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第六話 反撃開始と何も知らない人々


 side橘


 私は見つからないように隠れ、ようやく一息ついた。先の戦闘での蓮にやられた最後の一撃のダメージが身体中に残っている。


「く、思った以上の実力だな。

 たぶん正体は万里にも気付かれただろうし、学校には戻れないか。」


 今回の作戦には反対だった。確かに最大戦力になる生徒会がいない時に学校を狙うことは分からないでもない。

 でも、一般科の新設を完全に防げたわけではない。今回の作戦で成功したのは新しい魔法の技術を盗み出せたぐらいでしかない。あの人の言うように私たちの正義が勝つために必要なのは頭では分かっている。


「でも、私がいるのに。」


 そこに小さな嫉妬があることも自覚している。

 あの人は私が必要だと言ってくれた。私を捨てた両親とは違う。あの人だけが私を癒してくれる。なのに、


「何故、今は蓮の顔が思い浮かぶ。」


 あいつが神龍に来た時に初めて出会ったはずなのに、どこかで違和感を感じていた。懐かしいような悲しいような少し分からない感じがしたのだ。

 それにしても、蓮に食らった一撃は両腕を折るにまで至らなかったが、しばらくまともに動かすことは難しい。


「頼りになりすぎる後輩だな。

 一年で、ここまでの実力を持っているのか。外の魔法使いを舐めていたのかもしれないな。」


 自分の実力にかなりの自信があったのだがな。

 途中までは間違いなく私が有利に進めていた。でも、蓮が私の魔法を見ると同時に放った一撃には両腕を交差する程度の反応ぐらいしかできなかった。間違いなく最後の一撃だけは蓮の本気だった。

 つまり二階堂と戦った時はまだ本気を出していなかったということか。

 苦痛で顔が歪むが、いなくなる自分の代わりができたことは素直にうれしかった。これで、学校のことは気にせずに消えられる。ただ一つの心残りが解消された。


「く、とりあえずあの人のところに戻らないと。」


 早く次の指示を聞きたい。あの人に私のことを慰めてほしい。早くあの人の声を聞きたい。

 痛む身体にムチを打って立ち上がる。私が倒れるにはまだ早い。まだまだ私がやるべきことは残っている。

 重い身体を引きずりながら、私は路地の奥へと入っていった。




 side天宮


 襲撃を受けたと聞いて、学校に戻ってくると、まず惨状に驚かされた。


「これは酷いですね。」


「これで死人がでていないのは不幸中の幸いというやつだな。」


 俺たちが帰ってきて見たのはボロボロになっている学校だった。

 教室の方はそこまで酷くないが、実験棟の方は魔法によってボコボコに穴が空いていた。高価な実験器具もほとんど駄目になっている。


「どうしてこんなことを。」


 観月先輩は両手で口を覆っている。

 しばらく学校の被害の様子を見て回っていると、嵯峨会長が帰ってきた。

 ようやく警察との話が終わったらしい。


「悪い報告しかないわ。

 まず一つ、上空に設置されている衛星のことだけど、あれは都市側が作ったデマらしいの。そんな物は実際に設置していないし、都市の監視カメラも簡単な魔法でごまかされるのよ。

 次は魔力が散乱しすぎていて、どれが誰の魔力なのかまるで分からないとのことよ。

 最後は最悪で、唯が拐われたわ。警察には唯は今日姿を見せていないし、ついさっきに唯を拐った脅迫状が届いたの。要求はまだないけど、捜査は難航しているとのことよ。」


 見事なまでに最悪の状況だな。橘先輩のことは遠井先輩と話し合った結果、みんなには先輩のことを伝えないことにした。遠井先輩に探してもらうことになっているが、想像通りだと遠井先輩の努力は無駄になるはずだ。

 次に打つべき手段はまだ見つかっていない。


「とりあえず生徒会に情報が集められているわ。」


 俺たちが学校を見て回っている間に、遠井先輩は別報告からも情報を集めてきていた。


「蓮、橘先輩って無事だよね。」


「殺しても死にそうにない人ですから大丈夫だろう。」


 軽口を叩いてみせるが、解決法が見つかっていない以上、やはり空元気にしかならない。

 全く、あの人は何を考えているんだ。みんなにここまでの心配をかけていることを分かっているのか。

 あんな組織にいる理由も問い詰めてやらないといけない。


「まず、神河理事からの報告だけど、捕えられた人間は何も知らないそうよ。たぶん組織の中でも末端の連中と思うわ。

 今回の作戦は本来のメンバーであるのは、黒服だけらしいの。つまり、こっちに来た人間が本命なんだけど、全員逃してしまったようだし、上に繋がる情報は今のところはないわ。

