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第四話 交流会の開催


「蓮くん、この子を君に頼んでもいいかしら。私たちはこれから遠くに出かけなくちゃいけないから。それまで守ってあげてほしいの。」


 これは夢だ。

 言葉を聞いた途端、昔のことを思い出した。顔や名前は覚えてないが、幼いころに一週間だけだったけど、家に女の子を預けられたことがあった。

 まだ遥とはあまり仲がいいとは言えなかった頃だったから。二人で遊んでいた記憶がある。その子と遊んでいると、その時のどの友達と遊ぶよりも楽しくて、毎日が本当に楽しく過ごしていた。

 その子は花が好きで話についていくために、嫌いな勉強も必死でやっていた。少しでもその子のことを理解しようとするように。

 今なら思えるが、間違いなく初恋だったと思う。




 一週間後に、彼女の両親が帰って来てお別れになったのだ。あれから一度も会っていない。


「ねぇ、私が困ったりして助けてほしかったら、蓮は助けてくれる。」


 この時、俺はこう答えたはずだ。


「もちろん。――のために駆けつけるよ。だから離れていたって大丈夫だよ。」


 あれ、名前が思い出せない。


「約束だよ。絶対に助けに来てよね。」


「うん、約束だ。」


「なら、忘れないように。」


 その時、女の子は俺の頬に唇が触れるほどの軽いキスをすると、顔を真っ赤にして別れを告げた。

 確認できなかったが、俺も似たような状況だったのだろう。その後に、両親にはからかわれた記憶が残っている。




 そして、小学校に入り、遥と出会うことになった。


「何で、あんただけ私に従わないの。」


「そんな必要ないだろう。」


「私より弱いくせに偉そうにしているんじゃないわよ。」


「わかった。一回だけ、本気でやるよ。それでいい。」


 昔に約束した一つ、女の子に対して、本気でやらないこと。を一度だけ破った初めてのことだった。



「わ、私が負けた。」


 首筋に突きつけていた木刀を離すと、遥のことなんか気にしないで帰った。


「待ちなさい。もう一回よ。もう一回。今のはまぐれよ。調子が出なかったの。もう一度やれば私が勝つわ。」


「始めに一回だけ言った。それで君はそのことを認めたし、それで負けた。もう一度やる理由がない。」


 遥とつるむようになったのは、それからだった。しつこく付きまとうようになったが、もう一度戦おうと誘われることはなくなっていた。




 交流会 当日


「ちょっと、蓮くん。大丈夫なの。ぼーとしているようだけど。」


 現実に思考が戻ってくると、目の前には嵯峨会長の顔があった。


「うわ、大丈夫です。ちょっと緊張してしまっただけですから。」


 過去を思い出していたと言うのは、さすがに恥ずかしいので誤魔化すと、嵯峨会長は深く追求しなかった。


「そう、まぁ今日は交流会の本番だから仕方ないけど、そっちの仕事も頑張ってね。今日のために必死で準備してきたんだから。」


 いよいよ交流会の日がやってきた。最近の橘先輩は深刻そうな表情をしていたことが気になるが、今はそんなことを気にしている余裕はなかった。


「万里、VIPの人とは会場で打ち合わせするんだよね。」


「えぇ、一人は少し遅れるって連絡が入っているわ。」


「天宮、風紀委員はどうしたんだ。」


「俺以外は先に会場に行って確認しています。俺は警護の方があるので、先輩たちと一緒に行くことになっています。」


 先ほどメールで確認したら、現地の方には全員集合しているらしい。

 すでに会場前には待っている人間がちらほらいるとのことだ。


「先輩、こちらの準備は終わりました。いつでも出発できますよ。」


「そう。あっ、蓮くん。そのスーツは似合っているんだから、自信もってね。」


「あ、ありがとうございます。」


 そう実に面倒なことにもうスーツを着させられていた。


「確かに似合っています。ちゃんと護衛に見えますよ。」


「へぇ、スーツを着たら、こういう風に見えるんだ。」


 みんなに注目されているので、少し居心地が悪い。

 真木先輩と二階堂先輩が車に乗り込むと、ようやく俺を含めた生徒会のメンバーは出発することになった。




 会場 side天宮


「本日、護衛する天宮と言います。今日はよろしくお願い致します。」


 顔では笑顔を浮かべていたが、内心はかなり荒れていた。

 相手は顔に出ていないつもりか知らないが、はっきりと不満という表情が出ている。そりゃ、いきなり護衛は学生ですってなったら、驚くだろうが、普通ここまで嫌悪を見せるか。

