第三話 交流会の準備
遅れてすみませんでした。筆者は受験生のため投稿は不定期になると思います。
学校 side天宮
俺は交流会のための準備に西に東に走り回っていた。
俺は風紀委員会の一番下であるため、様々な雑用を周りから押しつけられているのだ。
まぁ元々、雑用は生徒会の遠井先輩や観月先輩が片付けていたらしいので、やっと本来の仕事に戻っただけと言える。
「天宮、こっちのやつも片付けてくれ。ちょっと遅れている。」
「分かりました。」
「天宮、こっちも。」
「はいはい。」
先輩たちの仕事を手伝いながら、自分に任された仕事も片付けていく。
「蓮、この書類も。」
「はいはい、って橘先輩。これ昨日までのやつですよ。」
渡された書類は重要ではないものの、遅れたら遠井先輩の反応が怖い。
「万理と秋帆に代わりに怒られておいてくれ。私は別の用事があるから、よろしく言っておいてくれ。」
橘先輩は笑いながら、部屋から出ていった。
「ちょっと待ってください。」
俺って、一応八族の仕事でこの都市に来ているはずだ。今の状況はただの学生生活でしかない。
ため息を軽くつくと、とりあえず遠井先輩に書類を提出するために部屋を出た。また、怒られるだろうな。ドアを開けながら再びため息をついた。
「蓮、風紀委員の配置について話したいことがあるから、生徒会室まで来るようにだって。」
「あぁ、了解だ。」
部屋を出たところで遥に捕まり、生徒会室まで一緒に行くことになった。
「大丈夫。かなり忙しいらしいけど。」
いつも任せていた雑用+交流会の準備を風紀委員会で行なっているのだ。一応手の足らない部分では遠井先輩の力を借りている。
正直、風紀委員会は十人ちかくいるのに人手が足りないのだから、去年まで二人で片付けていた遠井先輩と観月先輩には頭が下がる。
生徒会室のドアを開けると、そこには俺と馴染みのある生徒会役員だけしかいなかった。
「遠井先輩、遅れてすみません。」
「どうせ、唯が渡すのを忘れていたんでしょ。後で怒っておくわ。」
完全にお見通しだな。
「さて、ようやく蓮くんが来たところで、観月ちゃんが準備してくれた物を見ましょうか。」
観月先輩が会場の地図を広げる。
何人かの名前が地図上に書かれている。どうやら、そこが警備の位置らしい。
そこには他の一年生と俺の名前がなく、やけに偏っているように見える。
「これは風紀委員会で見せる用なの。一年である蓮くんに、重要な仕事を任せることをあまり公にできないから。」
「分かってます。」
こちらとしても、あまり注目を浴びるのは避けるべきだ。目立ちたいわけでもないし、特に問題はない。
「当日、こちらの風紀委員会の顔とも言える橘委員長は別件でいません。
それと他校の一般科の生徒にあまり威圧的にならないように人員は配置しているつもりです。」
この配置だと要人や生徒会役員を守るように配置されており、会場には誰も配置しないみたいだ。
交流会程度でそこまで徹底する必要はないだろう。
「天宮くんには当日、スーツを着てもらって、要人警護に当たってもらいますけど、いいですか。」
「何故そこまでするのか、教えていただけたら。」
そこまでするものなのか。たかだか学生の交流会程度、そこまで警戒するようなものではないだろうに。
質問には遠井先輩が答えてくれた。
「スーツなのは、誤魔化すためよ。魔法関係の要人って、基本的に一般科に受けが悪いのよ。
表沙汰にされていない魔法要人が襲撃されたことなんていくらでもあるわ。そんな人を魔法科の生徒が守っていたら、一般科の生徒の心象は良くないでしょ。」
「分かりました。」
理由を聞いたら、うなずける。対等な交流会のはずなのに、全て魔法学校側が仕切っていれば、反発が出るのは目に見えている。
「一応、スーツなのは今年からなの。去年は議論が白熱しすぎて、そこまで物を投げられたりしたから。
やっぱり威圧感があるのよね。こっちが主体のせいか、向こう側は下に見られているように感じているの。」
なるほど去年の失敗をいかしたわけか。って
「俺が狙われるかもしれないってことになりますよね。」
俺のそんな疑問は一刀両断された。
「大丈夫。そうならない人を唯に選んでもらったから。」
いやいやいや、あの人のことだから、適当に俺の名前を出しただけだろ。
「風紀委員会にはこれを持っていくわ。詳しい説明は私がするから。」
遠井先輩は席を立つと、俺も一緒に席を立った。
「はい。ではすぐに集まるように連絡しておきます。」
風紀委員会の連絡用のメールアドレスで全員に部屋に集合するようにメールを打っておく。
部屋から出てすぐに遠井先輩は耳元でささやいた。
「行方不明の侵入者、見つからないのはあなたの仕業でしょ。」
長年の反射で、とっさに遠井先輩と距離をとった。今の状況は廊下で二人、誰かに聞かれた心配はない。
