第四話 二階堂の挑発
第一話のサブタイトルを少し変更しました。どうかこれからもこの小説をよろしくお願いします。
転入二日目 錬武館
「始めるが、二人とも準備はできているな。それと先に言っておくが、開始前から魔法を使うのは禁止だ。違反したら私が全力で叩き潰してやる。」
橘先輩が俺と二階堂先輩に確認する。ここは錬武館、今の時間は五時間目の授業中のはずだが、今回の決闘を非公式にするために、授業免除で行われることになった。
ここにいるのは嵯峨会長と遠井先輩、それに真木先輩に皇先輩の四人と遥もここに来ていた。
「なんでこうなるんだよ。」
場内にいた俺のつぶやきを聞く人はいなかった。
昼休み
放課後にでも、入会させてもらえるようにお願いしようかと思っていたが、昼休みに四人で昼飯を食べようとしている時に急に呼び出された。
「会長から、ちょっと話があるから蓮と一緒に生徒会室まで来てほしいだって。」
「いったい、何の用だ。とりあえず今日の放課後までは考えさせてもらえるという約束のはずじゃなかったか。」
「私は知らないわよ。私だって今知ったところなんだから。」
「おいおい、蓮。いったい何をやったんだ?昨日は放課後まで返事を待ってもらうことになっていたんじゃなかったけ。」
「大丈夫なんですか。」
「大丈夫だと思うよ。どうせ会長の気まぐれだと思うから。あの人は結構思いつきで実行することがあるし」
身も蓋もないことを言う遥、相手は先輩なのにえらく遠慮がないな。
約束をすっぽかすことになるので、帰り道にでも二人には何か奢ることを約束して、遥と一緒に生徒会室に向かった。
生徒会と風紀委員会への勧誘以外での心当たりは全くない。遥の方も頭をひねっていた。
俺の方は嫌な予感がしていた。
今日の朝、学校に行こうとして家から出ると、道の上にはクロネコが大量にいて歩く場所もなかった。近くの電柱にはカラスがびっちりと並んでいた。
これが不幸なことが起こる前兆でないならば、迷信など消えてなくなるだろう。
一年生の教室が二階にあり、二年、三年になるにつれて上の階になっていく。そして職員室は一階だ。
階段を上がる足が重い。嫌な予感が全く消えず、上になるにつれて強くなってきている。
「ほら、蓮。さっさと行くわよ。ぐずぐずしても、結果は変わらないし、先輩を待たせるだけだから。」
「わかっているよ。」
確かにあんまり先輩たちを待たせるのも良くない。
俺は少しだけ歩くペースを上げた。
生徒会室まで来ると、遥がカードを取り出してリーダーに通す。
「本人認証完了シマシタ。姫野遥サン。入室ヲ許可シマス。」
リーダーからの機械音声が終わり、鍵が開いた音がする。
「一年A組、姫野遥です。天宮蓮も一緒です。失礼します。」
遥はドアを開ける。俺もその後に続いて、中に入る。
中には昨日と変わらないメンバーが生徒会室に集まっていた。
「あっ、呼び出したりしてごめんね。こっちの都合で悪いんだけど、ちょっと問題が出てきたの。二階堂くんが全然納得してくれなくて。なんで納得してくれないんだろうね。」
俺たちが来るとすぐに、嵯峨会長が愚痴り始める。どこか嘘らしい様子がある。
前から思ったが、この人がこういうふうに振る舞うのは、わざとだと思う。何を考えているのか、表面まではわかっても、本音が読めない。
二階堂先輩の顔を見れば、本当は別の用件であることがわかる。
橘先輩が微妙に笑っている様子からすると、俺が風紀委員会に入ることが決まったのか。それともこれから面白いことが起こることを期待しているかのどちらだろう。
「嵯峨会長、そんな愚痴を言うためだけに呼び出したわけではないでしょう。別の用件があるのではないですか。」
俺がそう言うと、遠井先輩が口を開いた。
「私たちはあなたの前通っていた学校の成績を知って、生徒会か風紀委員会に入ることを認めていたわ。でも、それだけでは納得できないのは、あなたもわかるでしょう。」
