第六話 楽しい食事会
人物紹介はまた今度にさせて頂きます。少し人物に変更を加えたいので、延期させてもらいます。
神龍高校 side天宮
俺が風紀委員会に所属することが公表されると、校内に旋風が巻き起こった。
異例の転校生だけでなく、異例の『ガーディアン』入りに全校生徒の注目が集まった。
遥の生徒会入りも全校を驚かせる事態になったが、今回はそれを超える騒ぎになっていった。
俺が一人で見回りをしていると、誰か分からない人から魔法が放たれる。
クラスメートからの反応も微妙だった。『ガーディアン』入りを狙っていた奴もいたのだろう。
そんな奴らからすれば、俺の存在は面白くないというわけだ。遥と仲がいいこともそれに拍車をかけていた。
そんなふうに転校してきて1ヶ月ほど経ってくると、俺の実力がわかったのか嫌がらせをする奴はいなくなった。
生徒会室
「そろそろ慣れてきたんじゃない。襲われる数もなくなってきたんじゃない。」
「まぁ慣れてはきましたね。襲われたのはどっかの先輩が煽ったとのことを聞いたんですけど。」
「それは大変だったな。でも、相手には一人も怪我もさせずに捕えたそうじゃないか。」
橘先輩は知らぬ存ぜぬの表情をしたまま、ぬけぬけと聞いてくる。
「びっくりしました。声をかけようとした瞬間、魔法が大量に向かっていきましたから。」
皇先輩は俺に話しかけようとした時に俺が襲われたのを見て、生徒会に報告したらしい。
そのおかげで襲われる回数は一気に減った。
その背後には橘先輩の姿があったのだ。
「つまらないな。大怪我でもしてくれたら面白かったんだが。」
「俺が来なくなったら、どうするんですか。
最近、橘先輩が判子を押す以外にやっていることって何かありましたか。」
「うっ、」
弁当を食べている手が止まった。汗が大量に出てきている。
「もしかして書類作成って天宮くんがやっているんですか。」
「万理と恭夜に報告ね。」
皇先輩の驚きの声と生徒会室に置かれている設備に手を伸ばす嵯峨会長。
あれでメールを出しているのか。起動させると、メール画面を開く。
「うわっ待ってくれよ、秋帆。真木だけは勘弁してくれ。」
先輩たちがじゃれあいをしているのを見ながら、弁当を食べているとここに連れてこられた理由について聞く。
「橘先輩の説教は置いておいて、会議ってどういうことですか。」
「あぁ、お前と一緒に昼飯を食べようと思ったんだよ。姫野抜きでな。」
「何か話でもあるんですか。」
「いえ、特にないわ。ちょっとしたコミュニケーションじゃない。」
嵯峨会長のニコニコした表情からは感情が読みにくい。俺は皇先輩の方を向いて確認しておく。
「本当に何でもないんです。私は姫野ちゃんとのことを聞きたいなと思って。」
遥とのこと、ただの幼なじみでしかない。親同士の仲がいいため、小学校時代にはよく遊んだが、3年間はお互いにやりとりはなかった。
たまたま魔法都市に来るようになって、再会したにすぎない。
そう考えると俺は遥のことは何にも知らないんだな。
「えっと、天宮くん。聞いてる?」
「遥はただの幼なじみですよ。両親の仲がいいこともあって、幼いころは一緒に遊んでました。」
呼ばれていることに気付いて、慌てて反応を返す。
「あれ、恋人同士じゃないの。」
「違います。第一、俺と遥は釣り合いません。遥には俺よりいい奴がいると思いますし。」
「気付かぬのは本人だけか。二階堂もじれったいだろうな。」
橘先輩が何を言ったのか知らないが、どうでもいいことだろう。
いきなりポケットの中が震える。
取り出すと、それはペンほどの大きさをした機械である。
「蓮くんってスクリーンタイプなの。」
そう、これは携帯の一種なのだ。
今の携帯は二種類あり、一つは構造は前時代と同じく打つ部分と液晶が分かれているタイプ。
スクリーンタイプは棒の部分以外はスクリーンになっているため、持ち運びが非常に楽である