「そこまで過剰に反応することではないでしょ。あなたも私の素性に気付いているんでしょ。」
「『遠』の千里眼、あの時の補助はあなたですか。」
『遠』の千里眼・・・『遠』の血筋が持つ特殊能力、探索系としては最上位に値する魔法を『遠』の血筋は生まれながらに持っている。
直接戦うことが苦手な『遠』が八族に名を連ねるのは、この能力で八族に有利な情報を集めたり、大陸の動きを見透かしたりするためである。
「いえ、私の兄よ。魔法都市への干渉は基本的に禁止。これぐらいはあなたも知っているでしょう。
でも、始めから中にいる場合はその限りではない。これは始めに魔法都市側と交わされた契約。入るためにはこちらに認められなければいけない。
だから、『遠』は魔法都市ができる前から何人かを潜り込ませているわ。私は例外だけど。」
「俺のことは。」
「名前を聞いたら分かるわよ。それに身体についている匂いは『遠』は見逃さない。誤魔化すことはできないわ。」
冷や汗が出てくる。隠せていたつもりだった。裏の世界では強さよりも気付かれないことの方が重要なのだ。
いくら強くても、見える物は怖くない。最強なんて存在しない。強さなど変化するものだと教わっている。
目の前にいる『遠』は間違いなく、本家の血筋を引いている人間である。しかも、本家と戦えるのは本家のみ、それは他の八族でも関係ない。
つまり、分家では本家に勝てない。少なくともよっぽどの状況でなければ、分家が勝つことはない。それだけの絶対の力の差が存在するのだ。
「そう構えなくてもいいわ。私もあなたに干渉するつもりはないから。」
私も、か。こちらも手を出さないように釘を刺されたな。
「早く行くわよ。他の委員を待たせるわけにはいかないわ。」
この場で、これ以上話していても得はない。遠井先輩の方がこっちでの生活は長いし、協力者のことを考えると、今はあちらに従う方がいい。
「分かりました。早く行きましょうか。」
しかし、こちらの動きを全て見透かされるとするならば、相当動きにくい。いっそのこと、仲間になってもらえるように説得してみるか。
目の前で歩いている遠井先輩を見ながら、頭の中を整理していく。
『遠』がこちらの仲間になってくれるのであれば、心強い味方になるだろう。しかし、使い方を誤れば、こちらの身が破滅する危険もある。しばらくは様子を見たることにしよう。
風紀委員会の打ち合わせを終え、しばらく部屋で橘先輩の書類をまとめていた時に、携帯にメールが届いた。一応、送り主を確認すると、生徒会となっており、緊急用件と書かれていた。
「いますぐ生徒会室に集合してください。少し話し合いたいことがあります。」
「失礼します。天宮です。」
「来てくれたわね。」
生徒会室に入った俺を出迎えたのは嵯峨会長に遠井先輩、真木先輩、観月先輩、そして遥の5人だった。
「何かあったんですか。緊急用件とのことでしたけど。」
「実はこのような物がさっき生徒会室に届いた。宛先は神龍生徒会様、差出人の名前はなしだ。」
真木先輩が俺に手渡したのは一枚の手紙だった。封筒はどこにでも売っているような物だ。特に封筒におかしいところはない。中を開いて取り出してみる。
「神龍生徒会様、
このたびこのような手紙を送りましたのは、あなた方に頼みたいことがあったためです。
私たちの頼みとは一つ、神龍交流会の中止です。それが駄目ならば、代わりに一般科を新設するなどのことを中止してください。
もし、こちらの要求を受け入れられないのならば、神龍に悲劇が襲うことになります。こちらとしても、始めから手荒な真似はするつもりありませんので、そこのところをよろしくお願いします。」
裏返してみても、他に書いてあることはなかった。
「それで、どうするつもりですか。」
全員が黙ったままなので、とりあえず沈黙を破る。
「私の意見を先に述べておくわ。
私はこちらの手紙の要求をのむことを提案するわ。差出人は書いていないけど、間違いなく『魔法至上主義』の連中よ。魔法を使われたら、どれだけ守るのが難しいか。分からないわ。」
「俺もだ。俺も遠井の意見には賛成をしたい。
魔法が使えない一般人が何人いようとも、傷付けないで捕らえることぐらいできる。しかし、魔法を使われたら、相手を捕らえるのも困難な上、周りにも甚大な被害が出る。」
他の役員も二人の意見に賛成な様子だが、嵯峨会長と観月先輩は、どこか心配しているように見える。
「みんなを守るためだけど、一般科の生徒を拒絶しなければならないのかな、て思ってね。」
「私も嵯峨会長に同意見です。
それに会長が言わなければならないんですよね。何とかできないんですか。」
