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第一章 第一話 幼なじみとの再会




「ここが『魔法都市』か。」


 俺は手に持った資料を眺めながら、周りを見渡す。来るのには一時間程度で済んだが、入る許可やここの中での身分証を作るのに、プラス約一時間もかけられた。

 作られた身分証を渡された時に、いくつかの注意も受けた。

 学生は魔法都市に入れると、学校からの許可がない限りは出られないシステムになっているらしい。詳しいことは学校などの資料で確認できると聞いたが、出る予定もない今には関係ない。

 『王』によって俺に渡された住所を近くにいた他人に聞くと、その住所はこの都市でもかなりの高級住宅街らしい。

 普通の住宅街にしても、周りを見ていると普通の街とは違うのがわかる。魔法都市らしい魔法を使った機械などが置かれている。

 色々と興味深いモノもあるが、街の探索よりも先に自分の家を確かめる必要がある。




「ここが俺の家なのか。」


 しばらく歩いた先に渡された住所まで来ると、そう言うしかなかった。

 俺の目の前には昨日まで住んでいた家と全く変わらない外見だった。わざわざ同じにしたのだろうか。別に一人暮らしなのだから、ここまで大きな家を用意してもらう必要はなかったんだが。

 中に入ってみると、さすがに内装はまるで違った。しかし、


「何故にこんな洋館みたいになっていて、しかも色々と家具があるんだ。」


 見に覚えがない家具が大量にある。絵画や壷など家にはなかったはずの物がある。

 手紙を見てみると、気付かなかったのだが、もう一通入っていた。


「内装だけはこちらではわからなかったので、こちらの都合で用意させてもらった。家具のことなら気にしなくても構わない。こちらがもらった物や余っている物を回したので、壊れても構わない物だ。こちらの都合で君には不自由をさせているのだから、これぐらいは当然なこととして、受け取ってくれ。

 では良い学生生活を。」


 内装がわからないのは当然だろう。俺だって八族のうちの一族だ。家には他の連中に見られたらヤバい物もいくつかある。だから家だけは防御用の魔法をいくつか使っていた。

 それにしても、家具を見て回っていると、高そうな物がかなりある。何故ここまでするのか全くわからない。やはり受けたのは間違いだったか。

 それに手紙の主と『王』の当主とは別人だろう。当主は飾りなのか、それとも会議ではああいうふうに振る舞っているだけなのか。

 懐に手紙をしまって階段を上がると、唯一見慣れたモノがそこにはあった。

 モノリスと俺が送っておいた簡単な日用品である。持ってきた荷物からコンピュータを出し、モノリスと繋ぐ。モノリスが起動することを確かめると、すぐにスイッチを切った。

 そして、もう一つのコンピュータを出して学園のサーバーに繋ぐ。こちらも接続できたことを確認すると、すぐにスイッチを切った。

 片付けがある程度できたところで下に降りると、キッチンなども完備されており、本格的な料理ができる雰囲気だった。一応冷蔵庫の中を確認すれば、さすがに空っぽだった。

 足りない物は買い物に行こうとしていたところだが、家の中には家具が大量にあって行く必要がないと思っていた。

 どこに何があるのかはまだわからないが、適当に歩いたら覚えるだろう。




 外に出てみると、高級住宅街の端っこの方なので、すぐ近くに店などが立ち並んでいる。

 時間帯で言うと、下校の時間には少し遅いぐらいなので、歩いている人はまばらだった。

 周りを見ながら歩いていたせいか、何度か人と当たりそうになったが、紙一重で避けているので、誰にも当たっていない。適当な店を見つけたので、そこで食事をしようかと思って立ち止まると、誰かが背中に当たった。


