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第二話 嵯峨の剣と藤宮の式神


 side嵯峨


 蒼さんと庭園を歩いている時、突然に違和感を感じた。私の感覚が何らかの魔法を探知した。

 私はそちらに振り向いたけど、何も見えない。先ほどの違和感は何なのだろうか。今ではまるで感じられなくなっている。


「どうかしましたか、秋帆さん」


「いえ、何でもありません。」


 心配そうに覗き込んでくる蒼さんに否定を返しながらも、頭の中では先ほどの違和感について考えていた。

 唯たちが来たのだろうか。それにしては感じられた気配は敵意が強かった。それも私に向けられていたのだ。唯たちだとするならば、敵意を私に向けるのはあり得ない。

 そんなことを考えている途中、黒服(藤宮家の護衛)がこちらに走り寄ってきた。


「本当にお時間をお邪魔をして申し訳ございません。

 何者かが放った式神が向こうで暴れております。今は私たちが結界で抑えこんでおりますが、その式神は異様に強く、私たちではあと数分も抑えることはできません。

 蒼様と秋帆様は一刻も早く当主様たちとご一緒に、避難してください。」


 蒼さんは報告に目を閉じて聞いていると、聞き終わると同時に、目を見開いて指示を飛ばす。


「例えどんなに相手が強くとも、藤宮の術者が式神で相手に遅れをとることは絶対にあってはなりません。

 今から手の空いている者全員で暴れている式神を倒します。当主ならば、今は放っておいても平気でしょう。あの当主たちに勝てる術者が何人いると思いますか。

 秋帆さんは当主たちのところに今すぐお戻りください。

 つまらない本音を申しますと、ぜひ私の戦い振りを見ていてもらいたいですが、そのためにあなたを危険な目に合わすわけにはいきません。よろしいでしょうか。」


「分かりました。ご武運をお祈りしています。」


 蒼さんたちに一礼をすると、私はお母さんの元に向かった。

 式神を使える人間は私以外には生徒会の中にはいないはず、この式神は私たちを狙った物だとすれば、第三者が嵯峨家と藤宮家に喧嘩を売ったことになる。

 それに今回の見合いはお母さんが周りに内密に進めてきた物だ。嵯峨家だって、家族でも私とお母さん以外はほとんど知らないはずだ。

 嵯峨家と藤宮家の見合い情報を知っている上、二つの家に対して喧嘩を売れるような術者がいたことになる。私の想像はあり得ないとしか思えなかった。自分の家に自惚れを持っていると思われるかもしれないが、嵯峨家は間違いなく表では最強に近い名家だ。蓮くんの話を聞いている限り、裏八族との仲が特に険悪なわけではない。

 その中で、周りからお母さんは歴代でも最強に近い実力者と言われている。そんな人間を倒すのに式神程度では不可能だ。あの人は軍隊を動員しない限り、止められないだろう。

 嵯峨の情報管理に穴はないはずだし、お母さんが自ら選んだ精鋭揃いの護衛の中に裏切り者がいるとは考えにくい。


「秋帆さん。」


 蒼さんの声が聞こえて、そちらの方に振り向くと、一人の剣士が高く剣を振り上げていた。


「くっ、」


 本当に間一髪で振り下ろされた剣を避け、私は地面に倒れた。


「くそ、『護法童子』。秋帆さんを守れ。」


 蒼さんが放った符は小さな式神に変わると、剣士を襲おうとするが、あっさりと切り捨てられる。剣士に一撃で斬られた護法童子は姿を消し、その場に残ったのは斬られた符一枚だけだ。