 そして、千里眼を使って唯を探索したけど、どこにいるのか見つけられなかったわ。

 こっちは完全に私の力不足ね。ごめんなさいね。」


「万里が気にすることじゃないわ。時間も短かったし、しょうがないわよ。」


 遠井先輩でも見つからない。こちらの予想通りというわけか。


「相手のことだけど、二つだけ分かったことがあるわ。

 一つは相手の組織名よ。

 確か、捕えられた人間はM.S.Pって言っていたそうよ。

 もう一つは黒服みたいに上から認められた人間だけが、幹部たちと会えるらしいわ。上から声がかかるまで下は手柄を立てながら待つそうよ。」


「M.S.Pですか。それが橘先輩を拐った組織っていうことですね。」


 M.S.Pか、頭の中で考えると一つの言葉が思い浮かんだ。


「そのままの組織名だな。考える必要もない。あいつらの信念そのものだ。『魔法至上主義』」


 余計、橘先輩がM.S.Pに協力するのか分からないな。あの人は十分に才能もあるし、想像通りなら対極にいるはずの存在だ。


「『魔法至上主義』、あの魔法使いの国を作ろうとしていり団体ですよね。そこまでするんですか。」


 予想外に魔法都市内では噂は広まっていないらしい。

 これは魔法都市そのものが加担している可能性があがったな。

 嵯峨会長に目線を向けると、言いづらそうにしながら、遥と観月先輩に説明した。


「あまり知られてないから言いたくなかったけど、隠しておけないよね。

 二人とも聞いて。

 確かに『魔法至上主義』はそういう信念を持って行動しているけど、テロ組織としても最大の物なのよ。

 現在に日本に散らばっている魔法使いを合計するたと40万人と言われているけど、私たちの実家である魔法使い連盟でもメンバーは20万人もいないのよ。

 日本の場合はまだ私たちのような古い家系が共存を宣言しているから、少ないけど、外国では有名な魔法使い以外だったら、『魔法至上主義』に入っている人も多いの。

 外での反魔法使い勢力が強いのもそのせいよ。

 誤解しないでほしいけど、『魔法至上主義』が全員テロリストというわけではないの。だからこそ、政府は公表できないのよ。世界中にいる『魔法至上主義』の信者を敵に回したくないから。