「ちょっと、いきなり立ち止まらないでよ。」


「あぁ、悪い。」


 ぶつかった少女を見ると、どこか違和感を感じた。どっかで、見たことあるような気がする。


「あっ、あんた。天宮じゃないの。」


「何で俺の名前を知っているんだ。」


 初対面のはずの人間が俺の名前を知っていたので、自然と身構えてしまう。

 向こうはこっちの様子など全く気にしないで、話を続けた。


「なるほど。あんた、私のことをまだ思い出せないのね。天宮(アマミヤ) (レン)。私の名前は姫野(ヒメノ) (ハルカ)よ。これで思い出したんじゃない。」


 姫野 遥、頭の中にその名前が入ってくると、俺は大きく後退る。小学校のころの記憶が蘇ってくる。


「もしかして『殺戮の魔女』とか、『死神姫』って呼ばれたあの姫野遥か。」


「ほう。それを私の前で言った度胸は褒めてあげるわ。けど、死になさい。」


 姫野の右ストレートが飛んでくる。紙一重で避けると、左脚が飛んできた。さらに一歩下がって、避けた。昔ではできなかった芸当だ。


「避けるな、蓮のくせに。」


「蓮のくせにってなんだ。それに周りの目を少しは気にしろ。注目を集めている。」


 そう言った途端、姫野は止まる。


「あと、パンツに動物柄はいくらなんでも子どもしぎると思うが、それに年頃の女子がハイキックをするのはどうかと思うぞ。」


 俺も久しぶりに会ったことで少し感情が高ぶっていたらしい。同じ年ぐらいのやつと話したのも久しぶりだった。そのせいで、言ってはならないことを平気で言ってしまった。


「死になさい。」


 その一言とともに放たれた右ストレートは避けるのは不可能だった。そのまま殴られるのは趣味ではないので、止めさてもらう。


「悪い、言い過ぎたな。そこで何か奢るから許してくれ。」


「どうせなら、そこ奢って。」


 そこはさっきまで俺が見ていた場所だ。値段を見た感じだとそれなりに高い。少なくとも学生が簡単に手を出す値段ではなかった。

 姫野はニコニコとしながら、右手を構えている。俺はため息をつくと、姫野を誘った。


「わかったよ。それがいいなら、ついてこい。」


 姫野は俺が了解するとは思っていなかったらしい。キョトンとしてみせると、


「嘘、本当に奢ってくれんの。ラッキー、一回ここで食べてみたかったんだ。」


 姫野は携帯を出すと、いきなり電話をかけ始めた。


「おい、友達呼ぶのはなしだぞ。」


 いくら何でもそこまでの余裕があるわけではない。


「あぁ、蓮は黙っといて。うん、今日は友達と一緒に食べて帰るから。へっ、ち、違うわよ。蓮はそんなんじゃないから。・・・だから、帰ってから説明するから待っといて。あっ、お父さんには黙っといてね。うるさいから。」


