は痕跡も残さずにだ。この刀の方が都合がいい。


「ふざけた仮面をつけやがって、どこの派閥だ。」


 ふざけた仮面って、それなりの仮面を選んだつもりなのだけどな。

 それにしても、なるほど馬鹿なことを言うかと思えば、胸に付いているこの紋章が見えてなかったのか。


「殺した奴の名前が分からなければ、あの世の道中で迷うだろう。俺の名前は『薔薇十字』、これだけで十分だろう。」


「ば、『薔薇十字』だと、お前が『天』の派閥の人間か。」


 もはや多くを語る必要はない。ただ目の前の敵を殺すだけ。

 俺は黙って刀を構える。一撃で殺す。二の太刀いらず、あまり時間をかけるつもりはない。


「こんなところで死ねるか。俺には俺の人生があるんだよ。」


「俺は貴様の戯言には興味はない。失敗したのなら、とっとと死ね。」


 ザクッ、


 俺の影と敵の影が交叉する。

 俺の手に刀はない。今は相手の胸に刺さっている。単純に突き刺しただけ、抜くことを考える必要はない。


「グッ、くそ。ま、まだ勝負はついてねぇ。俺はお前の想像以上にタフだぜ。刀を刺すなんて、馬鹿なことをしたな。自分から得物を手放すとは。」


 何やら言っているようだが、もはや死ぬ者に耳をかす必要はない。

 もうこいつに話すことはない。ただ刀に命じるだけ。


「吸い尽くせ。」


「ぐっ、ぐは。な、なんだ。血が、血が、俺の血が。」


 違和感に気付かなかったのか、この愚か者は。刀に貫かれたにも関わらず、地面に血が一滴も落ちていないことに。

 俺の目の前にミイラみたいに乾いた死体があるだけだ。後始末が厄介な血痕は決して残さない。


「これを出入口まで運ぶのか。」


 とりあえず死体を担ぐと、地下に降りる。戦闘前に結界を張ってあるので、他人に見られた心配はない。衛星にも写っていないだろう。




 魔法都市 出入口


「お疲れ様です。」


 出入口を出て、すぐのところにサポート要員が数人、待機していた。


「では、神河の遺体の方を確認させてもらいます。うっ。」


 まだ若い(若いといえ、当然俺よりは年上だ。)サポート要員は口元を抑えると、すぐに離れた。

 近くにはもはや顔見知りになったサポート要員もいる。

 その一人が今、目の前にいる女性のサポート要員だ。彼女は俺ぐらいの歳からサポート要員として働いている。


「いつものように、この死体の後始末だけで宜しいですね。」


「あぁ、いつも通りに殺らせてもらった。証拠になるモノは魔力すらも残していない。」


 魔法犯罪の場合、専用の魔力探知機を使えば、魔力を正式に登録されているならば、誰が使ったのか一目瞭然なのだ。

 しかし、あの結界は個人の魔力ではなく、空気中に拡散している魔力を集めて作られたモノだ。

 八族が持つ魔法具がそれを可能にしている。これは八族が仕事に行く時には絶対に使用するモノの一つでもある。


「未熟なサポート要員で、すみません。彼は今日配属されたばかりなのです。

 『神』を逃がしたのも実は彼が足を引っ張って、罰を与えるならリーダーの私が代わりに受けます。」


 目の前の女性が頭を下げるのを見ながら、吐きそうにしている若いサポート要員の方に目を移す。

 八族の直系でありながら、サポート要員になったこいつ。誰一人も無駄死にさせないためです、と俺に向かって自信を持って宣言してみせた。

 俺も甘いな。八族の法に倣うなら、リーダーであるこいつは謹慎、逃がしたあいつは速攻で処分だろう。


「別にいい。それより、貴方は戻る気はないのか。」


「はい、ありませんね。」


「弟であるあいつが死んでもか。」


「はい、あの子は、こちらは聞いてないでしょうが、あの子は逃げる時、サポート要員を数人殺しているのです。

 さすがに私も同僚を平気で殺すような弟を守る気はありません。

 サポート要員を軽く考えているようではいけませんから。」


「そうか、神河も残念でしょうね。『神』最強の娘と呼ばれた貴方がいなくなって、神河は代表から外されましたし。

 『神』も大分弱体化してきているし、そろそろ呼び戻されると思いますよ。」


 この人の名前は神河(カミカワ) 優音(ユウネ)、かつて俺の先輩として俺に全てを教えてくれた。

 しかし、サポート要員を軽く考えて、平気に捨て駒に使う八族をその目で見て、サポート要員になった人だ。

 それ以来、俺の仕事には必ず来てくれる。俺もサポート要員はできる限り、遠ざけて闘うようにしているし、危険な時はサポート要員に偽情報を流して逃がしたりしている。

 まぁ、優音さんには全てお見通しらしく、偽情報に騙されることなく、待機地点で待っていてくれているのだが。


「先に本部に送って。私は後から行くわ。」


 優音さんは部下のサポート要員を先に帰してしまった。誰もいなくなると、少し砕けた口調に変わる。


「学生生活は一度しかないんだから、楽しみなさいよ。」


「いつまでも俺は子どもあつかいか。」


「いつまでもに決まっているでしょう。あなたはまだ私から見れば、まだまだ子どもでしかないわよ。」


 二人になったので、俺が仮面を外すと、頭を撫でられる。


「俺は俺の目的のために生きている。

 優音さん、サポートいつもありがとうございます。俺は今の場所に帰ろうと思いますので。」


「そう、頑張りなさい。でも、あなたはまだ抜けられる。そのことを忘れないで。闇の中で生きることに慣れないでね。」


 優音さんは最後に俺の頭を撫でると、海中通路を戻っていった。

 一人残された俺はポツンと呟く。


「それだけは無理です、いくらあなたの頼みだとしても。

 俺が天宮に生まれたことで、運命は始めから決まっていました。天宮の宿命には坑がうことはできないですから。」


 今の居場所に帰ることにしよう。

 昼間の光と夜の闇、遥たちは光の住人、俺は夜に咲く一輪の花にすぎない。

 闇夜でしか咲くことが許されない一輪の花。そして、近づく者はその美しさに惹かれて命を落とす。



 『闇夜の薔薇』



 俺は血だらけの道を歩いていく。唯一、俺が望める未来を目指して。




 第一章 完


二回目の戦闘です。一瞬でしたが、こうした方が良いと意見がある方は意見をお願いします。もちろん一回目の戦闘についても意見があるならよろしくお願いします。

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