表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/21

第三章 会長のお見合い


 side天宮


「何で俺たちはここにいるんだ。」


 俺が誰かに言うつもりもなく何となくつぶやくと、


「蓮、今更そんなことを言っても仕方がないだろう。秋帆のお見合いを妨害するためにスタンバイしているんだから。

 お、これは美味しいな。流石は伝統の味というやつだな。」


「そうよ。

 高級料亭だから先に入っておかないと苦労するって遠井先輩も言ってたし。

 あ、これもおいしいですよ。」


 俺と唯と遥は三人で、嵯峨会長の見合いを妨害するために魔法都市でも屈指の高級料亭〜和心(わごころ)〜を訪れていた。

 こんなところを予約できるのは八族の仕事で大金を持っている俺か表の名家である二階堂家の子どもの二階堂先輩だけだったが、二階堂家が嵯峨家と藤宮家に干渉するには力不足であり、見合いを妨害するために家の力を借りられないとのことらしい。

 だから、俺は先輩の見合いの日に合わせて予約して料亭に待機することになっただが、一緒に待機するメンバーである唯と遥は、


「蓮の奢りなのか。なら私はこのコースを頼もうか。」


「じゃあ、私はこっちを。」


 完全に調子に乗って、一番高いコースと二番目のコースを頼みやがった。


「ったく、しょうがねぇなぁ。

 畜生、何で俺がプランAじゃなかったんだ。」


 さすがに生徒会の予算は下りないだろうし、遠井先輩も食事代を払ってくれる様子はない。結局、ここは自腹で払わせられるだろう。


「俺はこいつをお願いします。」


 俺にできるのは我慢せずに食べることしかなかった。



 3日前



 唯を救い出して、学校に来た初日の放課後、遠井先輩のあの一言が全ての始まりだった。


「秋帆が見合いするのだけど、妨害するのに力を貸してくれないかしら。」


 全員がフリーズしている。遠井先輩が言っていることがみんなは分かっていなかった。


「すみません。もう一回言ってもらえますか。」


 観月先輩が代表して遠井先輩に問いかけると、先輩は一言一句違えずに同じことを言った。


「3日後に秋帆が見合いするのだけど、妨害するのに力を貸してくれないかしらと言ったのだけど、理解できなかったかしら。

 本人が望んでやるわけじゃないから、妨害しようと思ったのよ。」


「相手は誰ですか。」


「関東の藤宮家の陰陽師で、確か藤宮蒼(ふじみや そう)って名前だったわね。

 藤宮家の次男で、年齢はまだ分からないけど、既に成人していて一流の陰陽師として働いているわ。

 ルックス良し。魔法の才能も神龍大学OBで、当時の首席成績者よ。」


「断る理由が見つかりませんね。十分に良縁でしょう。しかも関西と関東の結束にもつながります。嵯峨家としては当然の選択ですね。」


 俺がうなずくと、信じられないような目線をみんなから向けられた。そんなにおかしなことを言ったか。


「天宮、いくら相手が良くても秋帆が嫌がっているのよ。

 そこを理解しなさい。」


「そうだぞ。蓮、好きな人と結ばれたいと思うのは当然のことだ。」


「そうです。結婚は好きな人とするべきだと思います。」


 別に結婚してから好きになってもいいだろう。それに名家なんだから、そんな自由はないのは当然だ。

 そう反論しようとしたが、唯や遥たちの真剣な表情を見て、こちらが折れることにした。こいつらはやっぱり女の子なんだな。

 二階堂先輩と真木先輩は名家の伝統をそれなりに分かっているから、声には出さなかったものの、嵯峨会長の見合いには反対のようだ。


「分かりました。見合いの妨害には協力しますが、作戦はあるのですか。あの藤宮と嵯峨を敵に回すのは勘弁してほしいのですけど。」


「プランAとプランBの二つがあるわ。

 一つは正攻法だけど、もう一つは超裏技ね。

 プランAは簡単、嵯峨家の人間は明日にはここに来るから、正面から止めるように頼みに行く。

 プランBはばれないように変装して、秋帆を無理やり連れ去って嵯峨家と藤宮家を脅迫するのよ。ほら、昔に映画でもあったでしょ。花嫁をさらうやつ。」


 えらく滅茶苦茶な作戦ですね。確かに準備期間がないから仕方ないと思いますけど、もう少しましな作戦はないんですか。


「プランAには二階堂と真木、もしもの時は嵯峨のトップと戦ってもらうから、こっちもある程度の実力者が必要よ。

 プランBは天宮を中心にやってもらうわ。先に内部の地図を渡しておくから、当日までに予算して侵入経路と脱出経路を考えておきなさい。遥ちゃんは通信、実行役は唯と天宮よ。唯が秋帆をさらって、天宮は唯の援護を。」


「嵯峨のトップか。」


 真木先輩はため息をつく。

 プランAはきついな。嵯峨家のトップは代々、魔法使い連合のトップを努めている。魔法使い連合の中でも、別格視されている。そんな人間を倒すなんて一般の魔法使いには不可能だろう。


