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第三話 勧誘される『天』


 転入初日 放課後


 放課後になるとすぐに俺は遥に連れてこられた。二人は詳しい話を聞きたがっていたが、詳しい話など俺もまだよく知らないので話せるはずもない。

 生徒会室は校舎の最上階に位置している。他の委員会の部屋も最上階にあるらしい。

 生徒会室に着くと、遥はカードを取り出してリーダーに通した。


「本人認証完了シマシタ。姫野遥サン。入室ヲ許可シマス。」


「なんで、片言の機械音声なんだ。今どきなら人間と同じ声のやつがあるだろう。」


「さあ〜。誰かの趣味って聞いてるけど。確かに趣味が悪いけど、これもよくない。機械音声なんて面白いじゃない。」


 そういうものなのか。まぁ、どうでもいいことなので、それほど気にしないことにしておこう。


「姫野遥です。天宮蓮を連れてきました。失礼します。」


 遥は一言、部屋の中にかける。返事がなかったが、気にせずに入室した。俺はその後ろについていく。

 うん、何かに当たったか。


「来てくれたわね、遥ちゃん。そして生徒会室へようこそ、天宮くん。私は生徒会長の嵯峨秋帆(サガ アキホ)です。

 そっちにいるのが、副会長をしてくれている遠井万理(トオイ マリ)、その隣が書記の二階堂和馬(ニカイドウ カズマ)くん、会計をやってくれているのが皇観月(スメラギ ミヅキ)ちゃん、さらにあなたのクラスメートの姫野遥ちゃんね。まだ後三人かいるけど、今日は神龍高校がまとめる北区の総会に行ってもらっているの。

 そこにいる二人は風紀委員会の委員長の橘唯(タチバナ ユイ)、それで北区全体における課外活動を受け持つ総部会長の真木恭夜(マキ キョウヤ)、二人は生徒会じゃないけど他の委員長とは違うのよ。」


「総部会は北区、つまり神龍高校を中心としたこのあたりの部活をまとめる役目があり、各高校から一人だけ選抜されます。

 風紀委員会は通称『ガーディアン』、この都市の警察に強い接点をもっているわ。これは各高校にあるけど、警察と直接つながりがあるのは神龍高校の風紀委員会と各高校の委員長だけよ。」


 嵯峨会長のした説明を遠井先輩が補足する。その辺は知らなかったので、初耳だ。

 こうして見ると、明らかに歓迎していないのが二階堂先輩、そんな二階堂先輩に対しておろおろしているのは皇先輩、この状況内で楽しそうにしているのは橘先輩、にこにこ笑って表情が読めないのは嵯峨会長、ポーカーフェイスで表情が読めないのは遠井先輩と真木先輩か。

 生徒会室内の空気は微妙だった。二階堂先輩が明らかに敵意を出しているせいか、周りもどうするか言い出せずにいる。

 わかっていて口に出さない人もいるみたいだが。遠井先輩と真木先輩、橘先輩は嵯峨会長が言うのを待っている。


「えぇっと、今日は蓮くんに来てもらったのには理由があります。」


 状況を変えるために言ったのだろうが、完全に逆効果になった。


「会長、私は反対です。

 どこの奴かもわからない奴を引き入れるなんて納得できません。

 だいたい先生の大半も彼の編入には反対していたはずです。

 朝の集合でも姫野さんが来る前に先生から聞きましたが、そいつは筆記だけでうちに編入してきたそうじゃないですか。」


 その一言に嵯峨会長は反論する。


「ちょっと待って、二階堂くん。それには事情があるのよ。」


「どういうことですか、会長。私たちはそんなこと聞いてませんよ。」


 嵯峨会長はまずいことを言ったという表情になる。内輪もめを聞いているのが、飽きたので口に出そうとすると橘先輩が先に口を開いた。


「お前ら、論点が変わっている。こいつが生徒会か風紀委員会に入るかふさわしいかどうかだろう。筆記だけにしろ、満点に近い点数を出したんだ。問題はない。」


「魔法技能を見ないで、Aクラスに入っているのが納得できないんです。」


「それは次のテストで判断される。実技で悪い点数をとれば、クラス降格もありえるとのことよ。」


 遠井先輩が二階堂先輩に淡々と返す。


「ちょっと話がズレたけど、今日の話はあなたがどっちに入るかよ。」


「この魔法都市は学園都市ではないですけど、各校の生徒会による自治が大きな権力を握っています。

 魔法を使えない人のための学校もありますし、普通の会社などもありますけど、基本コンセプトは魔法使いによる魔法使いのために作られた都市というわけです。

 しかも中央集権で五つの学区に分けられており、それぞれの学区には中心となる学校があります。北区は神龍ですね。

 代表の学校の生徒会は企業との打ち合わせがあったりします。会長などはその学区で一番偉いということになりますから、企業や研究所の方から人が来ますよ。

 だから生徒会の主な仕事は学区の全てに関することが多いですね。魔法祭などの都市全体に関係があることで忙しいので、学内のことは各委員会に委任するかたちになっています。」