 世界中に何人いるかは知らないけど、少なくとも数百万単位でいるはずよ。それほどの信者が一斉に動いたら、どうなるかぐらい想像つくわよね。

 間違いなく大戦争が起きる。魔法使いの中でも一人で都市一つを滅ぼしせる人間だっている。

 今のところ戦争が起きれば、間違いなく魔法を使えない側が勝つでしょうけど、負けたのと同じぐらいの被害が出ると言われているわ。」


 衝撃的な話を聞いたせいか二人とも唖然としていた。

 そうだろうな。俺だって、いきなり聞かされたら絶対に信じることはできないだろう。


「『魔法至上主義』の真実は置いておきましょう。今は橘先輩の方が先でしょうから。」


「要求などはまだ来ていないわ。」


 地図を見下ろして、人が隠れられる場所を探していくが、仮にも学校を中心とした都市である。簡単に見つけられない。


「ここって、M.S.Pって書いてありますけど、違うのですか。」


「そこは魔法研究所よ。魔法による平和活動もしているわ。」


 遠井先輩は手元にある資料に目を落としている。

 不意に背中に違和感を感じて振り返ったが、誰もいなかった。


「すみません。ちょっと席を外してもいいですか。

 実際に刀を合わせたせいか、少し疲れたみたいで。」


「いいわよ。今日は十分に動いてくれたわ。帰ってもいいのよ。

 これは私たちが勝手にやっているだけなんだから。」


「いえ、外の空気を吸ったら、戻ってきます。まだ大丈夫ですから。」


 一言断って外に出ると、違和感の正体に気付いた。


「降りてきて下さい。優音さん。」


「良く気付いたわね。『遠』でさえも気付かなかったのに、腕が落ちたのかな。

 それとも私だから分かった。」


 俺が声をかけると、天井から優音さんが降りてきた。姿は先ほどのスーツのままだ。


「当たり前です。俺が優音さんの気配を読み違えるわけないでしょう。」


「そう、ありがとうね。」

 さらっと返すと、優音さんは少しつまらなそうな表情になる。

 からかうつもりでしたか。もう、やり慣れたやり取りだ。



「で、本題は。」


 まさか手ぶらで侵入していたわけではないだろう。

 もし、そうなら優音さんに対する認識を少し変える必要がありそうだ。


「そうそう。相手はもう聞いたよね。敵の場所が分かったから教えてあげようと思って。」


「本当ですか、どうやって。」


「始めから怪しいところはピックアップしといたのよ。

 それで、怪しいところを片っ端から調べていったら、そこには通信記録を故意に改竄された記録があったのよ。

 他にも本来の研究には必要ない物が大量に運びこまれていた形跡もあったわ。

 決め手は不自然な人の流れね。昨日出てきた事務員をつけて、ちょっと尋問したら全部吐いてくれたわ。」


 絶対に『ちょっと』尋問じゃないだろう。あなたにとって、あれはちょっとでも他人からすれば地獄ですから。

 沈黙をどう捉えたのか知らないが、優音さんは考え込んだ。


「やっぱり人手がいる?」


「いえ、俺一人で出来ます。別にあの二つがあれば、負けることはありませんから。」


 しかし、あれらを使おうと思えば、家に帰って準備する必要がある。


「これ以上ここにいるのも危険ね。私はこれで帰るわ。」


「貴重な情報ありがとうございました。

 また、お礼はさせてもらいます。」


「じゃあね。楽しみにしているわ。」


 優音さんがいなくなると、生徒会室の方に戻る。あまり席を外すのも良くないだろう。


「戻りました。」


「あ、蓮くん。今から街を回ろうと思うけど、どうする。」


 どうやらいない間に方針が決まったらしい。

 残るのは千里眼を持つ遠井先輩とその補佐として観月先輩か。


「俺は残らせてもらってもいいですか。

 ちょっと身体がきつくて。」


「やっぱり無理しない方がいいですよ。身体に気をつけて下さい。」


「いえ、大丈夫です。残って書類整理ぐらいならできますから。」


「なら、任せるわ。行きましょうか。」


 嵯峨会長が全員を連れて、生徒会室から出て行くのを見送ると、遠井先輩が口を開いた。


「やっぱり、天宮。今日は帰りなさい。先生たちもいないから、することはないわ。

 あなたは身体を休めておきなさい。間違いなく橘を救う時の主戦力になるわ。

 黒服とまともに戦えるのはあなただけなのでしょう。」


「なら、お言葉に甘えます。すみません、観月先輩。では、先に帰らせてもらいますね。」


 観月先輩に挨拶すると、生徒会室から出た。

 身体が不調なのは嘘だ。一回も身体に食らっていないし、別に疲れたわけではない。

 完全に見抜かれているな。

 ため息をつきながら、準備をするために家に向かった。




 side嵯峨


「そうですか。わかりました。」


 街に出て、見回っているけど、唯を見たという人は全く現れなかった。


「おかしいですね。」


「はい、誰かが見ていてもいいと思うんですけど。」


「遥ちゃん、ちょっと休憩しよっか。真木くん、あそこで休憩しない。帰ってすぐだったし、みんな疲れているでしょう。」


「そうだな。特に問題はない。焦っても仕方がないからな。」

 喫茶店に落ち着くと、少し周りを見る余裕が生まれてきた。


「ねぇ、気になるって言うと、最近の唯がおかしかったきがするのよ。

 ほかにも蓮くんも万里も帰ってきてからおかしい気がするのよね。」


「あの二人か。確かにそうだな。天宮はあまり会っていないから何とも言えないが、遠井の方は間違いなく何かを隠している。違うな、戸惑っているような気がする。」