「遠井先輩、その料亭って私たちも行っていいの。」


「えぇ、資産家の子どもの贅沢に見せてほしいのよ。

 だから、天宮。絶対に唯と姫野を連れて行くのよ。金持ちが女をはべらしている感じでお願いするわ。」


 俺の顔は絶対にひきつっているはず、料亭の代金にそんな演技まで、俺に出来るわけがない。


「まぁ、あなたなら素でも大丈夫よ。」


 えらく失礼なことを言われたな。





 単純な作戦会議を終えて、嵯峨家の人間が来る日になると、プランAを実行しようと真木先輩と二階堂先輩が向かったのだが、完敗だった。二階堂家の名前のおかげか、嵯峨家の当主は会ってくれたが、実力で納得させられたらしい。

 らしい、というのは二人はその日から入院しているため、話を聞けなかった。

 俺の方は当日まで予約がとれず、朝の見合いが始まる時間よりも早めに来ることになっていた。


「一応、侵入経路とかの目処はついた。後は遠井先輩のフォローがあれば何とかなる。」


「そうか。さっき藤宮家が到着したぞ。嵯峨家の方もすぐに来るらしい。」


「じゃあ、これが食べ終わったら出ようか。

 それから作戦開始だね。」


 唯と遥は料理を食べながら、廊下を観察しておいてくれたらしい。

 タダ飯を食べているだけじゃなかったな。

 懐に入れていた携帯が震える。相手は遠井先輩だった。


「はい、分かりましたよ。こっちの方はうまくやります。

 観月先輩は大丈夫なんですか。はぁ、分かりました。

 観月先輩、信じているのでお願いします。」


 遠井先輩からの連絡によると、嵯峨家が料亭に到着したとのことだ。作戦の決行まで後少しか。観月先輩が情報操作で、遠井先輩のバックアップのために後方に残ってもらっている。


「唯先輩、遥。もうすぐ始めるぞ。」




 二日前 side嵯峨


 何回目か忘れたため息を再びついた。お母さんが先頭に立って進められている藤宮家とのお見合い。


「相手の人が嫌いなわけじゃないんだけどね。」


 見合いの相手はまだ若く、歳は10も離れていない人だ。しかし、会ったこともないのに結婚を前提で会うことは私には抵抗がある。


「お母さん、何の用?」


 人の気配がしたけど、誰だか振り向かないでも分かる。この部屋に礼もしないで入れるのは、ここにいる人だとお母さんぐらいだ。誰とも話したくなかったので、縁側を眺めていると、


「先ほど、あなたの学校の友人が訪ねてきました。

 見合いを取り止めろと言ってきたので追い返しましたが、東北の二階堂の質も落ちたものです。あれが直系とは憐れみすら感じてしまいます。」


 その言葉に私は慌てて振り返った。


「何をしたの。」


「あまりに失礼だったので、痛めつけて追い返しました。」


「く、私の後輩に何てことをするのよ。

 『水龍陣』」


 私は常に懐に入れている符を抜き放ち、お母さんに向けて投げた。

 符はすぐに水の龍となって、お母さんに襲いかかるが、


「『破っ』」


 お母さんは符を出すこともなく、呼吸を整えて気合いだけでねじ伏せた。


「あなたは私よりも才能はありますが、まだまだ未熟です。

 まず身を落ち着けて、しっかり修行に励みなさい。」


 部屋を出る前に立ち止まると、思い出したかのように呟いた。


「もう一人は真木と言ってましたね。才能はありましたが、あの程度で嵯峨家に歯向かうとは愚かとしか言えません。

 どうして笑っているのですか。」


 笑っている、私が。今さっき、お母さんに負けて、仲間がやられたというのに笑っているの。

 二人が来たのは万里の仕業ね。

 万里にしか見合いのことは話していない。やっぱりみんなは迎えに来てくれたのだ。

 私の想像に過ぎなかったことが、現実になった。


「お母さん、神龍の生徒会はまだ諦めていないわよ。私もちょっと見合いの日が楽しみになってきたわ。相手じゃなくて、仲間が何をしてくれるかだけどね。」


 なら、私は待たせてもらう。あの子は私の運命の相手になってくれるかもしれないから。

 ずっと憧れていた。私を嵯峨家という鎖から解き放つ人が来てくれるのだ。

 自然と思い浮かぶ後輩の姿、何人ものお姫様を助ける男の子を。

 期待して待っているからね、蓮くん。




 見合いの当日


 お母さんに着物を着せられると、車で料亭〜和心〜に連れてこられた。


「藤宮家の皆さんはもうお待ちです。

 あなたは嵯峨家の娘として節度のある行動をとりなさい。」


 私たちは料亭に着いた時、見慣れた姿が目に映った。

 唯と蓮くんと遥ちゃんの三人が料亭から出てきたところだった。

 蓮くんと遥ちゃんは道を開けて、私の方を見なかったけど、唯は口パクで私に伝えてくれていた。


「待っていろよ。」


 軽く笑みが浮かんだ。


「秋帆、行きますよ。

 全く、今どきの子どもは贅沢ですね。ここは由緒正しい名店、娯楽のために来るようなところではないというのに、しかも女の子を二人も連れていてすれ違う時に挨拶もしないなんて、人間としての品位を疑います。」