 この式神、かなり強い。蒼さんが放った式神も決して弱いわけではなかった。私では走って逃げるのは難しそうだな。


「馬鹿な。藤宮の『護法童子』を一撃で倒すだと。やはりこの式神は、『破軍』の『北斗』なのか。」


 その蒼さんの背後にもう一体、式神が現れた。


「危ないです。」


「くっ、散れ。」


 蒼さんは符を何枚か犠牲にすることで、陰陽師タイプの魔法から逃れた。


「陰陽師タイプ。なら、こちらは『破軍』の『南斗』か。

 では式神を操っているのは杏奈なのか。一体、何のために。」


 蒼さんはショックを受けたように、ぼんやりとしている。

 二体とも私狙いのようで、ぼんやりしている蒼さんには見向きもしなかった。


「ちょっと危ないかな。」


 普段の制服を着ていたならば、戦闘用の符も常備されているし、もっと動きやすい。残念ながら、今は和服を着ているため、走るのですらうまくできそうにない。

 私が覚悟を決めようとした時、一陣の風邪が吹いた。


「『〜敵を切り刻め。』

 『氷鈴華』」


 突然、横から現れた氷の花びらが剣士に突き刺さっていき、凍りつかせながらも身体を切り刻んでいく。


「『〜燃えさかれ。』

 消え去りなさい。『フレイム・バースト』」


「『〜一閃の嵐となって敵を切り裂け。』

 『嵐閃』」


 陰陽師タイプに強烈な炎が叩きつけられた後、見慣れた人影が式神に突っ込み、右手の一撃を加えると、その式神は吹き飛んだ。

 全く来るのが遅い。




 side天宮


「じゃあ早く侵入するか。」


「一刻も早くやらないとね。」


「・・・・・・」


「どうしたんだ、蓮。」


 突然、黙った俺を不審に思った二人だが、今は気にしている余裕は俺にはなかった。


「やれやれ。俺も舐められたな。

 そんなに殺気を向けられて俺が気付かないと思ったか。」


 こんなことを思ったのは何度目だろうか。

 料亭から出た時から背後に殺気を向けられていた。

 始めは俺の気のせいかと思い、少し歩いて料亭から距離をとったが、殺気は変わらず俺たちに向けられている。二人が気付かないのも無理はないな。これは慣れていない人間では気付けないだろう。