 昔、凄かった魔法使いのかもしれないが、偉そうなうえ、今では豚にしか見えないぐらい太っている理事たちを見て、殺意を押し込めるので必死だった。

 こんなのばかりだったら、確かに一般科と魔法科の溝は深まるしかないだろうよ。俺だって、魔法使いが嫌いになりそうなぐらいだ。

 密かにため息をついていると、最後の一人が来たことを伝えられた。

 一礼をして、相手の顔を見た時、はっきりと俺の表情はひきつっていただろう。その人に向けられている他の理事の脂ぎった視線を気にしている余裕は俺にはなかった。

 そこにその女性が立っていることに比べたら、そんな物は些事だった。




 舞台裏 side嵯峨


「遥ちゃん、準備の方はできてる。」


「はい、資料も揃えました。」


「万里。」


「プロジェクターの方も問題ないわ。予定通りに動くわよ。」


「観月ちゃん。」


「風紀委員会の配置も完了したとのことです。蓮くんの方にも最後の理事が来たと連絡を受けています。」


 それぞれの報告を聞くと、予定通りに動いている。こちらの準備も終わっているし、後は始まりを待つだけか。


「万里、何か気になることでもあるの。顔が怖いことになっているわよ。」


「なんでもないわ。少し緊張してしまっているみたいね。」


「そう、ならいいけど。」


 珍しく何か思いつめた表情をしている万里だけど、答えははぐらかされた。

 この前、脅迫状が生徒会室に届いてから万里の様子はおかしくなっている。

 何か問題があれば、万里から話してくれるだろうから、今は気にしないでおこうかな。私も少し緊張しているし。




 会場 side天宮


「さて、いくら何でも多すぎないか。」


 理事たちへの挨拶と打ち合わせを済ませた後、俺は会場の方を見渡していた。

 目の前には見渡すばかりの人がいた。

 神龍が交流会を開くと、周りに公表するなり、参加希望者が山のように現れたとのことだ。

 今までで、唯一の一般科を募集していなかった学校でもあるせいか、来年の受験生だけでなく、他の一般科がある学校に通っている生徒たちも多く集まってきたのだ。他にも教師と思われる人間が何人も来ていた。

 一応、風紀委員が会場には張り込んでいるが、この混雑した中で何かをされたなら、こちらには手の出しようがない。

 いや、今はそんなことよりも重要なことがあった。


「あなたが私たちの護衛でしたの。今日はよろしくお願いしますね。」


 なぜ、このVIP席に優音さんがいるんだ。


「神河は当初から神龍高校の計画に深く関わっているのよ。ちゃんと『神』の名前も入っているでしょう。

 本家に戻りたくないなら、表の仕事を任されたのよ。」


 小声で教えて下さって、ありがとうございます。それは初耳でしたよ。っていうか、他の奴らも知っていて黙っていやがったな。

 会場の様子は、今は始まりを待つだけになっていた。

 嵯峨会長や遠井先輩たちは今ごろ舞台裏で最後の準備をしているはずだ。

 橘先輩も今ごろ警察関係との合同会議に出席しているはずだ。

 俺の手で殺した人間の行方を探すというところは引っ掛かるが、それはもう仕方ないだろう。

 時計を見たら、もうすぐ交流会が始まる時間だった。




 side 嵯峨


 私たちが舞台上の席に着くと、向こう側から一般科の代表質問者たちがこちらにやってきた。


「今日は有意義な交流会ができることを楽しみにしていますよ。

 嵯峨会長はご存知と思いますが、昨年の会長はひどかった。あれが将来日本のリーダー候補かと思うとゾッとしますからね。あなたはそんなことはないことをせいぜい期待していますよ。」


 ここに来ているのは、去年にも顔を合わせたことのある顔ぶればかり、真面目に相手する気はない。


「えぇ、こちらも一応は方針はまとまりましたから、あなた方に良い報告となればいいと思っていますよ。」


 開始の時間が近づいてきたので、相手にするのもそこそこで、自分の席にもどった。


「相変わらずムカつく連中ですね。

 話し方といい、何で魔法使いが嫌いなくせに魔法科と一般科を両立させろとか、言ってくるんでしょうか。」


「嫌いなわけではないわ。魔法の才能がなくて、みんなから尊敬される生き方ができない自分が嫌いなだけ。」


「魔法はみんなを幸せにするもの、小学生になる前から習うことですけど、現実は軍事研究が一番盛んですし、一般に知られている選ばれた魔法使いはかなり恵まれた環境にいると思ってますからね。」