俺が前に高校に通っていることにされたのは初耳だった。
しかし、先輩の言い分はわかる。確かにデータでしか知らない成績だけで信頼しろって言う方が無茶だろう。俺だって信用しないし、ここにいる人も完全には信用していないみたいだ。
「先輩が言いたいのは、とりあえず俺の実力がわかる次のテストまではこの話は保留ということですか。」
「違う。お前は風紀委員会に入れるつもりだが、風紀委員会は実力主義だからな。成績を待つよりも、もっとわかりやすい方法があるだろ。
風紀委員会に必要なのは、いざ生徒が暴走した時に鎮圧するのが仕事だ。仲がいいここでも喧嘩はあるからな。
いくら魔法がうまくても、実戦ができないやつは入れないことをしている。だから、うちの奴らは成績は悪くても、実戦の成績がいい奴が多い。
お前の実力に不満をもっている奴がここにはちょうどいるみたいだからな。お前の実力を私たちが知るにはちょうどいいと思わないか。」
「橘、面倒な話は抜きだ。天宮、俺はお前のことを認めていない。」
「それはわかっていますが、もしかして。」
「そうだ。俺はお前に決闘を申し込む。負けた場合は一切、生徒会と風紀委員会に関わるな。」
神龍高校の第9条、
―――『決闘』について―――
本校の生徒が話し合いだけで納得できない時、決闘という方法で解決することを認める。
決闘は生徒だけでは行なえない。先生による立ち合い、もしくは生徒会長と風紀委員長の二人による認可で、許可される。
原則として錬武館で行うが、特別な事情がある場合は別の場所での決闘も認めることになる。しかし、街中や普通の教室では認められない。魔法実習室など激しい魔法の使用に耐えうることが大前提とする。
あくまでも決闘は最後の手段であり、話し合いによる解決が一番望ましい。
つまり、生徒会長と風紀委員長さえ認めたのならば、どんな事情があっても決闘は認められるということだ。
俺は二人の方を見ると、嵯峨会長はにこやかに手を振り、橘先輩はどこか意地の悪い顔をしている。
もう一度視線を二階堂先輩に戻すと、先輩は俺を睨んでいた。
真木先輩がため息をついて、二階堂の発言を訂正する。
「別に勝つ必要はない。お前が風紀委員会に入ってもやっていける実力があることを俺たちに見せてくれたらいい。」
二階堂先輩は俺の方を見て鼻で笑うと、言い加えた。
「せめてのハンデとして俺は魔法具は使わないでいてやるよ。」
―――魔法具―――
魔法具とは魔法を使うときに出力アップできる物だ。市販されているが、それなりに高価なので、ここでは神龍高校では魔法具を持っていない生徒には無料で貸し出される。
魔法具の形状は個人の趣味によるが、主な形状は『剣型』や『銃型』、『杖型』の三種類があり、オーダーメイドの自分専用の魔法具を持っている。
「いいのか、お前の魔法具はお前専用のかなりの物だと聞いたが。」
「構いません。一年生に魔法具がなければ勝てないようでは私の志望には届きませんから。」
完全にナメられているようだが、気にしない。とりあえず俺の実力をここにいる人に見せればいいとのこと。
袖を引っ張られたので、そちらの方を見ると遥が俺に耳打ちしてくる。
「悪いことは言わないから断りなさいよ。二階堂先輩は実力は二年生の中でもナンバー2よ。
一番は橘先輩だけど、あの人と会長、そして遠井先輩と真木先輩は神龍の四天王って言われるぐらいで、別格なのよ。
それに魔法具なしでも、この学校でもトップ10に入っていて、使ったら絶対に5位には食い込むくらい実戦は得意なのよ。」
確かに遥の言う通りだろう。二階堂先輩の身体からは魔力がにじみ出ている。かなりの魔力が体内を渦巻いている。
普通の学生では勝てない。二階堂先輩の魔力は世の中の魔法使いの平均と言われている魔力量を超えている。