 俺は一足で相手に詰め寄って、右手を突き出したが、相手に避けられた。


「これは私の方も、たかが学生と思って舐めておりましたか。

 私としてはあなたたちが下手な動きを見せたところで、首を飛ばすつもりだったのですが。」


 現れたのは一人の老人だった。しかし、その覇気はそこらの軍隊魔法使いとは比べものにならないものがある。この人は剣士か。


「あんたは嵯峨家の人間であっているよな。」


 二人を背後に回すように相手の前に立ちはだかり、相手の動きを見逃さないように手を腰から離さないまま問いかける。


「はい。嵯峨真弓様に仕えている者です。

 私としましては皆さんにはこのまま帰っていただきたいのです。余計な手出しはせずに傍観していてくだされば、あの二人のようにならずに済みます。

 もちろん皆さんは私に負けたとお嬢様には伝えておきますよ。

 しかし、要求が呑まれないようですと、私も本気にならないわけにはいきますまい。

 私は老いはしましたが、これで真弓様が産まれた時よりお守りし続けている身です。あなたたちに負けるわけにはいきません。」


「く、これは。」


「何なの、この人。」


 前に立ちはだかる老人はニコッと笑いかけているが、殺気がさらに上がっている。


「なるほど。どこか引っかかると思っていたが、思い出したぞ。

 その人は、嵯峨の守護者にして先代嵯峨家当主の親友、大戦では詠唱する嵯峨家の当主を全ての敵から守り続けた。

 日本では伝説の陰陽師と名高い嵯峨陽成(さが ようぜい)の懐刀、自らの名前を分け与えられた三池孔陽(みいけ こうよう)さんといったところか。」


 頭の奥に眠っていた知識を叩き起こして記憶の中身を確認する。

 名前を言われると相手は驚いた表情に変わる。


「これは私の名前を知っているとは光栄ですね。」


「蓮、どうする。相手が強いのは分かる。でも、こんなふうに睨み合う時間も惜しい。」


 確かに睨み合い続けるのも良くないな。

 一撃で終わらせることにする。


「『起動(アウェイク)』」


 一歩で踏み込んで、一気に刀を抜き放つ。


「はぁあ。」


「甘い。」


 孔陽は持っていた太刀で俺の刀を防いでみせた。

 その程度は予想済み。

 刀を流れるように振り上げて、今度は力任せに振り下ろす。


「く、力勝負ですか。」


 真っ向の力勝負ならこちらの方に分がある。


「遥、唯。先に行ってろ。俺ならすぐに追いつく。」


「分かった。」


「気をつけてね。」


 二人が俺の横を走り抜けて料亭の塀から中に飛び込む。


「させません。」


 孔陽は俺から刀をうまく外して二人を追おうとしたところで足を止めて、こちらに振り向いた。

 残念だな。始めの打ち合いで、何とかなると考えたのだろうが、俺はまだ本気なんて出していなかった。

 二人の目には見せられない俺の裏の顔。まぁ唯にはバレても良かったが、どちらにしても遥がいる時には使えない。俺の本気を放つ。


「まさか、あなたは。」


 その表情は恐怖、

 そして、恐怖は孔陽の足を完全に止めていた。

 足を止めている孔陽に対して、一瞬で詰め寄って本気で刀を振るう。

 本気の一撃をまともに食らった孔陽は塀に激突して気を失った。




「どうした。」


「分からない。どこか様子がおかしいな。」


 俺が孔陽を気絶させて、料亭に侵入を成功させると、遥と唯は困惑したように身体を伏せていた。


「確かに。護衛の気配もないし、どこか空気が浮わついている。」


 遥はゆっくりと顔を出して、状況を確認しようとする。


「蓮、私以外にも誰かが暴れているらしいよ。

 そこに会長の家の護衛だと思う人たちが倒れているし。」


「なら、もう隠れる必要はない。この混乱に乗じてダッシュで嵯峨会長を拐って逃げよう。」


 俺は建物と草むらの陰から立ちあがると、一気に外に飛び出した。


「あっ、待ってよ。」


「一人で行くな。」


 走っていると、急に悪寒がした。それと同時に魔力の流れを探知する。今まで隠されていた物が溢れたような魔力だ。誰か結界魔法を使っていたのか。

 さらに魔法が放たれるのを探知したが、一瞬で消えていた。


「ちょっと急ぐぞ。

 さっきから嫌な予感が消えない。嵯峨会長に何かあったかもしれない。」


「『繋がったわね。さっきまで妨害魔法のせいで、うまく接続できなかったのよ。』」


「あ、遠井先輩。」


 遠井先輩とようやく繋がった。


「『秋帆のところに二体の式神が向かっているわ。藤宮の御曹司は使い物にならないわ。あの程度で、秋帆の相手なんて務まるわけがないわね。』」


 えらく辛口評価だな。そんなに会長に近付く男が嫌いなのか。