 やっぱり見つけられなかったことを気にしているのかしら。万里のことだから大丈夫だと思うけど。

 遥ちゃんもさっきから少し落ち着きが足りないし、二階堂くんは遥ちゃんの隣に座って緊張しているのかしら。


「嵯峨、もう作戦は一つしかない気がするが、お前の意見はどうだ。」


「作戦ですか。」


「神龍の卒業生が一番就職する割合が高い場所を知っているか。」


「いえ、知らないです。」


「軍隊よ。唯を探すのに軍用品を借りるしかないと思うの。軍用コンピュータならかなりの精度があるから。

 それで街中のカメラと接続して、唯を探そうと考えているのよ。

 神龍のでも可能かもしれないけど、完全に壊されちゃっているから、新しいコンピュータを取り寄せるのには時間がまだかかるからね。」


 人脈に頼った最終手段だが、方法を選んでいられる状況じゃない。明日にも頼む必要がある。


「じゃあ、今日は解散ね。明日にでも、私が軍の関係者と交渉します。」


 その場でみんなと別れると、携帯から番号を見つけ、久しぶりに自分から掛けた。


「お母さん、軍に知り合いがいたわよね。ちょっとやってほしいことがあるの。

 えぇ、もちろん条件は飲むわ。まとめてくれてもいいけど、私はここから出られないわよ。」


 私にとって嫌な条件だけど、唯のためには背に腹を変えられない。


「えぇ、また連絡するわ。こっちの約束も忘れないでよね。」




 side遠井


「あら、不服だったかしら。」


 私は天宮が出ていった後、ドアを見つめたままの観月に声をかけた。


「いえ、別に心配していただけです。

 風紀委員を全員倒してみるような人と互角に戦ったと聞いて、凄いなと思うけど、身体が大丈夫なのかなって思っただけです。」


「あら、モテモテなのね。天宮は。」


 顔を真っ赤にしている観月を見ていると、心が和むわね。

 唯もよく心配かけるけど、天宮もけっこう心配かけるタイプよね。

 天宮は分かっていないでしょうね。自分がどれだけ恵まれた立場にいるのか。いえ、立場のせいで鈍感になっているだけでしょうね。


「天宮のことを心配するのも分かるけど、今は唯のことを心配してあげなさい。

 まぁ、色々と天宮に好意を寄せる人間がいて、焼きもちは分かるけどね。」


「違います。いえ、違いませんけど、はっきり言われると恥ずかしいというか何というか。」


 観月は顔を真っ赤にして、資料に目を落として整理を始めたから、私も始めようかしら。天宮に任せておけば、唯を連れ戻してくれるでしょうね。




 side天宮


「これは観月先輩の勘が当たったな。」


 俺が来ていたのは、先ほど観月先輩が指差していた場所、M.S.P(研究所)の方だ。


「何故、人間は魔法を使えるのか。他の人間以外の知能が高い動物は何故、魔法が使えないのか。

 魔法歴史学の永遠の命題だな。」


 魔法が発見されてから、大きく世界は動いた。

 神道や陰陽道の影響を強い日本や中国が一気に伸び始めた。アメリカにしても先住民であるインディアンの政界への進出、世界中の勢力図は様変わりした。

 西洋の魔法も負けていなかった。一気に研究を始め、軍事利用できるように進歩したのだ。

 その中で何故、魔法が使えるようになったのか、それを研究している研究者も多いが、まるで分かっていない。

 何故、魔法術式を読めるようになったのか。何故、魔力が人間に宿るようになったのか。分からないことしかないと言っても過言ではなかった。ただ魔法を発動するやり方が分かるだけ、新しい魔法術式が開発されるだけ。

 何も分からないまま便利さに溺れている。


「ま、今は関係ないか。俺にとって必要な力だから使うだけだな。」


 橘先輩はたぶんここにいるだろうし、決行は夜だな。

 幸いなことに周りに住宅街は存在しない。ここらは研究所や会社のビルが乱立している地帯だ。夜になれば、誰もいなくなるだろうし、相手はまだ居場所がバレたことに気付いていない。

 チャンスは今夜しかない。




 side??


「そうか、無事で良かった。

 まだ研究の実験データが完全にインストールできていない。だから、ここを動くことはできない。今日、明日程度でこの場所が見つかるとは思えないが、もしもの時のために今夜はここで待機しておいてくれ。」


 目の前には橘が頭を下げている。報告を聞くかぎりでは、妥当な感じだろう。 最初からあの7人は捨てゴマのつもりだったからな。

 一人ぐらいは期待していたが、所詮はできそこないの集まりでしかなかったわけか。


「事が終われば、君には一回休んでもらおう。君は働き過ぎだ。」


「ありがとうございます。その、」


「あぁ、私もこの件が片付けば休暇を取らせてもらおうと考えているのだが、君もどうだろうか。」


「本当ですか。それなら、も、もし邪魔でないならば、一緒に過ごしてはよろしいでしょうか。」


 やはり玩具は従順でなくてはな。


「もちろんだ。私には君を拒否する理由がないよ。」


 このまま私専用の玩具になってくれれば、私はさらに出世できる。これこそ、天が私に与えてくださった物だろう。


「じゃあ、今夜はお願いするよ。」


「はい。」


 騙されていることも知らずに、愚かな娘だ。

 私の出世は目の前、邪魔する人間は全て舞台から退場してもらおうか。


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