しかし、俺もただの魔法使いではない。ただの学生ごときに負けやしない。
「気にするな。相手だって俺を殺すつもりはないし、せいぜい怪我するくらいだ。
それぐらいは自分が思い上がった罰程度に受け入れるさ。」
「いい度胸だ。勝負は5時間目だ。後40分ほどある。準備しておけ。」
しかし、勝負をするなら準備する必要がある。俺は一応武器使いでもあるので準備してもらわないといけない。
たしか俊介が言っていたはずだ。武器は錬武館で見てもらうと。
「先輩、一応武器の貸し出しってありますよね。」
「あぁ、武器の貸し出しならあるぞ。設定もできるが、借りるのか。」
「一応持っていますけど、魔法具じゃなくて実物なんで持って来れないんですよ。」
「ほう珍しいな、実物とは。最近では名刀とかのデータを武器に入力したりしているのに。」
橘先輩は楽しそうに笑う。
「じゃあ、私が案内しますね。一応、私は魔法工学はこの学校で一番詳しいですから。」
「じゃあ、お願いします、皇先輩。」
昼休み 錬武館
皇先輩に案内されて錬武館にやって来ると、俊介が来ていた。
「あれ、蓮。どうしたんだ。生徒会の用件はいいのか。」
「続きだ。武器とかを教えてもらおうとしたら、皇先輩が一番詳しいと聞いたんだ。」
「ふ〜ん。ここの技士はかなり優秀たぜ。こっちの要求通りにほとんど完璧にしてくれるからな。」
「それはすごいな。せいぜい期待させてもらうか。」
「じゃあ、こっちです。」
皇先輩につれてこられた場所には大量の武器が置かれていた。
他には機械に武器の形状をした物がコードに繋がれている。
「そのガキが今回、武器を注文する奴か。」
「はい。天宮くん、そこにある物にカードを挿入してから持ってください。そして自分がこれだというところで声をかけてください。」
試しに近くの物を持ち上げると、羽のように軽かった。しかし、声をかけられてすぐに、徐々に重さが増していくのがわかる。
武器がこちらの思う重さになったところでストップをかける。
「ふん。刀使いか。強度とかはスタンダードでいいんだな。」
「はい。時間もないですし、あまり重さ以外にこだわりはありません。後は長さだけ合わせてくれたら結構です。」
「技士泣かせな奴だ。重さと長さなんぞ、三流でもそこの嬢ちゃんだってできるだろう。」
入力が終わったらしく、武器?を渡された。どう見ても、ただの棒にしか見えない。カードみたいなのを挿入する部分以外、特に変わったところはない。
「何ですか、これ。」
「見るのは初めてですか。なら学生証のカードを挿入して、魔力を注ぎながら起動言語を言ってください。魔力は起動時だけでも構いません。そして起動言語は先ほど言った通りです。」
言われた通りにカードを挿入にして、手に持つ。
「『起動』」
手に持った武器は刀の形状に変わる。重さや長さはこちらが希望した通りになっている。
「試しに何度か振ってみろ。違和感があったら直してやる。」
言われた通りに何度か振ってみたが、違和感はあまりない。
「その場しのぎぐらいなら、これで十分です。次の機会に自分の武器を持ってきます。」
「おう。楽しみにさせてもらう。お前みたいな奴の刀は楽しみだ。」
技士の言葉には苦笑するしかない。長年に渡って人を見てきた技士には俺の実力が刀を振っただけで判ってしまうらしい。
カードを抜くと元の形状に戻る。これはいい。武器をどうしようかと悩んでいたが、一気に解決した。
「そろそろ時間だけど、天宮くん。大丈夫?」
「あっ、はい。ありがとうございます。ありがたく使わせてもらいます。」
技士に礼をすると、皇先輩の方に行く。後5分ほどしかないが、錬武館はここだ。歩いていても十分間に合う。
錬武館 闘技場
場所に着くと、先輩たちは全員揃っていた。相変わらず三人だけは仲間外れにされているらしい。
俺が到着すると、橘先輩がこっちに来た。