 遠井先輩の意外な趣味、実は百合だった。


「『天宮、くだらないことを考えいるようなら殺すわよ。』」


 すみません。考えていました。


「『そこから真っ直ぐに行けば、秋帆のところに行けるわ。』」


 頭の中に聞こえてくる遠井先輩の指示通りに、嵯峨会長のところに進んでいく。

 目の前が開けたら、そこは会長に剣士の式神が剣を振り上げているところだった。陰陽師みたいな式神も構えていた。


「唯先輩、遥。二人は陰陽師タイプはお願いします。俺は一人で剣士の方を何とかします。」


 二人に指示を出して、俺は再びスティックを展開して、物陰から飛び出した。

 唯は式神に向かって突っ込み、遥は詠唱を始める。


「『咲き乱れよ、氷の華。その美しさで敵を魅了し、縛りつける。そして、その凍てつく氷で敵を切り刻め。』

 『氷鈴華』」


 本来の『氷鈴華』を式神に向かって放つ。


「『我が手に集いし、炎の力よ。一気に燃えさかれ。』

 消え去りなさい。『フレイム・バースト』」


「『我が手に集う風の力よ。そのまま我が手を纏い、一閃の嵐となって敵を切り裂け。』

 『嵐閃』」


 陰陽師タイプの式神に二人の魔法がぶつかる。

 暴れていた式神は符に戻った。


「すみません、嵯峨会長。

 少し来るのが遅れました。」


 使えない藤宮の御曹司は気にする必要はない。


「秋帆、無事か。」


「会長、無事ですか。」


「えぇ、あなたたちのおかげで、助かったわ。ありがとう。」


 嵯峨会長に手を貸して立ち上がらせる。


「さてと、お母さんのところに行ってくるわ。ごめんなさいね。」


 何を謝っているのか分かったが、それは嵯峨会長が気にすることではない。

「いえ、こちらもすみません。」


 ここまで姿を周りに見せてしまった以上、ここにいるのは得策ではない。早々に立ち去るべきだろう。護衛の連中も集まってきている。

 片手で刀を構えながら、後ろにいる遥と唯の居場所を確認する。


「唯先輩、遥。引きます。」


 唯と遥に指示を出して下がるしかない。この計画は失敗だ。嵯峨の当主に見つかるのだけは避けたい。


「待ちなさい。

 あなたたちは神龍の生徒ですね。また秋帆の見合いを妨害しに来たのですか。

 外では孔陽が護衛していたはずですが。」


 ちっ、ついてない。

 先ほどまで気配も感じなかったのに、すでに相手は臨戦態勢に移っている。


「それなら塀のところで伸びています。

 嵯峨家の方はもうちょっと人材を投入した方がよろしいのでは、老人なんか俺の相手になりません。」


「なるほど。これが秋帆が笑っていられた理由がですか。あなたは他の魔法使いとは違うようです。

 名前は何と言うのですか。」


「『天』宮 蓮と言います。」


 その名前に反応を示したのは、目の前にいる嵯峨家の当主だけだった。


「あなたが切札だったわけね。

 もう少し娘の学友には注意を払うべきだったわ。こんなふうに突破されるなんて考えてもいなかった。

 私も衰えたものね。こんな初歩的な見落としをしたなんて。」


 嵯峨の当主は穏やかに笑っているが、こちらを逃してくれるような雰囲気ではない。

 一方で、周りは孔陽の名前を出すと、全員が騒然となった。この場に三池孔陽の名前を知らない人間はいない。

 ここにいるのは陰陽師の訓練を積んでいる人間ばかりだ。ここにいる人間は孔陽の大戦時の戦果を知っているだろう。


「馬鹿な。孔陽さまを倒せるわけがない。でたらめを言うな。

 おい、お前。何か言ったらどうなんだよ。」


 近くにいた会長の見合い相手の藤宮が吠える。藤宮の奴はうるさいな。時間もないことだし、そろそろ帰らせてもらうか。


「唯先輩、引きます。」


 うざい藤宮に一撃を食らわせて遥を担ぎ上げる。藤宮は吹き飛び、塀に激突した。手加減を誤った気がするが、今は気にする必要はない。


「ちょっと、蓮。」


「時間がない。飛ばすから、振り落とされるなよ。」


「さすがに侵入者をそのまま返すほど私も優しくないわよ。

 『水龍陣』」


 嵯峨の当主が放った符が大きな水の龍へと変化し、こちらに向かってくる。


「くっ、させない。『フレイム・バースト』」


 俺に担がれた状態で、遥は魔法を無詠唱で放ってみせ、水の龍と炎は相殺してみせた。

 その相殺で生まれた霧に姿を隠して、俺たち三人は撤退することになった。


「『天宮、唯。そこから右方向に行きなさい。そこが一番警備が薄いわ。』」


 遠井先輩の指示通りに進む。邪魔をしようとした護衛をけちらしながら、外に向かった。

 俺たちは料亭より退却することになり、嵯峨会長の誘拐計画は失敗に終わることになった。




 side藤宮 杏奈