「風紀委員会については私が説明しよう。風紀委員会は聞いてわかると思うが、学内の風紀を守るのが仕事だ。

 今も当番の奴らが見回りをしてもらっている。これは週周りだ。夜の都市の見回りも一応当番制だが、例年こちらは一年生にはやらせないことにしている。

 また『ガーディアン』というように今まではなかったが、都市を守るために警察などに要請されたら風紀委員会も動く時がある。

 この都市の警察は魔法使いが異常なまでに少ない。

 大抵の人間は自分の研究する道をえらぶか、より給料のいい軍隊に入る。魔法使いの警察はこの都市内に10人もいない。北区に至っては一人もいないのが現状だ。

 他の学区では時々、学年が魔法使い犯罪者の捕獲に協力しているらしい。まぁあ、いざって時は風紀委員会だけでなく、生徒会も協力するとのことだ。」


 皇先輩と橘先輩に説明してもらったが、どっちも面倒そうだ。

 無視をされた二階堂先輩は俺の方を睨んできている。

 遥はこっちの方を向きながら、期待した目で俺の方を見ている。

 他の先輩たちも俺の方を見ていたと思いきや、


「いきなりで悪いが、そいつは風紀委員会がもらったら駄目か。」


 橘先輩がいきなりそんなことを言い出した。


「あれ、唯。人手不足なの。特に聞いてないけど、何かあったの。」


「忘れたのか、今年から東区の一部が北区に入ったのを。

 あそこら辺は不良が多いし、東区のところから聞いたんだがな。風紀委員会と称して、色々悪どいことをやっているらしい。良からぬ噂を多く聞くからな。

 その辺りに力を注ぐ必要があるから、例年通りにはいかなくなりそうなんだ。ある程度の実力者はそちらに向けたい。

 一年も安全な地域の夜の見回りをしてもらって、私たちがその辺りを何とかしようというわけだ。」


「ちょっと待ってください。出掛けている三人に事実確認をしてもらいます。」


 嵯峨会長が携帯をいじり、何かを話した。その間に二階堂先輩がまた口を開く。


「待ってください。いつの間にそいつが入ることが決まっているのですか。」


 確かに俺が入ることがいつの間にか決められていた。しかし、先ほどまで黙っていた真木先輩が口を開く。


「待て、それなら総部会の補佐にも欲しい。困っているのはこっちも同じだ。生徒会だってこれから問題になるだろう。」


「おい、二階堂。生徒手帳に書いてある。総部会と生徒会の入会資格について読み上げろ。」


「えっ、あっ。はい、確か生徒会規則の第五条、『生徒会への入会は教師の過半数の認定と生徒会役員全員の賛成を得た者に限る。』となっています。

 総部会規則の第四条、『総部会は各学校に一人とし、二人以上の入会を認められない』となっています。」


 橘先輩が言うと、二階堂先輩が生徒手帳を取り出して読み上げた。

 なるほど、生徒会と総部会は認めることはできない。

 生徒会では二階堂先輩が反対しているし、総部会も二人以上は入れない。


「風紀委員会では第五条によると、『入会に関する全てのことは全権を委員長の判断に委ねられる。』となっているからな。私が決められるというわけだ。」


 俺なんかまるで気にしないで、話が進んでいる。


「あなたはどうしたいの、天宮。」


「少し考える時間はもらえますか。」


「わかったわ。明日、また来てね。それまでに先生と二階堂は説得しといてあげるから。」


「失礼します。」


 俺は一礼すると、部屋を出た。後ろから遥がついてきている。


「どうした。」


「なんで入りたいって言わないの。何を考えているの。」


 遥の質問は最もだな。先輩たちの説明を聞いても、これなら入りたいってやつがいるだろうと思えるものだった。

 どうやってはぐらかすか考えていると、


「あれ、もう呼び出しはいいのか、二人とも。」


 前から俊介が歩いてきた。部活は今日はないと言っていたはずだが。


「ちょっと自分の使う武器の調節に行ってたんだよ。終わったなら、一緒に帰ろうぜ。」



 ここでは自分の武器を持つ者は自分で管理することになっている。

 錬武館では専門の技士がそれぞれの生徒の武器を見てくれる。人によっては家で管理したりする者もいる。

 俊介みたいに放課後に行けば、自分の思うような設定に変えてもらえる。



「待って、今からメイも呼ぶから四人で帰らない?」


「別に俺は構わないが。」


「俺も、寧ろ大賛成だよ。やっぱり女の子は多い方がいいからな。」


 遥は携帯を取り出すと二、三言、話すと電話を切った。

 しばらくして、その場で適当に話していると、メイが走ってこっちに来た。


「じゃあさ。カフェテリアでも行かない?」


 遥の提案もあり、四人でカフェテリアに寄ることになった。




「じゃあ、俺はホットケーキとコーヒー。」


「私は紅茶をお願いします。」


「私の分も紅茶でいいわ。」


 四人分の注文を機械に打ち込む。ここの仕組みは機械に打ち込めば、機械が全自動で運んできてくれる。