「まぁ、こっちの方が楽ですし。」
スクリーンタイプは非常に高く、扱っている会社もまだ少ないので市場に出回っている数も少ない。
俺も裏の関係者でなくれば、こんな物は持っていないだろう。
しかし、片手で簡単に扱えて、スクリーンも綺麗なので俺は愛用している。
「いいなぁ。それ高いから諦めたんです。だって携帯で10万円を超えていましたから。」
メールを確認すると、遥からだった。
「帰ってこないから、教室で3人で食べている。」
「姫野からか、悪いことをしたな。まぁいい、他にも聞きたいことはある。」
「はい、この中で一番綺麗だと思うのは誰。蓮くんの価値観で判断してくれていいわよ。万理と遥ちゃんを入れてもいいよ。」
「何ですか、その質問は。」
「ほらほら、答えて、答えて。」
橘先輩は面白そうにこちらを見るだけ、唯一頼りになりそうでならない皇先輩までも俺の答え待ち。
「そうですね。綺麗っていうなら嵯峨会長です。でも、可愛いという評価なら皇先輩ですし、かっこいい女子なら橘先輩になると思います。」
「顔色変えずにそんなこと言いますか。からかいようがないなぁ〜。」
「やっぱりからかっていたんですね。」
ため息をつくしかない。この人は何を考えているんだろう。
「か、可愛いって。」
「真っ正面から言われると照れるな。」
それにしても、橘先輩の弁当は自作と聞いた。おかずを交換したが、かなりの腕前だった。
皇先輩も可愛らしく作られた弁当もおかずをもらったけど、美味しかった。
一方、嵯峨先輩は明らかにコンビニで買われた弁当だ。
「嵯峨会長は料理ができないんですか。」
「ちっ、違います。朝起きるのが遅いだけです。」
「嘘をつかないでください。会長が持ってきたお菓子を食べた二階堂くんたちは二週間も入院したんですよ。」
「秋帆が作ったお菓子を食べた男子が倒れてできた『死の調理実習』。
その後、調理実習で準備しかさせなかったはずなのに、男子が倒れた『死の調理師』の異名は伊達ではない。」
「危険ですね。」
「家では台所付近に幾つか部屋が作られて、近づくことすら拒否されているという噂も。」
「そんな事実はないわよ。」
「しかし、本人はそんな料理を食べても平気だから、その舌と胃袋は永遠の謎と噂されているんだ。」
「ちょっと、そっちも聞いたこともないんだけど。」
よっぽど料理が下手なんだな。っていうか料理で人を殺せるのは一種の才能だな。
「待ってなさい。明日は私もお弁当作ってくるから。明日も生徒会室に来てね。」
「遥と友人を読んでもいいですか。」
せめてもの抵抗だ。俊介を犠牲にさせてもらおう。
「う〜ん。部外者を入れるのはマズいんだけど、ばれなきゃいいわ。」
「明日は友人との約束が。」
皇先輩は逃げようとするが、
「観月は明日も生徒会室に来るって、蓮が来る前に言っていただろ。むしろ、」
「ストップです。ストップ。」
橘先輩がストップし、何かを言おうとした途端、皇先輩は机の上に乗り出して、口を塞いだ。
「私は風紀委員の仕事があるから、欠席だな。残念、残念。」
白々しい笑いをする橘先輩を一人だけ逃がすわけにはいかない。絶対に道連れにしてやろう。
「明日の当番は高山先輩と井上です。
ついでにデスクワークにしても、昨日の放課後に全部終わらせました。先輩も判子を押したので、わかっていますよね。」
俺が橘先輩に逃がしませんよ、と言外に警告を放つ。
「くっ、確か
「会議もないんでしょ。さっき、そういうふうに言ってたから。」
逃げ場がなくなり、橘先輩の顔色が悪い。よっぽどトラウマでもあるのか。
その間に皇先輩に確認をとる。
「その噂って一年生も知ってますか。」
「姫野さんは知っていると思う。一回だけ料理の話をしたことがあるから。
天宮くんは料理できるんだね。」
「一応一人暮らしですから。
後、別に下の名前で呼んでもいいです。どうせ嵯峨会長も橘先輩も下の名前で呼んでますから。」