 私は自分の目が信じられなかった。かなりの自信を持って放った式神があっさりと乱入してきた人間に倒された。


「何で邪魔するのよ。」


 ここで失敗してしまえば、次はさらに妨害は困難になる。

 あの式神は私のお兄ちゃんでも簡単には倒せる物ではない。現に即席で、放たれた式神は一刀両断されたぐらいだ。


「顔は覚えたわよ。あの男。」


 私は一撃で私の『北斗』を倒した男を双眼鏡で追っていた。

 ビルの屋上から覗き見ていると、嵯峨の当主まで出てきた。

 あ、引き始めた。やっぱり正面から戦うのは避けるのね。

 仲間の女の子の一人を肩に担ぐと、お兄ちゃんを吹き飛ばして料亭から脱出してみせた。

 後を追おうとした護衛は吹き飛ばされ、前に立ち塞がった護衛も吹き飛ばれる。


「すごい。あの人には妨害を協力してもらった方がいいかも。」


 私の中であの男への評価は変わっていた。私のお兄ちゃんは決して弱いわけないが、どこかパパたちと比べると、見劣りする。

 あの男なら見合いの妨害を成功させてくれそうだ。


「そう、良かったわね。でもね、残念だけど、あなたにはまず秋帆を襲った償いからしてもらうわ。話はそれからよ。」


 突然した声に振り帰ると、そこには眼鏡をかけた女の人が立っていた。

 いつの間に。

 私も生まれてからずっと藤宮で訓練を積んでいる。だから、多少なら人の気配は読みとれるし、探査用の魔法もそこら中にばらまいておいたはずだ。


「あの程度の魔法なら無効化させてもらったし、私はあなたよりも強いのよ。貴方に気配を読ませないことぐらい可能よ。」


 こちらの心を見透かしたように笑う相手に戦慄を覚えながらも、ここで退くはわけにはいかない。


「く、『護法童子』」


 予め懐に入れていた式神を放つ。切札である『破軍』に比べると劣るが、人間を倒すには十分な威力はある。


「『炎呪』」


 しかし、一言の魔法は私の護法童子と恐怖心を抑えていたプライドを一瞬で消し去ってしまった。


「う、」


「藤宮家の末娘の藤宮杏奈(ふじみや あんな)で合っているわね。私と一緒に来てもらうわ。」


 目が霞む。

 目の前の相手の輪郭も歪んで、見え始めていた。


「あ、あなた、何したの。」


「私はただ屋上で薬をばらまいただけよ。それを知らずに吸っていたあなたにようやく薬が回ってきたようね。

 安心しなさい。薬自体は副作用はない物だから。ただ眠ってしまうだけの物よ。」


「なんで、あ、なたには薬が効、かないのよ。」


 相手の方が何枚も上手だ。私がこんなにも簡単に負けるなんて。

 そのまま私の意識は途切れた。




 side遠井


「『援護を感謝するわ、観月』」


 倒れた藤宮杏奈を見ながら、援護魔法を放った観月に礼を言う。

 薬なんてばらまいていないし、私は薬に耐えられるような身体ではない。私に注目を集めて観月が魔法を放つことを悟られないように振る舞った。


「よくこんな簡単な手段で騙されてくれたわね。」


 観月と私は近くで、この子のことを見張っていた。

 この日について情報を漏らしたのは私が手配したことだ。


「『いいんですか。妨害は私たちのせいなのに』」


「『いいのよ。あの男はいい気味よ。秋帆にあれだけ慣れ慣れしいかったのだから、自業自得よ。あの男は天宮が吹き飛ばしてくれたわ。』」


 観月と通信しながら、藤宮杏奈を縛っておき、持ち上げた。


「『天宮たちが学校に戻ってくるみたいだし、私たちも一回学校に戻るわよ。』」


 全ては計画通り。

 二人の来訪と秋帆の態度は秋帆のお母さんにさらなる警戒をもたらし、自分の信用できる切札を料亭に侵入させないように配置させるだろう。『天』である天宮なら、三池孔陽を倒すことが出来る。それまでの時間稼ぎに藤宮杏奈が妨害するように仕向けた。秋帆のお母さんと天宮の性格を考えると、間違いなく会話を交わすだろう。そこで、秋帆のお母さんも知るはず。これ以上のお見合いの続行する危険性を。

 みんなは穴のある計画だと言っていたが、私も始めから秋帆を拐うことが難しいのは分かっていた。

 だから、穴だらけの計画とそれぞれの性格を利用して、一本の筋が通るようにお膳立てした。秋帆のお母さんは『天』が秋帆に味方することを知って、どんな方法を取ってくるのか。

 全ては私の手の上よ。


「『その前に観月、手伝いに来てくれないかしら。私一人では、この子を運べないわ。』」


 八家にしては体力の少ない私ではまだ小さい藤宮杏奈ですらも、運ぶのは疲れるのだった。


「『分かりました。すぐにそちらまで行きます。』」


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