「現実はどこに行くのにも政府の護衛と許可がいるし、自由はほとんどない。

 いらなくなったら、すぐに援助は打ち切りだというのにね。」


 万里や観月ちゃん、遥ちゃんと愚痴を話すと、心が落ち着いてきた。

 大丈夫、私は自分の理想を話すだけでいい。もしもの時のために、蓮くんと真木くんがいるのだから。


「今から、神龍高校における一般科新設に関する交流会を開きたいと思います。

 まず始めに理事の一人である神河優音さんにお話を願います。」


 VIP席に座っていた若い女性が立ち上がると、蓮くんに荷物を持たせて壇上にまで上がってきた。

 すると、男子の目は若い女性に、女子の目は蓮くんの方に向けられていることがわかった。

 モデルのように綺麗な人だ。見ていて人を惹き付ける魅力がある。言葉に表せない、言いようのない雰囲気がある。

 女性の方はそんな視線をものともしないで、立派に立ってみせている。

 蓮くんの方も視線のことなど全く気にしないで、カバンを置くと、静かに神河理事の後ろに控えた。

 観月ちゃんと遥ちゃんの視線も蓮くんに向けられたままだ。


「まず始めに今回、ここにお招きくださったことを感謝します。」


 私たちの方に一礼されて、ようやく私も我に返った。


「あなたまで天宮に見ていたの。」


 万里は呆れたようにため息をつくと、二人にも声をかけていた。


「あなたたちもしっかりしなさい。もうすぐ挨拶も終わるわよ。」


「は、はい。」


「わかっています。」


 二人とも顔を赤らめて、手元の資料に目を通し始めた。本当にそういうところは可愛いわね。


「あなたもよ。」


「わかっているわよ。万里。」


「では、後のことは神龍高校の生徒会の皆さんに任せることにします。

 以上で私よりの挨拶を終えさせてもらいます。」


 神河さんは一礼すると、VIP席まで歩いていってしまった。

 さて、ここからは私たちの仕事、今日までに集めた資料を使って私の思うことを話すだけよ。


「まず始めに、理解してほしいことは神龍全体としては一般科を差別していた意識はないということです。

 確かに昨年の生徒会長のような人間がいることも認めます。しかし、それは外で起こる魔法反対デモを起こしているような方と同じです。

 神龍高校は純粋な魔法使い養成機関という方針で、創設されました。

 その結果、誤った思想を持つ魔法使いを生んでしまった責任が、神龍にはないとは言えません。」


 今のところは順調に進んでいる。向こうは何か言いたそうにしているけど、とりあえずはこちらの主張を聞いてくれる様子。


 ここで一気に主題を言い切る。


「一般科と魔法科を両立している学校と卒業後の成績の差はそれほど見られないという報告もあります。

 この報告により、魔法使いの育成に一般科による影響は全く見られないと判断されました。

 むしろ、魔法使いの精神的成熟には一般科との交流がある方が効率がいいとも判断されました。

 これらの報告を受けた神龍として判断を下した結果。

 私、嵯峨秋帆。神龍生徒会長として、神龍高校は他の魔法学校と同じように一般科の新設をここに約束することを宣言したいと思います。」


 私が言い切ると、しばらく会場には静けさが訪れたけど、その後、会場からは莫大な拍手に迎えられた。

 質問者たちはびっくりした表情になったが、こちらの主張を理解のか拍手がパラパラと出始める。

 私たちの座席を確認したら、遥ちゃん、観月ちゃん、万里たちの生徒会メンバーは拍手してくれている。

 さっと、蓮くんの方を見て見ると、険しい顔で会場中に視線を動かしている。

 そのあまりの険相に生徒会で話していた可能性に思い当たり、私は反射的に叫んでしまっていた。


「万里。」




 side天宮


「―――ここに約束することを宣言したいと思います。」


 嵯峨会長の提案は会場中の拍手で迎えられた。どうやら聴衆たちには完全に受け入れられたらしい。

 ここからは一般科新設についての神龍の考えを述べる時間、


「っ。」


 感じ慣れてしまった悪意。

 それの発生を強く感じた。会場内のどこかにいる。

 とっさに優音さんの方を確認すると、頷き返してくれた。

 俺たちの間にはそれで十分。

 十分に想像していた事態、できれば起こってほしくなかったことが起きた。

 むき出しにされた悪意の元を探るために、会場に視線を落とすが、人が多すぎて把握しきれない。


「万里。」


 嵯峨会長の声が聞こえたのと、同時で悪意の元を見つけることができた。

 その人影は俺の姿を確認すると、こちらを睨みつけたので、理事たちを守るように一瞬身構えてしまった。

 その一瞬は俺にとって理事たちを守る準備には十分だった。

 しかし、相手の狙いは理事たちではなかった。狙いは生徒会のメンバーたち。

 そのため、その一瞬は相手が生徒会に近づくには十分な時間。そして、俺が相手に対応できなかった時間。

 一人が突き進むのを皮切りに、同時にいくつもの悪意が会場内から発生して、生徒会メンバーのところに向かう。

 当然、会場内は混乱する。


「行きなさい。」


「ちょっと、我々の護衛はどうなると言うのだね。」


「そんな物より、子どもたちです。あなたは早く生徒会のみんなをフォローしてきなさい。ここは大丈夫だから。」


「はい。」


 俺は優音さんに返事をすると、腰に付けていたスティックを抜き放って、縁に足を乗せて舞台上まで一気に跳んだ。

 理事たちは優音さんに任せておけば、十分だ。今は気にすることではない。


「『起動(アウェイク)』」


 今は生徒会のみんなを守るために、この力を振るおう。


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