「じゃあ、れ、蓮くん。」
顔を真っ赤にさせて返事をしてくれる皇先輩。この部屋、そんなに暑いか。
「決定。明日は蓮くん、遥ちゃんとそのお友達、唯と観月ちゃんに私で昼ごはんね。」
ぐったりとした様子の橘先輩、必死に言い訳を探していたみたいだが、全部論破されたらしい。
女子寮 唯の部屋 side橘
あまりに恐ろしい。
私は女らしくないことを自覚しているが、大抵嫌われるモノは平気だったりする。
台所に出てくる黒い○○○○だって、蛇も蛙も鼠もミミズだって触りたいとは思わないが、平気だ。
でも、秋帆の料理だけは別。あれだけはダメだ。人間、いや生物が食べるモノではない。
食べ物に分類するのも『食』に対して冒涜だと言われている。
何とか自分が生き残るために、私は秋帆の弁当に手を加えようと秋帆の部屋を訪れることにした。
秋帆の部屋
「もう作り終わった。」
「違うわよ。下ごしらえが済んだだけって言ったのよ。」
それなら終わったも同然だ。殺人料理の下ごしらえが完了って早くないか。まだ夕食ぐらいの時間だぞ。
「唯って晩御飯食べたの。まだなら私と一緒に。」
「それならさっき食べてきたばかりだ。」
焦る。さっき食べてこなかったら殺人料理を食わされたのか。
「どうやって作ったのか、今後の参考までに教えてくれないか。」
数十分前 side嵯峨
「もう失礼なんだから。誰が殺人調理師よ。
みんなをあっと驚かせてやりましょう。」
自分の買ってきた材料を確認する。
鶏肉・パン粉・卵・牛肉・ピーマン・筍・チョコレート・ハバネロ・その他もろもろ
後は色々間違っているとしか言えない。
まずは唐揚げだと、さっそく包丁で鶏肉を切っていく。
これは唯の好物だ。絶対にお弁当に唐揚げを入れている。
それに卵の代わりにチョコレートでやってあげたら、もっと喜ぶはず。チョコレートも好物だったはず。
次は青椒肉絲、辛い物が好きな観月ちゃんのためにハバネロをピーマンの代わりに入れて、特製ハバネロソースを絡める。
予め準備したら明日の朝に炒めるだけですむ。
蓮くんの好物は何か分からないな。
「餃子の皮があるから、餃子にしようかな。全部混ぜたらいいかな。嫌いな物があっても、好きな物が打ち消してくれるはずよね。」
私って天才。
全部混ぜてこねる。牛肉も鶏肉もチョコレートもピーマンもハバネロも目につく物を全部混ぜてみた。
焼くのは明日の朝にやればいい。皮に中身を包んで、はい完成。
ご飯を炊くのを忘れたらダメだった。
えっと水の代わりにお酢をいれたらいいんだよね。お酢なら身体にもいいし。
セッティング完了、後は明日の朝にやれば、完成。
私の実力を見せてあげるわ。
現在 side橘
過程を聞いているうちに気が遠くなりそうだ。
何だ、今のは確かに料理だった。でも、内容がまともじゃない。
チョコレート、ハバネロ、全部混ぜた、明日私たちがそれを食べないといけないのか。特に蓮の奴が可哀想だな。
「秋帆、私も手伝うから、一緒に作り直さないか。」
「何でよ。私のやり方に文句があるの。
どう考えても完璧じゃない。」
自信満々の秋帆を見ていると、間違いを指摘する気がなくなった。
台所を見てみると、まともに作られた唐揚げもあるみたいだな。明日の昼ごはんはそれを素早く奪うとするか。
蓮たちと観月には泣いてもらう。これも私が生きるため、悪く思わないでくれよ。
まぁあ、蓮たちが困る様が面白そうというのが本音なんだがな。
「まぁいい。明日のお弁当、楽しみにしておく。」
秋帆の部屋から出る。これ以上この部屋にいたら、死ぬ。匂いがヤバいことになってきている。
入った時は気付かなかったが、どんどん臭くなってきている。
次の日、地獄を見ることになるのは誰なのか。
やってみた、後悔はしていない。すみません嘘です。書いてみて、めっちゃ後悔しました。後編どうしましょう。