 お母さんはブツブツ言っていて、私が笑っていたことには気付かれていないようだ。

 でも、半分は否定できないな。無自覚だけど、蓮くんって着々と自分のハーレムを形成しているからね。

 案内された部屋の前まで来ると、お母さんの独り言はプツリと止まり、姿勢を正した。

 お母さんは障子を開けて、まず相手に一礼した。


「遅れまして申し訳ございません。

 私は嵯峨家当主、嵯峨真弓と申します。」


「これはご丁寧に。私は藤宮家の当主、藤宮雄也と申します。」


 好青年の隣に座っている人はお母さんに合わせて頭を下げる。

 この人が藤宮の現当主か。

 その隣でさっきから黙っている人が、今回の相手、藤宮蒼さんか。


「藤宮蒼と言います。

 お美しい人ですね。あなたのような人とこのような機会を得られたことを嬉しく思います。」


「ありがとうございます。私は嵯峨秋帆と言います。今日のところはよろしくお願いします。」


 確かに、悪い人ではなさそうだけど、結婚したいとは思わないな。

 心の中で、そんなことを考えながらも丁寧に挨拶を返した。自分にその気はなくても、お母さんの面子を潰すわけにはいかない。


「まだ食事が来るには時間があるから、二人で庭でも散歩してきなさい。ここの庭園は美しいらしいぞ。

 蒼、女性をちゃんとエスコートするように。」


「もちろんですよ。

 秋帆さん、私と一緒に散歩して頂けませんか。」


「私にお断りする理由はございません。エスコートをお願いします。」


 藤宮さんから差し出された手を受け取って、立ち上がる。

 唯たちが動くにしても、お母さんたちがいる室内よりも屋外の方が行動しやすいはずだ。

 私は藤宮さんについて庭園まで歩いていった。


「秋帆さんは神龍の生徒会長をやっておられるのですね。私は立派だと思いますよ。」


「藤宮さんは神龍大学の首席成績者と聞いています。そんな方から立派と呼ばれるのを大変嬉しく思います。」


「どうか私のことは蒼と呼んで下さい。秋帆さんにはそう呼んでほしいです。」


 蒼を『そう』呼ぶ、くだらい洒落ね。


「分かりました。蒼さんでよろしいでしょうか。」


 いつもの口調に戻りたい。こんな堅苦しい口調をいつまで続けなければいけないんだろう。

 私はお母さんのように庭園を見ているような趣味は持ち合わせていない。音楽もクラシックとかよりもJ―POPの方が好きだし、こんな風に歩くぐらいなら万里たちとくだらない話をしている方が楽しい。

 早く蓮くんたちが来てくれないかな。蒼さんとの会話や景色に退屈を覚え始めた私はそんなことを考えていた。




 side??


「あれが藤宮を道具にしようとしている悪女なのね。」


 私は望遠鏡を使って、隣のビルの屋上から和心の庭園を眺めていた。

 いきなりお見合いをすると聞いた時、また藤宮家を利用しようとする人間が出てきたのかと思ったけど、今回の相手は関西の名家である嵯峨家とのこと。

 歴史も実力も向こうの方が遥かに上、しかも相手は嵯峨で神童とまで言われている嵯峨秋帆とのこと。そのせいか、今日のお見合いに珍しくやる気を見せており、決まってしまうのではないかと気になっていた。

 嵯峨家は間違いなく藤宮家を利用するつもりだろう。あそこまで誇りを重んじている家が嵯峨の神童を藤宮に渡すとは思えない。こちらの戦力を減らす嵯峨家の卑劣な作戦に違いない。私が絶対に、そんなことはさせるわけにはいかない。


「私が思い知らさせてあげるわ。あまり藤宮家を舐めないことね。」


 手に持った符に魔力を込め始める。


「『我は藤宮に連なる者なり。

 さぁ、我が式神よ、汝らとの血の契約に応じて我が前に姿を表せ。』」


 これは今日のような(格上の相手に挑む)日のために準備をしておいた特別製の符だ。普段は必要のないため、省略している詠唱も今日だけは全て唱える。普段の式神では即効の展開を重視しているスピードタイプだが、今日は出力重視のパワータイプだ。

 私の体内に魔力が行き渡り、手に持っている符に魔力が流れこまれる。


「『破軍、ここに現れよ。』さぁ、行きなさい。『北斗』、『南斗』

 藤宮の敵をけちらしなさい。」


 庭園に向けて投げこまれた二枚の符は二体の剣士と陰陽師に姿を変わった。

 この二体が私の切札の式神の『北斗』と『南斗』だ。藤宮の本家でもこの式神を倒せる術者は少ない。


「嵯峨秋帆、いくら嵯峨家の神童と呼ばれていても、符もない状態で逃げられるかしら。

 藤宮家に害なす悪女はここで大人しく死になさい。」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