二人が言いたいことも分かる。性根が優しい二人なら一般科の生徒を拒絶できない。しかも、それを言うのは嵯峨会長本人なのだ。周りから非難を浴びることは目に見えている。
「分かったわ。二枚とも私に見せなさい。さっきはリミッターをかけていたけど、今回は外してやってみるから。」
遠井先輩が眼鏡を外して胸ポケットに入れると、並べられた二枚の脅迫状に目を落とした。
周りが静かになり、音をたてる物はなくなった。遠井先輩の行動を全員で見守る。全員、遠井先輩がそういうことをできることを知っているらしい。
『千里眼』が見通すのは何も物理的な物だけではない。八族ならば、そのモノの過去すらも見通すらしい。
「ふぅ。」
遠井先輩の眼を中心に集まっていた魔力が一気に分散する。どうやら終わったらしい。遠井先輩は眼鏡をかけなおして、近くに置いてあるお菓子をいくつか口に含み、お茶を飲んだ。
「はっきり言っておくわ。こっちの脅迫状だけと、全く見通せなかったわ。」
後に届いた脅迫状を手に持って、俺にアイコンタクトで知らせている。
『こっちは八族のどこかが関わっている可能性がある。』
八族の能力から逃れられる人間は八族の術者しかいない。八族以外となると、それこそかなり強力な魔法使いでなければ無理だろう。少なくとも知られている限りの魔法至上主義者にそこまでの魔法使いは存在しない。
魔法至上主義は大抵の魔法使いは自分が壁にぶつかったことを才能のせいにして、魔法を使えない人間を奴隷のように扱おうとする連中だ。それなりに魔法が使える人間はそんなことを考えない。
「なら、そっちは一旦置いておくとして、こちらの脅迫状は分かったのか。」
「えぇ、放っておいても大丈夫よ。それはただの文句よ。この時期に届いたからピリピリしていたけど、大したことはできないわ。」
神龍には魔法科しかないせいで、こういう手紙はよく届くらしい。
今回はいつもより、魔法に対するプロテクトが強かったこともあり、警戒していたが、いつも送ってくる連中であることが判明した。
「今回の交流会、神龍は一般生徒は参加禁止にしませんか。
今後、別の機会を作ることにして、とりあえず嵯峨会長の思うように話してください。」
「どういうことなの。」
「お前はこちらの手紙を出したのは神龍の生徒だと考えているのか。」
真木先輩の問いかけにうなずいて、視線を見通せなかった方の手紙に移す。
「当然です。宛名は神龍生徒会のみ。消印もないですし、今は誰かが必ず生徒会室にいる時期です。中に入れるのは生徒たちだけでしょう。」
「嫌な予想ね。そうだとしたら、私が一般科を設立するって発言したら不味いことになるんじゃない。」
遠井先輩は嵯峨会長の不安を打ち消すように顔を横に振った。
「心配しなくていいわ。なら、逆に相手を捕まえることを考えましょう。」
「どうするんですか。」
「私が知覚魔法を使う。他にも一年生の風紀委員を導入すれば抑止力にはなるでしょうし、騒ぎが起こったら、すぐに上級生を呼ぶようにしておけばいいわ。」
遠井先輩の意見にまとまりかけたが、俺も言わなければならないことがある。
「遠井先輩。それは無理です。風紀委員の中にも一般科の設立に反対している人間はいます。逆に一緒になられた方が厄介です。」
「天宮の意見は交流会ではなく、神龍の方針発表に切り替えて一般科の反対を抑え、後日に神龍だけで結果報告することで内々に留める考え、ということでいいのか。」
「はい。学校内でならば、相手が誰であろうと、遠慮なしで魔法は使えます。
非常時には怪我を気にする余裕はないとも思っています。」
俺の意見に反対をしたのは嵯峨会長、観月先輩に遥の三人だった。
「待って。遠慮なく、って本気なの。」
「相手は同じ生徒かもしれないです。そんなことはできません。」
「そうよ。蓮、いくら何でもやり過ぎよ。怪我も気にしない、って。」
俺は黙ったままの二人に無言で話を促した。
「天宮。それは外で魔法至上主義と戦った経験からの発言か。」
「はい。しかし、相手になるのは魔法都市で魔法を学んだ人間です。外よりも苦戦することは免れないでしょう。」
「三人には悪いけど、私は天宮に賛成。
現状ではそれ以上の方法はないし、何も始めから怪我させるために戦うわけじゃない。相手を抑えつけるだけで済ませられる人材はいると思うわ。」
ここにいるのは神龍におけるトップメンバーたちだ。それぐらいなら可能にするだろう。
しかし、やはり三人には不満が少し残っているみたいだ。
「分かった。万里、あなたに全権を任せるから、お願いしていい。」
「えぇ。天宮と真木にはしっかりと働いてもらうわ。」
手紙に関して一段落すると、ようやく解散するようになった。
神龍交流会に魔法至上主義による脅迫状、気にすることが多すぎる。
二つともこのまま終わるとは思えない。これから起こるだろう災難にため息をつくしかなかった。