 四人分が届くと、俺への質問から始まった。


「なんで、すぐに受けなかったの。何か事情でもあるの。」


 二人とも口には出さないが、目で聞いてきている。


「俺がここに来た理由だが、魔法の研究をやりたかったんだ。遥、昔やったことがあるだろ。生命を蘇らせる魔法を。あの時は俺が育てていた花だったよな。

 新しいものを創ることが出来ても、死んだモノは蘇らせることはできない。

 昔の俺は植物なら可能だと思ってたんだ。魔法は植物系統を操るのが得意だったからな。しかし、結果は失敗。活力を戻す途中に暴走した。

 お前たちも知っているだろ。死者と魔法は対になっているって。

 無から生命を戻す魔法、つまり蘇生系統と、有から無になった生命は反発する。定義はされたが、不可能領域に指定されたモノだ。

 その定義を覆すのが俺の目的だよ。」


 三人とも唖然としている。当然だろう。過去に何人もの天才と呼ばれた魔法使いが挑戦し、事故などで命を落とした魔法。

 各国家で、魔法使いを失わないようにするために決められた最高規則、『生命を操る魔法を禁止する』という禁忌指定を受けたモノだ。


「まっ、基礎理論すらできていないから、気にしなくていいけどね。」



 そんなふうに天宮蓮が友人をはぐらかしている時。




 生徒会室 side 唯


「万理さぁ。何か知っているんじゃない。朝、天宮くんの名前を聞いた時にかなり驚いていたよね。」


 私と秋帆と万理だけが生徒会室に残っていると、秋帆がいきなり切り出した。


「少なくとも本人は知らないわね。ただ私の家の問題よ。」


 万理の家はかなりの名家だと聞いている。京都の嵯峨家もかなり有名なのだが、それとは次元が違うと聞いた。


「ふ〜ん。しかし、あいつは面白いな。あれだけ敵意を見せても苛立ちすらしなかった。しかも、少なくとも武道はかなりの腕だ。」


「なんでわかったの。」


「歩き方と気配だよ。意識的に抑えているな、あれは。」


「ぜひとも風紀委員会にスカウトしてやりたいよ。」


 あいつを見た時、何やら懐かしさを覚えていた。あいつが何かを起こすであろうことを予感していたのだろう。




 side 真木


「くそっ。」


「そう怒るな。実力が不満なら、先生たちが言ったように決闘でもすればいいだろう。

 まぁ、自然に姫野の隣にいたことに嫉妬したい気持ちは分からんでもないがな。落ち着いたらどうだ。」


「なっ、別に姫野さんは関係ないです。俺は天宮が実力も分からないのに、Aクラスにいることが不満なだけです。」


「そのために決闘すればいいと言っているのだろう。多分、橘の奴なら賛成すると思うぞ。」


 やれやれ、普段は冷静なくせに姫野が関わると落ち着きをなくすな。

 わかりやすい動揺している後輩を見ながら、面倒が起こる予感を感じずにいられなかった。




 職員室


「あの噂は本当だったのか。」


「裏八族、日本を影から支配しているというモノだろう。私は都市伝説の類だと思っていたぞ。それが我が校に二人も来るなんて。」


「落ち着きなさい。所詮、子どもです。我らがやっていることに気付くわけがない。いつも通りにしていれば、問題はありません。」


「計画は大丈夫なのか。」


「もし失敗すれば、我々はただではすまされないぞ。」


「ご安心を。計画通りです。」




 自宅 side天宮


「それでは彼女は。」


 カフェテリアで別れた後、明日の食料を買って帰ると、早速モノリスにつないでいた。確認しないといけない。


「一応連絡は受けているから、脱走者扱いにはなっていないが、余裕があるなら気にかけておいてくれ。」


「分かりました。こちらに余裕があれば、様子を伝えます。」


 『遠』との通信を終えると、ベッドの上に寝転がる。自然と生徒会のメンバーたちを思い浮かべていた。

 会長の嵯峨秋帆、京都における名家である嵯峨家の一人娘。嵯峨家は関西全域に影響を持つ古くから続いている名家だ。本人も魔法使いとして高い実力を持っているらしい。四天王と呼ばれる一人。

 副会長の遠井万里、『遠』の血筋で、事情は不明だが、家出しているとのこと。四天王の一人。

 書記の二階堂和馬、二階堂は歴史こそ浅いが、東北の魔法使いたちを一つにまとめ上げた実績を持っている。

 会計の皇観月、気弱である以外、特に印象無し。遥によると、魔法工学では校内トップらしい。

 総部会長の真木恭夜、四天王のまとめ役、周りに振り回されるが、やるべきことはきちんとやる人物らしい。

 風紀委員長の橘唯、一年から四天王入りしてみせた実力者である。二年ながらに委員長を務める。普段は仕事をサボることが多いが、対人戦闘なら神龍最強と言われている。


「神龍の黄金世代か。」


 そこに遥も加わるとするなら脅威だ。もはや並の軍人では適わないだろう。


「面倒だが、しょうがねぇな。」


 俺は眠りに落ちた。


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