 姫野は顔を真っ赤にして、電話を切った。


「さぁ、蓮。さっさと行くわよ。思いっきり食べてあげるわ。」


 何があったのか知らないが、姫野の親は許可を出したらしい。少しだけ、却下してくれるのを期待していたんだかな。




 姫野と席に着くと、軽くメニューに目を通して高い物から順にいくつか頼みやがった。少しは遠慮しろよ。俺も適当に頼むことにする。

 姫野はいきなり切り出してきた。


「今日来たってことは、蓮って、どこに編入するの。5月に編入って、変な時期に転校してきたわね。」


「まぁ、ちょっとした事情でな。確か、編入するのは神龍高校だった気がするな。」


 そう言った途端、姫野は立ち上がった。周りの客が迷惑そうにしている。少しは周りの目を気にしろよ。


「はぁあ、神龍に編入って。あんたそんなに頭良かったの。魔法もそこまでできたっけ。」


「一応、それなりにはな。」


「蓮と同じ学校か。また同じところに通えるとは思えなかった。」


「姫野も神龍なのか。」


「そうよ。」


 話はそこまでだった。料理がきたからだ。お互い料理を食べている時は無言だった。

 こっちは何を話せばいいのか、わからなかった。同じ年ぐらいと会うのも久しぶりなのだ。俺ぐらいの年の話なんてわかるはずもない。

 さっきから周りのひそひそ声が気になる。確かに学生二人で入るような店ではなかったかもしれない。微妙に聞こえる声がそれを明らかにしている。

 姫野も顔を赤くして、黙って食べている。こいつも変わったな。まぁ、最後に会ったのが小学校の時なのだから当たり前か。

 昔の姫野は欠片も服や髪にこだわらなかった。いつも適当にし、男子を従える女王様だったのである。

 今の姫野の雰囲気にはそんな昔の面影はなかった。顔も多少変わったと言っても、美少女なのは変わっていない。

 こいつが女王として君臨していたのは顔も良かったも大きな要因を占めている。

 ずっと見ていたから、姫野はこっちが見ていることに気付いた。


「何よ。顔に何か付いているの。」


「目と鼻と口、それと」


 茶化したところ、姫野に途中で止められた。


「当たり前でしょ。なければ、化け物じゃない。そういうのじゃなくて。」


「あぁ、変わったなと思っただけだ、雰囲気がな。顔も成長して少し変わったんだろうけど、可愛いままだし。」


「ふぇっ、当たり前でしょ。私なんだから。」


 わけのわからないことを言うと、一気に目の前の食べ物を片付け、デザートまで頼んだ。

 俺は紅茶を飲みながら、姫野が食べ終わるのを待った。

 姫野が食べ終わり、俺がお金を払って店を出ると、外はやや薄暗かった。5月とはいえ、この時間には暗くなり始める。

 俺は店の前で、姫野と別れて帰ろうとすると、


「待ちなさい。こんな中を美少女一人で帰らせるつもりなの。」


 自分で美少女って言うなよ。第一、こいつに絡んだ不良の方がかわいそうだ。100%、不良の方が病院送りにされるだろう。


「お前なら平気だろ。殺人鬼だって逃げ出す。それに、・・・いや、送らせてもらいます。」


 右手を構えた姫野を見て、降参を宣言する。これ以上怒らせるのは得策ではない。

 二人で並んで帰るが、無言だった。姫野は何も話そうとしないで、ただ横を歩いているだけだった。

 ある程度歩いたところで、姫野が突然止まった。


「どうした。」


「あっ、私の家はここなのよ。悪かったわね、無理に送らせて。」


 そう思ったなら、始めから送らせないでほしかった。こっちは俺の家とは反対側だ。

 姫野は玄関の前で立ち止まる。何かを考えているようだったが、ここからではわからない。

 そろそろ帰ろうかと思ったころに、突然、姫野がこちらに振り向くと、


「あのさ、蓮。あんたも昔みたいに私のことは遥って呼びなさい。あんたに名字で呼ばれると、気持ち悪いのよ。わかった。」


「わかったよ。おやすみ、遥。また明日、学校でな。」


 俺は遥と別れて、来た道を戻る。しかし、予想外だった。遥と再会するとは思わなかった。

 ミスったな。生徒会と風紀委員について聞けばよかった。

 まぁ、明日になればわかるからいいか。懐から紙を出す。『王』から送られてきた物だ。もう一回、目を通す。


「この『魔法都市』は権力が及ばないため、魔法至上主義の隠れ蓑になっています。ここで様々な企業などになりすまして、潜入していますので注意してください。どこに我らの敵が潜んでいるかわかりません。何かあったらすぐに報告をお願いします。」


 今日、街を歩いてみて感じたのはここは特に一般人を差別する雰囲気ではなかった。ちゃんと、魔法使いと一般人が共存している。

 つまり表だった騒ぎが起きているわけではない。遥もここに至上主義の連中がいることなんて知らないだろう。テレビの中の問題だと思っているはずだ。

 与えられた資料にしても、圧倒的に少ない。それだけ外にここの情報が伝わっていないということだ。

 そんなことを考えていると、気付いたら家まで着いた。


「しまった。明日の朝飯をどうするか考えてなかった。」


 確かに魔法至上主義は厄介だが、今の俺にはそれ以上に切実な問題だ。

 今の時間に開いているスーパーもないだろう。コンビニで我慢するか。

 明日学校行く前にコンビニに寄るから、帰りに食材を買って帰れば、


「って、高校の場所がわからん。」


 二階に上がり、コンピュータをつける。今から調べるしかない。下準備を忘れたせいだ。面倒だが、自分のミスだ。

 地図を印刷すると、学校に行くまでにコンビニもスーパーもあるらしい。行き帰りの道で、何でも揃うな。

 モノリスを確認すると、何通かメールが届いていた。一応目に通そうとして、開くとため息が出る。


「せいぜい学生生活を楽しまれよ。」


「しっかり休まれるように。」


 等々、皮肉のためにわざわざ極秘回線を使って、こんなモノを送ってくるなよ。

 メールを一つ残らず、復元できないほどまで消滅させ、もう寝ることにする。

 最後に一通届いた。今度はどこだと思うと、『遠』からだった。


「神龍高校ならば、我が一族の血をひく者がいるはずだ。もし、良ければ覚えておきたまえ。」




 『遠』・・・『遠』の血筋は『千里眼』を代表とした見通すことが得意な一族だ。

 主に処分の見届け役を任され、八族全てを見張る役目がある。そのため、議長にはなれないが、常にナンバー2として発言権を持っている。




 もしもの時は力を借りるか。『遠』の力は役に立つ。気難しい性格でなければいいが。

 ここでうまくやれば、『遠』の助力も得られる。八族での『天』の立場が昔のように戻すきっかけになるはずだ。

 携帯にメールが届いていた。食事中に遥と交換したのだが、遥からメールがきていた。


「あんたのことだから不安で眠れなくなっているんじゃない。クラスなら気にしなくていいと思うわよ。どこのクラスもいいクラスだから。楽しみにしていなさい。」


 楽しむ、か。ここまでやってくれる奴がいるんだ。学生生活、少しは楽しんでみるか。


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