「準備はできているか。二階堂は態度はあんなんだが、実力だけは本物だぞ。」
闘技場の真ん中に行くと、すでに準備を終えた二階堂先輩が待ち構えている。
何も持っていないところを見ると、生粋の魔法使いであることがわかる。魔法具の形状は『杖型』だろう。しかし、今には全く関係ないことなのだが。
「ちゃんと魔法具は用意してきたのか。」
二階堂先輩は俺がここに来たのを確認すると、そのように確認してきた。
「いえ、俺が借りたのはスタンダードな武器だけですけど。」
「貴様、この俺をナメているのか。魔法具なしで俺に勝つつもりか。」
二階堂先輩は俺の発言に腹を立てたようだ。別にナメているわけではないんだがな。俺は魔法具は使ったことがない。そして俺はぶっつけ本番でやるタイプではない。
「魔法具はただの出力アップでしかないですし、形状が決まっている分、自分に合わなかったら邪魔なだけです。」
魔法具はオーダーメードでもない限り、自分に合った物はない。純粋な魔法使いではない俺みたいな魔法剣士には学校に置かれている魔法具では合わないのだ。
「まぁいい。負けても言い訳はなしだぞ。」
「わかっていますよ。」
元より言い訳するつもりなど、始めからない。俺がやるべきことをやるだけだ。ここでやるべきことは俺が風紀委員会にふさわしいとわからせることだ。
俺は二階堂先輩から距離をとり、足元をならす。
「これより二年A組二階堂和馬くんと一年A組天宮蓮くんの決闘を始めます。この決闘の終了後には双方の言い分を無視し、生徒会と風紀委員会により、天宮くんの入会を判断します。」
「風紀委員会による権限により、これは正式に決定された決闘とする。『魔法結界起動』。」
魔法結界
魔法の進歩により、魔法戦闘をよりリアルとするために開発されたのが、この魔法結界だ。
この空間内で、致死クラスのダメージを負えば、自動的に結界へと出されてしまう。そして、身体的にも精神的にも後遺症が出ないとされているので、魔法都市内の魔法競技の大半にこの設備は用いられることになっている。
競技用に比べると、やや小型ではあるけれども神龍高校にも同じ設備があるのだ。
錬武館 観客席
私たちは観客席から蓮と二階堂先輩の試合を見ている。
二階堂先輩は障壁で自分を守りつつ、強力な魔法で敵を殲滅するタイプ。先輩を倒すには障壁を張られる前に体術で殴り倒すか、強力な魔法で障壁を突き破るしかない。
久しぶりに会った蓮の実力をまだ私は知らない。少なくとも私は二階堂先輩には勝てない。私には対人経験が少なすぎる。
外にいる魔法使いは少ないと聞いている。外で対魔法使いの戦闘経験ができるとは思えない。
私は怪我をしないことを知っていても祈るしかなかった。
「無事でいなさいよ、蓮。」
「真木くんはどっちが勝つと思ってる?」
「俺は二階堂だ。あいつも東北ではそれなりに有名な家だぞ。お前が関西の名家であるのと同じでな。そういうお前はどうなんだ。」
「二階堂くんの愛の力に期待かな。姫野ちゃんは気付いてないし、天宮くんは鈍感みたいだからね。」
「私も二階堂くんだと思います。あんな態度は自分に自信がある証拠だと思います。」
「って、ことは天宮くんにかけるのは唯だけってことになる。」
「私も天宮にかけさせてもらうわ。」
「万理、珍しいわね。万理が勝負に興味をもつなんて。しかも天宮くんにかけるって。」
「少なくともあなたが想像しているようなことではないわね。」
「私と万理が天宮派、後の三人が二階堂派ということか。」
上級生五人は気楽な表情をしながら、観戦モード全開である。
しかも、今日の放課後に学内のカフェテリアで何か奢るか、賭事まで始めていた。
そんな思惑を知らないまま、俺たちの間の緊張は高まっていく。
嵯峨会長が開始と言うと同時に勝負は始まる。いつ始まってもいいように構えだけはとっておく。
「それでは、開始です。」